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きみはスライム 3
しおりを挟むたとえスライムであったとしても、吸収能力の限界はある。
スライムを連れ歩くようになってすぐ、飼い方をわざわざ聞きに行ってそう知った。
人間の胃袋と同じように、スライムには必ず『満腹』がある。『消化』を待てばまた吸収できるが、限界を超えると塵と消える、と。
だから、絶対に吸収させすぎないように、と。
吸収させたら休息を取らせ、スライムの限界を見極めろ、と。
―――あのとき、少し、焦りがあった。
ようやくたどり着いたヌシの部屋には、想像を超えるボスがいた。
強い。強すぎる。そして、……賢い。
物理攻撃が効かないと分かれば、大量の魔法をスライムに撃ち込む。
それでも中々崩れなければ、今度は俺を狙いに来る。
幾度も攻撃を仕掛ける間、何度もスライムに庇われた。
鋭く放たれる水の刃が、スライムの手を斬り飛ばす。
それでも怯まないスライムは、懸命に俺の盾になり続ける。
ヌシの方も相当傷ついているはずだったが、スライムだって相当だった。
地面に散らばるゼリー状の塊が、嫌なことを想像させる。
どうしようもなく、焦っていた。
何度も下がれと怒鳴っても、スライムは言うことを聞きはしない。
いつもはあんなに素直なのに、こういう時だけ言うことを聞かない。
ヌシを無事に倒せたとして、こいつを喪ってしまったらどうしたらいい。
そんな焦りが、俺の判断を誤らせた。
―――自滅魔法
ヌシが稀に取る手口だ。
死ぬならば仇敵もろともという、捨て身の攻撃。
巻き込まれたら命はないそんな魔法に、俺はまんまと引っかかって。
やっちまったと思った瞬間、目の前に何かが割り込んだ。
……何かなんて、わかっている。
わかっているけど、認めたくなかった。
小さな体を懸命に広げ、衝撃をすべて呑み込んでいく。
呑み込む端から崩れても、俺を全力で守り続ける。
そんなものは、スライムしか。
「ごしゅじんさま、すき」
そんな言葉をつぶやいて、なぜだか少し眉をさげて。
急速に身体が消えていくのに、何の恨みごとも言わないままで、くるりとした目で俺を見上げて。
手が、足が、胴体が、消える。
いつものようにふにゃりと笑い、わずかに震えて変化を解いて。
ぷるぷるになった体すら、端からどんどん消えていって……絶望が胸を覆い尽くす、その直前、からんとヌシのコアが落ちた。
見たこともないほど美しい、最上級のコアだった。
コアは力そのものだ。
モンスターに融合すれば、飛躍的な力を得る。
そうして強くなったモンスターが、やがてダンジョンのヌシとなる。
……そうだとしたら、スライムは?
これは完全に賭けだった。
でも、このままスライムを喪うよりは、可能性のある賭けだった。
手のひら大のスライムの体に、コアを無理矢理押し付ける。
両手できつく握りながら、スライムの笑顔を思い出す。
「言い逃げなんて、してんじゃねぇよ」
目の奥がじわりと熱くなり、あがる嗚咽を噛み締めてこらえた。
ご主人さまと呼ぶ声は、いつまで経っても聞こえなかった。
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