25 / 100
彼女の異能
彼女の異能③
しおりを挟む
あれは小学四年生の時だったと思う。
――「楠ノ瀬の娘には近づくな」
俺は祖父さんからの言いつけをちゃんと守って、楠ノ瀬には近づかないようにしていた。
それは楠ノ瀬のほうも同じで。
学校にいる間は先生やら他の同級生やらの目もあるし、楠ノ瀬は学校が終わるとすぐ迎えの車に乗って帰ってしまうから、俺たちは特に接点を持つこともなかったんだ。
ある日。
迎えの車が来ないのか、校門の前で一人さみしく立ち尽くす楠ノ瀬の姿を見つけた。
彼女は小石を蹴飛ばしたり、地面に落書きしたりしながら、小一時間ほど時間をつぶしていたけれど、やがてトボトボと一人で歩き出して、楠ノ瀬家のある山の中へと入っていった。
「大丈夫か? きよのちゃん……」
興味がないフリをして、ほんとはあの頃から楠ノ瀬のことが気になっていたのだろうか……。
今となってはそんな気がしないでもないけど。
俺はなぜかその時、一人で俯きながら帰るあいつを放っとけなくて、そっと後を追った。
楠ノ瀬に見つからないように……。
だから、なるべく音を立てないように、電柱や木の陰に隠れながらついていったつもりだったんだけど――
「……よしもりくん、見えてる」
突然立ち止まった楠ノ瀬がくるりと後ろを振り向いて、俺に向かって言った。
「!」
俺はおずおずと隠れていた木の後ろから顔を出した。
楠ノ瀬が目を細めてじっと俺のことを見つめている。
「あ、いや、その……」
楠ノ瀬に見据えられて落ち着かない俺は、何と答えていいかわからなくて、言葉にならない声を漏らすしかない。
「おばあちゃんから、よしもりくんとはあんまり仲良くしないように、って言われてるんだ」
顔をしかめながら、楠ノ瀬が言う。
「だから、用がないんだったら……」
「いっしょに帰ろう!」
楠ノ瀬の話を途中で遮って、俺は大きな声で言った。
「……え?」
「途中まで道も同じなんだし、二人で帰った方が早く着くよ。それに、きよのちゃん一人じゃ……危ないよ! 変なおじさんとか出るかもしれないし……」
自分でもなぜあんなに必死になっていたのかわからないのだが……。
俺はなんとか楠ノ瀬を説得しようと、ない知恵を絞っていた。
「変なおじさんもこんな田舎まで来ないと思うけど……」
俺のムリやりな話にも、楠ノ瀬はマジメに答えた。
「いや、変なおじさんをナめちゃだめだよ! きよのちゃんはカワイイから気を付けないと……!」
「え……」
楠ノ瀬が顔を赤くして、固まっている。
「だから、いっしょに帰ろう!」
俺が大きな声で呼びかけると、
「あ……うん」
楠ノ瀬が恥ずかしそうに頷いた。
俺は自分の言葉が彼女に届いたことがうれしくて、思わず心の中で「やったぁ!」と叫んだ。
「よしもりくん……どうしてそんなに笑ってるの?」
横に並んで歩きだした楠ノ瀬に指摘されるぐらい、顔にも出てしまっていたらしい。
――その日以来、俺と楠ノ瀬はお互いの家の人や先生の目を盗んで、一緒に帰ったり、山を探検するようになったんだっけ……。
――「楠ノ瀬の娘には近づくな」
俺は祖父さんからの言いつけをちゃんと守って、楠ノ瀬には近づかないようにしていた。
それは楠ノ瀬のほうも同じで。
学校にいる間は先生やら他の同級生やらの目もあるし、楠ノ瀬は学校が終わるとすぐ迎えの車に乗って帰ってしまうから、俺たちは特に接点を持つこともなかったんだ。
ある日。
迎えの車が来ないのか、校門の前で一人さみしく立ち尽くす楠ノ瀬の姿を見つけた。
彼女は小石を蹴飛ばしたり、地面に落書きしたりしながら、小一時間ほど時間をつぶしていたけれど、やがてトボトボと一人で歩き出して、楠ノ瀬家のある山の中へと入っていった。
「大丈夫か? きよのちゃん……」
興味がないフリをして、ほんとはあの頃から楠ノ瀬のことが気になっていたのだろうか……。
今となってはそんな気がしないでもないけど。
俺はなぜかその時、一人で俯きながら帰るあいつを放っとけなくて、そっと後を追った。
楠ノ瀬に見つからないように……。
だから、なるべく音を立てないように、電柱や木の陰に隠れながらついていったつもりだったんだけど――
「……よしもりくん、見えてる」
突然立ち止まった楠ノ瀬がくるりと後ろを振り向いて、俺に向かって言った。
「!」
俺はおずおずと隠れていた木の後ろから顔を出した。
楠ノ瀬が目を細めてじっと俺のことを見つめている。
「あ、いや、その……」
楠ノ瀬に見据えられて落ち着かない俺は、何と答えていいかわからなくて、言葉にならない声を漏らすしかない。
「おばあちゃんから、よしもりくんとはあんまり仲良くしないように、って言われてるんだ」
顔をしかめながら、楠ノ瀬が言う。
「だから、用がないんだったら……」
「いっしょに帰ろう!」
楠ノ瀬の話を途中で遮って、俺は大きな声で言った。
「……え?」
「途中まで道も同じなんだし、二人で帰った方が早く着くよ。それに、きよのちゃん一人じゃ……危ないよ! 変なおじさんとか出るかもしれないし……」
自分でもなぜあんなに必死になっていたのかわからないのだが……。
俺はなんとか楠ノ瀬を説得しようと、ない知恵を絞っていた。
「変なおじさんもこんな田舎まで来ないと思うけど……」
俺のムリやりな話にも、楠ノ瀬はマジメに答えた。
「いや、変なおじさんをナめちゃだめだよ! きよのちゃんはカワイイから気を付けないと……!」
「え……」
楠ノ瀬が顔を赤くして、固まっている。
「だから、いっしょに帰ろう!」
俺が大きな声で呼びかけると、
「あ……うん」
楠ノ瀬が恥ずかしそうに頷いた。
俺は自分の言葉が彼女に届いたことがうれしくて、思わず心の中で「やったぁ!」と叫んだ。
「よしもりくん……どうしてそんなに笑ってるの?」
横に並んで歩きだした楠ノ瀬に指摘されるぐらい、顔にも出てしまっていたらしい。
――その日以来、俺と楠ノ瀬はお互いの家の人や先生の目を盗んで、一緒に帰ったり、山を探検するようになったんだっけ……。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。



女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる