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閃光
閃光③
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「すごい! あれが神様の力?」
「いや、でも……あの少年は誰なんだ……?」
「もう誰だっていいじゃないか。さっきのあれ、見ただろ?」
「あの青い目が全てだよ。彼が高遠の跡取りで間違いない」
「えぇ、えぇ……有難いものを見せてもらったねぇ……」
町の人たちの雑多な囁きが大きな波となって押し寄せた。
今、目の前に突きつけられた神の力を純粋に讃える者。
突然現れた藍原の存在を不思議がる者。
青い目の力に魅入られ、ひれ伏す者。
そして――
「じゃあ、理森くんはどうなるんだ?」
俺の後継者としての資質に、疑念を抱く者――。
みんなの関心が俺から離れていくのがわかった。
「わぁぁぁあああああ……っ!!」
あいつを讃える歓声がいっそう大きくなる。この場を包む熱が高まっていく。
俺は目を閉じた。耳も塞いでしまいたかったが、倒れ込んだ祖父さんの背から手を離すことはできなかった。
「……でも、彼のことを高遠さんは認めていないんだろう?」
平静を保っていた誰かが声を上げた。さっきの町会議員だ。
耳聡くその声を聞きつけた藍原が、声の主に向けて青い目を向ける。
「高遠の現当主が認めていないなら、彼はまだ……」
言いかけた彼の言葉はそこで途切れた。
「きゃあぁぁぁあああああ…………っ!!」
歓声が悲鳴に変わる。
いつのまにか空を覆っていた黒雲から鋭い光の柱が一閃し、神社の周囲に広がる山林目掛けて一直線に落ちていく。
町会議員のすぐ脇にあった大木が突然の落雷によって根幹から真っ二つに折れた。轟……と音を立てて人々の頭上へと降りかかってくる。
「うぁ……逃げろぉぉおおお…………っ!!」
藍原に目を奪われていた人々が一斉に踵を返して石段を駆け下りていく。
元々広くない石段にひしめいていた人々の中には足を取られて転倒する者もいた。
「危ない……火が上がっとるぞ!」
事の成り行きを見守っていた楠ノ瀬の婆さんが声を荒げた。
落雷で折れた木が火柱に包まれている。
乾燥した山の空気に煽られ、凄まじい勢いで火の海が広がっていく。
「いかん……彼奴を止めないと……」
祖父さんが目の前の惨状を見つめながら呟いた。
「あれ……藍原がやったのか!?」
俺が驚いて問いただすと、
「あぁ多分……。ただし、もう朔夜自身の意識があるかどうかがわからんのだ……」
祖父さんの額に大粒の汗が滲んでいる。
「理森……お前にも心当たりがないか? 神は儂らの前にとてつもなく大きな力をお示しになる。儂らはさながら人参を目の前にぶらさげられた馬みたいなもんだ……しかし、その人参に飛びついてはいかん。神の誘惑に打ち勝って、その力を拒絶せねばならんのだ」
俺は徳堂直之が怪我をした……あの夜を思い出した。
――『お前は、何を望む?』
あの時。
頭の中で鳴り響いていた『声』は、俺にそう問いかけた。
俺はそのまま自分にとって邪魔な人間を排除することもできたのだ。
だけど――それは許されない。
自分の望むままに神の力を使うことは許されないし、もし自分の都合だけを優先させたならば……その時こそ、自分が奪われてしまうのだろうと思う。
あれは試金石だ。
神は俺を……自分の憑代に足る『器』であるかどうか試したんだ。
そして今――神は、藍原朔夜を試している。
「いや、でも……あの少年は誰なんだ……?」
「もう誰だっていいじゃないか。さっきのあれ、見ただろ?」
「あの青い目が全てだよ。彼が高遠の跡取りで間違いない」
「えぇ、えぇ……有難いものを見せてもらったねぇ……」
町の人たちの雑多な囁きが大きな波となって押し寄せた。
今、目の前に突きつけられた神の力を純粋に讃える者。
突然現れた藍原の存在を不思議がる者。
青い目の力に魅入られ、ひれ伏す者。
そして――
「じゃあ、理森くんはどうなるんだ?」
俺の後継者としての資質に、疑念を抱く者――。
みんなの関心が俺から離れていくのがわかった。
「わぁぁぁあああああ……っ!!」
あいつを讃える歓声がいっそう大きくなる。この場を包む熱が高まっていく。
俺は目を閉じた。耳も塞いでしまいたかったが、倒れ込んだ祖父さんの背から手を離すことはできなかった。
「……でも、彼のことを高遠さんは認めていないんだろう?」
平静を保っていた誰かが声を上げた。さっきの町会議員だ。
耳聡くその声を聞きつけた藍原が、声の主に向けて青い目を向ける。
「高遠の現当主が認めていないなら、彼はまだ……」
言いかけた彼の言葉はそこで途切れた。
「きゃあぁぁぁあああああ…………っ!!」
歓声が悲鳴に変わる。
いつのまにか空を覆っていた黒雲から鋭い光の柱が一閃し、神社の周囲に広がる山林目掛けて一直線に落ちていく。
町会議員のすぐ脇にあった大木が突然の落雷によって根幹から真っ二つに折れた。轟……と音を立てて人々の頭上へと降りかかってくる。
「うぁ……逃げろぉぉおおお…………っ!!」
藍原に目を奪われていた人々が一斉に踵を返して石段を駆け下りていく。
元々広くない石段にひしめいていた人々の中には足を取られて転倒する者もいた。
「危ない……火が上がっとるぞ!」
事の成り行きを見守っていた楠ノ瀬の婆さんが声を荒げた。
落雷で折れた木が火柱に包まれている。
乾燥した山の空気に煽られ、凄まじい勢いで火の海が広がっていく。
「いかん……彼奴を止めないと……」
祖父さんが目の前の惨状を見つめながら呟いた。
「あれ……藍原がやったのか!?」
俺が驚いて問いただすと、
「あぁ多分……。ただし、もう朔夜自身の意識があるかどうかがわからんのだ……」
祖父さんの額に大粒の汗が滲んでいる。
「理森……お前にも心当たりがないか? 神は儂らの前にとてつもなく大きな力をお示しになる。儂らはさながら人参を目の前にぶらさげられた馬みたいなもんだ……しかし、その人参に飛びついてはいかん。神の誘惑に打ち勝って、その力を拒絶せねばならんのだ」
俺は徳堂直之が怪我をした……あの夜を思い出した。
――『お前は、何を望む?』
あの時。
頭の中で鳴り響いていた『声』は、俺にそう問いかけた。
俺はそのまま自分にとって邪魔な人間を排除することもできたのだ。
だけど――それは許されない。
自分の望むままに神の力を使うことは許されないし、もし自分の都合だけを優先させたならば……その時こそ、自分が奪われてしまうのだろうと思う。
あれは試金石だ。
神は俺を……自分の憑代に足る『器』であるかどうか試したんだ。
そして今――神は、藍原朔夜を試している。
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