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夢みたいな幸せ 後 〚葵〛
しおりを挟む「葵!早苗!良かったー、心配したんだぜ。ふたりとも帰ってこないしよー。」
昇降口で出迎えてくれたのは、志摩。
荒っぽく侑生の頭をかき回して、くっそ、上手いことやりやがって!なんて言ってる。
号外のことかな?
確かに上手いことやってる。
掲示板に貼ってあったお詫びの記事は、「人気すぎて妬まれた哀れな会計サマ」みたいな書き方だったし。
周りからも同情的な視線を向けられていた。
……まさか新聞部を活動停止にまで追い込むとは思わなかったけど。
それにしても、本当に仲が良い。
大型犬と飼い主みたいにじゃれあっていて、侑生がいつもより子供っぽい。
うっとおしそうにしてるけど、侑生もどこか安心したみたいな、嬉しそうな笑顔。
仲いいやり取りにくすくすと笑ってたら、後ろから声を掛けられた。
「―――――あおい。」
俺とよく似た声。茜だ。
振り向いて、固まる。
髪の毛が、かなり、短い。
小さい時からずっと俺と同じくらい長かったのに………。
「……似合う?ちょっと男らしくなったでしょ。」
うん、似合う。
形のいい耳にすこしかかる髪とか、きれいに伸びた首筋とかが色っぽい。
美形だとやっぱり何でも似合うな、と思いながらこくこく頷いたら、茜がぱあっと笑った。
―――茜のこんな顔、はじめて見るかも。
不敵な笑いでも、妖艶な微笑みでもない、喜びいっぱいの笑顔。
「葵。いままで、ごめんね。………俺、やり方間違えてた。」
やり方?
なんのことだろ?と首を捻ったら、後ろからぎゅうっと抱きしめられた。
見なくてもわかる。侑生だ。
突然どうしたんだろ、志摩とのじゃれあいはいいんだろうか?
なんか空気がぴりぴりしてる気がするけど、気のせい?
「よく顔を出せたものだな。」
「えー?なんで?葵と俺は兄弟だよ?喧嘩したら、なかなおりー。」
地を這うみたいな低い低い声を出した侑生に、あっけらかんと茜が返す。
うーん、強い。
ハブとマングースとか、こんな感じなのかな。
ちょっと現実逃避していたら手に持ってた鞄を奪われて、強制的に握手された。
それにしても、茜、どうしたんだろ。
泣きすぎてなんか憑き物が落ちたのかな。
本当に昔、保育園くらいのときの明るい茜に戻ってる。
天真爛漫で、両親に公園に連れてかれるときに「なんであおいは行かないの」って泣いてくれたころの茜に。
―――そっか、喧嘩したら、仲直りなのか。
あの家にはもう戻らないけど、ちゃんと、兄弟として、関わっていけるなら。
それは、すごく、嬉しい。
完全な他人になるんじゃなくて、仲直りできるなら。
すごく、すごく、嬉しい。
掴まれた手をぎゅっと握り返して、心のままに笑いかけたら茜がすこし頬を染めた。
照れたように笑い返してきて………こんな顔も、はじめて見る。
「ほーら、葵も嬉しいって。兄弟水入らず、邪魔しないでくれるー?」
「あはは!早苗が完敗!めっずらしー!」
ばしばしと侑生を叩いた志摩を見上げたら、優しい瞳がそこにあった。
―――良かったな。
唇だけでそう伝えてくれた志摩に大きく頷くと、ぐしゃぐしゃと頭が撫でられる。
大きな手のひら。
ずっと好きだった、太陽みたいな笑顔。
「おいアンタ、バカのくせに馴れ馴れしーな。葵に触んな。」
「アンタじゃなくて志摩!キャラ違いすぎだろー!俺と葵は友達だからいーの!」
「良くない!お前ら、ふたりとも、離れろ!」
振り仰ぐと、ふてくされた綺麗な顔。
嫌そうに鼻に皺を寄せて、焦ったみたいな、怒ったみたいな声を出して。
―――なんか、かわいい。
それからも続く三人のじゃれあいにお腹のそこからむずむずと嬉しさがこみ上げてきて、思わず声をあげて笑った。
三人そろって、びっくりしたみたいに俺を見てる。
―――こんな、幸せ、あるんだ。
侑生がいて。
志摩がいて。
茜が、いて。
侑生が好きだって言ってくれて、
志摩に友達になってもらえて、
茜と、普通の兄弟みたいになれて。
こんな日がくるなんて、夢にも思っていなかった。
―――ぜんぶ、あそこからはじまった。
あの、嵐みたいなキスから。
侑生。
俺のことをかき乱すくせ、揺り籠みたいに包み込むひと。
―――すき。
包み込んでくれる逞しい腕に擦り寄ったら、
きつくきつく、抱き締めてくれた。
fin.
残り数話、番外編が続きます
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