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コタツの中で……
コタツの中で……(1)
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「適当に座っとけ」
短い廊下を過ぎてリビングへと辿り着くと、火神はひな子の手を離した。
龍一郎以外の男の人の部屋へ入るのは初めてで、ひな子はそわそわしながら部屋の中を見回してみる。
それほど広くはない。
部屋の真ん中に置かれたコタツと窓際のベッドに占められて、足の踏み場はほとんどない。ベッドの上には少し乱れたままのシーツと布団。ひな子はそこに横たわる火神の姿を想像してみたが、固そうなシングルベッドは背の高い先生には少し窮屈そうな気がした。わずかに開いたカーテンの隙間から昼の光が差し込んで、ベッドの上を舞う細かなホコリをきらきらと照らしている。
ベッドと反対側の壁際には天井まで届きそうな大型の本棚がずらりと並び、中には難しそうな本がぎっしりと詰まっていた。そのほとんどが化学関連と思われる分厚い洋書や教育関係の書籍だ。
ひな子が遠慮がちにコタツの前に正座してグルグル巻きにしていたマフラーを外すと、ベッドの足元でキラリときらめく何かが目に入った。
――何だろう?
不審に思ったひな子が拾い上げてみると、それは口紅のようだった。何気なくキャップを外してみると、どこかで見たことのある色が目についた。
「狭いだろ? まぁ、ひとり暮らしなんて、こんなもんだけどな」
両手にマグカップを持った火神が照れくさそうに笑っている。
「コーヒー飲めるか?」
「飲めます」
「砂糖入れたほうがいいよな?」
「……大丈夫です、ブラックで」
当たり前のようにひな子が砂糖を入れるものと決めつけた火神に、つまらない嘘をついてしまう。そんなひな子の小さな見栄に気づいているのかいないのか、火神はコトリ、と小さく音をさせてコタツの上にカップを置くと、ひな子の向かいに腰を下ろしてコタツの中へと潜り込んだ。
「そういえば……」
背中を丸めながらコーヒーを啜っていた火神が思い出したように声を上げた。
「俺、水泳部の顧問になったんだよ」
「え、そうなんですか? 先生、水泳やってたんですか?」
「全っ然。平泳ぎもろくにできねぇんだけど。こんなんが顧問でいいのか……。まぁ、どうせ名前だけだけどな」
自虐した火神が苦りきった表情で笑ってみせる。
学校ではあまり自分のことを語らない火神が、どうやら本音を漏らしているらしいことが、ひな子は嬉しかった。一緒になって軽く苦笑いしてからカップに口をつける。砂糖もミルクも入っていない真っ黒な液体は、やっぱり苦いだけだったけど。
「真山にやらせればいいのに」
「……え?」
火神の口からふいに漏れたあの女の名前に、ひな子は思わず顔をしかめた。あの女を話題にする火神になぜか無性に苛立ちが募る。
「脇田……だっけ? あの外部コーチ。あの男、真山と仲いいんだろ? だったらアイツがやればいいじゃねぇかと思ってさ」
「……真山先生も、ココに来たこと、あるんですか?」
ひな子が低い声で尋ねると、
「……気になるのか?」
火神が意外そうに目を見開いた。
「私……あの女、苦手です」
「ほう?」
「なんか……怖いです」
「奇遇だな。俺もだよ」
火神が面白そうに半笑いを浮かべている。
「でも、家には連れ込んでるんですよね?」
「ん?」
「コレ、落ちてました」
ひな子はベッドの足元に転がっていた口紅をコタツの上に置いた。
「……ほんとに怖ぇな、あの女」
火神は忌ま忌ましいものを見るかのようにその口紅を目に入れて顔を引き攣らせる。
ひな子は無言のまま正座を崩すと、おもむろにコタツ布団の中へと脚を入れた。
「……おい」
しばらく沈黙がつづいた後で、火神が唐突に声を上げた。
「…………おい」
聞こえていないわけはないのに、ひな子はじっと押し黙ったまま答えない。
「おい、羽澄!」
業を煮やした火神が声を荒げる。
「……何ですか?」
「イタズラが過ぎるぞ」
「先生に言われたくありません。それに、」
ひな子はマグカップの黒い液体に目を向けたまま、ぼそっと呟く。
「……先生だって、反応してるじゃないですか」
コタツの中で、ひな子の足の指が火神の股間をツンツン、と突いていた。
火神の肉棒が硬度を増していくのを足の裏で確認すると、正体不明の苛立ちが少しだけ消えていく。
「羽澄……やめてくれ」
困ったように力の抜けた声を上げる火神を無視して、ひな子はぐりぐりと彼の一物を刺激しつづける。指の先に力を入れて上下に摩ると、火神のそれがだんだんと熱を帯びる。火神の熱を感じて、ひな子の身体の中心もじわりと潤む。
――どうしたら、先生の熱を戻すことができる?
