10 / 10
もういいよ。もういいけど……
しおりを挟む
*****
「……ん。どこだ、ここは?」
リアムが目を覚ますと、見覚えのない豪華な装飾が目に入った。
自分の部屋でないことは確かだ。
上半身を起こしたリアムがぐるりと周囲を見回すと、
「え……? ミア!?」
自分の隣ですっぽりと口元までシーツを被って横たわるミアの姿が目に入った。黙ったまま、それなのに何か言いたそうな目でリアムを見上げているではないか。
「ミア? え、どうしてここにいるんだ? ……というか、ここはどこだ?」
わけがわからない、といった様子で目を白黒させるリアムに、ミアが恨めしそうに声をかけた。
「……覚えてないの? 昨日のこと」
「昨日? たしか、夜会が開かれたんだったよな。ビアンカ様の発案で。そこでビアンカ様に……」
リアムは王女から部屋に来るよう誘われたことを思い出したが、さすがにミアの前で口にすることは憚られた。
「ごめん、あんまり思い出せないんだ。おかしいな、俺、そんなに酒には弱いほうじゃないのに」
「……あのね、リアムは昨日ビアンカ王女にへんなクスリを飲まされたの」
「クスリ……? あっ!」
リアムは昨日の宴でビアンカに勧められたワインを思い出した。
甘くて苦い――不思議な味のあの酒だ。
「あのね、あのクスリが、あの……セリーニャに古くから伝わる強力な媚薬らしくって」
「媚薬!?」
リアムの顔がサッと青ざめる。
そういえば、なぜか裸だ。
それから同じベッドで横たわるミアの姿をあらためて見下ろした。
「俺、あんまり覚えてないんだけど。もしかしてミアに何か酷いことをしてしまったんじゃ……」
リアムの顔がますます色を失くしていく。
「……リアムってば絶倫過ぎ。腰が痛くて動けないんだからね……」
ミアは頬を赤らめると、シーツを頭の上まで引っ張りあげて顔を隠してしまった。
「うわあぁぁぁぁぁあっ!! ごめん、ミア! ごめん!」
リアムは何度も何度もミアに頭を下げて謝った。
「もういいよ。もういいけど…………リアムのバカ」
シーツから顔のうえ半分だけを出して恨みがましくミアが呟いた。
そんなミアの様子を見て、リアムの青い顔がさっと朱に染まる。
――なんだ、いまの可愛い反応は!
昨日の夜のことを覚えていないなんて……俺はものすごく損をしているのでは!?
リアムは悔しさのあまり、頭を掻きむしった。
「ミア、ごめん。……俺のために」
ブルーグレーの瞳に涙が込み上げる。
「ありがとう。大丈夫だ、任せてくれ。責任は取る」
何かを決意したかのように重々しい口調で告げたリアムに、ミアは嫌な予感がしてシーツから這い出した。
「え? 責任って、なに……?」
「ミア、結婚しよう」
「は!? え、結婚……!?」
嫌な予感が的中する。
何故いきなりそんな話になるのか。
話が飛び過ぎて、ついていけない!
「待って待って待って。リアムは名門の貴族なんだし、そんな自由に結婚相手を決めたりできないでしょう?」
リアムを落ち着かせようと冷静に指摘してみたが、
「そんなくだらない慣習、変えてやる」
謎の使命感に燃えているらしいリアムが拳を握りしめて、目を輝かせているではないか。
「ミア、一緒に変えよう。この国を」
「へ? ……んぅ、む!?」
嬉しそうに笑ったリアムがチュっとミアの唇にキスをした。
「ちょっと! どさくさに紛れてナニやってんの!?」
「ん? 誓いのキスだよ。さぁこれから忙しくなるな。でも、俺ぜったい諦めないから! だからちょっとだけ待っててくれ」
「……はぁ」
ミアは溜め息をついて、ぽすりと枕に顔をうずめた。
なんかもうよくわからないけれど、リアムが正気を取り戻したみたいでよかった。……よかったんだよね、たぶん。と、ミアは自分に言い聞かせる。
とりあえず眠かった。強烈に眠い。眠すぎて頭が正常に回らない。
どうしてそんなに眠いのかって? 昨夜ひと晩中リアムに抱かれていたせいだよ!
