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ダンジョンへの潜入
しおりを挟むユキノ視点
私とリンネ先輩がユズハさんの消息を調査し始めてから数ヶ月が経つ。そして私たちはついに、とあるダンジョンにてユズハさんらしき人物を見たという情報を得ることになった。その情報を元にユズハさんが目撃されたというダンジョンをおとずれると、私たちはいかにも怪しい立入禁止の場所を発見する
立入禁止と言えばユズハさんの大好物だ。好奇心を抑えられずに彼女がこの場所に立ち入った結果、何かのトラブルに巻き込まれたのかもしれない。そう判断をした私たちはダンジョン内にある立入禁止の場所を攻略することで、ユズハさんの痕跡を探すことに決めた
ダンジョン内にある立入禁止の看板を抜けて一階層目は、何もない広間だった。その場所には私たちの意思を確認するように、ここから先は本当に何もないという旨の警告がされている
「私たちをナメないでよね!ユズハさんの行方がわかるまで、絶対に諦めないんだから!」
「こんな注意書きがあるとは、ユズハ師匠ならひょいひょいと中に入ってしまうだろうな。これは、このダンジョンにユズハ師匠がいる可能性がより上がったようだ」
そう会話をしながら私たちは最終宣告を告げるドアを抜ける。するとダンジョンの様子が端正な石造りのきれいだった広間から、何かおぞましい肉を固めたような物体でできた廊下へと変わった
「ユキノ。注意しろ」
「はい。先輩!」
このダンジョンはヤバイ。すぐに分かった。この生命を冒涜するような物体によって作られたダンジョンは幾多の侵入者の命を簡単に飲み込んでいる。私たちは警戒心を最大にし、ダンジョンを進むことにした
――キィィィィィィィィン!
「まずい!転移トラップだ!ユキノ!脱出に専念しよう!ダンジョン前にあった宿屋で合流だ!」
「はい!先輩!宿屋で先に待ってますから、遅れないでくださいよ!」
「ふっ。そっちこそ、私より遅かったら、この前ユキノが言っていた恥ずかしい寝言をタツキチに教えてしまうからな」
「先輩!洒落にならないですよぉ!」
ダンジョンの質が変わった。このダンジョンは簡単にクリアできるやさしいダンジョンから、罠の痕跡すらまともにわからない凶悪なダンジョンに変化している。そのことに対応ができなかった私とリンネ先輩は、転移トラップに引っかかり散り散りにされてしまった。こんな罠に引っかかるなんて、退魔のシノビとして恥ずかしい。正直、このダンジョンをナメていた。私は気を引き締め直すことにする
「……先輩。遅いなぁ」
その日、私が宿屋に戻っても、リンネ先輩は戻らなかった。これはまずいかもしれない。私は心配で眠れぬ夜を過ごす。しかし次の日になり、私がリンネ先輩を探索するためにダンジョンに潜ろうとすると、疲労困憊になった状態のリンネ先輩をダンジョンの入口で見つける。すれ違いにならなくてよかった。私はリンネ先輩に駆け寄り、彼女に声をかけることにした
「リンネ先輩!遅いですよ!」
「すまない。心配をかけてしまったな」
疲れ果てたようによろめく先輩の体調に配慮して、今日は一日宿屋で休憩を取ることにする。ここの宿屋の料理は竜人族の国のものと似ているし、とても美味しい。パンではなく、久しぶりにお米も食べられた。私たちにとっては体だけではなく、心の休憩もできる宿屋なのだ
しかし夜中、私がふと目を覚ますとリンネ先輩が部屋にいないことに気づく。先輩は頑張り屋だから、今日一日宿屋で休憩をしたことを惜しみ、どこか周辺の調査に出ているのかもしれない。でも、休むときは休む。これはリンネ先輩との約束だ
朝になって私の目が覚めると、何食わぬ顔をしたリンネ先輩が室内でダンジョン探索の準備をしている。私はそんな彼女に、私が心配していることを伝えるために声を掛けることにした
「リンネ先輩!昨日の夜中、何してたんですか?」
「な、な、な、何を言っているんだぁ!ユキノぉ!」
