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血まみれのキリノ
しおりを挟む「へへー! ここだぜー!」
ロストエデンの路地裏にあるさびれたお店。
そこで夕食を食べるために、ベニコとユーリが店内に入る。
ベニコとユーリは休憩所で中出しセックスをたっぷりと楽しんだり、のんびりと街を歩いていたため、辺りはすっかり暗くなり、ロストエデンの街には夜の時間がおとずれている。
入り口の扉を開けると、テーブル席とカウンター席にわけられた明るい店内には、ちらほらと食事をする他の客が見えた。
「いらっしゃーい……」
そして、ベニコとユーリを迎える女店主の暗い声が、店の中に聞こえる。
「なんだ……ベニコか……」
女店主とベニコは知り合いらしく、ベニコを視界に入れると他人行儀な対応から、親しい人に対する気軽な態度に変わってベニコに声をかけた。
「ベニコが男を連れてくるなんて珍しい……」
「いや、私も、男友達くらいいるって! キリノ!」
ベニコと話すキリノという名前の女の子は、身長一五〇センチメートルくらいの体にクセのある紫がかった黒髪を肩まで伸ばして、暗い青色の瞳をしていた。
キリノの目の下には不健康そうな、真っ黒なクマがくっきりとできている。
ダウナーな雰囲気を持つキリノは黒いつなぎの上半身部分を腰に結びつけていて、ズボンのようにつなぎをはいていた。
そして、キリノはへそを出した黒いハーフトップを上半身に身に着けて、濃いオリーブグリーンのエプロンをお腹の前に結んでいる。
ハーフトップ姿でお腹に巻いたエプロンからはみ出している、キリノのIカップの爆乳が健康的で美しい。
「こいつは、ユーリっていうんだ!」
「ユーリ、よろしく……。私はキリノ。ベニコとは腐れ縁……」
人見知りをするらしく、ベニコに紹介されたユーリに向かって、キリノはおどおどと返事を返していた。
「キリノはそんなんだから、処女なんだって!」
「ベニコも処女……」
ベニコの軽口にキリノも言葉を返すが、ベニコの余裕そうな態度を見て、キリノに嫌な予感が走る。
「ベニコ、ユーリとヤッたな……?」
「や、ヤッてないって……♡」
店内に何人か食事をしている人間がいるため、ベニコはとっさにキリノからの質問を否定していた。
悪魔のように暴力を振るうベニコが男とヤッたという情報を聞いて、店内にいる客の何人かは、口に含んでいた食事を吹き出すと盛大に咳き込んでいる。
「じゃあ、このあと、ユーリとセックスするつもりだな……?」
「し、しないよぉ♡」
そして、キリノににらみつけられながら、ベニコが恥ずかしそうに頬を火照らせている。
「その態度は嘘。ヤッた」
いつもはひょうひょうと言葉を返してくるはずのベニコの態度に、キリノはベニコの嘘を簡単に見破った。
「ま、周りに他の客もいるからさぁ……」
「ベニコに、これから非処女自慢をされるのが、許せない」
誰しもが口の軽いロストエデンでは、ベニコが誰かとセックスをしたという噂は、翌日には街中に広まっているだろう。
もの好きな男がいるという尾ひれ付きで。
ベニコとキリノはロストエデンでは、誰も男が寄り付かないくらいに恐れられている。
ベニコは無双の如き怪力と、好戦的な性格のため。
ユーリと仲良く街を歩いている姿がすでに、ロストエデンの住人には奇跡であった。
そして、キリノは……。
「ん、待って、仕事……」
キリノがベニコと話している隙を突いて、食い逃げをしようとしている男がいた。
ロストエデンの飲食店では、日常茶飯事の光景。
慣れた様子でキリノはエプロンを脱いでカウンターに置くと、腰に結んでいた黒いつなぎを上半身にも身につけ、ジッパーを上げる。
キリノが上半身まで身につけた黒いつなぎの下にふくらむ、むっちりとした爆乳が素晴らしい。
そして、キリノは壁にかけられていた赤色のチェーンソーを右手に取ると、魔力を込めて、凶悪な回転刃を起動した。
ぎぃぃぃぃん!!!
