24 / 100
彼女の異能
彼女の異能②
しおりを挟む
俺は恐る恐る自分の左頬に手を当てた。
さっきまで血が滲んでいたその場所に……。
「……ない。傷が、治ってる……?」
掌に広がるのは、凹凸のない肌の感触。
俺は鏡に映った自分を見ながら、すっかり元通りになった頬をすりすりと撫でた。
「え、なんで……なんだ、これ……」
「覚えてない? これが私の……楠ノ瀬家の『力』だよ」
戸惑う俺に、楠ノ瀬が言い聞かせるように告げた。
楠ノ瀬の『力』とやらは知っているつもりだった。現に俺は何度も助けてもらっているのだから――。
だけどこうして目の前ではっきりとした形で示されると……あらためて彼女の力を思い知らされた気がして、楠ノ瀬の顔をまじまじと見てしまう。
「いつも神様に喰われそうになった俺を助けてくれるのも、同じ『力』なのか?」
「ん~……あれはちょっと違うかな。アレは神様との『取り引き』みたいなものだから」
楠ノ瀬が言葉を選ぶようにゆっくりと言った。
「取り引き?」
「そう。自分の身を捧げる代わりに、高遠くんを解放してもらうようにお願いする……っていう感じかな」
「……とんだエロジジイなんだな、神様って」
俺が率直な感想を漏らすと、
「ちょっ、なんて不謹慎な……!」
楠ノ瀬が「しーっ」と人差し指を口の前で立てながら、きょろきょろと辺りを見回した。
「え、神様って学校にいんの?」
挙動不審な楠ノ瀬がおもしろくて、俺はついつい軽口を叩いてしまう。
「もう……冗談じゃないんだからね」
呆れてむくれる楠ノ瀬が、俺を横目で睨む。
「そもそも、私のこの力を最初に『顕現』させたのは高遠くんだったんだよ」
「え?」
――何のことだ?
俺が首を傾げると、
「覚えてない? ほら、小学生の頃……」
「小学生……」
俺は子供の頃を思い出そうと、腕を組んで目を閉じた。
――どうして、きよちゃんと遊んじゃいけないの!?
――どうしてもなにも、それが昔からの『言いつけ』だ。もう二度と楠ノ瀬の娘には近づくんじゃない!
「お前と遊んでることがバレて、うちの祖父さんにすごい怒られたんだよな……」
俺がその時の祖父さんの剣幕を思い出して遠い目をして呟くと、
「うん……私も祖母に怒られた。あれ以来ケータイとか持たされて、監視がキツくなったもん」
楠ノ瀬も同意するように自分の状況を語った。
俺は楠ノ瀬の婆さんのトカゲみたいな目を思い出す。うちの祖父さんも怖いけど、本気で怒ったらあの婆さんの方が怖い気がする……何となく。
「俺がお前にケガさせたんだよな……」
「別に高遠くんだけのせいじゃなかったでしょ? というか、むしろ私が先に落ちて……ほら、山の中で迷子になったとき」
「迷子……」
楠ノ瀬の言葉に導かれるように、俺はあの時の記憶を辿る。
「……あ!」
小さく声を上げた俺に、
「思い出した……?」
楠ノ瀬が探るような目を向けた。
さっきまで血が滲んでいたその場所に……。
「……ない。傷が、治ってる……?」
掌に広がるのは、凹凸のない肌の感触。
俺は鏡に映った自分を見ながら、すっかり元通りになった頬をすりすりと撫でた。
「え、なんで……なんだ、これ……」
「覚えてない? これが私の……楠ノ瀬家の『力』だよ」
戸惑う俺に、楠ノ瀬が言い聞かせるように告げた。
楠ノ瀬の『力』とやらは知っているつもりだった。現に俺は何度も助けてもらっているのだから――。
だけどこうして目の前ではっきりとした形で示されると……あらためて彼女の力を思い知らされた気がして、楠ノ瀬の顔をまじまじと見てしまう。
「いつも神様に喰われそうになった俺を助けてくれるのも、同じ『力』なのか?」
「ん~……あれはちょっと違うかな。アレは神様との『取り引き』みたいなものだから」
楠ノ瀬が言葉を選ぶようにゆっくりと言った。
「取り引き?」
「そう。自分の身を捧げる代わりに、高遠くんを解放してもらうようにお願いする……っていう感じかな」
「……とんだエロジジイなんだな、神様って」
俺が率直な感想を漏らすと、
「ちょっ、なんて不謹慎な……!」
楠ノ瀬が「しーっ」と人差し指を口の前で立てながら、きょろきょろと辺りを見回した。
「え、神様って学校にいんの?」
挙動不審な楠ノ瀬がおもしろくて、俺はついつい軽口を叩いてしまう。
「もう……冗談じゃないんだからね」
呆れてむくれる楠ノ瀬が、俺を横目で睨む。
「そもそも、私のこの力を最初に『顕現』させたのは高遠くんだったんだよ」
「え?」
――何のことだ?
俺が首を傾げると、
「覚えてない? ほら、小学生の頃……」
「小学生……」
俺は子供の頃を思い出そうと、腕を組んで目を閉じた。
――どうして、きよちゃんと遊んじゃいけないの!?
――どうしてもなにも、それが昔からの『言いつけ』だ。もう二度と楠ノ瀬の娘には近づくんじゃない!
「お前と遊んでることがバレて、うちの祖父さんにすごい怒られたんだよな……」
俺がその時の祖父さんの剣幕を思い出して遠い目をして呟くと、
「うん……私も祖母に怒られた。あれ以来ケータイとか持たされて、監視がキツくなったもん」
楠ノ瀬も同意するように自分の状況を語った。
俺は楠ノ瀬の婆さんのトカゲみたいな目を思い出す。うちの祖父さんも怖いけど、本気で怒ったらあの婆さんの方が怖い気がする……何となく。
「俺がお前にケガさせたんだよな……」
「別に高遠くんだけのせいじゃなかったでしょ? というか、むしろ私が先に落ちて……ほら、山の中で迷子になったとき」
「迷子……」
楠ノ瀬の言葉に導かれるように、俺はあの時の記憶を辿る。
「……あ!」
小さく声を上げた俺に、
「思い出した……?」
楠ノ瀬が探るような目を向けた。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。



女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる