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正体
正体①
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あやちゃんの必死の形相に気圧されて、俺は彼女の言う通り、応答ボタンを押した。
「……もしもし、」
知らない相手からの電話は緊張する。案の定、俺の声はみっともなく掠れてしまった。
『あ……理森くん? よかったぁ。ちゃんと出てくれて』
返ってきたのは、やけに明るく、馴れ馴れしい男の声だった。
――馴れ馴れしい?
この声と喋り方、そして……そこから受ける印象……。
俺はゴクリと唾を飲み込んで、電話越しの相手に問いかけた。
「……あんたは、誰なんだ?」
俺がずっと気になっていたあの男。
人懐っこい小動物みたいに笑うくせに、どこか胡散臭い……あの男に違いなかった。
『誰って……名前を言えばいいのかな? 藍原朔夜、といいます』
――アイハラ、サクヤ。
男がいま口にした名前を頭の中で反芻してみた……が、思い当たる節はまるでなかった。
「なぁ、藍原朔夜、って男……知ってる?」
俺は小声であやちゃんに確認した。
彼女は少し考えてから、静かに首を横に振った。
あやちゃんに心当たりがないということは、楠ノ瀬の件とは無関係なのか?
「あの……藍原さんはなんで俺の番号を知ってるんですか?」
藍原の立場がわからない俺は、慎重に話を続ける。
『ん? 大したことじゃないよ。君に近い人……まぁ僕にとっても近いんだけどね……その人から教えてもらったんだ』
俺に近い人で、こいつにとっても近い……?
――誰だ?
もったいぶった藍原の喋り方に苛立ちが募っていく。
「……最近、たまに俺ん家に出没してますよね? なんで勝手にうちに出入りしてるんですか?」
俺が内心の苛立ちを抑えながら尋ねると、藍原は電話口で、ぶはっ、と盛大に噴き出した。
『アハハ……「出没」って、熊じゃないんだから……!』
何がそんなに可笑しいのか、藍原はひとしきりヒーヒーと笑ってから、
『……あと、高遠さん家にはちゃんと許可取ってお邪魔してるから。「勝手に」侵入してるわけじゃないんだよぉ~』
俺の質問に答えているようで答えていない……人を食ったような台詞が返ってきた。
――何なんだよ、一体……!
スマホを握りながら思わず顔をしかめる俺に、
「なんか知らないけど、関係ないヤツなら、さっさと切っちゃえば?」
隣で聞き耳を立てていたあやちゃんが囁いた。
「そうだな……。すいません、今ちょっと忙しいので、特に用がないんだったら、これで失礼します」
一応、丁寧に言い逃げして通話を切ろうとすると――
『あぁ~、待って待って! 最後に一つ教えてほしいことがあるんだけど、』
藍原が慌てたように言葉を続けた。
「……何ですか?」
早く電話を切り上げたい俺が不機嫌丸出しの声で聞き返すと、
『理森くんって、誕生日いつ?』
なんの脈絡もない、暢気な質問が返ってきた。
「……もしもし、」
知らない相手からの電話は緊張する。案の定、俺の声はみっともなく掠れてしまった。
『あ……理森くん? よかったぁ。ちゃんと出てくれて』
返ってきたのは、やけに明るく、馴れ馴れしい男の声だった。
――馴れ馴れしい?
この声と喋り方、そして……そこから受ける印象……。
俺はゴクリと唾を飲み込んで、電話越しの相手に問いかけた。
「……あんたは、誰なんだ?」
俺がずっと気になっていたあの男。
人懐っこい小動物みたいに笑うくせに、どこか胡散臭い……あの男に違いなかった。
『誰って……名前を言えばいいのかな? 藍原朔夜、といいます』
――アイハラ、サクヤ。
男がいま口にした名前を頭の中で反芻してみた……が、思い当たる節はまるでなかった。
「なぁ、藍原朔夜、って男……知ってる?」
俺は小声であやちゃんに確認した。
彼女は少し考えてから、静かに首を横に振った。
あやちゃんに心当たりがないということは、楠ノ瀬の件とは無関係なのか?
「あの……藍原さんはなんで俺の番号を知ってるんですか?」
藍原の立場がわからない俺は、慎重に話を続ける。
『ん? 大したことじゃないよ。君に近い人……まぁ僕にとっても近いんだけどね……その人から教えてもらったんだ』
俺に近い人で、こいつにとっても近い……?
――誰だ?
もったいぶった藍原の喋り方に苛立ちが募っていく。
「……最近、たまに俺ん家に出没してますよね? なんで勝手にうちに出入りしてるんですか?」
俺が内心の苛立ちを抑えながら尋ねると、藍原は電話口で、ぶはっ、と盛大に噴き出した。
『アハハ……「出没」って、熊じゃないんだから……!』
何がそんなに可笑しいのか、藍原はひとしきりヒーヒーと笑ってから、
『……あと、高遠さん家にはちゃんと許可取ってお邪魔してるから。「勝手に」侵入してるわけじゃないんだよぉ~』
俺の質問に答えているようで答えていない……人を食ったような台詞が返ってきた。
――何なんだよ、一体……!
スマホを握りながら思わず顔をしかめる俺に、
「なんか知らないけど、関係ないヤツなら、さっさと切っちゃえば?」
隣で聞き耳を立てていたあやちゃんが囁いた。
「そうだな……。すいません、今ちょっと忙しいので、特に用がないんだったら、これで失礼します」
一応、丁寧に言い逃げして通話を切ろうとすると――
『あぁ~、待って待って! 最後に一つ教えてほしいことがあるんだけど、』
藍原が慌てたように言葉を続けた。
「……何ですか?」
早く電話を切り上げたい俺が不機嫌丸出しの声で聞き返すと、
『理森くんって、誕生日いつ?』
なんの脈絡もない、暢気な質問が返ってきた。
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