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閃光
閃光②
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「お前……まさか……っ」
藍原のぞんざいな態度に、祖父さんが息を呑んだのがわかった。
「邪魔だ」
藍原は祖父さんを睨みつけながら、低い声で囁いた。抑揚のないその口調からは、何を考えているのか全く読み取れない。
「いかん! このままでは……」
珍しく慌てふためいた祖父さんが藍原の腕を掴んで自分の方へと引き寄せた。
「……邪魔だ、と言っている」
藍原が掴まれた腕を振り上げて、祖父さんの手を乱暴に振り払った。
地を這うような声で一喝した藍原の目が青く酷薄な光を放つ。
バランスを崩した祖父さんの体が大きくよろめいた。。
「高遠さん……!」
舞台上で尻もちをついた祖父さんを案じて町の人たちから声が上がる。
俺も急いで舞台の上へと戻り、祖父さんの背中に手を添えた。
「祖父さん、大丈夫か……!?」
「理森……まずい、彼奴を止めてくれ……」
祖父さんは藍原の後ろ姿を凝視したまま、声を震わせた。
声だけじゃない。全身がガクガクと大きく震えている。
「祖父さん……どうした?」
こんなに動揺した祖父さんを見たのは初めてだ。
何事にも動じない巌のような祖父さんが、まるで魂でも抜かれたように顔色をなくしている。
「……っていかれる……」
祖父さんがわなわなと唇を震わせて呟いた。皺だらけの乾いた唇は真っ白だ。
「何だ? 今、何て言った?」
祖父さんの言を聞き取れなかった俺が聞き返すと、
「持っていかれる……このままでは、彼奴の自我が奪われてしまう……」
「え……」
「今、あの肉体の主は朔夜ではない。奪われているのだ……神に」
「っ……まさか!」
俺は藍原の背中を見上げた。
中天へと向かって高度を上げる太陽の光が、あいつの体に降り注いでいる。
「……藍原っ!」
陽の光に照らされて白く霞んだ藍原朔夜の背中に向かって、名前を呼んだ。
「藍原! 藍原……っ!!」
何度も何度も奴の名前を呼んだ。
集まった人々の喧騒にかき消されないように声を張り上げる。
しかし――
藍原が振り返ることはない。
「藍原! 藍原っ! …………くそっ!」
藍原自身の自我を繋ぎとめるために、俺はあいつの名前を呼び続けた。
今、あいつの頭の中では神の「声」がひたすら鳴り響いているはずなのに。
奴の落ち着きはらった様子からは、もう抗うことすら忘れてしまったように見える……。
石段に群がる人々を見下ろした藍原が、おもむろに右手を振りかざした。
その瞬間――山の清澄な空気を切り裂くように、ひと筋の青い閃光が町の人たちの頭上を貫いた。
「わぁぁあああ……っ!!」
その光に魅入られた群衆の間から、盛大な歓声が湧き上がった。
藍原のぞんざいな態度に、祖父さんが息を呑んだのがわかった。
「邪魔だ」
藍原は祖父さんを睨みつけながら、低い声で囁いた。抑揚のないその口調からは、何を考えているのか全く読み取れない。
「いかん! このままでは……」
珍しく慌てふためいた祖父さんが藍原の腕を掴んで自分の方へと引き寄せた。
「……邪魔だ、と言っている」
藍原が掴まれた腕を振り上げて、祖父さんの手を乱暴に振り払った。
地を這うような声で一喝した藍原の目が青く酷薄な光を放つ。
バランスを崩した祖父さんの体が大きくよろめいた。。
「高遠さん……!」
舞台上で尻もちをついた祖父さんを案じて町の人たちから声が上がる。
俺も急いで舞台の上へと戻り、祖父さんの背中に手を添えた。
「祖父さん、大丈夫か……!?」
「理森……まずい、彼奴を止めてくれ……」
祖父さんは藍原の後ろ姿を凝視したまま、声を震わせた。
声だけじゃない。全身がガクガクと大きく震えている。
「祖父さん……どうした?」
こんなに動揺した祖父さんを見たのは初めてだ。
何事にも動じない巌のような祖父さんが、まるで魂でも抜かれたように顔色をなくしている。
「……っていかれる……」
祖父さんがわなわなと唇を震わせて呟いた。皺だらけの乾いた唇は真っ白だ。
「何だ? 今、何て言った?」
祖父さんの言を聞き取れなかった俺が聞き返すと、
「持っていかれる……このままでは、彼奴の自我が奪われてしまう……」
「え……」
「今、あの肉体の主は朔夜ではない。奪われているのだ……神に」
「っ……まさか!」
俺は藍原の背中を見上げた。
中天へと向かって高度を上げる太陽の光が、あいつの体に降り注いでいる。
「……藍原っ!」
陽の光に照らされて白く霞んだ藍原朔夜の背中に向かって、名前を呼んだ。
「藍原! 藍原……っ!!」
何度も何度も奴の名前を呼んだ。
集まった人々の喧騒にかき消されないように声を張り上げる。
しかし――
藍原が振り返ることはない。
「藍原! 藍原っ! …………くそっ!」
藍原自身の自我を繋ぎとめるために、俺はあいつの名前を呼び続けた。
今、あいつの頭の中では神の「声」がひたすら鳴り響いているはずなのに。
奴の落ち着きはらった様子からは、もう抗うことすら忘れてしまったように見える……。
石段に群がる人々を見下ろした藍原が、おもむろに右手を振りかざした。
その瞬間――山の清澄な空気を切り裂くように、ひと筋の青い閃光が町の人たちの頭上を貫いた。
「わぁぁあああ……っ!!」
その光に魅入られた群衆の間から、盛大な歓声が湧き上がった。
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