揺り籠の計略

桃瀬わさび

文字の大きさ
上 下
7 / 40

欠伸と眠り 前 〚葵〛

しおりを挟む

今日のあれは、なんだったんだ。
ふらふらと家に帰ってきて、バタンとベッドに倒れ込む。
食欲なんかない。胸が痛いのだか頭が痛いのだかよくわからないけど、とりあえず何も食べる気にならない。
―――こういう時、残り物を食べてるのはいいかも知れない。
食べても食べなくても、特に何かを言われることもないから。

制服のまま、ぎゅうっと枕を抱きしめる。
頭の中は、ずっと同じところでぐるぐるしている。
―――いったい、なんだっていうんだ。
志摩と茜のキスシーンが浮かびそうになるたび、間近にあった長い睫毛とかくっきりした二重とか、―――唇を離したあと、色気たっぷりに唇を舐める姿まで思い出して。
砕け散った心がぎしぎしと悲鳴をあげそうになると、嵐がやってきてむちゃくちゃに心を掻き乱して、それどころじゃなくなってしまう。

天に二物も三物も与えられた会計サマは、なんと言っていた?

―――芹沢葵。君をもらうことにしたから。……覚悟してね?

息がかかるほど近くで見つめられて初めて、会計サマの目がかなり明るい茶色だと知る。
琥珀色というんだろうか。陽の光に輝くそれが、射るような強さで俺を見ていた。

なんかの妄想だろうか。
ショックのあまり見た幻覚?
そのわりに触感はリアルだったけど、名前も知らない、個人的に話したこともない会計サマとあんなことをするなんて、夢以外ではあり得ないだろう。
そんな夢、見るきっかけも全く心当たりないけど。
一体、どこから夢だったんだろう?


ぐるぐる巡る思考のまま枕を抱えていたら、部屋の扉がノックされた。
誰かコップでも割ったか、コーヒーでも零したんだろうか?夜中だから掃除機は明日かけるとして、ほうきとちりとりを……、と考えて起き上がったら、返事も待たずにドアが開いた。―――茜だ。

「葵、今日、見ちゃった。いつの間に生徒会役員なんて捕まえたわけ?知らなかったんだけど?」

見られて、いたのか。
ということは、夢じゃないのか。
じゃあ、志摩と茜のあれも、やっぱり夢じゃなくて……

「聞いてんの?―――いつから、会計とああいう関係だったんだよ。」

ぎし、とベッドが軋んで、茜が身を乗り出してくる。
壁に手をつかれて、追い詰められて。
俺と形だけ似ている目が、剣呑に細められる。
怖い。

いつから?
ああいう関係?
―――会計と?
茜の怒りの意味はわからないけど、聞かれている意味をようやく把握してぶんぶんと首を振る。

「ちがっ…!あれは、なにかの間違いで……!そういう茜こそ、志摩と…………っ!」

それ以上続けることは出来なかった。
心が痛んで、言葉にしたくなかったというのもあるけど、物理的に、唇を塞がれたから。
ガリッと牙を立てられて、昼間のやわらかいそれとはどこまでも違う。
間近に見える目も、まっすぐに俺を射抜く琥珀色じゃなくて、剣呑な光を宿す焦げ茶色。

「―――わかったか。葵の分際で、他の男とキスとか、生意気なんだよ。」

離れていく綺麗な顔を、呆然と見上げる。
なんで、こんな、
混乱して固まっていたら、暗闇でギラギラと光る瞳が俺を睨み付け、乱暴にドアを閉めて去っていった。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!

恋愛対象

すずかけあおい
BL
俺は周助が好き。でも周助が好きなのは俺じゃない。 攻めに片想いする受けの話です。ハッピーエンドです。 〔攻め〕周助(しゅうすけ) 〔受け〕理津(りつ)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...