禁じられた逢瀬

スケキヨ

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背後

背後③

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高遠たかとおくん、大丈夫?」

 目の上から布が外された。
 瞼に冷たい空気が当たる。
 涙の跡が乾いて、目尻から耳元まで張り付いたような違和感があった。 
 俺は眉間に皺を寄せて、身を捩った。

「……目を、開けてみて」

 楠ノ瀬くすのせが静かに言った。

 俺は恐る恐る瞼を持ち上げて、薄目を開けた。

 楠ノ瀬が顔を寄せて、俺の瞳を覗き込む。

「あぁ……」

 彼女の口から驚きとも溜息ともとれない声が漏れた。

「俺の目……どうなってる?」

 俺は、楠ノ瀬に問いかけた。

 楠ノ瀬は無言で鏡を差し出した。
 俺は身を起こして、鏡に映った自分の目を見つめた。

「えぇ……」

 俺の目は黒色に戻っていた。

 ――右目だけは。

「それ、オッドアイってやつじゃない? すごい、カッコいいよ……」

 楠ノ瀬がめずらしく冗談めかして励まそうとしてくれるが……俺は笑えない。
 そういうのが許されるのは二次元のキャラだけだ。

 俺の左目は相変わらず青白い光を放っていて、このままでは外に出ることもままならない。
 鏡を見ながら項垂うなだれる俺の肩に、楠ノ瀬の手が置かれる。

「……もう一回、する?」

 楠ノ瀬の頬がほんのり上気してピンク色に染まっている。

「そうすれば、左目も元に戻るかもしれないし」

「……ありがとう。いつも、ごめんな」

 自分の力で、自分の力だけで、制御するんだ……と、あの泉で決意したのに。結局、楠ノ瀬に頼るハメになってしまう。

 ――情けない……。

「どうして謝るの? 私は、高遠くんの力になれて嬉しいのに」

「楠ノ瀬……」

 俺が彼女の顔を見つめると、彼女も俺を見つめ返した。二人の視線が交錯して、束の間、時間が止まる。

 先に動いたのは、楠ノ瀬だった。

 彼女の腕が俺の首に巻きついた。
 紅く色づく唇が、俺の左の目尻に触れる。

 俺が目を閉じると、ぺろっ、と瞼をひと舐めする。
 楠ノ瀬に触れられて、左目が熱を帯びていく。

 楠ノ瀬が俺の手を取って、自身の胸へと導いた。厚手のカーディガン越しでもはっきりとわかるくらいボリュームのある彼女の双丘を、俺は掌でそっと包み込んだ。

 楠ノ瀬の唇が目元から頬を伝って、俺の唇を捉えた。ちゅ、ちゅ……と食むように軽く重ねた後、深い口づけへと移行していく。

 なまめかしく俺の咥内を蹂躙する楠ノ瀬の舌に煽られるように、彼女の胸をまさぐる俺の手の動きもより大胆になっていく。

「ぁあ……ん…ふ、ぅ」

 キスの合間に、楠ノ瀬の口から悩ましげな喘ぎ声が漏れ始めた。

 俺はカーディガンを脱がせると、その下に着ていたニットのセーターもたくし上げた。ミントグリーンの下着と、深い谷間が露わになる。

 柔らかな乳房を揉みしだきながら、下着の上からでもわかるぐらい固くなった先端を、こりこりと刺激する。

「んぁ……ダ、メ……」

 濃密に絡めていた唇を離して、楠ノ瀬が俺の動きを制した。瞳が潤んで、目尻が赤く滲んでいる。

「な、んで……」

 聞き返した俺の声が掠れる。

「ん……私が、奉仕しなきゃ、ダメなの……」

 熱に浮かされたように呟くと、俺をベッドの上へと押し倒した。

 俺の口を塞ぐためか、再び交わされる濃厚なキスに翻弄される。

 楠ノ瀬が俺の左耳に濡れた唇を寄せると、小さな声で何事かを唱える。独特の節回しでうたわれるそれは神に捧げるうたなのだろう。

 耳から入ったその詩が、寄せては返す細波さざなみのように、俺の体内の血をざわめかせる。

 ――左目が熱い。

 体中の熱が、そこに集約されているようだった。堪えきれない涙が、とめどなく溢れ出てくる。

 止まらない涙を、楠ノ瀬が舐めとってくれる。
 温かく柔らかな舌の感触を、俺は何度も感じた。


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