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欠伸と眠り 前 〚葵〛
しおりを挟む今日のあれは、なんだったんだ。
ふらふらと家に帰ってきて、バタンとベッドに倒れ込む。
食欲なんかない。胸が痛いのだか頭が痛いのだかよくわからないけど、とりあえず何も食べる気にならない。
―――こういう時、残り物を食べてるのはいいかも知れない。
食べても食べなくても、特に何かを言われることもないから。
制服のまま、ぎゅうっと枕を抱きしめる。
頭の中は、ずっと同じところでぐるぐるしている。
―――いったい、なんだっていうんだ。
志摩と茜のキスシーンが浮かびそうになるたび、間近にあった長い睫毛とかくっきりした二重とか、―――唇を離したあと、色気たっぷりに唇を舐める姿まで思い出して。
砕け散った心がぎしぎしと悲鳴をあげそうになると、嵐がやってきてむちゃくちゃに心を掻き乱して、それどころじゃなくなってしまう。
天に二物も三物も与えられた会計サマは、なんと言っていた?
―――芹沢葵。君をもらうことにしたから。……覚悟してね?
息がかかるほど近くで見つめられて初めて、会計サマの目がかなり明るい茶色だと知る。
琥珀色というんだろうか。陽の光に輝くそれが、射るような強さで俺を見ていた。
なんかの妄想だろうか。
ショックのあまり見た幻覚?
そのわりに触感はリアルだったけど、名前も知らない、個人的に話したこともない会計サマとあんなことをするなんて、夢以外ではあり得ないだろう。
そんな夢、見るきっかけも全く心当たりないけど。
一体、どこから夢だったんだろう?
ぐるぐる巡る思考のまま枕を抱えていたら、部屋の扉がノックされた。
誰かコップでも割ったか、コーヒーでも零したんだろうか?夜中だから掃除機は明日かけるとして、ほうきとちりとりを……、と考えて起き上がったら、返事も待たずにドアが開いた。―――茜だ。
「葵、今日、見ちゃった。いつの間に生徒会役員なんて捕まえたわけ?知らなかったんだけど?」
見られて、いたのか。
ということは、夢じゃないのか。
じゃあ、志摩と茜のあれも、やっぱり夢じゃなくて……
「聞いてんの?―――いつから、会計とああいう関係だったんだよ。」
ぎし、とベッドが軋んで、茜が身を乗り出してくる。
壁に手をつかれて、追い詰められて。
俺と形だけ似ている目が、剣呑に細められる。
怖い。
いつから?
ああいう関係?
―――会計と?
茜の怒りの意味はわからないけど、聞かれている意味をようやく把握してぶんぶんと首を振る。
「ちがっ…!あれは、なにかの間違いで……!そういう茜こそ、志摩と…………っ!」
それ以上続けることは出来なかった。
心が痛んで、言葉にしたくなかったというのもあるけど、物理的に、唇を塞がれたから。
ガリッと牙を立てられて、昼間のやわらかいそれとはどこまでも違う。
間近に見える目も、まっすぐに俺を射抜く琥珀色じゃなくて、剣呑な光を宿す焦げ茶色。
「―――わかったか。葵の分際で、他の男とキスとか、生意気なんだよ。」
離れていく綺麗な顔を、呆然と見上げる。
なんで、こんな、
混乱して固まっていたら、暗闇でギラギラと光る瞳が俺を睨み付け、乱暴にドアを閉めて去っていった。
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