45 / 100
背後
背後③
しおりを挟む
「高遠くん、大丈夫?」
目の上から布が外された。
瞼に冷たい空気が当たる。
涙の跡が乾いて、目尻から耳元まで張り付いたような違和感があった。
俺は眉間に皺を寄せて、身を捩った。
「……目を、開けてみて」
楠ノ瀬が静かに言った。
俺は恐る恐る瞼を持ち上げて、薄目を開けた。
楠ノ瀬が顔を寄せて、俺の瞳を覗き込む。
「あぁ……」
彼女の口から驚きとも溜息ともとれない声が漏れた。
「俺の目……どうなってる?」
俺は、楠ノ瀬に問いかけた。
楠ノ瀬は無言で鏡を差し出した。
俺は身を起こして、鏡に映った自分の目を見つめた。
「えぇ……」
俺の目は黒色に戻っていた。
――右目だけは。
「それ、オッドアイってやつじゃない? すごい、カッコいいよ……」
楠ノ瀬がめずらしく冗談めかして励まそうとしてくれるが……俺は笑えない。
そういうのが許されるのは二次元のキャラだけだ。
俺の左目は相変わらず青白い光を放っていて、このままでは外に出ることもままならない。
鏡を見ながら項垂れる俺の肩に、楠ノ瀬の手が置かれる。
「……もう一回、する?」
楠ノ瀬の頬がほんのり上気してピンク色に染まっている。
「そうすれば、左目も元に戻るかもしれないし」
「……ありがとう。いつも、ごめんな」
自分の力で、自分の力だけで、制御するんだ……と、あの泉で決意したのに。結局、楠ノ瀬に頼るハメになってしまう。
――情けない……。
「どうして謝るの? 私は、高遠くんの力になれて嬉しいのに」
「楠ノ瀬……」
俺が彼女の顔を見つめると、彼女も俺を見つめ返した。二人の視線が交錯して、束の間、時間が止まる。
先に動いたのは、楠ノ瀬だった。
彼女の腕が俺の首に巻きついた。
紅く色づく唇が、俺の左の目尻に触れる。
俺が目を閉じると、ぺろっ、と瞼をひと舐めする。
楠ノ瀬に触れられて、左目が熱を帯びていく。
楠ノ瀬が俺の手を取って、自身の胸へと導いた。厚手のカーディガン越しでもはっきりとわかるくらいボリュームのある彼女の双丘を、俺は掌でそっと包み込んだ。
楠ノ瀬の唇が目元から頬を伝って、俺の唇を捉えた。ちゅ、ちゅ……と食むように軽く重ねた後、深い口づけへと移行していく。
艶めかしく俺の咥内を蹂躙する楠ノ瀬の舌に煽られるように、彼女の胸をまさぐる俺の手の動きもより大胆になっていく。
「ぁあ……ん…ふ、ぅ」
キスの合間に、楠ノ瀬の口から悩ましげな喘ぎ声が漏れ始めた。
俺はカーディガンを脱がせると、その下に着ていたニットのセーターもたくし上げた。ミントグリーンの下着と、深い谷間が露わになる。
柔らかな乳房を揉みしだきながら、下着の上からでもわかるぐらい固くなった先端を、こりこりと刺激する。
「んぁ……ダ、メ……」
濃密に絡めていた唇を離して、楠ノ瀬が俺の動きを制した。瞳が潤んで、目尻が赤く滲んでいる。
「な、んで……」
聞き返した俺の声が掠れる。
「ん……私が、奉仕しなきゃ、ダメなの……」
熱に浮かされたように呟くと、俺をベッドの上へと押し倒した。
俺の口を塞ぐためか、再び交わされる濃厚なキスに翻弄される。
楠ノ瀬が俺の左耳に濡れた唇を寄せると、小さな声で何事かを唱える。独特の節回しで詠われるそれは神に捧げる詩なのだろう。
耳から入ったその詩が、寄せては返す細波のように、俺の体内の血をざわめかせる。
――左目が熱い。
体中の熱が、そこに集約されているようだった。堪えきれない涙が、とめどなく溢れ出てくる。
止まらない涙を、楠ノ瀬が舐めとってくれる。
温かく柔らかな舌の感触を、俺は何度も感じた。
目の上から布が外された。
瞼に冷たい空気が当たる。
