2 / 15
ぼくはスライム 2
しおりを挟む夜はえっちなことをするけど、昼はニンゲンのべんきょうをする。
お金の数えかたとか、自然なあいさつの仕方とか。
だんじょんにもぐっていないときは、ご主人さまはせんせーだ。
「ごしゅ……せんせー、すきってなんですか」
「どこでそんなん聞いてきた」
「んっと、パン屋のマーサが、ご主人さまがすきなんだって。ないしょねって言ってたけど、ないしょってなあに?」
「あーそうかマーサかーーー」とご主人さまがつぶやいて、がしがしと頭を抱えてた。
これはたぶん、困ってるとき。
すきっていうのは、こまること?
ご主人さまがこまること?
「あー、ええと、好きっつーのはだな。相手を想うと胸がきゅうっとしたりとか、離れたくないって思ったりとか、そーゆー気持ちのことだ」
「すきって言われると、ご主人さまはこまるってこと?」
「んんん、いや、一概にそういうわけでもないが、今回は、まあそうだな」
すきっていうのは、胸がきゅうってすること。
離れたくないって思うこと。
それってたぶん、ぼくがご主人さまに思ってること。
ぼくは、ご主人さまが、すき。
でも、すきって言われると、ご主人さまはこまっちゃう。
だから、すきって言っちゃいけない。
ん、おぼえた!
「明日からちょっと大変なとこにもぐるからな。勉強もしばらくお休みだ」
「はーい」
ご主人さまが大変だっていうなんて、よっぽど大変なんだろーな、って。
そう思ったよりもっともっと、新しいだんじょんは大変だった。
道はうにょうにょうねってるし、強いモンスターもいっぱい出る。
ぼくはスライムの中では強いけど、戦うことはとくいじゃない。
丸呑みと吸収しかできないんだから、しょうがない。
「だいじょうぶ?」
「あー、しんどいなぁ。罠も敵も異常だろこれ」
「そっかぁ」
ぼくが戦えればよかったなぁ、って思いながら、ほてほてとワナを確認する。
しんちょうに少しずつ進みながら、だんじょんの奥にもぐっていく。
休むときは交代で、進むときはぼくが前。
モンスターと戦うときは、ぼくが敵のちゅういを引いて、攻撃を受けて、ご主人さまが戦う仕組み。
それでもご主人さまは傷ついて、ぼくはちょっと悲しくなる。
ビリビリしたりぺしゃんこになったり、どくスライムになったりしながら、奥に奥に進んでいった。
このだんじょんは他のみんなが諦めたくらいに難しくて、ご主人さまでもたいへんみたい。
えっちなことをする元気もなくて、疲れ果てて眠ってる。
そんなご主人さまを見てると、胸のあたりがぎゅっとする。
―――ぼくが、戦うこともできたらなぁ
Sランク冒険者のご主人さまには、ぱーてぃの誘いもいっぱいくる。
だんじょんは五人くらいでもぐるのが普通で、ご主人さまは変なんだって。
ひとりでもぐるとあぶないのに、みんなでもぐると安全なのに、ご主人さまはいつもひとりだ。
ぱーてぃの誘いもしらんぷり。
「お前がいるだろ」ってご主人さまは言って、「誰かいたらエロいこともできねーし」って笑って、そのままぼくにずぷずぷしてくるんだけど。
―――ぼくがもっと強かったら、ご主人さまも危なくないのに
むーんと両手を突き出して、カミナリカミナリって考える。
ビリビリのイメージはバッチリなのに、カミナリは全然出てこない。
それにちょっとがっかりしながら、じゅんばんに魔法を試していった。
「ヌシに勝てばダンジョンも終わりだ。あと少しだから、気を抜くなよ」
「うん」
ようやくついたヌシの部屋の前で、ご主人さまが剣を抜く。こくこくとぼくもうなづいてから、むんっと袖をうでまくりした。
昨日ゆっくり休んだし、かいふくはたぶんバッチリだ。
ご主人さまもかいふくしたって言ってたし、つよいヌシでも大丈夫。のはず。
がんばろー、おー!
10
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
捨て猫はエリート騎士に溺愛される
135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。
目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。
お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。
京也は総受け。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる