ぼくはスライム

桃瀬わさび

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スライむてきせいかつ 2

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むかしは『ごしゅじんさまにすきって言っちゃいけない』って思ってたんだけど、これはまちがいだったんだって。
『好きっていうのは嬉しい言葉だから、お前はどんどん言ったらいい』ってごしゅじんさまが言ってくれて、ぼくはそれから、いっぱいいっぱいすきって言う。
えっちなこともすきだけど、そのあとまったりするのもすき。ダンジョンにいくのも、宿にいるのも、ギルドでおとなしくしてるのも。ごしゅじんさまといるのはぜんぶすき。
ぎゅーってするのも、キスをするのも、からだぜんぶでくっつくのもすき。
ごしゅじんさまも、だいすき。

「……お前も、気をつけろよ。人さらい」

大きい手をむぎゅむぎゅして遊んでいたら、ごしゅじんさまがぽつりとこぼした。
人さらいって、昨日ギルドで聞いたやつだ。
『誰かを無理矢理行きたくないところに連れて行く悪いやつら』だってごしゅじんさまが教えてくれた。
子どもばっかりさらってることも。
んん? でもどうしてぼくが気をつけるの?
ぼく、ニンゲンじゃなくてスライムなのに。

「そりゃそうだが、今は人に見えるだろう」
「そっかあ。あれ、でもぼく、こどもよりは大きいよ?」
「それでも、だ。いいな?」
「はあい」

えーっと。
ごしゅじんさまの近くにいること。知らない人についていかないこと。ごしゅじんさまだけの言うことを聞くこと。人さらいには気をつける!
うん、おぼえた!





うーん。どうしよう。
がさがさした感触のふくろの中で、うーんと首をひねってみる。外はまるっきり見えないけど、がたごと揺れているのはわかる。これって、たぶん、馬車かなあ?
これ、人さらいってやつなのかなあ?

さっきまで、ごしゅじんさまと一緒に街を歩いてて。「俺は武器屋にいくから、お前はここで待ってろ」って言われたから、ちゃんと道の端っこで立ってたんだけど。
ほんのちょっと細い道のほうが気になって、ほんとーにちょっとだけ、そこをちらっとのぞき込んだんだよね。
そしたら、いきなりふくろが被せられて、ひょいっと抱え上げられて、今はがたごとがたごと揺られてる。
えーっと、どうしよう?
どうしたらいいのかなぁ?

「あーのー、だれかいませんかー?」

声をあげて、しばらく返事を待ってみる。
うーん、返事がない。誰もいないみたい。
あ、馬車を動かしてるから忙しいのかなあ。
言葉がわからないお馬さんに、ちゃんと行きたい方に進んでもらわなきゃいけないもんねぇ。

……むう。

馬車が止まったら、もう一回お話してみようっと。


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