涙の跡が乾いて、目尻から耳元まで張り付いたような違和感があった。
俺は眉間に皺を寄せて、身を捩った。
「……目を、開けてみて」
楠ノ瀬が静かに言った。
俺は恐る恐る瞼を持ち上げて、薄目を開けた。
楠ノ瀬が顔を寄せて、俺の瞳を覗き込む。
「あぁ……」
彼女の口から驚きとも溜息ともとれない声が漏れた。
「俺の目……どうなってる?」
俺は、楠ノ瀬に問いかけた。
楠ノ瀬は無言で鏡を差し出した。
俺は身を起こして、鏡に映った自分の目を見つめた。
「えぇ……」
俺の目は黒色に戻っていた。
――右目だけは。
「それ、オッドアイってやつじゃない? すごい、カッコいいよ……」
楠ノ瀬がめずらしく冗談めかして励まそうとしてくれるが……俺は笑えない。
そういうのが許されるのは二次元のキャラだけだ。
俺の左目は相変わらず青白い光を放っていて、このままでは外に出ることもままならない。
鏡を見ながら項垂れる俺の肩に、楠ノ瀬の手が置かれる。
「……もう一回、する?」
楠ノ瀬の頬がほんのり上気してピンク色に染まっている。
「そうすれば、左目も元に戻るかもしれないし」
「……ありがとう。いつも、ごめんな」
自分の力で、自分の力だけで、制御するんだ……と、あの泉で決意したのに。結局、楠ノ瀬に頼るハメになってしまう。
――情けない……。
「どうして謝るの? 私は、高遠くんの力になれて嬉しいのに」
「楠ノ瀬……」
俺が彼女の顔を見つめると、彼女も俺を見つめ返した。二人の視線が交錯して、束の間、時間が止まる。
先に動いたのは、楠ノ瀬だった。
彼女の腕が俺の首に巻きついた。
紅く色づく唇が、俺の左の目尻に触れる。
俺が目を閉じると、ぺろっ、と瞼をひと舐めする。
楠ノ瀬に触れられて、左目が熱を帯びていく。
楠ノ瀬が俺の手を取って、自身の胸へと導いた。厚手のカーディガン越しでもはっきりとわかるくらいボリュームのある彼女の双丘を、俺は掌でそっと包み込んだ。
楠ノ瀬の唇が目元から頬を伝って、俺の唇を捉えた。ちゅ、ちゅ……と食むように軽く重ねた後、深い口づけへと移行していく。
艶めかしく俺の咥内を蹂躙する楠ノ瀬の舌に煽られるように、彼女の胸をまさぐる俺の手の動きもより大胆になっていく。
「ぁあ……ん…ふ、ぅ」
キスの合間に、楠ノ瀬の口から悩ましげな喘ぎ声が漏れ始めた。
俺はカーディガンを脱がせると、その下に着ていたニットのセーターもたくし上げた。ミントグリーンの下着と、深い谷間が露わになる。
柔らかな乳房を揉みしだきながら、下着の上からでもわかるぐらい固くなった先端を、こりこりと刺激する。
「んぁ……ダ、メ……」
濃密に絡めていた唇を離して、楠ノ瀬が俺の動きを制した。瞳が潤んで、目尻が赤く滲んでいる。
「な、んで……」
聞き返した俺の声が掠れる。
「ん……私が、奉仕しなきゃ、ダメなの……」
熱に浮かされたように呟くと、俺をベッドの上へと押し倒した。
俺の口を塞ぐためか、再び交わされる濃厚なキスに翻弄される。
楠ノ瀬が俺の左耳に濡れた唇を寄せると、小さな声で何事かを唱える。独特の節回しで詠われるそれは神に捧げる詩なのだろう。
耳から入ったその詩が、寄せては返す細波のように、俺の体内の血をざわめかせる。
――左目が熱い。
体中の熱が、そこに集約されているようだった。堪えきれない涙が、とめどなく溢れ出てくる。
止まらない涙を、楠ノ瀬が舐めとってくれる。
温かく柔らかな舌の感触を、俺は何度も感じた。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。



女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる