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センタク
センタク②
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「ぅ……うっ…………く……」
藍原が痙攣したように体を大きく震わせた。
俺の手の中で、びくびくと脈打った奴の一物から、白い精が大量に噴出した。しばらく放出を続けた後、藍原の体が大きく、びくん、と飛び跳ねて、やがて電池が切れたように忽然と動きを止めた。
「おい……藍原……大丈夫か……?」
探るようにその目を覗き込んでみたが、固く閉じられている。
「……息はあるか?」
頭上から梢江先生の低い声が降ってくる。
「診てみよう」
楠ノ瀬の婆さんが力なく投げ出された藍原の手首を取った。険しい表情で脈を探す。
「……大丈夫、気絶しているだけだ」
「よかった……」
その場にいた人間が全員ほっとしたように息をついた。
婆さんは藍原の手首を離すと、今度は固く閉ざされた目蓋に指を当てた。親指と人差し指でゆっくりとこじ開けていく。
「……よし、こちらも大丈夫だ。黒に戻っておる」
「それって、神様が離れたってことだよな?」
俺が確認するように祖父さんに水を向けると、
「そうだ」
祖父さんが大きく頷いてみせた。
「さぁ、早く山を下りましょう! 彼は僕が背負いますから……」
梢江先生が俺たちを急かした。
そうだった。藍原朔夜の自我を取り戻すことはできたけど、まだ問題は解決していない。山の木々を焦がす火は、その勢いを増している。
俺たちは火を避けながら、なるべく急いで石段を下りようとした。藍原をおぶった梢江先生を先頭に、祖父さんが後ろから藍原の背を支えるように続いた。その後を楠ノ瀬と婆さんが寄り添うようについていく。俺は最後尾でみんなの背中を追った。
「あぁぁ……っ!」
突然山の中を吹き抜いた一陣の風が、炎を揺らす。風に煽られた火が俺の頬を撫でた。
「熱っ……!」
俺は思わず立ち止まって頬を押さえた。前を行く楠ノ瀬たちとの距離が広がっていく。
「高遠くん、大丈夫!?」
振り返った楠ノ瀬が、心配そうに俺を呼んだ。
「ぅ……大丈夫だ…………急いでそっちへ行くから……」
俺が何とか返事をすると――
「きゃあぁぁぁ……っ! 高遠くん、危ない……!!」
楠ノ瀬の悲鳴が、山の中に鳴り響いた。
「え…………」
彼女の視線を追って上を見ると、
「うわぁあぁあぁぁぁ…………っ!!」
俺とみんなを分断するかのように、根元からぼっきりと折れた大木が、俺の目の前に凄まじい音を立てて倒れてきた。
「痛っ……!」
地面に叩きつけられた拍子に折れた枝や朽ちた葉っぱが飛んできて、俺の体に無数の細かい傷を刻む。
たらりと頬に垂れた血を舐めとると、血の味よりも何よりも――その熱さに違和感を覚える。
身近に迫る炎のせいか、それとも怪我のせいなのか、やけに体が熱い。
ドク……ン――
嘘だろう?
体が、血が……熱い。
『理森』
――あの『声』が、俺を呼んだ。
藍原ではなく、俺の名前を……。
藍原が痙攣したように体を大きく震わせた。
俺の手の中で、びくびくと脈打った奴の一物から、白い精が大量に噴出した。しばらく放出を続けた後、藍原の体が大きく、びくん、と飛び跳ねて、やがて電池が切れたように忽然と動きを止めた。
「おい……藍原……大丈夫か……?」
探るようにその目を覗き込んでみたが、固く閉じられている。
「……息はあるか?」
頭上から梢江先生の低い声が降ってくる。
「診てみよう」
楠ノ瀬の婆さんが力なく投げ出された藍原の手首を取った。険しい表情で脈を探す。
「……大丈夫、気絶しているだけだ」
「よかった……」
その場にいた人間が全員ほっとしたように息をついた。
婆さんは藍原の手首を離すと、今度は固く閉ざされた目蓋に指を当てた。親指と人差し指でゆっくりとこじ開けていく。
「……よし、こちらも大丈夫だ。黒に戻っておる」
「それって、神様が離れたってことだよな?」
俺が確認するように祖父さんに水を向けると、
「そうだ」
祖父さんが大きく頷いてみせた。
「さぁ、早く山を下りましょう! 彼は僕が背負いますから……」
梢江先生が俺たちを急かした。
そうだった。藍原朔夜の自我を取り戻すことはできたけど、まだ問題は解決していない。山の木々を焦がす火は、その勢いを増している。
俺たちは火を避けながら、なるべく急いで石段を下りようとした。藍原をおぶった梢江先生を先頭に、祖父さんが後ろから藍原の背を支えるように続いた。その後を楠ノ瀬と婆さんが寄り添うようについていく。俺は最後尾でみんなの背中を追った。
「あぁぁ……っ!」
突然山の中を吹き抜いた一陣の風が、炎を揺らす。風に煽られた火が俺の頬を撫でた。
「熱っ……!」
俺は思わず立ち止まって頬を押さえた。前を行く楠ノ瀬たちとの距離が広がっていく。
「高遠くん、大丈夫!?」
振り返った楠ノ瀬が、心配そうに俺を呼んだ。
「ぅ……大丈夫だ…………急いでそっちへ行くから……」
俺が何とか返事をすると――
「きゃあぁぁぁ……っ! 高遠くん、危ない……!!」
楠ノ瀬の悲鳴が、山の中に鳴り響いた。
「え…………」
彼女の視線を追って上を見ると、
「うわぁあぁあぁぁぁ…………っ!!」
俺とみんなを分断するかのように、根元からぼっきりと折れた大木が、俺の目の前に凄まじい音を立てて倒れてきた。
「痛っ……!」
地面に叩きつけられた拍子に折れた枝や朽ちた葉っぱが飛んできて、俺の体に無数の細かい傷を刻む。
たらりと頬に垂れた血を舐めとると、血の味よりも何よりも――その熱さに違和感を覚える。
身近に迫る炎のせいか、それとも怪我のせいなのか、やけに体が熱い。
ドク……ン――
嘘だろう?
体が、血が……熱い。
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――あの『声』が、俺を呼んだ。
藍原ではなく、俺の名前を……。
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