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異世界召喚の現場
しおりを挟む(さて、ここが異世界召喚の現場か……)
俺が召喚されたのは、床に大きな魔法陣が描かれた荘厳な一室であった。多分、ここは、どこかの国の王城の中だろう。豪華な装飾品や美術品が、室内のいたる所に飾られていることからそれが推測される。
そして俺の周囲では、紺色のブレザーを着た40人ほどの学生たちが驚きながらも周囲をキョロキョロと見渡していた。どうやら、この高校生たちが今回、異世界召喚をされてしまった者たちらしい。
「ようこそ!勇者たちよ!」
突然のできごとに驚き混乱している異世界の人々に向かって、いかにも豪華な格好をした王様が鷹揚に歓迎の言葉を伝えている。どうやらこの男が、この異世界召喚をおこなった責任者であるのだろう。
そして、そのまま、異世界召喚をおこなった国のトップによる一方的な演説が、俺たちに向かって続くことになった。
「まじかよ、俺たち勇者か!」
「しかも、チート能力持ちだって!」
王様から受けた説明によると、俺たちはこの世界の平和を守るために勇者として選ばれたらしい。「異世界召喚」「勇者」という単語に反応した学生たちが、ザワザワと沸き立ちながら嬉しそうに会話を始めている。
「異世界召喚きた!しかも、クラス転移!」
俺が成り行きを見守りながら周囲の話を盗み聞きしていると、どうやらこの世界に召喚されたのは、同じ高校のクラスのメンバーたちだということがわかった。
そして、俺はそんな集団の中にひとり、スウェット姿でまぎれ込んだというわけだ。
「で、あいつ誰?」
学生たちの意識から混乱がおさまり始めた頃、クラスメイトばかりのはずの集団の中にスウェット姿の見知らぬ男がまぎれ込んでいることに気がついた人たちが、ヒソヒソと疑わしそうに内緒話を始めることになる。現在、俺は、完全に不審者として扱われてしまっていた。
まあ、クラスメイトしかいないはずの集団の中に、見知らぬスウェット姿の男がなぜかまぎれ込んでいたら誰でもそうなるだろう。
「巻き込まれ召喚ってやつだろ?」
「あいつが、一番チート持ちってこともあるぜ!」
この世界に来たときに俺の見た目は高校生くらいに変わっているため、どうやら俺は高校生たちに好意的な解釈をしてもらえたようだ。
スウェット姿の俺を見ながら、異世界召喚ものの物語に詳しそうな人たちが巻き込まれ召喚であると好意的な解釈をしてくれている。嬉しいものだ。
俺にとっても都合がいいので、俺はそのまま黙ってその場の展開を見守ることにする。
先程、王様が力強い言葉で話していた演説の中で、この世界で悪事を働く魔王を退治してもらうために勇者として彼らを召喚したと説明がされていた。そんな集団の中に、魔王である俺がまぎれ込んでしまってなんだか申し訳ないな。
また、王様がおこなった演説によると、勇者たちには最初に戦いの基本的なトレーニングを積んでもらったあとに、魔王に味方をしている周辺国家への攻撃が依頼されることになるとのことだ。
俺たちへの意思確認は、まったく無しである。完全に俺たちは、侵攻の道具にされていた。
ちなみに、周辺国家が魔王に味方をしているというのは、国土内にダンジョンが存在することを黙認して、そのダンジョンから生まれる利益をそれぞれの国が享受しているという状態を指すらしい。
つまり、この国の王様は、これから勇者を利用して他国からダンジョンを奪い取り、ダンジョン産の資源を自分だけが支配するつもりなのだろう。強欲なことである。
ここで無能を演じて退場をしてもいいが、せっかくだし、もう少しだけこの集団の中にまぎれ込んでみることにしよう。
「さて、選ばれた君たちには、これからステータス鑑定の儀を受けてもらう!」
俺がそんなことを考えていると、赤い豪華なマントをひるがえしながら偉そうな王様が俺たちに向かって次の指示を出す。
さて、これから俺たちには、ステータス鑑定がおこなわれるようだ。
ステータス鑑定をおこなうことで、勇者たちの道具としての利用価値を測るつもりなのだろう。
(周りの勇者たちのステータスを見ながら、自分のステータスを偽造しましてと……)
俺はこのまま勇者たちの集団にまぎれ込むために、鑑定スキルを使い周囲の勇者たちのステータスに合わせながら、自分のステータスをスキルで偽造していくのであった。
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