ぼくはスライム

桃瀬わさび

文字の大きさ
上 下
8 / 15

きみはスライム 4

しおりを挟む

ヌシの部屋から転移で戻り、ずっと宿屋にこもっている。
スライムはずっと眠っているのか、楕円形に丸まったまま。
それがぐったりして見えるのは、ぽよぽよと跳ねていないからか、元気な声がないからか。
……もはや手遅れだったんだろうか。
……仮にもう一度目覚めたとして、それはちゃんとスライムだろうか。
こいつに限ってないとは思うが、……万一ヌシとなってしまったら、そうして人を害するなら、俺はこいつを殺さなきゃならない。
できるかできないかわからないが、……まったく出来るとも思えないが……それでも俺がやるしかない。

―――そんなふうに、思っていたのに。


食事を食べて部屋に戻ると、スライムがぽよぽよと跳ねていた。
ちょっと不思議そうに、でも少し楽しそうに、確認するように跳ねている。

―――この、ばか


近寄ってきつく抱きしめて、唇をきつく噛み締めた。
目の奥が焼けそうに熱くなって、喉の奥がひくひくと震える。
声を出すこともできないままに、ぎゅうぎゅうとスライムを抱きしめる。


スライムがするりと変化して、前のように人間になった。
身長が肩くらいまで伸びていて、それでもそのまま抱きしめ続ける。
こいつの姿がどうであっても、大事なことに変わりはない。
この喜びに、変わりはない。

―――すきだ

俺の方こそ、好きなんだ。
馬鹿みてーだけど、好きなんだ。
ばかで、素直で、かしこくて。まっすぐすぎるこのスライムが。
かわいくって、仕方ねーんだ。

とうとう涙がこぼれだして、スライムの肌にぱたぱたと落ちた。
途端に消える水滴に、なぜだかひどく安心する。
スライムがスライムであることが、胸の中をあたたかくする。

「無事で、よかった」
「えへへ、ご主人さまもー」

―――この、馬鹿。

あんな時にすきだっつって。
こんな風に嬉しげに笑って、きらきらした目で見上げてきて。
どれだけ俺を泣かす気なんだ。

ムカついたからキスをして、やわい唇に歯を立てた。
きょとりとまあるくなった瞳が、不思議そうに俺を見る。
こいつらしい反応に、むずむずと嬉しさがこみ上げてくる。

これなあに、って聞かれたら。
いったいどうやって答えようか?

これはキスだと教えてから、好きだと思ったらするんだと教えて。
たぶんそれじゃわからねーから、「好きのしるし」だって噛み砕いて。
ああ、あと、それから。


―――俺とだけだって、伝えねーとな


小さく笑ってスライムを見れば、スライムもまた、ふにゃりと笑った。









しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?

ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。 ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。 そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

捨て猫はエリート騎士に溺愛される

135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。 目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。 お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。 京也は総受け。

クズ令息、魔法で犬になったら恋人ができました

岩永みやび
BL
公爵家の次男ウィルは、王太子殿下の婚約者に手を出したとして犬になる魔法をかけられてしまう。好きな人とキスすれば人間に戻れるというが、犬姿に満足していたウィルはのんびり気ままな生活を送っていた。 そんなある日、ひとりのマイペースな騎士と出会って……? 「僕、犬を飼うのが夢だったんです」 『俺はおまえのペットではないからな?』 「だから今すごく嬉しいです」 『話聞いてるか? ペットではないからな?』 果たしてウィルは無事に好きな人を見つけて人間姿に戻れるのか。 ※不定期更新。主人公がクズです。女性と関係を持っていることを匂わせるような描写があります。

処理中です...