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二冊のノート 前 〚葵〛
しおりを挟む学校をサボったのなんて初めてだったけど、荷物も運び出せたし心の整理もついて、休んで良かったと思えた。
次の日は行くのが怖かったけど、侑生が大丈夫というから信じることにした。
この賢いひとには、俺には見えていない色々なことが見えているようだから。
実際、学校に行ってみればいつも通りの生活だった。
休み時間ごとに侑生が来ることを除けば。
恐る恐るどうしたのか尋ねたクラスメイトに、侑生がにっこり笑って「葵を会計補佐にしたから、打ち合わせ。」という。
会計補佐…?聞いてないんだけど。
「うん、だって言ってないもん。だいじょーぶ、大して仕事ないから。あ、でも今日の放課後は生徒会ね。」
言ってるそばから仕事じゃないか!
まぁでも有り難いかもしれない。
金曜日から色々ありすぎて最早すごい昔のことのように思えるけど、………まだ志摩の顔を見る勇気はない。
あの時のことを思い出しても少し胸が痛むだけだけど、本人を前にしたらどうかわからないし。
大人しく頷けば、侑生が優しい目で俺を見ていた。
✢
侑生との生活は快適のひとことに尽きる。
誰かと囲む食卓なんていつぶりだろうか。―――じいちゃんが亡くなって以来かも。
家事はいつもやっていたし、むしろ人が減ったぶん楽になったくらい。侑生はきちんとしていて部屋を汚さないし。
なにより、息を潜めなくても生活できるのは、とても楽だ。
仲のいい家族を見て胸が軋むことも、扱いの違いに苦しむこともない。
学校からバス停までの途中、歩いてほんの5分の通学時間も魅力的だ。
そういえば、新聞部のインタビューで近いからここにしたって言ってたっけ。
………今までバス停まで一緒に帰ってたのは何でなんだろ。
初日こそ茜にびくびくしてたけど、遠目に見たらなんだか上の空で、心配なさそうだった。
侑生は次の日からも一緒にいようとしてくれたけど、大丈夫だからと断る。
あんな姿初めて見るけど、少なくとも危険な感じはしなかったし。
………もしかして、茜は後悔してるのかな?
だから少し悄然としてる?
…………まさか、そんなはずないか。
何事もなく日々は過ぎて、1週間が経った。
ふわふわと浮かれた気持ちのまま翌日の準備をしていたら、図書室の本を発見した。返却予定日はとうに過ぎている。
テストの最終日に借りたのに色々ありすぎて忘れていた。
まだ読んでもいないけど、明日一旦返さないといけない。
……図書室といえば、例のノートは結局見つからなかったな。
本当に茜に捨てられてしまったんだろう。
俺のものが勝手に捨てられたり壊されたりすることは、正直言ってよくある。それは、特に大切なものほど。
壊されなかったのは、それこそカメラくらい。
だから今回も諦めるしかないと、そう思っていた。
散った初恋をいつまでも眺めていても仕方ないし、これでいいんだと。
だから、それが戻ってくるなんて、思いもよらなかった。
―――しかも、思いもよらぬところから。
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