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ユーリとベニコの会話
しおりを挟む路地裏にあるサキュバス族が行きつけにしている休憩所を出て、ベニコはユーリと街を歩いていた。
「じゃあ、ユーリ、飯はどうする……って、いない?」
しかし、街を歩きながらユーリに話しかけようとすると、ベニコはユーリが近くにいないことに気づく。
「まじか……どこに?」
ユーリの姿が街の中で突然消えたことに混乱するベニコであるが、前から歩いてくる人物を視界に入れると、そちらに意識を向ける。
「ベニコ、ターゲットは殺害したの?」
「あ……エマ先輩……」
なんと、黒いシスター服から私服に着替えたエマが、多くの人々で賑わう道の正面から歩いてきたのだ。
ベニコはとっさにユーリの存在を隠そうとするが、幸運なことに、迷子になったらしいユーリの姿は自分の近くには見えない。
ベニコに話しかけるエマの私服は黒いサングラスを顔にかけて、紫色のスーツとスカートの上に薄手の暗黒色コートを羽織った、かなりいかつくもセクシーな服装であった。
コートの裾から見える黒のストッキングと、紫色のハイヒールを履いたエマの両脚がうるわしい。
「こんな時間まで戻ってこれないなんて、かなり手こずったのね?」
「はあ……まあ……」
淫魔教会の敵として撃退を命じられた相手と、実はさっき中出しセックスしちゃいましたなどと上司に報告できるわけもなく、ベニコはエマにあいまいな返事をすることしかできない。
「今日はこのまま家に直帰かしら?」
「はい……その予定です……」
そして、ユーリと今から一緒に自分の家に帰って、さらに朝まで中出しセックスを楽しむ予定だとエマに正直に教えるわけにもいかずに、ベニコはエマに生返事をしてしまう。
「ご苦労さま……これ、少ないけど、おいしいものでも食べて」
「ありがとうございます……」
エマはひと仕事を終えたベニコにねぎらいの言葉をかけると、金貨を三枚手渡してくれた。
庶民では見ることもできない高額のお金を三枚も、エマはベニコに何でもないことのように、ポケットマネーから贈ってくれている。
エマは後輩思いの、素晴らしい上司なのであった。
「それじゃあ、また明日……」
「エマ先輩も、お疲れ様です……」
ベニコに挨拶をすると、エマは帰宅のため、街の雑踏の中に消えていく。
「ベニコ! あっちにおいしそうな屋台があるから、行こうぜ!」
そうして、エマの姿が見えなくなってすぐあとになると、上司に仕事の報告をごまかしてしまったことに対して罪悪感を抱いているベニコに向かって、気楽な態度でユーリが声をかけてきた。
なんてタイミングのいい男なのだろう。
「ユーリ! どこに行ってたんだよ! いきなりいなくなって、心配したんだぞ!」
「いやー、めっちゃおいしそうな匂いがするからそっちに歩いていったら、ベニコが隣にいなくなってて、焦ったよ」
「おい! 勝手にふらふら歩くなよ! この街はいつどこで犯罪に巻き込まれても、おかしくないんだからな!」
運がいいのか悪いのか、ふらふらと屋台に誘われて迷子になっていたユーリに脱力しながら、ベニコはユーリにロストエデンの危険性を改めて説明する。
「いやー、あっちにうなぎの蒲焼みたいないい匂いがするからさー」
「うなぎ? ああ、この匂いはウニューか! ウニューの串焼きはおいしいぞ! それに、精がつく!」
ユーリが指差す方向から、うねうねと動くヘビみたいな見た目をした魚の串焼きの匂いがしてくるのをベニコは鼻で感じた。
これは、最近ロストエデンで流行しているショーユタレの匂いだろう。
ショーユは今まで一部の好事家しか手に入れることのできない嗜好品であったが、この大陸に生まれた新ダンジョンからも手に入るようになったことで、ロストエデンにも安く流通するようになったのだ。
