大嫌いなアイツが媚薬を盛られたらしいので、不本意ながらカラダを張って救けてあげます

スケキヨ

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もういいよ。もういいけど……

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*****

「……ん。どこだ、ここは?」

 リアムが目を覚ますと、見覚えのない豪華な装飾が目に入った。
 自分の部屋でないことは確かだ。
 上半身を起こしたリアムがぐるりと周囲を見回すと、

「え……? ミア!?」

 自分の隣ですっぽりと口元までシーツを被って横たわるミアの姿が目に入った。黙ったまま、それなのに何か言いたそうな目でリアムを見上げているではないか。

「ミア? え、どうしてここにいるんだ? ……というか、ここはどこだ?」

 わけがわからない、といった様子で目を白黒させるリアムに、ミアが恨めしそうに声をかけた。

「……覚えてないの? 昨日のこと」

「昨日? たしか、夜会が開かれたんだったよな。ビアンカ様の発案で。そこでビアンカ様に……」

 リアムは王女から部屋に来るよう誘われたことを思い出したが、さすがにミアの前で口にすることは憚られた。

「ごめん、あんまり思い出せないんだ。おかしいな、俺、そんなに酒には弱いほうじゃないのに」

「……あのね、リアムは昨日ビアンカ王女にへんなクスリを飲まされたの」

「クスリ……? あっ!」

 リアムは昨日の宴でビアンカに勧められたワインを思い出した。
 甘くて苦い――不思議な味のあの酒だ。

「あのね、あのクスリが、あの……セリーニャに古くから伝わる強力な媚薬らしくって」

「媚薬!?」

 リアムの顔がサッと青ざめる。
 そういえば、なぜか裸だ。
 それから同じベッドで横たわるミアの姿をあらためて見下ろした。

「俺、あんまり覚えてないんだけど。もしかしてミアに何か酷いことをしてしまったんじゃ……」

 リアムの顔がますます色を失くしていく。

「……リアムってば絶倫過ぎ。腰が痛くて動けないんだからね……」

 ミアは頬を赤らめると、シーツを頭の上まで引っ張りあげて顔を隠してしまった。

「うわあぁぁぁぁぁあっ!! ごめん、ミア! ごめん!」

 リアムは何度も何度もミアに頭を下げて謝った。

「もういいよ。もういいけど…………リアムのバカ」

 シーツから顔のうえ半分だけを出して恨みがましくミアが呟いた。
 そんなミアの様子を見て、リアムの青い顔がさっと朱に染まる。
 
 ――なんだ、いまの可愛い反応は!
 
 昨日の夜のことを覚えていないなんて……俺はものすごく損をしているのでは!?
 リアムは悔しさのあまり、頭を掻きむしった。

「ミア、ごめん。……俺のために」

 ブルーグレーの瞳に涙が込み上げる。

「ありがとう。大丈夫だ、任せてくれ。責任は取る」

 何かを決意したかのように重々しい口調で告げたリアムに、ミアは嫌な予感がしてシーツから這い出した。

「え? 責任って、なに……?」

「ミア、結婚しよう」

「は!? え、結婚……!?」

 嫌な予感が的中する。
 何故いきなりそんな話になるのか。
 話が飛び過ぎて、ついていけない!

「待って待って待って。リアムは名門の貴族なんだし、そんな自由に結婚相手を決めたりできないでしょう?」

 リアムを落ち着かせようと冷静に指摘してみたが、

「そんなくだらない慣習、変えてやる」

 謎の使命感に燃えているらしいリアムが拳を握りしめて、目を輝かせているではないか。

「ミア、一緒に変えよう。この国を」

「へ? ……んぅ、む!?」

 嬉しそうに笑ったリアムがチュっとミアの唇にキスをした。

「ちょっと! どさくさに紛れてナニやってんの!?」

「ん? 誓いのキスだよ。さぁこれから忙しくなるな。でも、俺ぜったい諦めないから! だからちょっとだけ待っててくれ」

「……はぁ」

 ミアは溜め息をついて、ぽすりと枕に顔をうずめた。
 なんかもうよくわからないけれど、リアムが正気を取り戻したみたいでよかった。……よかったんだよね、たぶん。と、ミアは自分に言い聞かせる。

 とりあえず眠かった。強烈に眠い。眠すぎて頭が正常に回らない。
 どうしてそんなに眠いのかって? 昨夜ひと晩中リアムに抱かれていたせいだよ!
 そんなわけで、希望に燃えるリアムを横目に、ミアはゆらゆらと夢の世界へと落ちていったのである。





 ――ちなみに。

 リアムが『経済的に困窮した貴族の救済案』に絡めて、「貴族と平民との結婚の自由」を認めさせてしまうのは、この数年後の話なのであった。


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