禁じられた逢瀬

スケキヨ

文字の大きさ
上 下
93 / 100
閃光

閃光③

しおりを挟む
「すごい! あれが神様の力?」
「いや、でも……あの少年は誰なんだ……?」
「もう誰だっていいじゃないか。さっきのあれ、見ただろ?」
「あの青い目が全てだよ。彼が高遠たかとおの跡取りで間違いない」
「えぇ、えぇ……有難いものを見せてもらったねぇ……」

 町の人たちの雑多な囁きが大きな波となって押し寄せた。

 今、目の前に突きつけられた神の力を純粋に讃える者。
 突然現れた藍原あいはらの存在を不思議がる者。
 青い目の力に魅入られ、ひれ伏す者。

 そして――

「じゃあ、理森よしもりくんはどうなるんだ?」

 俺の後継者としての資質に、疑念を抱く者――。

 みんなの関心が俺から離れていくのがわかった。

「わぁぁぁあああああ……っ!!」
 
 あいつを讃える歓声がいっそう大きくなる。この場を包む熱が高まっていく。
 俺は目を閉じた。耳も塞いでしまいたかったが、倒れ込んだ祖父じいさんの背から手を離すことはできなかった。

「……でも、彼のことを高遠さんは認めていないんだろう?」

 平静を保っていた誰かが声を上げた。さっきの町会議員だ。
 耳聡みみざとくその声を聞きつけた藍原が、声の主に向けて青い目を向ける。

「高遠の現当主が認めていないなら、彼はまだ……」

 言いかけた彼の言葉はそこで途切れた。

「きゃあぁぁぁあああああ…………っ!!」

 歓声が悲鳴に変わる。

 いつのまにか空を覆っていた黒雲から鋭い光の柱が一閃し、神社の周囲に広がる山林目掛けて一直線に落ちていく。

 町会議員のすぐ脇にあった大木が突然の落雷によって根幹から真っ二つに折れた。ごう……と音を立てて人々の頭上へと降りかかってくる。

「うぁ……逃げろぉぉおおお…………っ!!」

 藍原に目を奪われていた人々が一斉に踵を返して石段を駆け下りていく。
 元々広くない石段にひしめいていた人々の中には足を取られて転倒する者もいた。

「危ない……火が上がっとるぞ!」

 事の成り行きを見守っていた楠ノ瀬くすのせの婆さんが声を荒げた。

 落雷で折れた木が火柱に包まれている。
 乾燥した山の空気に煽られ、凄まじい勢いで火の海が広がっていく。

「いかん……彼奴あやつを止めないと……」

 祖父さんが目の前の惨状を見つめながら呟いた。

「あれ……藍原がやったのか!?」

 俺が驚いて問いただすと、

「あぁ多分……。ただし、もう朔夜さくや自身の意識があるかどうかがわからんのだ……」

 祖父さんの額に大粒の汗が滲んでいる。

「理森……お前にも心当たりがないか? 神はわしらの前にとてつもなく大きな力をお示しになる。儂らはさながら人参を目の前にぶらさげられた馬みたいなもんだ……しかし、その人参に飛びついてはいかん。神の誘惑に打ち勝って、その力を拒絶せねばならんのだ」

 俺は徳堂とくどう直之なおしが怪我をした……あの夜を思い出した。

 ――『お前は、何を望む?』

 あの時。
 頭の中で鳴り響いていた『声』は、俺にそう問いかけた。
 俺はそのまま自分にとって邪魔な人間を排除することもできたのだ。

 だけど――それは許されない。
 自分の望むままに神の力を使うことは許されないし、もし自分の都合だけを優先させたならば……その時こそ、自分が奪われてしまうのだろうと思う。

 あれは試金石しきんせきだ。
 神は俺を……自分の憑代よりしろに足る『うつわ』であるかどうか試したんだ。

 そして今――神は、藍原朔夜を試している。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...