そんなわけで、希望に燃えるリアムを横目に、ミアはゆらゆらと夢の世界へと落ちていったのである。
――ちなみに。
リアムが『経済的に困窮した貴族の救済案』に絡めて、「貴族と平民との結婚の自由」を認めさせてしまうのは、この数年後の話なのであった。
「……ん。どこだ、ここは?」
リアムが目を覚ますと、見覚えのない豪華な装飾が目に入った。
自分の部屋でないことは確かだ。
上半身を起こしたリアムがぐるりと周囲を見回すと、
「え……? ミア!?」
自分の隣ですっぽりと口元までシーツを被って横たわるミアの姿が目に入った。黙ったまま、それなのに何か言いたそうな目でリアムを見上げているではないか。
「ミア? え、どうしてここにいるんだ? ……というか、ここはどこだ?」
わけがわからない、といった様子で目を白黒させるリアムに、ミアが恨めしそうに声をかけた。
「……覚えてないの? 昨日のこと」
「昨日? たしか、夜会が開かれたんだったよな。ビアンカ様の発案で。そこでビアンカ様に……」
リアムは王女から部屋に来るよう誘われたことを思い出したが、さすがにミアの前で口にすることは憚られた。
「ごめん、あんまり思い出せないんだ。おかしいな、俺、そんなに酒には弱いほうじゃないのに」
「……あのね、リアムは昨日ビアンカ王女にへんなクスリを飲まされたの」
「クスリ……? あっ!」
リアムは昨日の宴でビアンカに勧められたワインを思い出した。
甘くて苦い――不思議な味のあの酒だ。
「あのね、あのクスリが、あの……セリーニャに古くから伝わる強力な媚薬らしくって」
「媚薬!?」
リアムの顔がサッと青ざめる。
そういえば、なぜか裸だ。
それから同じベッドで横たわるミアの姿をあらためて見下ろした。
「俺、あんまり覚えてないんだけど。もしかしてミアに何か酷いことをしてしまったんじゃ……」
リアムの顔がますます色を失くしていく。
「……リアムってば絶倫過ぎ。腰が痛くて動けないんだからね……」
ミアは頬を赤らめると、シーツを頭の上まで引っ張りあげて顔を隠してしまった。
「うわあぁぁぁぁぁあっ!! ごめん、ミア! ごめん!」
リアムは何度も何度もミアに頭を下げて謝った。
「もういいよ。もういいけど…………リアムのバカ」
シーツから顔のうえ半分だけを出して恨みがましくミアが呟いた。
そんなミアの様子を見て、リアムの青い顔がさっと朱に染まる。
――なんだ、いまの可愛い反応は!
昨日の夜のことを覚えていないなんて……俺はものすごく損をしているのでは!?
リアムは悔しさのあまり、頭を掻きむしった。
「ミア、ごめん。……俺のために」
ブルーグレーの瞳に涙が込み上げる。
「ありがとう。大丈夫だ、任せてくれ。責任は取る」
何かを決意したかのように重々しい口調で告げたリアムに、ミアは嫌な予感がしてシーツから這い出した。
「え? 責任って、なに……?」
「ミア、結婚しよう」
「は!? え、結婚……!?」
嫌な予感が的中する。
何故いきなりそんな話になるのか。
話が飛び過ぎて、ついていけない!
「待って待って待って。リアムは名門の貴族なんだし、そんな自由に結婚相手を決めたりできないでしょう?」
リアムを落ち着かせようと冷静に指摘してみたが、
「そんなくだらない慣習、変えてやる」
謎の使命感に燃えているらしいリアムが拳を握りしめて、目を輝かせているではないか。
「ミア、一緒に変えよう。この国を」
「へ? ……んぅ、む!?」
嬉しそうに笑ったリアムがチュっとミアの唇にキスをした。
「ちょっと! どさくさに紛れてナニやってんの!?」
「ん? 誓いのキスだよ。さぁこれから忙しくなるな。でも、俺ぜったい諦めないから! だからちょっとだけ待っててくれ」
「……はぁ」
ミアは溜め息をついて、ぽすりと枕に顔をうずめた。
なんかもうよくわからないけれど、リアムが正気を取り戻したみたいでよかった。……よかったんだよね、たぶん。と、ミアは自分に言い聞かせる。
とりあえず眠かった。強烈に眠い。眠すぎて頭が正常に回らない。
どうしてそんなに眠いのかって? 昨夜ひと晩中リアムに抱かれていたせいだよ!
そんなわけで、希望に燃えるリアムを横目に、ミアはゆらゆらと夢の世界へと落ちていったのである。
――ちなみに。
リアムが『経済的に困窮した貴族の救済案』に絡めて、「貴族と平民との結婚の自由」を認めさせてしまうのは、この数年後の話なのであった。
1
お気に入りに追加
189
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる