47 / 100
噂
噂①
しおりを挟む
週が明けて、俺は一週間ぶりに学校へ来ることができた。
祖父さんが手配したのか、欠席の理由はインフルエンザにかかったことになっていた。
「なぁなぁ、高遠」
昼休み。
同じクラスの仁科が、ニヤつきながら話しかけてきた。
仁科は一年の頃から同じクラスで比較的よく喋るクラスメイトだ。クルクルと柔らかそうな茶色い髪の毛が特徴的な男である。
「お前さぁ、隣のクラスの楠ノ瀬さんと付き合ってんの?」
「……え?」
――なんで、仁科の口から楠ノ瀬の名前が?
驚く俺を尻目に、仁科が続けた。
「何だよぉ、水くさいじゃんかよぉ。カノジョできたんなら教えてくれよなぁ」
仁科は体をくねくねと捩りながら、俺の肩を小突いた。
「いや、付き合ってるってわけでもないんだけど。……なんで、知ってるんだ?」
正直なところ、俺と楠ノ瀬の関係は説明が難しいのだが……。
だからこそ、どうして仁科が楠ノ瀬の名前を出してきたのか、不思議だった。
校内ではあやちゃんの目もあって、楠ノ瀬と大っぴらに口を利くことなんてほとんどないというのに――。
「あー……S高の友達から回ってきた」
仁科が斜め上を見やりながら、なぜか決まり悪そうな様子で言った。
「S高……?」
――嫌な予感がした。
俺たちの通うこの学校は私立の進学校で家からも遠いし学費も高い。だから同じ町から入学したのは楠ノ瀬と俺ぐらいのものだ。
一方のS高は俺たちの町の近くにある公立高校で、中学の同級生たちはほとんどがS高に通っている。
俺が楠ノ瀬の家に出入りしているところでも見られたのだろうか……?
「でも楠ノ瀬さんって大人しそうな顔して大胆だよなぁ……胸もでけぇし。高遠、いいよなぁ」
噂の出どころについて勘繰る俺の横で、仁科が頭の後ろで腕を組みながらイヤらしい笑みを浮かべている。
――なんでお前が楠ノ瀬の胸がデカイことを知ってるんだよ……!?
「……仁科。お前さっき『S高から回ってきた』って言ってたけど……。一体、なにが回ってきたんだ?」
仁科の言い回しに違和感を覚えた俺が問い詰めると、
「ん? いやぁ、まぁ……大したもんじゃねぇよ」
仁科が口を濁しながら、目を泳がせた。
俺のことを敢えて見ないようにしているみたいだった。
――明らかに怪しい……。
「おい、仁科!!」
俺はくねくねと落ち着かない仁科の肩を掴んだ。ギリギリと指に力を入れていく。
「なんだよ、高遠……痛い、って……!」
仁科が顔を歪めながら抗議してくる。
「じゃあ、教えてくれよ……なんで、俺と楠ノ瀬が付き合ってると思ったんだ?」
俺ができる限りの低い声で凄んでみせると、
「……いいけど、怒らないでくれよ。オレがやったわけじゃないんだから……」
ぶつぶつと小声で呟きながら、仁科は自分の制服のポケットに手を突っ込んだ。
祖父さんが手配したのか、欠席の理由はインフルエンザにかかったことになっていた。
「なぁなぁ、高遠」
昼休み。
同じクラスの仁科が、ニヤつきながら話しかけてきた。
仁科は一年の頃から同じクラスで比較的よく喋るクラスメイトだ。クルクルと柔らかそうな茶色い髪の毛が特徴的な男である。
「お前さぁ、隣のクラスの楠ノ瀬さんと付き合ってんの?」
「……え?」
――なんで、仁科の口から楠ノ瀬の名前が?
驚く俺を尻目に、仁科が続けた。
「何だよぉ、水くさいじゃんかよぉ。カノジョできたんなら教えてくれよなぁ」
仁科は体をくねくねと捩りながら、俺の肩を小突いた。
「いや、付き合ってるってわけでもないんだけど。……なんで、知ってるんだ?」
正直なところ、俺と楠ノ瀬の関係は説明が難しいのだが……。
だからこそ、どうして仁科が楠ノ瀬の名前を出してきたのか、不思議だった。
校内ではあやちゃんの目もあって、楠ノ瀬と大っぴらに口を利くことなんてほとんどないというのに――。
「あー……S高の友達から回ってきた」
仁科が斜め上を見やりながら、なぜか決まり悪そうな様子で言った。
「S高……?」
――嫌な予感がした。
俺たちの通うこの学校は私立の進学校で家からも遠いし学費も高い。だから同じ町から入学したのは楠ノ瀬と俺ぐらいのものだ。
一方のS高は俺たちの町の近くにある公立高校で、中学の同級生たちはほとんどがS高に通っている。
俺が楠ノ瀬の家に出入りしているところでも見られたのだろうか……?
「でも楠ノ瀬さんって大人しそうな顔して大胆だよなぁ……胸もでけぇし。高遠、いいよなぁ」
噂の出どころについて勘繰る俺の横で、仁科が頭の後ろで腕を組みながらイヤらしい笑みを浮かべている。
――なんでお前が楠ノ瀬の胸がデカイことを知ってるんだよ……!?
「……仁科。お前さっき『S高から回ってきた』って言ってたけど……。一体、なにが回ってきたんだ?」
仁科の言い回しに違和感を覚えた俺が問い詰めると、
「ん? いやぁ、まぁ……大したもんじゃねぇよ」
仁科が口を濁しながら、目を泳がせた。
俺のことを敢えて見ないようにしているみたいだった。
――明らかに怪しい……。
「おい、仁科!!」
俺はくねくねと落ち着かない仁科の肩を掴んだ。ギリギリと指に力を入れていく。
「なんだよ、高遠……痛い、って……!」
仁科が顔を歪めながら抗議してくる。
「じゃあ、教えてくれよ……なんで、俺と楠ノ瀬が付き合ってると思ったんだ?」
俺ができる限りの低い声で凄んでみせると、
「……いいけど、怒らないでくれよ。オレがやったわけじゃないんだから……」
ぶつぶつと小声で呟きながら、仁科は自分の制服のポケットに手を突っ込んだ。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。



女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる