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開眼
開眼②
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*****
婆さんの奉唱によって意識を失った藍原は、すぐに山の中腹にある楠ノ瀬の家へと運び込まれた。
今、あいつは楠ノ瀬家のあの和室に寝かされている。
――俺が初めて神様に魅入られたときと同じように。
祖父さんたちは楠ノ瀬家の客間に通された。
今ごろ、楠ノ瀬の婆さんに事情を説明しているだろう。藍原朔夜が何者なのかを……。
俺はひとり庭に出て、月を見ていた。
月はいつの間にか高く高く昇り、中天から素っ気ない光を放っていた。
「高遠くん」
か細い声が、夜の庭に密やかに響いた。
「楠ノ瀬……」
物陰から人目を忍ぶように、楠ノ瀬が姿を現した。
――赤い襦袢に身を包んだ楠ノ瀬が……。
「私、これからあの人に『治療』しないといけないの……」
気まずそうに下を向いた楠ノ瀬が、俺を見ないで言った。
「…………」
俺は何と言っていいかわからなかった。
「よろしく」とか「迷惑かけてごめん」とか……?
高遠家の人間が世話になるんだから、言わなきゃいけないことはあるはずだ。
なのに……。
「……ごめん、」
口を開いたのは楠ノ瀬のほうだった。
――あぁ、彼女に先に謝らせてしまった……。
楠ノ瀬がふらっと体を揺らして、俺に抱きついてきた。
俺の背中に腕を回して、しがみつくように俺の上衣をぎゅっと握った。
「……高遠くんも。ぎゅっ……として」
俺の胸に顔を伏せたまま、楠ノ瀬が涙声で囁いた。
長い睫毛がふるふると震えている。
俺は彼女の細い体を抱きしめようと両手を持ち上げて……上げた手が空中で止まった。
「……ごめん、やっぱり嫌だよね。こんな女」
いつまで経っても反応しない俺に、楠ノ瀬が昏い声で呟く。
「っ……そんなわけ、ないだろ……」
泣きそうになった。
俺はしょうもない嫉妬や拘りを忘れて、楠ノ瀬の体をぎゅうぎゅうと強く抱きしめた。
華奢な体が、俺の腕の中で撓った。
――「お前は選ばれたんだ」
――「もし僕が『開眼』したら……」
かつて祖父さんや藍原に言われた言葉が脳裏をよぎる。
なんで藍原も開眼したんだ!?
選ばれたのは俺じゃ……俺だけじゃないのか……!?
傲慢かもしれない考えが、俺の頭の中を吹き荒れていた。
しかも、これから楠ノ瀬はあいつと関係を持つんだ……。
「っ……!」
俺は楠ノ瀬の肩を強く掴んで、乱暴に口づけた。
「ん……っ!」
彼女の紅い唇を無理矢理にこじ開けて舌を差し入れる。
喉の奥に引っ込んだ彼女の舌に自分のそれを強引に絡めた。
「んん……はぁ……っ」
いきなりのことに戸惑っていた楠ノ瀬が、鼻にかかったような甘い声を漏らして俺の性急な動きに応えてくれる。
寒空に熱を持った白い息が溶けていく。
思うさま彼女の口の中を蹂躙した俺は唇を離して頭を下げた。
首筋を伝って、豊かに盛り上がった胸元へと唇を寄せる。
そこは襦袢の布地越しからでもわかるくらい固く勃ちあがっていた。
「あぁ……んっ」
襦袢の生地ごと口の中に含むと、楠ノ瀬の濡れた唇から声が漏れた。
しばらく舌の先で転がしたり突いたりしていると、楠ノ瀬の白い肌が赤く染まっていくのがわかった。
俺は襦袢の襟元を開いて彼女の上気した肌を晒し、胸の中心近くを思い切り吸い上げた。
「あぁぁ……っ……んん」
楠ノ瀬が一際高い声を上げる。
俺は彼女の白い肌にくっきりと残った赤い痕に満足して、そこをぺろりと舐め上げた。
婆さんの奉唱によって意識を失った藍原は、すぐに山の中腹にある楠ノ瀬の家へと運び込まれた。
今、あいつは楠ノ瀬家のあの和室に寝かされている。
――俺が初めて神様に魅入られたときと同じように。
祖父さんたちは楠ノ瀬家の客間に通された。
今ごろ、楠ノ瀬の婆さんに事情を説明しているだろう。藍原朔夜が何者なのかを……。
俺はひとり庭に出て、月を見ていた。
月はいつの間にか高く高く昇り、中天から素っ気ない光を放っていた。
「高遠くん」
か細い声が、夜の庭に密やかに響いた。
「楠ノ瀬……」
物陰から人目を忍ぶように、楠ノ瀬が姿を現した。
――赤い襦袢に身を包んだ楠ノ瀬が……。
「私、これからあの人に『治療』しないといけないの……」
気まずそうに下を向いた楠ノ瀬が、俺を見ないで言った。
「…………」
俺は何と言っていいかわからなかった。
「よろしく」とか「迷惑かけてごめん」とか……?
