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ロストエデン散策
しおりを挟む世界最悪の都市。ロストエデン。
犯罪者のエリートたちが集う街の中を、緑色のジャージ姿で歩く異質な存在がいた。
さえない黒髪に、さえない黒い瞳。
覇気のない歩き姿。
本来ならば、ロストエデンを歩いて数十秒で死体に変わる獲物であるが、その隣に歩くのは、ロストエデンの中でも特に凶悪とされている生物。
黒いスーツ姿に紺色のネクタイをなびかせるベニコ・シノノメに護衛をされながら、ユーリがロストエデンの街を歩く。
そんなベニコがスーツの内側にはいている紫色の下着の中は、ユーリに中出しされたばかりの精液で卑猥にねっとりと濡れているのであるが、街に住む住人はそんなことは想像もできない。
目を合わせただけで半殺しにされる、サキュバスなのにセックスにまったく興味がないと噂される淫魔教会のベニコをやり過ごそうと、ロストエデンの住人はひたすらに視線を避けていた。
「へー、ここが世界最悪の街、ロストエデンかー」
今もユーリのだらしないジャージ姿を見て恐喝をしようと思いついた悪漢が近寄ろうとするが、ベニコの姿を確認すると、恐怖に引きつった顔で一目散に逃げていく。
ロストエデンはとある軍事国家の国境が重なる緩衝地帯、海岸沿いに作られた街で、海運を使い運ばれてくる豊富な物資が街中にあふれていた。
世界中から盗品、禁制品、禁忌物などが流れ込んでくる違法都市。
ロストエデンでは街のそこら中に食べ物や屋台、武器、果ては他の国での違法品まで、隠すことなく商売がされている。
それらを取り締まる法律など存在しないからだ。
「ここの串焼き屋台は、ちゃんとした肉を使ってるからおいしいぞ! 下水に流れるゴミを集めて再生した最低のカス肉を使ってる店もあるから注意しろな。ユーリは騙されやすそうだし」
「ふーん。おっ! うまい!」
「なっ! ここはうまいんだよ!」
ベニコに勧められた屋台で串焼き肉を買うと、ユーリはワクワクとしながら一口かじる。
すると、ユーリの口の中にはじゅわっとした肉の脂の甘みと、ほどよく効いた塩コショウの味に混じった炭火のかぐわしい香りが広がった。
「もう一本食べよ。……ベニコも食う? 俺のおごり」
「食う!」
何の肉かはわからないが、串焼き屋台の味が気に入ったユーリは、ベニコともう一本串焼き肉を食べることにする。
甘い脂肪の味がありつつも、ほどよくたんぱくな焼き鳥といった感じか。
そんなことを考えながら串焼き肉を食べるユーリのベニコと森でセックスをして疲れた体に、串焼き肉の栄養が染みわたった。
「ふぅー! 運動をしたあとは、串焼き肉がうまい!」
それはベニコも同じようで、ユーリと森で激しい運動をした体で五臓六腑に染み渡るような笑顔になり、串焼き肉を頬張っている。
(ん? あの女の子は、ベニコを見ても逃げないな……)
串焼き肉を頬張る笑顔のベニコを見て逃げ出す悪人顔が多数の中、その喧騒を気にせずに歩く少女の姿がユーリの目に留まった。
背中まで伸びたうるわしい銀髪に冷徹そうな真紅の瞳。
女の子の身長は一四〇センチメートルくらいで、黒と紅の生地で作り込まれたゴシックロリータ調のドレスを着ていた。
小柄な女の子の体型はツルペタの幼女体型で、犯罪者が集うロストエデンでは恰好の獲物になりそうな見た目をしているが、誰も彼女に目を合わせようとはしていない。
そして、ツルペタ幼女は太い葉巻を慣れた態度で噛むと右手に持ち、濃い煙を吐きながら街を歩いている。
すさまじい貫禄である。
「おい、あのおばさんは、私でも勝てないから気をつけろ……」
そんな、ツルペタ幼女をチラチラと見ているユーリに、ベニコが小声で注意してきた。
銀髪ツルペタ幼女は吸血鬼の真祖であり、ロストエデン最強武力の一角。
ヴァンパイアが作ったマフィア組織。
ホテル・ヴァンパイアの支配人であると、ユーリはベニコから説明される。
「ほら、あれが、ホテル・ヴァンパイアだ!」
ベニコが指差す先には、ロストエデンの街並みの中でも特に目立つ巨大な王城があった。
白い宮殿の見た目をしている豪華な建築物は、ヴァンパイアマフィアが実際に経営している宿泊施設であり、難攻不落の警備と、最高級の居心地を保証していた。
縄張り争いに殺し合いが日常であるロストエデンは、夜襲に暗殺が当たり前の手段として抗争に利用されている。
しかし、ホテル・ヴァンパイアの宿泊客に対する襲撃は組織のメンツを潰したと判断されて、ヴァンパイアマフィアたちによる報復の対象となる。
ホテル・ヴァンパイアの警備を軽視してターゲットである宿泊客に襲撃をおこなった実行犯はもちろん惨殺されて、実行犯を送りつけた組織はいくつも壊滅させられてきた。
自分たちが経営している宿泊施設への矜持を持つホテル・ヴァンパイアは、ロストエデンの歴史を作る強大な組織の一つである。
「へー、すごい女の子もいるもんだねー」
「ユーリは軽すぎだって。ホテル・ヴァンパイアの支配人をナンパでもしたら、絶対に殺されるだけだからやめとけよ……知らなかったじゃ、済まないからな」
「ふーん」
ロストエデンの組織均衡と危険な場所や人物に関する知識をまったく持っていないユーリのことを、ベニコが心配している。
「それよりさ……」
「ん、なんだ?」
そうして、串焼き肉を食べて一息ついて街をのんびり歩いていると、ユーリが軽い口調でベニコに声をかけた。
「ベニコに、フェラしてもらいたくなった」
「はぁぁ……お前、まじかよ……」
「まあ、舐めてよ」
「もう♡ ユーリは♡ しょうがねーなぁ……♡」
サキュバスとしての血が目覚め始めているベニコはユーリの言葉に満更でもない顔をすると、フェラをする興奮を想像して舌なめずりをし始める。
「ここに、サキュバスたちがよく利用する休憩所があるからさ……」
「じゃあ、そこに入ろっか。少し歩いたし、休憩ってね」
「そうだな♡ 休憩な♡」
そうして、ひと気のない路地裏にある休憩所に、ユーリとベニコのふたりはこっそりと入っていく。
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