「あはははははは!!!!」
チェーンソーの刃が回る騒音が店内に鳴り響くと、キリノは嗜虐的な笑顔で外に駆け出していく。
店内におとずれる、沈黙。
「キリノは私と互角に戦えるくらいに強いんだよ……」
キリノの実力について、ベニコがユーリに教えてくれる。
食い逃げ犯を追ってキリノが店の外に走り去ってしまったが、店内の客は他に誰も食い逃げをしようとはしない。
「キリノは呪術を使って食い逃げ犯の居場所を探せるから、この街の人間ならこの店で食い逃げは絶対にしない。この店で食い逃げするのは、何も知らないバカと新参者くらいだ……」
そのからくりも、ベニコはユーリに教えてくれる。
ロストエデンでトップクラスの暴力を持つ人間のひとりであるキリノは、街の住人たちからとても恐れられていた。
まず、食い逃げは成功しない。
たとえ、呪術に精通しているキリノから逃げることに成功しても、呪術を使って執拗に居場所を特定され続けるため、結局は、キリノに食事の代金を支払うまで追い回されることになる。
だから、街の住人たちから恐れられているキリノのお店で食い逃げをするのはよほどのバカか、この街にやってきたばかりで無知な新参者くらいであった。
しかし、キリノの作る料理はおいしいし、食事の代金をきちんと支払えば特に襲われることもないので、キリノが経営しているお店はロストエデンではそれなりに繁盛している。
そして、しばらくすると、遠くから男の悲鳴が聞こえた。
「くひひひひひ!!!」
少しすると、チェーンソーと黒いつなぎを返り血で真っ赤に染めたキリノが店内に帰ってくる。
「キリノの店で食い逃げをするやつは、ひさしぶりだな」
「でも、お金を持ってたから、許した……」
戦闘をおこなうと、チェーンソーの返り血ですぐに全身が真っ赤に染まることから、キリノはロストエデン内で「血まみれのキリノ」と呼ばれていた。
「いつ見ても、すっげえ武器だな……」
「私はかわいいと思うけど……」
そして、黒いつなぎを上半身だけ脱いで腰に結び、いつもと何も変わらないダウナーな感じに戻ったエプロン姿のキリノと、特に何も起きていなかったような平然とした顔のベニコが会話を続けていく。
キリノが身につけている黒いつなぎと壁にかけられた赤いチェーンソーであるが、洗浄魔法が自動で発動するようで、ベニコと会話をしていると、真っ赤な返り血があっという間に消えていった。
「でも、ここに、食い逃げ歓迎って書いてあるけど?」
「ああー、それかー……」
「それは、バカを騙すための張り紙……」
壁にかけられたチェーンソーの隣に、食い逃げ歓迎の張り紙がしてあるのをユーリが指摘する。
そして、その張り紙には『店主から一時間逃げ切ったら料金は無料。しかし、失敗したら料金は一〇〇〇倍』との文字が大きく書いてあった。
「それ、紙のはしっこに小さく毎日一時間って書いてあるんだよ……よほどのバカじゃなきゃ騙されないし、大抵はすぐにキリノに捕まるけど」
「私から逃げられるような人は実力があってお金持ちだから、毎日しつこくしていると、めんどくさくなって私にお金を払ってくれる。いい小遣い稼ぎ……食事を千皿作るよりいい……」
「でも、この街の実力者で、こんな子供だましの張り紙に騙されるバカはいねーだろ?」
「うん、ベニコぐらい……」
「うるせー! それは昔の話だろ!」
そんな話をしながら、キリノはテーブル席を清掃して、ベニコとユーリを案内する。
「あのときは一ヶ月くらい、毎日キリノと戦ってたな!」
「最終的にはエマさんが、ベニコが食べた食事代を支払ってくれた」
ベニコとキリノの会話を隣で聞いて、ベニコの尻拭いに苦い顔をしているエマの顔をユーリは思い浮かべる。
できる女であるエマは、意外と苦労人であった。
「今日は早めに店じまいするから、ベニコとユーリの貸し切りでいい。私も、ベニコに色々と話を聞きたいし……」
ベニコとユーリ以外にキリノの店を利用していた客の最後の一人が、精算を終えて、店の外に出ていく。
すると、キリノは店の外に向けた看板を閉店中に変えてから、ドアに鍵をかけた。
「逃さない……」
暗いクマができた青い瞳で、キリノが嫉妬のこもった視線をベニコに向けている。
「まあ、その前に、飯を作ってくれや」
しかし、ベニコはキリノの態度を気にすることなく、食事の催促をする。
昼から何発も中出しセックスを楽しみまくったベニコとユーリは、すでに腹ペコだった。
「それもそうか……何食べる?」
「メニューを見てから決める!」
ベニコの催促を受けて、料理人モードに顔が切り替わったキリノは厨房に入ると、食事を作る準備を始める。
そうして、外の景色がすっかりと暗くなった夜の時間に、キリノのお店の中には、ベニコとキリノとユーリの三人だけとなった。
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