禁じられた逢瀬

スケキヨ

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彼女の異能

彼女の異能③

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 あれは小学四年生の時だったと思う。

 ――「楠ノ瀬くすのせの娘には近づくな」

 俺は祖父じいさんからの言いつけをちゃんと守って、楠ノ瀬には近づかないようにしていた。

 それは楠ノ瀬のほうも同じで。

 学校にいる間は先生やら他の同級生やらの目もあるし、楠ノ瀬は学校が終わるとすぐ迎えの車に乗って帰ってしまうから、俺たちは特に接点を持つこともなかったんだ。

 ある日。
 
 迎えの車が来ないのか、校門の前で一人さみしく立ち尽くす楠ノ瀬の姿を見つけた。
 彼女は小石を蹴飛ばしたり、地面に落書きしたりしながら、小一時間ほど時間をつぶしていたけれど、やがてトボトボと一人で歩き出して、楠ノ瀬家のある山の中へと入っていった。

「大丈夫か? きよのちゃん……」

 興味がないフリをして、ほんとはあの頃から楠ノ瀬のことが気になっていたのだろうか……。

 今となってはそんな気がしないでもないけど。

 俺はなぜかその時、一人で俯きながら帰るあいつを放っとけなくて、そっと後を追った。
 楠ノ瀬に見つからないように……。

 だから、なるべく音を立てないように、電柱や木の陰に隠れながらついていったつもりだったんだけど――

「……よしもりくん、見えてる」

 突然立ち止まった楠ノ瀬がくるりと後ろを振り向いて、俺に向かって言った。

「!」

 俺はおずおずと隠れていた木の後ろから顔を出した。
 楠ノ瀬が目を細めてじっと俺のことを見つめている。

「あ、いや、その……」

 楠ノ瀬に見据えられて落ち着かない俺は、何と答えていいかわからなくて、言葉にならない声を漏らすしかない。

「おばあちゃんから、よしもりくんとはあんまり仲良くしないように、って言われてるんだ」

 顔をしかめながら、楠ノ瀬が言う。

「だから、用がないんだったら……」

「いっしょに帰ろう!」

 楠ノ瀬の話を途中で遮って、俺は大きな声で言った。

「……え?」

「途中まで道も同じなんだし、二人で帰った方が早く着くよ。それに、きよのちゃん一人じゃ……危ないよ! 変なおじさんとか出るかもしれないし……」

 自分でもなぜあんなに必死になっていたのかわからないのだが……。
 俺はなんとか楠ノ瀬を説得しようと、ない知恵を絞っていた。

「変なおじさんもこんな田舎まで来ないと思うけど……」

 俺のムリやりな話にも、楠ノ瀬はマジメに答えた。

「いや、変なおじさんをナめちゃだめだよ! きよのちゃんはカワイイから気を付けないと……!」

「え……」

 楠ノ瀬が顔を赤くして、固まっている。

「だから、いっしょに帰ろう!」

 俺が大きな声で呼びかけると、

「あ……うん」

 楠ノ瀬が恥ずかしそうに頷いた。
 俺は自分の言葉が彼女に届いたことがうれしくて、思わず心の中で「やったぁ!」と叫んだ。

「よしもりくん……どうしてそんなに笑ってるの?」

 横に並んで歩きだした楠ノ瀬に指摘されるぐらい、顔にも出てしまっていたらしい。





 ――その日以来、俺と楠ノ瀬はお互いの家の人や先生の目を盗んで、一緒に帰ったり、山を探検するようになったんだっけ……。

 
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