高遠家の人間が世話になるんだから、言わなきゃいけないことはあるはずだ。
なのに……。
「……ごめん、」
口を開いたのは楠ノ瀬のほうだった。
――あぁ、彼女に先に謝らせてしまった……。
楠ノ瀬がふらっと体を揺らして、俺に抱きついてきた。
俺の背中に腕を回して、しがみつくように俺の上衣をぎゅっと握った。
「……高遠くんも。ぎゅっ……として」
俺の胸に顔を伏せたまま、楠ノ瀬が涙声で囁いた。
長い睫毛がふるふると震えている。
俺は彼女の細い体を抱きしめようと両手を持ち上げて……上げた手が空中で止まった。
「……ごめん、やっぱり嫌だよね。こんな女」
いつまで経っても反応しない俺に、楠ノ瀬が昏い声で呟く。
「っ……そんなわけ、ないだろ……」
泣きそうになった。
俺はしょうもない嫉妬や拘りを忘れて、楠ノ瀬の体をぎゅうぎゅうと強く抱きしめた。
華奢な体が、俺の腕の中で撓った。
――「お前は選ばれたんだ」
――「もし僕が『開眼』したら……」
かつて祖父さんや藍原に言われた言葉が脳裏をよぎる。
なんで藍原も開眼したんだ!?
選ばれたのは俺じゃ……俺だけじゃないのか……!?
傲慢かもしれない考えが、俺の頭の中を吹き荒れていた。
しかも、これから楠ノ瀬はあいつと関係を持つんだ……。
「っ……!」
俺は楠ノ瀬の肩を強く掴んで、乱暴に口づけた。
「ん……っ!」
彼女の紅い唇を無理矢理にこじ開けて舌を差し入れる。
喉の奥に引っ込んだ彼女の舌に自分のそれを強引に絡めた。
「んん……はぁ……っ」
いきなりのことに戸惑っていた楠ノ瀬が、鼻にかかったような甘い声を漏らして俺の性急な動きに応えてくれる。
寒空に熱を持った白い息が溶けていく。
思うさま彼女の口の中を蹂躙した俺は唇を離して頭を下げた。
首筋を伝って、豊かに盛り上がった胸元へと唇を寄せる。
そこは襦袢の布地越しからでもわかるくらい固く勃ちあがっていた。
「あぁ……んっ」
襦袢の生地ごと口の中に含むと、楠ノ瀬の濡れた唇から声が漏れた。
しばらく舌の先で転がしたり突いたりしていると、楠ノ瀬の白い肌が赤く染まっていくのがわかった。
俺は襦袢の襟元を開いて彼女の上気した肌を晒し、胸の中心近くを思い切り吸い上げた。
「あぁぁ……っ……んん」
楠ノ瀬が一際高い声を上げる。
俺は彼女の白い肌にくっきりと残った赤い痕に満足して、そこをぺろりと舐め上げた。
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