こんなことをしている自分が信じられなくて……恥ずかしくて……火神の顔を見るのができない。コタツ布団を持ち上げて顔を隠したけれど、足の動きは止められなかった。
「きゃあ……っ!」
突然、コタツの下で動くひな子の足を掴んだ火神が、彼女の靴下をずるりと脱がした。間髪入れず、剥き出しになったひな子の素足の裏をべろんと舐め上げる。
「やっ、くすぐったい……」
「気持ちいい、の間違いだろ」
「やだ、やめてください、……汚いから」
身をよじったひな子がそう言って足を引こうとすると、
「ダメだ」
火神が先ほどまでとは打って変わった力強い声で一蹴する。
「お仕置き」
「……え」
「俺のを、こんなにした、お仕置きだ」
火神はひな子の足を自分の股間へと導いた。
――硬くて、熱い。
靴下がなくなった分、ダイレクトに火神の熱と形を感じて、ひな子の身体がぶるりと震える。
ひな子は気づかないフリをした。
この身体の震えが、自分でも止めようのない欲情と、淫らな期待からくるものであることに……。
「適当に座っとけ」
短い廊下を過ぎてリビングへと辿り着くと、火神はひな子の手を離した。
龍一郎以外の男の人の部屋へ入るのは初めてで、ひな子はそわそわしながら部屋の中を見回してみる。
それほど広くはない。
部屋の真ん中に置かれたコタツと窓際のベッドに占められて、足の踏み場はほとんどない。ベッドの上には少し乱れたままのシーツと布団。ひな子はそこに横たわる火神の姿を想像してみたが、固そうなシングルベッドは背の高い先生には少し窮屈そうな気がした。わずかに開いたカーテンの隙間から昼の光が差し込んで、ベッドの上を舞う細かなホコリをきらきらと照らしている。
ベッドと反対側の壁際には天井まで届きそうな大型の本棚がずらりと並び、中には難しそうな本がぎっしりと詰まっていた。そのほとんどが化学関連と思われる分厚い洋書や教育関係の書籍だ。
ひな子が遠慮がちにコタツの前に正座してグルグル巻きにしていたマフラーを外すと、ベッドの足元でキラリときらめく何かが目に入った。
――何だろう?
