月と秘密とプールサイド

スケキヨ

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強かな女、鈍感な男

鈍感な男(2)※

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「これ、着けてくれてるんだな」

 ひな子の胸に顔をうずめていた龍一郎りゅういちろうが、彼女の首元で光るクローバーのネックレスを見つけて熱っぽく呟いた。

「……うん」

 龍一郎の言葉に、ひな子は小さく頷いた。このネックレスは去年の誕生日に龍一郎に貰って以来、ほとんど肌身離さず着けている。
 ひな子の胸元から顔を上げた龍一郎が、クローバーのチャームを舌先でつついた。ひんやりとした触感を楽しむように舌の上に載せて転がしはじめる。龍一郎の口の中で、アクアブルーの石がキラリと青く光った。
 クローバーをねぶる龍一郎の舌をぼんやりと眺めていたひな子。ついさっきまで自分の乳首もそうされていたのかと思うと、にわかに胸の先が熱を帯びる。
 刺激を求めて今にも弾けそうに赤くぷっくりと膨らむ蕾に……しかし龍一郎は気づかない。

「ぁ……」

 ひな子の胸をやわやわと揺すぶっていた彼の手が、そこを離れてゆく。

 ――あのひとなら……気づいてくれるのに。

 ついついそんなことを考えてしまった自分が信じられなくて、ひな子は軽く頭を振った。
 龍一郎の手は脇腹を伝ってひな子の身体を下へと向かっていく。くびれた腰に辿りつくと濡れたスカートを持ち上げて、下着越しにひな子の弾力あるお尻を掴んだ。力まかせにぎゅうぎゅうと揉みしだいてくる。
 雨で濡れた下着が肌にびちゃりと密着して気持ち悪い。

「んっ……、りゅうちゃん……やだ」

「やだ」の意味を濡れた下着のせいだと思ったらしい龍一郎が、ひな子の下着を引きずり下ろした。太腿の途中まで下ろすと、透明な粘液が糸を引いた。

「スゴい……濡れてる」

 感心したような龍一郎の口ぶりに、ひな子の頬が赤く染まる。

「それは、さっきの雨のせいで……」

 顔を伏せたひな子が消え入りそうな声で言うと、

「こんなトロトロの雨があるかよ」

 龍一郎が薄く笑いながら否定する。

「あっ……!」

 トロトロに溶けた蜜壷に、龍一郎が指を差し入れた。しばらく膣内なかを探るように指を曲げ伸ばししたかと思うと、グチュグチュと音を立てて掻き混ぜる。

「はぅっ……! ぁ、あぁ……んんっ……」

 自分でも知らない弱いトコロを擦られるたびに、ひな子の口からあられもない声が漏れる。

「すげぇ……次から次に溢れてくる」
「龍ちゃんのバカ…………そんなこと、言わないで……」

 言葉でこそ龍一郎をなじってはいても、身体は真逆の反応をしてしまう。

「やばい……三本でも余裕で入ってく」
「もぅ……ヤダぁ……」

 恥ずかしさのあまり、ひな子の目に涙が滲む。
 これ以上進んだら、龍一郎との関係が変わってしまう……そう思うのに、腰が勝手に動いて、龍一郎の指をがっつりと呑み込んでいく。
 ふいに愛液にまみれた龍一郎の指が、ひな子の花芽をかすめると――

「はぁあああ…………んぅっ!」

 一際ひときわ高い声で鳴いたひな子を面白がるように、龍一郎が執拗にそこばかりを攻め立ててきた。新しい玩具おもちゃをみつけた子供みたいに――。

「なぁ……。お前、いつからこんなにエロくなったんだよ」

 龍一郎がひな子の耳元に顔を寄せて囁いた。
 ひな子の花芯をいじくる指の動きが、激しさを増す。
 自分勝手な龍一郎の指に翻弄されて、ひな子は壊れたバイオリンみたいに身をよじらせて嬌声を上げた。

「いつからこんなに……感じやすくなったんだよ……!」

 龍一郎の口調にはひな子を責めるようなニュアンスが含まれていた。

「んぅ……あぁっ……そんな言い方、しないでよ……私はただ、龍ちゃんのため、に……」

 思わず言いかけた言葉を、ひな子は必死の思いで飲み込んだ。瞳に溜まっていた涙がひと粒こぼれ落ちて、床のカーペットに染みていく。

「なぁ、ひな子……俺、もう……」

 切迫した声で呻いた龍一郎が、ひな子の手を掴んで自分の股間へと導いた。

「きゃっ……」

 すっかり勃ち上がった龍一郎のモノの猛々しさに、ひな子が小さく悲鳴を上げる。

「ひな子……俺、もう我慢できない……なぁ、俺にもヤらせてくれよ……」

 龍一郎がひな子の耳に鼻先を押し付けながら、懇願するように掠れた声で呟いた。熱い息が耳にかかって、ひな子の身体が震える。

「龍ちゃん……」

 子供の頃からずっと好きだったひとに求められている。応じるかどうかは別としても、本来なら嬉しくてしょうがないはずだ。

 ――だって、ひな子はずっと……龍一郎のことが好きだったのだから。

 なのに……。
 が、ひな子の心に引っかかっていた。

(俺に……?)

「……龍ちゃん……さっき、『俺にも』って言った……?」

 ひな子が震える声で尋ねた。

「…………」

 龍一郎が無言でひな子の耳に噛みつく。

「痛い……っ!」

 痛みに驚いたひな子が龍一郎の顔に目を向けると――
 そこには……子供の頃からよく知っている幼馴染ではなく……全然知らない男の顔があった。

「……龍ちゃん? どうしたの? なんか、ヘンだよ。なんだか……知らない男のヒトみたい……」

 ひな子の声が震える。
 龍一郎は無言のまま、ひな子の視線を避けるように、ふいっと目を逸らした。その仕草はひどく冷酷なもののように、ひな子は感じた。

「龍ちゃん……もしかして、知ってる……の?」

 龍一郎はひな子から目を逸らしたまま、答えない。

「……そんな……なんでっ……!」

 ひな子の目から涙が溢れた。
 大粒の涙が零れては落ちて、乱れたブラウスとカーペットに吸い込まれていく。

 ――知られたくなかった。

 純粋で鈍感で子どもっぽくて。
 昔からちっとも変わらない龍ちゃんには、龍ちゃんにだけは……知られたくなかったのに……!

「……ヘンなのは、ひな子のほうだろ。知らないひとになっちまったのは……お前のほうじゃねぇかよ……」

 拗ねた子供みたいな口調でぼそりと呟いた龍一郎が、今度はひな子の尖った乳首に噛みついた。

「やだっ……痛、いっ……!」

 痛みに耐えかねたひな子が、龍一郎を突き飛ばした。
 濡れたブラウスに張りついて透けた胸を隠すように、両腕で自身の身体を抱え込む。それでも全身の震えを抑えることができなくて、身体がガタガタと震えている。快感ではなく、恐怖のために……。

「……ごめんなさ、い……。今日は、帰って……」
「……ひな子、」

 龍一郎が手を伸ばしながら、フラリとひな子の元へと近づいてくる。

「やっ……来ないで……!」

 ヒビ割れたようなひな子の悲鳴に、龍一郎が動きを止めてその場に立ち尽くした。信じられない、といった表情を浮かべてから、行き場をなくした腕を静かに下ろす。力なく首を垂れて向きを変えると、背中を丸めて、ひな子の家を出て行く。
 振り返ったら、どうしよう……と、ひな子は思ったが、龍一郎は一度も振り返ることなく、ひな子の視界から姿を消した。
 ひとりになったひな子は、カーペットが濡れるのも構わず、その場にずるずると座り込んだ。拭っても拭っても、溢れ出る涙を止めることができない。

 どしゃ降りだった雨は、いつの間にかすっかり弱まったみたいだった。


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