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もう…………我慢できない
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頭を下げるラウルを前に、ミアはなんと答えていいかわからず目を泳がせるしかない。
困った。非常に困った。
ミアの立場からすると、ラウルに頼まれたら断れない。断れない、でも……。
「あの、リアムを救ける、というのは、えーと……つまり、その、リアムと……」
はっきりと口にすることが躊躇われて、ミアはもじもじと言い淀んだ。顔が熱い。
「……わかった。これをあげよう」
ラウルが懐から小さな包みを取り出して、ミアの手に握らせる。
「なんですか、これ?」
ミアが手の中の包みに目を落としながら質問すると、
「避妊薬だ。事後に飲みなさい」
「ひっ……!? じご……!!?」
「いくら想い合っている二人でも、正式な婚姻の前に子供が出来るのはマズいからな」
ラウルは腕組みをしながら、うんうん、と頷く。
「すみません、いろいろと誤解があると思うのですが……」
なぜラウルはリアムとミアが付き合っていると思い込んでいるのか。
ミアは額に手を当てて眉をひそめた。
「ん? 誤解? なにが誤解なんだ。リアムは昔からミアのことが大好きだぞ。さっきもずっと『ミア、ミア……』って呪文のように唱えていて、いい加減うるさいと思っていたところだ」
「は!? え、あの、リアムが……私のことを……? え? は、はぁ!?」
ラウルの爆弾発言にミアが目を白黒させていると、ラウルは「じゃ、後はよろしく」とミアの肩を軽くたたいて部屋を出て行ってしまう。
「え? えぇぇ~!?」
――リアムが私のことを好き……? まさか。え、いつから?
ラウルの言葉を反芻して、ミアは頭を抱えた。
そういえば、学生時代からリアムはモテまくっていたけれど、その割に浮いた話を聞いたことはほとんどなかった気がする。てっきり女性には淡泊なのかと思いきや、そうでもないらしいことは最近の態度からも明らかだ。隙あらば触れてこようとするし。
「……って、あれ? リアムがやたらめったら触りたがるのって、もしかして私に対してだけ?」
ただの女好き、もしくは、ミアへの嫌がらせ(?)かと思っていたけれど、もしかしてあれはリアムからの求愛行動だったのか……?
「う~ん……!」
ミアが頭を抱えて唸っていると――、
「ミア……?」
ベッドに寝かしたはずのリアムがミアの後ろに立っていた。
「ギャっ!?」
頭の中を占領していた本人が現れて、ミアは思わず奇声を発してしまった。
「あ、リアム……。大丈夫なの? あの、体調は……」
なんとか外面を取り繕ったミアがリアムへ近寄ろうとしたところ、
「駄目だ! 来るな!」
「え?」
そっちが先に近づいてきたのに?
……とミアは思ったが、言わないでおく。
おそらく、リアムの体内であの怪しげなクスリの効果が出始めているのだ!
「俺、なんか……おかしいんだよ。お前が近くにいると、なにをするか、わからない。……だから、どっか行ってくれないか。俺の目に入らないところに……」
リアムが下を向いて呻くように言った。
「いや、あの、でも……」
ラウルに頭を下げて頼まれてしまったのだ。
それに……リアムには借りもある。
以前シモンに飲まされたクスリ。
もしかして、今回リアムが盛られた媚薬と同じものだったのではないか、とミアは考えていた。
シモンに襲われたミアを救けてくれたのはリアムだ。ミアは覚えていないけれど、その後で発情したミアを鎮めてくれたのも……リアムなのだ。
何でもできて、何もかも持っていて、ミアがどれだけ努力しても敵わない彼のことはずっと好きじゃなかった。
それでも、シモンやその仲間の知らない男たちに犯されることに比べれば遥かにマシだ。
――それに。
あの日リアムに抱いた感情は嫌悪感じゃなかった。むしろ「リアムでよかった」という謎の……安心感?
