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29. たしかに筋は通ってますね
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鴻上の差し出したスマホの画面には、ついさっき琴子が目にしたのと同じ画像が表示されていた。
「これ、私のところにも届きました!」
琴子が報告すると、鴻上が腕を組んで何ごとかを考え込むように眉根を寄せた。
「なるほど。これが噂の文春砲というやつか」
「いや、なんで一般人の私たちが狙われるんですか」
冗談とも本気ともつかない鴻上の軽口に、琴子は呆れながら突っ込む。
そう、この画像にはまるでスクープさながらの男女の姿が写しとられていた。それこそ週刊誌にでも掲載されれば「熱愛発覚!」という見出しが付けられそうなポーズで。
では誰と誰が激写されているかというと――もちろん琴子と鴻上である。浴衣姿で抱き合っているところだ。撮られた日は明らかで、先週の名古屋出張の夜以外にありえなかった。
「でも心配するな。この写真だけなら何とでも言える。たとえば……」
鴻上が琴子の顔を見つめながら、やけに自信ありげに話しはじめる。
「まず咲坂さんがスマホを忘れたことに気がついて懇親会の開かれた店に戻った。そこで酔いつぶれてゲェゲェ吐いてる俺をみつけた。酔いつぶれた上司を放っておくわけにもいかず、付き添っているうちに新幹線の最終を逃してしまった。仕方なく駅前のビジネスホテルに泊まることになったが、そこで酔っぱらった俺に無理やり抱きつかれた。しかし寛大な咲坂さんは『課長も酔っていたことだし、今回は見逃してあげましょう』と言って俺のことを許してくれる……どうだ、完璧なシナリオだろ?」
「おぉ~。たしかに筋は通ってますね」
琴子が指の先だけで小さく拍手する。鴻上の考えた話に「まぁ、ありえなくもない話かな」と納得した。即興で思いついたとは思えない完成度だ。
「もしや最初から考えてました? その言い訳」
琴子が疑惑の目を向けると、鴻上は「バレたか」と言って、イタズラが見つかった子供みたいに笑った。
「どっちにしろ、君は堂々としてればいい。実際あの日はなにもシてないんだから」
さっきまでの子供っぽい笑顔から一転、今度はいかにも「頼りになる上司」といった雰囲気で鴻上は力強く頷いてみせた。
しかしその言葉が本気なのか冗談なのかわからなくて、琴子はどう応えていいものか戸惑う。たしかにあの日はなにもなかった。あの日は。
「俺はともかく、咲坂さんがどうこう言われるようなことにはしないから。安心しろ」
鴻上は目を細めて、琴子の頭をわしゃわしゃと撫でた。髪の毛が乱れるからやめてほしい、と琴子は思ったが、鴻上の手のひらから感じるほんのりとした温かさが心地よくて、しばらくされるがままにしておいた。
「でも、そうだな……念のため、スマホの中に入ってる『サキちゃんコレクション』は消しといたほうがいいな。見つかったら確実に常習犯だと思われるだろうし」
「……なんですか、その『サキちゃんコレクション』って」
鴻上の口から漏れた不穏なワードに、琴子は顔色を変える。
「ん。見る?」
鴻上が自分のスマホ画面を何度かスライドさせてから琴子の目の前に掲げた。
「ぎゃあぁぁ! なんですか、これ! いつの間に、こ、こんなものを……」
今日は朝から奇声を発することが多かったが、その中でも最大級の叫び声を上げてしまった。鴻上が耳をふさいで「静かにしろ」というように人差し指を唇の前で立てて見せてくるが、琴子としては「誰のせいだ」と文句の一つも言ってやらないと気が済まない。
なぜなら、そこには琴子の上半身から上が映っていたのだが……素っ裸なうえに胸まで丸出しで、ツンと尖った乳首まではっきりと映し出されていたからだ。これは絶対に外に出してはいけない代物だ。
琴子の唇がわなわなと震える。
「な、なんでこんな写真を……!」
「なんでって、そりゃあサキちゃんに会えなくて寂しいときはコレを見て一人でヌく……」
「わーわーわー! それ以上は言わなくていいです」
前に見せられたものはよっぽどマイルドな部類だったのだなと、琴子はあらためて戦慄する。いったい何枚くらいこの手の写真を隠し持っているのだろう? 故意に流出させる人ではないと信じている(信じたい)が、できれば消してもらいたい……!