私が先輩に向かって昨日の夜に何をしていたのかを問い詰めると、リンネ先輩はしどろもどろになって慌てふためく。リンネ先輩はいつもクールで冷静なところがあるが、こうして混乱をしている先輩の姿は初めて見た。リンネ先輩には、実は嘘が苦手というかわいいところがあるのかもしれない
「先輩がこの部屋からいなくなってるの、私、夜中に気付いたんですからね!どうせリンネ先輩は、私に隠れて周辺の調査に行っていたんでしょうけれども。休むとき休む。これ、先輩がした約束ですよ?」
「あ、ああ!……少し森に気になることがあったから、調査をしていたんだ!」
リンネ先輩には、昔からすぐに無理をしようとするクセがある。でもこれはいけない。今回潜っているダンジョンは、疲労が溜まっている状態では本当に命を落としてしまうかもしれない危険なダンジョンだ。私は先輩の体を休ませるために、少し強めの態度を貫くことにした
「リンネ先輩!無理は禁物って、いつも私に言ってますよね!罰として先輩は、今日一日宿屋で休みです!今日の予定は、周辺の森の調査を私一人でするものに変更になりました!分かりましたね?」
「……ユキノ……すまない……わかったよ」
リンネ先輩が神妙な顔でしおらしくうつむく。何か思うところがあるのだろうか。私は彼女の様子を少し妙に思いながらも気にすることなく、宿周辺にある森の調査へと出向く。しかし入念な調査をしても、ユズハさんの痕跡は森には何も見つからなかった
「先輩。戻りました……って、またいない!」
私が森から宿に帰ると再び、先輩が部屋にいないことに気づく。何やらまた無理をしているのかと心配になった私がリンネ先輩を探そうとしたところ、リンネ先輩が宿屋の主人と一緒になって廊下を歩いてくる場面に出くわした。どうやら先輩は宿屋の主人に、ユズハさんのことを知らないか聞き取り調査をしていたようだ
「……っ♡……っ♡……んっ♡」
何やら先輩の顔が火照っているが、私が聞いても体調の心配はないとのことだ。リンネ先輩が小さなうめき声をあげていた気もするが、きっと私の気のせいだろう。それにしても、リンネ先輩と並ぶ宿屋の主人の体がやたらと先輩に近いのが気になる
先輩と並んで廊下に立つ宿屋の主人の右腕が、こちらからは先輩の影になって見えないくらいの距離に彼は位置取っていた。宿屋の主人にはセクハラの気質でもあるのだろうか?それをクールな顔でスルーしているリンネ先輩は流石である。まあ、宿屋の主人がリンネ先輩のお尻を気軽に触ろうものなら、リンネ先輩による強烈なおしおきが待っているに違いないが
「じ、実はぁ♡……っ♡……この宿屋の主人と交渉をしてぇっ♡……っ♡……ここで働かせてもらうことになったのだがっ♡……っ♡……っ♡……ユキノはどうだろうかぁ♡……っ♡」
リンネ先輩は宿屋の主人と交渉して、週に3日ここで働くことで一週間の宿賃を免除してもらうことになったと私に伝える。それには私も賛成だった。節約に越したことはないからだ。退魔のシノビと言っても、懐は寒いのだ
ユズハさんの痕跡が必ずここにはある。先輩はそう判断し、長期的な調査に乗り出すことにしたようだった。私の勘も、ユズハさんは必ずこのダンジョンにいると言っている
邪神によって作られたダンジョンには、チェックポイントという機能がある。邪神が作ったダンジョンに、創造の女神が慈悲を与えたとも言われているものだ
階層ごとにあるチェックポイントを使えば転移魔法が発動してすぐにダンジョンから脱出することができるし、再びダンジョンをおとずれたときにはまた、そのチェックポイントからダンジョンの探索を再開することができる
つまり、いちいち一階からダンジョンの探索をやり直さなくても、途中の階層からダンジョン探索の続きができるということだ。だから少しずつ慎重にダンジョンを攻略していけばいつか最下層にたどり着けるし、私たちのようにダンジョンの近くで宿賃を稼ぎながらダンジョン攻略をする行為はよくあることなのだ
「ユーリさん。今日からよろしくお願いします!」
こうして私たちはダンジョン前の宿屋で働きながら、ユズハさんの調査を続けることになった
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