リアムのことは気に食わないけれど、あの時のお返しをするときが来たのかもしれない。
「……ミア、何してるんだ? はやく、出ていってくれよ……」
リアムが何かに耐えるように、ブルブルと身体を震わせている。
「リアム。あの、私、あの……リアムのためなら、」
もう……恥ずかしい!
まさか自分がリアムに対してこんなセリフを言う日が来るなんて、とミアは下を向いて頬を押さえた。リアムの顔がまともに見られない。
「ありがとう、ミア。でも……でも……駄目だっ! 早く出て行け! お願いだから……」
リアムが声を荒げた。
こんなに切羽詰まった声を出すリアムを見るのは初めてで、ミアは思わず顔を上げた。
リアムと目が合う。
いつもは落ち着いた印象を与えるブルーグレーの瞳が血走っているうえに、全身がガクガクと震えている。まるで飢えたオオカミだ。
尋常じゃないリアムの様子に、ミアの決意が揺らぐ。
このままではヤられる!
……いや、それは元から覚悟の上だけれど、それだけじゃなくて、ここでリアムと関係を持ってしまえば、もう今までと同じような気安い関係ではいられない気がするのだ。
完全に堕とされてしまう――それは確信に近い嫌な予感だった。
「リアム……。ごめんなさい!」
ミアは慌てて出口のドアへと向かった。
しかし、ドアノブに手をかけたところで――
「ウソ、開かない! まさか外から鍵を……!?」
何度か試してみても、頑丈な扉は一向に開く気配がない。
いったい誰がこんなことを? ……なんて考えるまでもない。ラウルだ。彼に決まっている。
「……ミア、まだいるのか? はやく、出て行ってくれよ……」
背後から懇願するようなリアムの声が聞こえる。
「私もそうしたいんだけど……」
「ドアが開かないのよ!」と叫ぼうとしてミアが振り返ると、すぐ目の前にリアムの顔があった。荒い呼吸がミアの頬を掠める。
「ミア……ごめん。おれ、もう…………我慢できない」
困った。非常に困った。
ミアの立場からすると、ラウルに頼まれたら断れない。断れない、でも……。
「あの、リアムを救ける、というのは、えーと……つまり、その、リアムと……」
はっきりと口にすることが躊躇われて、ミアはもじもじと言い淀んだ。顔が熱い。
「……わかった。これをあげよう」
ラウルが懐から小さな包みを取り出して、ミアの手に握らせる。
「なんですか、これ?」
ミアが手の中の包みに目を落としながら質問すると、
「避妊薬だ。事後に飲みなさい」
「ひっ……!? じご……!!?」
「いくら想い合っている二人でも、正式な婚姻の前に子供が出来るのはマズいからな」
ラウルは腕組みをしながら、うんうん、と頷く。
「すみません、いろいろと誤解があると思うのですが……」
なぜラウルはリアムとミアが付き合っていると思い込んでいるのか。
ミアは額に手を当てて眉をひそめた。
「ん? 誤解? なにが誤解なんだ。リアムは昔からミアのことが大好きだぞ。さっきもずっと『ミア、ミア……』って呪文のように唱えていて、いい加減うるさいと思っていたところだ」
「は!? え、あの、リアムが……私のことを……? え? は、はぁ!?」
ラウルの爆弾発言にミアが目を白黒させていると、ラウルは「じゃ、後はよろしく」とミアの肩を軽くたたいて部屋を出て行ってしまう。
「え? えぇぇ~!?」
――リアムが私のことを好き……? まさか。え、いつから?
ラウルの言葉を反芻して、ミアは頭を抱えた。
そういえば、学生時代からリアムはモテまくっていたけれど、その割に浮いた話を聞いたことはほとんどなかった気がする。てっきり女性には淡泊なのかと思いきや、そうでもないらしいことは最近の態度からも明らかだ。隙あらば触れてこようとするし。
「……って、あれ? リアムがやたらめったら触りたがるのって、もしかして私に対してだけ?」
ただの女好き、もしくは、ミアへの嫌がらせ(?)かと思っていたけれど、もしかしてあれはリアムからの求愛行動だったのか……?
