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あの瞳がほしい 後 〚早苗〛
しおりを挟む志摩がニセモノに告白するときは流石に罪悪感がよぎって、告白のアドバイスをした。
必ずフルネームで呼べ。
何度も練習していた言葉は、「芹沢葵さん、図書室のやりとりのころから、好きです。付き合ってください。」
これなら、ニセモノも事情がわかるだろう。
あの不敵な笑みのニセモノは、グラウンドに来て志摩に触れては芹沢にニヤリと笑うから、そんなことはお見通しなのかもしれないが。
芹沢に対して明確な執着を示すニセモノは、その言葉にどう出るだろうか。
―――悪いな。これでイーブンとは思わないが、出遅れているぶん、形振り構ってはいられないんだ。
心の中で謝って、せめて、ニセモノの性質(たち)がそこまで悪くないことを祈った。
結果から言えば、ニセモノは見事に性質が悪かった。
ちらりと芹沢を見てにんまりと嗤って、見せつけるようなキス。
青ざめて震え、見ていられずに目をぎゅっと瞑った芹沢の唇を、無理矢理に奪った。
後頭部に、ニセモノの視線が突き刺さる。
このニセモノの執着は、かなり強い。
志摩と親しくしたのも、わざわざキスを見せつけたのもおそらく、芹沢の恋を砕くため。
―――ありがとう。おかげで楽ができたよ。
―――でも悪いな。芹沢は、俺がもらう。
長い長いキスをしていたら、何度も焦げ茶の瞳が瞬いた。
大きく見開かれたそれは、確かに俺を見ている。
はじめて、俺だけを、見ている。
何が起きているのかわからない、そんな顔で、ぽかーんと小さな口を開けて。
びっくりした?ーー肯定。
知ってるかな?ーーあぁ、そんな名前だったな。
気弱そうな笑みを剥がせば、芹沢は驚くほど素直に表情を示す。
―――悪くない。いや、最高だ。
大きな焦げ茶の瞳が、俺だけを呆然と見つめて。
俺の言葉だけに、反応して。
今、こいつの心には、志摩もニセモノも存在しない。
「芹沢葵。君をもらうことにしたから。……覚悟してね?」
そう言って、誘われるままもう一度口付けた。
✢
「お、ま、えー!なんだよあれ!どういうことだよ!」
ミーティングで例の瞬間を見ていなかった二人と集合したら、ずっとうずうずしていた志摩に問い詰められた。
志摩を問い詰めようとしていた二人が、不思議そうにこちらを見る。
あれって何のこと?とすっとぼけてみたが、無駄だった。
「青井だよ!な、ん、で、いきなりキスしてんだ!?芹沢が驚いた顔するから振り返ったら俺のほうが驚いたわ!」
「んー、したかったから?……それより、俺じゃなくてお前だろ?告白、どうだったんだよ?」
したかったからって、と赤くなる志摩に切り返せば、さらに真っ赤になった。
「わかんない、返事はなかったけど、キスされそうになったから、でも、お前らのでちょっと雰囲気変わっちゃったというか……。」
「そらー自分らがキスしそうな時に、後ろでキスしてたら固まるわー。志摩、どんまい!まぁ、両想いっぽいし良かったんじゃん?」
両想い。良かった。果たしてそうか……?
されそうになった、てことは未遂か、あるいはそこまでする気はなかったか?
きっと後者だろう。焦らすようにゆっくり進んでいたし、こちらからは完全にキスしているように見えた。
あくまでも芹沢に見せつけることが目的?……本当に性質が悪いな。
それが、俺たちのキスを見て、想定外の出来事に驚いたといったところか。
―――今後、ニセモノはどう動く?
そのためには、まずは二人の関係から洗う必要がある。
そう決めて、志摩たちの大騒ぎを横目に帰宅した。
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