それまでは、ショーユは凶悪な海竜が生息する海を超えて、東の果てにある竜人族の国から輸入することでしか、手に入らない品物であった。
しかし、ショーユが同じ大陸にあるダンジョンから産出するようになったことで市場価格が下がり、街の串焼肉屋もショーユ味のタレを気軽に使えるようになるくらいに、ロストエデンの経済が変わったのである。
ベニコはユーリと話していて、そんなことを思い出した。
「最近、ショーユ味のタレが流行ってて、それでウニューもよく喰われるようになったんだよ! 最近できたダンジョンから手に入った、ウニューのさばき方が書かれた本のおかげらしい。それまで、ウニューはぶつ切りにして、ゼリーに入れるしかこの街では食い方がなかったからな!」
「ふーん」
「たしか、欲望のダンジョンって名前だっけなぁ……ユーリは行ったことある?」
「あるよ」
ショーユから派生した話題のついでに、ベニコがユーリに新ダンジョンに行ったことがあるかを聞くと、ユーリはなんでもないことのようにあると答えた。
ベニコが噂でしか聞いたことのない場所にユーリが実際に行ったことがあるとわかると、最近生まれたばかりのダンジョンに関する情報に興味津々になって、ベニコはユーリに質問をする。
莫大な金が動くことになる新ダンジョンについての本物の情報は、この街では誰もが知りたがる、貴重なものとなっていた。
ロストエデンでは、誰もが嘘をつく。
「まじか! 欲望のダンジョンはサキュバス族のために生まれたようなダンジョンだって噂されてるから、一回遊びに行ってみたかったんだよなー。どんなダンジョンなんだ?」
「今度、ウォータードラゴンランドっていうテーマパークがダンジョンにオープンするから、現在、従業員を募集中」
「ウォータードラゴン? 水龍? なんだそれ……?」
「性のテーマパーク。まるで食事を楽しむように、みんながセックスを楽しめる場所」
「まるで、サキュバスのためのテーマパークじゃねえか!」
「だから、サキュバス族の従業員をこれから大量に雇用する予定なんだ」
「なんで、ユーリはそんなにダンジョンについて詳しいんだ?」
「この前ダンジョンに行ったときに、従業員募集の張り紙がいくつも貼ってあった」
「なんだその変なダンジョン……」
「よく言われるよ」
ウニューの串焼きを頬張りながら、ユーリとベニコが他愛も無い会話を続けていく。
「そんなことよりさ、夜はベニコをたっぷりと楽しませるから」
ウニューの串焼きを食べ終えると、ユーリはベニコに向かって、人差し指と中指の二本の指をクニクニとリズムよく折り曲げながら見せつけてくる。
「もう♡ バカ♡」
何度も機械的に折り曲げられるユーリの二本の指のリズムを見て、ユーリにされた手マンの気持ちよさを体に思い出してしまったベニコは、照れたように視線をそらしていた。
「そうだ! 夕飯はあそこにしよう! 臨時収入が入ったんだ! 私のおごりでいーぜ!」
しかし、体が火照っていく中、ベニコはひと仕事を終えたことで上司から臨時収入を得たことを思い出し、ユーリと食べる夕飯のことを提案する。
ベニコが行きつけにしている食堂に、ユーリを連れて行くことにしたのだ。
「サンキュー、ベニコ」
「少し歩いて腹ごなししたら、夕飯を食いにいこーぜ!」
「それまで、ベニコのおっぱい、もんでいい?」
「今はだめ♡」
「じゃあ、夜にたっぷりとは?」
「いいよ♡」
「夜は、おっぱいだけで、ベニコをイかせる」
「はあー♡ さすがに♡ おっぱいだけじゃイかねーよ♡」
「じゃあ、おっぱいだけでイったら、ベニコは俺の女になってくれる?」
「いいぜ♡ へへー♡ まあ♡ 無理だろうけどな♡」
そうして、ベニコとユーリは、ロストエデンの都市をのんびりと歩くのであった。
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