「う~ん……!」
ミアが頭を抱えて唸っていると――、
「ミア……?」
ベッドに寝かしたはずのリアムがミアの後ろに立っていた。
「ギャっ!?」
頭の中を占領していた本人が現れて、ミアは思わず奇声を発してしまった。
「あ、リアム……。大丈夫なの? あの、体調は……」
なんとか外面を取り繕ったミアがリアムへ近寄ろうとしたところ、
「駄目だ! 来るな!」
「え?」
そっちが先に近づいてきたのに?
……とミアは思ったが、言わないでおく。
おそらく、リアムの体内であの怪しげなクスリの効果が出始めているのだ!
「俺、なんか……おかしいんだよ。お前が近くにいると、なにをするか、わからない。……だから、どっか行ってくれないか。俺の目に入らないところに……」
リアムが下を向いて呻くように言った。
「いや、あの、でも……」
ラウルに頭を下げて頼まれてしまったのだ。
それに……リアムには借りもある。
以前シモンに飲まされたクスリ。
もしかして、今回リアムが盛られた媚薬と同じものだったのではないか、とミアは考えていた。
シモンに襲われたミアを救けてくれたのはリアムだ。ミアは覚えていないけれど、その後で発情したミアを鎮めてくれたのも……リアムなのだ。
何でもできて、何もかも持っていて、ミアがどれだけ努力しても敵わない彼のことはずっと好きじゃなかった。
それでも、シモンやその仲間の知らない男たちに犯されることに比べれば遥かにマシだ。
――それに。
あの日リアムに抱いた感情は嫌悪感じゃなかった。むしろ「リアムでよかった」という謎の……安心感?
リアムのことは気に食わないけれど、あの時のお返しをするときが来たのかもしれない。
「……ミア、何してるんだ? はやく、出ていってくれよ……」
リアムが何かに耐えるように、ブルブルと身体を震わせている。
「リアム。あの、私、あの……リアムのためなら、」
もう……恥ずかしい!
まさか自分がリアムに対してこんなセリフを言う日が来るなんて、とミアは下を向いて頬を押さえた。リアムの顔がまともに見られない。
「ありがとう、ミア。でも……でも……駄目だっ! 早く出て行け! お願いだから……」
リアムが声を荒げた。
こんなに切羽詰まった声を出すリアムを見るのは初めてで、ミアは思わず顔を上げた。
リアムと目が合う。
いつもは落ち着いた印象を与えるブルーグレーの瞳が血走っているうえに、全身がガクガクと震えている。まるで飢えたオオカミだ。
尋常じゃないリアムの様子に、ミアの決意が揺らぐ。
このままではヤられる!
……いや、それは元から覚悟の上だけれど、それだけじゃなくて、ここでリアムと関係を持ってしまえば、もう今までと同じような気安い関係ではいられない気がするのだ。
完全に堕とされてしまう――それは確信に近い嫌な予感だった。
「リアム……。ごめんなさい!」
ミアは慌てて出口のドアへと向かった。
しかし、ドアノブに手をかけたところで――
「ウソ、開かない! まさか外から鍵を……!?」
何度か試してみても、頑丈な扉は一向に開く気配がない。
いったい誰がこんなことを? ……なんて考えるまでもない。ラウルだ。彼に決まっている。
「……ミア、まだいるのか? はやく、出て行ってくれよ……」
背後から懇願するようなリアムの声が聞こえる。
「私もそうしたいんだけど……」
「ドアが開かないのよ!」と叫ぼうとしてミアが振り返ると、すぐ目の前にリアムの顔があった。荒い呼吸がミアの頬を掠める。
「ミア……ごめん。おれ、もう…………我慢できない」
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