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本編
夢じゃない 2 〚カナ〛 *
しおりを挟むレコーディングの日はすぐにやってきた。
スタジオの予約とかエンジニアへの依頼とかはトモたちに任せっきりだけど、なんとここでもご縁があった。
例のスリーマンライブのオファーをしてくれた人気バンドの知り合いのエンジニアがあの日あそこにいて、CDを作るなら是非と言ってくれたという。
キサちゃんが、キサちゃんの歌が次々とひとを惹き込んでいく。いっそ怖いくらいだ。
予算の関係で大急ぎの録りになったけど、仮歌のキサちゃんが煽りに煽ってほぼ全曲一発で録り終える異常事態。
キサちゃんの収録はもちろん、言うまでもない。
ガラス越しでなお響く歌声に鳥肌が抑えられなかった。
「結構掛かっちゃったね、キサちゃん電車ある?」
「………今終電が行った。カナは?」
「うわそっかー。俺は次が最終。キサちゃんどうやって帰る?なんならウチくる?狭いけど。」
大学からも近くない、駅からも近くない古いアパートに引っ越した理由は、防音だから。家賃は不便なわりに高いけど、狭いから皆の練習には使えないけど、心置きなくギターを引ける環境が欲しかった。
音楽が好きな家に生まれて名前だって奏だけど、さすがに自宅に防音室はなかったし。
まだ引越してほやほやだからダンボールが転がってるしがらんとしてるけど、それでもいいなら、なんてぺらぺら話してたら、一緒に歩いてたキサちゃんが立ち止まってることに気がついた。
どうしたんだろ、と首を傾げたら、キサちゃんがため息をついてまた動き出した。
「行く。」
あっさり肯定だけして、駅へと向かう背中を追いかける。
俺んちにキサちゃんが来るなんて、嘘みたいだ。
服はたしかフリーサイズのジャージがあったはず。それでも小さいかもしんないけど。
ベッドは一個だけだけど布団もあるし、明日は土曜日だからきっとゆっくり出来る。
寝起きのキサちゃんの掠れ声とか聞けちゃうかも。
ぱたぱたと心が浮き立って、弾む足取りで夜道を歩いた。
✢
途中でコンビニに寄って家に帰って、布団を出して、はたと気づく。
今日、一晩中ふたりっきりってことだ。
そう気づいたらキサちゃんがシャワーを浴びてる音さえ意識してしまって顔に血が登った。
―――いや、俺男だし!キサちゃんだって抱きたくなんかないって!
自分で思ったことに自分で凹む。
その通りだ。なんの奇跡か俺を好いてくれたけど、それとこれとは話が別だ。
あのキサちゃんが、童貞なはずない。もちろん、ゲイというわけでもない。
いっくら女の子みたいな顔でも、普通に骨ばってるし、ついてるもんもついてるし柔らかくもない。
女の子を抱き慣れてるだろうキサちゃんが、俺なんかを抱きたいはず、ない。
「お先。」
「あ、おかえり、次俺入ってくるね」
ズボンを履いてタオルを肩に掛けただけで出てきたキサちゃんが見られない。
なんでこんなときに、そんなに無防備なんだろ。ゲイの俺にとって、キサちゃんの身体は性の対象になってしまうのに。
………きっと、自分がそうではないからだよね。
俯いたまま横を通り過ぎようとしたら、キサちゃんに抱きとめられた。
お風呂上がりの火照った肌。厚い胸板。
「っぁの、キサちゃん、」
「それやめろ。俺は伊吹(いぶき)だ。」
そんなの無理だ。呼べるはずない。
でもキサちゃんが眉を顰めて睨むから、震える声でそれを呼ぶ。
満足そうに笑ったキサちゃんが、さわりとお尻に手を伸ばす。
びくりと身体を震わせたら、耳元で、掠れた、甘い声。
「カナ。抱きたい。」
うそ、まさか。そう思うのに身体は先に反応した。
囁かれたその声だけで中心に熱が溜まって泣きそうになる。
でもそれ以上に、俺を抱きしめるキサちゃんの中心の熱さを感じる。
キサちゃんも、興奮、してくれてる。
―――抱いてやる、じゃなくて、抱きたいって、言ってくれた。
促されるままふわふわとお風呂に向かい、念入りに洗い、少し悩んでから洗面台のローションを取って後ろもほぐす。
自慰のときにたまに後ろを使うけど、指以外を挿れたことはない。………あんなおっきいの、裂けないだろうか。
服越しなのにはっきりとわかる大きさは、完全に凶器だった。
緊張してぎくしゃくとしたまま部屋に戻れば、すでに部屋は薄暗くなっていた。
明かりは枕元のライトだけ。ベッドにゆったりと座ったキサちゃんが、逆光の中手を伸ばす。
ふらふらと惹き寄せられて近寄ったら、くるりと視界が回ってベッドに押し倒されていた。
「ぁ、ぁのっ!俺、はじめてで!キサちゃんも男ははじめてかもしんないけどっ、でもっ!」
言い募ろうとしたのに、深く口付けられてそれ以上話せなくなる。
食むだけの優しいキスじゃない、貪り尽くすようなキス。
口の中を舌がかき混ぜて、歯列を舐めて、上顎をくすぐって、その間にぷちぷちとパジャマが脱がされていく。
つっ、と胸のとがりに触れられて、きゅっとつままれ、押しつぶされ、それだけで身体が昂ぶる。
そんなとこ、触ったことないのに、キサちゃんが触るとどろどろに溶けてしまいそうだ。
ようやくくちびるが離れて、つぅっと銀の糸が引いて。
それを雄っぽく笑ったキサちゃんが舐めとった。
「カナ。俺の名前は?」
そうやって聞くくせに、大きな手で中心を撫で上げるから頭がまっしろになった。
固まった俺を面白げに眺めながら、上機嫌なキサちゃんがずるりとズボンをおろしてくる。
いつの間にかほぼ全裸だ。なんで。いつの間に。
やっぱり手慣れてる、なんて泣きそうになったらまたきゅっと性器が握られて、そのまま後ろにも手が伸びる。
蕾に指先が触れたときには羞恥のあまり涙がこぼれた。
恥ずかしい。さみしい。もっとくっつきたい。
「い、ぶきぃ……」
ぐずっと鼻をすすりながら呼べば、キサちゃんが俺を見て少し笑った。
しょうがないな、って言いたげな顔で、手を離して横に寝転がってくる。
ぎゅっと抱き込んでくれて、胸に頬を寄せたら早鐘を打つ音が聞こえた。
―――え、なんでこんなに、どきどきしてるの?
「わりい、がっついた。………誰かと繋がりたいなんて思うの、俺だって初めてだ。」
少し自嘲するような声。
まさか、そんな、という思いがこの上ない喜びに変わる。
キサちゃんも、俺と繋がりたいって思ってくれて。
キサちゃんも、同じくらいにどきどきしてる。
―――それから、キサちゃんも、初めてだって。
そろりとキサちゃんの体に触れたら、びくりと身体が跳ねた。
でも止められはしないから、背中を撫でて、腹筋を撫でて、ちょっと緊張しながら熱を持つ中心に触れる。
「うわぁ、、すっご、」
自分のそれとはあまりにも違う大きさに感嘆の声をあげたら、キサちゃんに俺のを掴まれた。
ぐじゅ、と聞くに耐えない水音とともに先端をくじられ、ひぁっ、なんて声が漏れる。
「煽ってんの?」
煽ってなんか、って言い返そうとしたのにもう片手が尻たぶを割り広げて蕾に触れるから声が出なかった。
さわりと入口を撫でられて、つぷりと指が潜り込んでくる。
触りにくかったのか、ぐいっと抱き寄せられて上に載せられ、両手がお尻にかけられた。
キサちゃん、いつのまにズボン脱いだんだろ。
肌と肌が触れ合って、熱いものにもっと熱いのがごりごりとあたって、頭が快楽に溶けていく。
「やわらかい。………ほぐしたの?」
つぷぷともう一本入り込んで、二本の指が中を拡げる。
こくこくと頷いたら、またもう一本増やされた衝撃で身体が反る。
たぷたぷに入れたローションを確かめるように指がナカを擦って、ひとつひとつ襞を拡げるように丁寧にそこが拡げられていく。
はじめてなんて、ほんとなのかな。
さっきから、きもちくて、気持ちよすぎて、身体に力が入らないのに。
「ぁ、………だめ、も、イキそ………」
そう漏らしたら、ぐぅっと奥深くまで指が入って、指が鉤状に曲げられた。
刺激が強くてはくはくするのに、決定的なところには触れなくてイくにイケなくて苦しい。
ゆらりと強請るように腰が動いて羞恥のあまり涙がこぼれた。
ずるぅっと抜けていく指が、悲しい。
やだ、やだ、もっと、
ふるりと首を振ったら、もっと熱いものがあてられてそのままぎちぎちと進んでくる。
くるしい。
指とは全然ちがう大きなものが、めりめりとナカに挿入(はい)ってくる。
くるしいのに、きもちいい。
目の前がちかちかして、もう、キサちゃんしか見えない。
「………っ、すき」
嬉しくて、うれしくて泣きながら笑ったらずんっと奥まで突き上げられた。
その衝撃でこらえていた白濁が散って、キサちゃんのお腹を汚す。
それにまた興奮して、ナカがきゅうっとキサちゃんを食む。
「っ、エロすぎ、だろっ!」
切羽詰まったような声をあげたキサちゃんがくるりと俺を押し倒して、がつがつと奥を突く。
その衝撃で勝手に溢れ出る声さえ貪り、キサちゃんが俺を食べつくす。
腕の中に閉じ込めて、くちびるに牙を立てて、奥のおくまで串刺しにして。
「―――カナっ」
耳に吹き込まれたと同時に熱いものがナカを満たす。
最後の一滴まで注ぎ込もうと何度も腰を揺らすから、いいとこが擦れて喘ぎ声が止まらない。
耳を噛まれて、いじわるく性器の先端をくじられて、また頭がまっしろにはじけた。
✢
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