「すみませんが、その手の写真……全部消してもらえませんか?」
「それより、問題は今日送られてきたこの写真だ。いったい誰が何の目的で送ってきたのか、ちゃんと考えないとな」
琴子の願いはサクっと聞き流して、急に真面目な顔でファシリテーションしはじめた鴻上を琴子は苦々しい思いで睨みつけた。
「こいつ、話すりかえやがった……!」とは思うものの、たしかにこっちはこっちで何とかしなくてはならない。
恐るべし、一億総カメラマン時代。
「これ、私のところにも届きました!」
琴子が報告すると、鴻上が腕を組んで何ごとかを考え込むように眉根を寄せた。
「なるほど。これが噂の文春砲というやつか」
「いや、なんで一般人の私たちが狙われるんですか」
冗談とも本気ともつかない鴻上の軽口に、琴子は呆れながら突っ込む。
そう、この画像にはまるでスクープさながらの男女の姿が写しとられていた。それこそ週刊誌にでも掲載されれば「熱愛発覚!」という見出しが付けられそうなポーズで。
では誰と誰が激写されているかというと――もちろん琴子と鴻上である。浴衣姿で抱き合っているところだ。撮られた日は明らかで、先週の名古屋出張の夜以外にありえなかった。
「でも心配するな。この写真だけなら何とでも言える。たとえば……」
鴻上が琴子の顔を見つめながら、やけに自信ありげに話しはじめる。
「まず咲坂さんがスマホを忘れたことに気がついて懇親会の開かれた店に戻った。そこで酔いつぶれてゲェゲェ吐いてる俺をみつけた。酔いつぶれた上司を放っておくわけにもいかず、付き添っているうちに新幹線の最終を逃してしまった。仕方なく駅前のビジネスホテルに泊まることになったが、そこで酔っぱらった俺に無理やり抱きつかれた。しかし寛大な咲坂さんは『課長も酔っていたことだし、今回は見逃してあげましょう』と言って俺のことを許してくれる……どうだ、完璧なシナリオだろ?」
「おぉ~。たしかに筋は通ってますね」
琴子が指の先だけで小さく拍手する。鴻上の考えた話に「まぁ、ありえなくもない話かな」と納得した。即興で思いついたとは思えない完成度だ。
「もしや最初から考えてました? その言い訳」
琴子が疑惑の目を向けると、鴻上は「バレたか」と言って、イタズラが見つかった子供みたいに笑った。
「どっちにしろ、君は堂々としてればいい。実際あの日はなにもシてないんだから」
さっきまでの子供っぽい笑顔から一転、今度はいかにも「頼りになる上司」といった雰囲気で鴻上は力強く頷いてみせた。
しかしその言葉が本気なのか冗談なのかわからなくて、琴子はどう応えていいものか戸惑う。たしかにあの日はなにもなかった。あの日は。
「俺はともかく、咲坂さんがどうこう言われるようなことにはしないから。安心しろ」
鴻上は目を細めて、琴子の頭をわしゃわしゃと撫でた。髪の毛が乱れるからやめてほしい、と琴子は思ったが、鴻上の手のひらから感じるほんのりとした温かさが心地よくて、しばらくされるがままにしておいた。
「でも、そうだな……念のため、スマホの中に入ってる『サキちゃんコレクション』は消しといたほうがいいな。見つかったら確実に常習犯だと思われるだろうし」
「……なんですか、その『サキちゃんコレクション』って」
鴻上の口から漏れた不穏なワードに、琴子は顔色を変える。
「ん。見る?」
鴻上が自分のスマホ画面を何度かスライドさせてから琴子の目の前に掲げた。
「ぎゃあぁぁ! なんですか、これ! いつの間に、こ、こんなものを……」
今日は朝から奇声を発することが多かったが、その中でも最大級の叫び声を上げてしまった。鴻上が耳をふさいで「静かにしろ」というように人差し指を唇の前で立てて見せてくるが、琴子としては「誰のせいだ」と文句の一つも言ってやらないと気が済まない。
なぜなら、そこには琴子の上半身から上が映っていたのだが……素っ裸なうえに胸まで丸出しで、ツンと尖った乳首まではっきりと映し出されていたからだ。これは絶対に外に出してはいけない代物だ。
琴子の唇がわなわなと震える。
「な、なんでこんな写真を……!」
「なんでって、そりゃあサキちゃんに会えなくて寂しいときはコレを見て一人でヌく……」
「わーわーわー! それ以上は言わなくていいです」
前に見せられたものはよっぽどマイルドな部類だったのだなと、琴子はあらためて戦慄する。いったい何枚くらいこの手の写真を隠し持っているのだろう? 故意に流出させる人ではないと信じている(信じたい)が、できれば消してもらいたい……!
「すみませんが、その手の写真……全部消してもらえませんか?」
「それより、問題は今日送られてきたこの写真だ。いったい誰が何の目的で送ってきたのか、ちゃんと考えないとな」
琴子の願いはサクっと聞き流して、急に真面目な顔でファシリテーションしはじめた鴻上を琴子は苦々しい思いで睨みつけた。
「こいつ、話すりかえやがった……!」とは思うものの、たしかにこっちはこっちで何とかしなくてはならない。
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