不審に思ったひな子が拾い上げてみると、それは口紅のようだった。何気なくキャップを外してみると、どこかで見たことのある色が目についた。
「狭いだろ? まぁ、ひとり暮らしなんて、こんなもんだけどな」
両手にマグカップを持った火神が照れくさそうに笑っている。
「コーヒー飲めるか?」
「飲めます」
「砂糖入れたほうがいいよな?」
「……大丈夫です、ブラックで」
当たり前のようにひな子が砂糖を入れるものと決めつけた火神に、つまらない嘘をついてしまう。そんなひな子の小さな見栄に気づいているのかいないのか、火神はコトリ、と小さく音をさせてコタツの上にカップを置くと、ひな子の向かいに腰を下ろしてコタツの中へと潜り込んだ。
「そういえば……」
背中を丸めながらコーヒーを啜っていた火神が思い出したように声を上げた。
「俺、水泳部の顧問になったんだよ」
「え、そうなんですか? 先生、水泳やってたんですか?」
「全っ然。平泳ぎもろくにできねぇんだけど。こんなんが顧問でいいのか……。まぁ、どうせ名前だけだけどな」
自虐した火神が苦りきった表情で笑ってみせる。
学校ではあまり自分のことを語らない火神が、どうやら本音を漏らしているらしいことが、ひな子は嬉しかった。一緒になって軽く苦笑いしてからカップに口をつける。砂糖もミルクも入っていない真っ黒な液体は、やっぱり苦いだけだったけど。
「真山にやらせればいいのに」
「……え?」
火神の口からふいに漏れたあの女の名前に、ひな子は思わず顔をしかめた。あの女を話題にする火神になぜか無性に苛立ちが募る。
「脇田……だっけ? あの外部コーチ。あの男、真山と仲いいんだろ? だったらアイツがやればいいじゃねぇかと思ってさ」
「……真山先生も、ココに来たこと、あるんですか?」
ひな子が低い声で尋ねると、
「……気になるのか?」
火神が意外そうに目を見開いた。
「私……あの女、苦手です」
「ほう?」
「なんか……怖いです」
「奇遇だな。俺もだよ」
火神が面白そうに半笑いを浮かべている。
「でも、家には連れ込んでるんですよね?」
「ん?」
「コレ、落ちてました」
ひな子はベッドの足元に転がっていた口紅をコタツの上に置いた。
「……ほんとに怖ぇな、あの女」
火神は忌ま忌ましいものを見るかのようにその口紅を目に入れて顔を引き攣らせる。
ひな子は無言のまま正座を崩すと、おもむろにコタツ布団の中へと脚を入れた。
「……おい」
しばらく沈黙がつづいた後で、火神が唐突に声を上げた。
「…………おい」
聞こえていないわけはないのに、ひな子はじっと押し黙ったまま答えない。
「おい、羽澄!」
業を煮やした火神が声を荒げる。
「……何ですか?」
「イタズラが過ぎるぞ」
「先生に言われたくありません。それに、」
ひな子はマグカップの黒い液体に目を向けたまま、ぼそっと呟く。
「……先生だって、反応してるじゃないですか」
コタツの中で、ひな子の足の指が火神の股間をツンツン、と突いていた。
火神の肉棒が硬度を増していくのを足の裏で確認すると、正体不明の苛立ちが少しだけ消えていく。
「羽澄……やめてくれ」
困ったように力の抜けた声を上げる火神を無視して、ひな子はぐりぐりと彼の一物を刺激しつづける。指の先に力を入れて上下に摩ると、火神のそれがだんだんと熱を帯びる。火神の熱を感じて、ひな子の身体の中心もじわりと潤む。
――どうしたら、先生の熱を戻すことができる?
こんなことをしている自分が信じられなくて……恥ずかしくて……火神の顔を見るのができない。コタツ布団を持ち上げて顔を隠したけれど、足の動きは止められなかった。
「きゃあ……っ!」
突然、コタツの下で動くひな子の足を掴んだ火神が、彼女の靴下をずるりと脱がした。間髪入れず、剥き出しになったひな子の素足の裏をべろんと舐め上げる。
「やっ、くすぐったい……」
「気持ちいい、の間違いだろ」
「やだ、やめてください、……汚いから」
身をよじったひな子がそう言って足を引こうとすると、
「ダメだ」
火神が先ほどまでとは打って変わった力強い声で一蹴する。
「お仕置き」
「……え」
「俺のを、こんなにした、お仕置きだ」
火神はひな子の足を自分の股間へと導いた。
――硬くて、熱い。
靴下がなくなった分、ダイレクトに火神の熱と形を感じて、ひな子の身体がぶるりと震える。
ひな子は気づかないフリをした。
この身体の震えが、自分でも止めようのない欲情と、淫らな期待からくるものであることに……。
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