大嫌いなアイツが媚薬を盛られたらしいので、不本意ながらカラダを張って救けてあげます

スケキヨ

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例のクスリ……って、ナニ!?

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*****

「おや、ミアじゃないか。遅くまでお疲れ。今から帰るのか?」

 王宮の長い廊下を出口へと向かって歩いていたミアは呼び止めたのは、リアムの兄・ラウルだった。

「もう遅いし、官舎まで送っていくよ」

 ラウルは優しいなぁ、とミアは感激したものの、

「いえ、大丈夫です。すぐ近くですし」

 上官に手間をかけるわけにはいかないと辞退する。実際、ミアの住む官舎までは歩いてもそんなに時間はかからない。

「遠慮するなって。それに、ミアをひとりで帰して、もし何かあったら、俺がリアムに怒られるからな」

 ラウルはそう言うと、満面の笑顔で親指を立ててみせる。
 頼れる兄貴感に溢れたラウルのその仕草を見て、ミアは小さく溜め息をついた。
 あぶないあぶない。
 危うく不毛な勘違いをするところだった。
 ラウルにとって何より大切なのは最愛の弟・リアムである。ミアは弟の同級生、単なる「おまけ」に過ぎない。

「さぁ、行くぞ」

「……ありがとうございます」

 ミアはもう大人しくラウルの強引な優しさに甘えさせてもらうことにした。
 きゅっと引き締まった筋肉を纏ったラウルは、たしか体術にも長けていたはずだ。どんな不審なやからに遭遇したとしても、きっと一発でぶっ飛ばしてくれるに違いない。
 リアムよりも肩幅の広いラウルの背中を見つめながらミアが彼の一歩うしろを歩いていると、庭に面した渡り廊下に差し掛かったあたりで、

「それにしてもビアンカ様の男好きも大概にしてほしいもんですね」

 セリーニャ語の会話が聞こえてきた。
 ラウルの耳にも入ったのか、ふと立ち止まると、声の主を探すようにきょろきょろと首を振った。
 ミアも同じように声が聞こえてきた方を向いて目を凝らすと、庭の木陰からうっすらと白い煙が立ちのぼっている。おそらく主の目を盗んで煙草でも吸っているのだろう。
 ミアはぽんぽん、とラウルの肩を叩くと、黙ったまま煙の見える方向を指差して、セリーニャ人たちの居所を知らせた。

「国内の男ならまだしも、よその国の男にまで手を出すなんて。相手はそれなりの地位にある方なんだろう? まったく、あとで揉めごとにでもなったらどうするんだ」

 会話の主はふたり。どちらも若い男のようだった。ビアンカの連れてきた従者だろうが、主人の悪口とはいただけない。

「また例のクスリを使うのか?」

「あぁ。さっきの宴にウーゴさんが持って行ったよ」

「それはお気の毒……いや、羨ましいことだね。誰か知らないが、あのビアンカ様に目を付けられたとなると、今夜は精液が枯れるまで搾り取られるんじゃないか?」

「ハハハ、それはそれは……羨ましいこった!」

 セリーニャ人たちの下卑た笑い声が夜の庭に響いた。

 ――なに、今の会話……?

 ミアとラウルは無言で顔を見合わせた。
 ラウルの眉間に深い皴が寄っている。ミアも同じように眉をひそめる。

 ……って、ナニ!?

 不穏な企みを察知したラウルの行動は早かった。
 音も立てずにセリーニャ人たちの背後に回り込むと、一人の男の腕を掴んで後ろ手に捻り上げた。

「……っ!?」

 腕を取られた男が苦しそうに息を吐く。

「なんだ、お前……!?」

 もう一人の男が煙草を捨ててラウルに殴りかかってくる。お世辞にもキレがいいとは言えない身のこなしの攻撃をラウルは簡単に避けてみせると、片手だけで素早く相手の鳩尾へと突きを食らわした。

「うっ……!」

 男が腹を抱えてうずくまった。
 ラウルは呻く男たちに向かってニッコリと笑いかけると、流暢なセリーニャ語で慇懃に語り掛けた。

「手荒なマネをしてしまって申し訳ございません、セリーニャの客人たち。なんだか物騒な話が聞こえてきて、じっとしていられなかったんですよ。すみませんが先ほどのお話……詳しくお聞かせいただけますか?」


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