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彼女の異能
彼女の異能①
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「おはよう!」
月曜の朝。
校門の前で顔を合わせた楠ノ瀬に声をかける。
偶然出くわした風を装ったが、本当は二人が登校してくるのを二十分ほど待っていた。
「あ……おはよう」
楠ノ瀬が少しだけ戸惑った様子を見せて応えた。
チラリ、と隣に立つあやちゃんに遠慮がちな視線を向ける。
あやちゃんは楠ノ瀬の隣でじっと睨めるように俺を見ていたが、
「……おはよ」
小さく溜息をつきながら、低い声で返事を寄こした。
山の中で見たあやちゃんの痴態が脳裏をよぎる。徳堂の指に翻弄されて悦ぶ彼女の白い肢体が目に浮かんできて……俺はさりげなく彼女から目を逸らした。
グレーのきっちりとしたブレザーに膝より少し短いだけのスカート。
どこからどう見ても真面目で大人しそうな二人の制服姿からは、男と交わって乱れる姿なんか全く想像できない……。
「あれ? ケガしたの?」
楠ノ瀬が俺の左頬を指差して言った。
「え? あぁ……大したことないよ、ただのかすり傷」
心配そうに見つめる楠ノ瀬を安心させようと、俺は笑って答えた。
山の中で枝に引っ掻かれて付いた傷だった。
「そう……だったら、いいけど」
そう言って楠ノ瀬は何か考え込むように口元に指を当てて目を伏せた。
「清乃ちゃん、行くよ」
動かない楠ノ瀬を急かすように、あやちゃんが腕を引いた。
「あ、うん。高遠くん……じゃあ」
名残惜しそうに小さく手を振る楠ノ瀬に、俺も軽く手を上げて応えた。
*****
「高遠くん」
放課後。
駐輪場の掃除当番に当たっていた俺を、楠ノ瀬が訪ねてきた。
「あやちゃんは?」
俺は例のごとく楠ノ瀬の背後を見回して、あやちゃんの影がないかを確認する。
「先生に呼ばれて職員室に行ってる。隙を見て出てきたの」
楠ノ瀬はそう言うと、得意げに笑ってみせた。
「なぁ、前に『俺たちは監視されてる』って言ってたけど……。あれって、あやちゃんのことか?」
俺が気になっていたことを尋ねると、楠ノ瀬が控えめに頷いた。
「……だと、思う。家の人に言われてるんじゃないかな。あやちゃん家は分家だし、本家に言われたら、嫌でも断れないと思うから……」
楠ノ瀬が声を潜めて言った。
きっと楠ノ瀬の家の人だけじゃなくて、あの男にも指示されているに違いない。先日目撃した二人のやり取りから、俺は確信していた。もちろん楠ノ瀬には話せないが……。
「そうだ、高遠くん! ちょっと傷見せて」
急に大声を上げた楠ノ瀬が俺の左頬に目を向ける。
俺は彼女の背丈に合わせて軽く屈む。
彼女は俺の頬に手を伸ばして、傷口に貼ってあるガーゼを剥がした。
「わぁ……痛そうだね」
まだ少し血の滲む傷口を見て、顔を歪める。
「そうでもないけど」
ほんとはまだ少し痛むけど、楠ノ瀬の前で俺はことさらに平気なふりをした。
「……沁みるかもしれないけど」
楠ノ瀬はそう言って俺の肩に手を置くと、少し背伸びをして俺の頬に唇を寄せた。
温かく湿った呼気を真近に感じた瞬間――
ペロリ、と楠ノ瀬の舌が俺の頬を舐めた。
「え!? な、なんだ……いきなり」
いくら周りに人がいないとは言え、学校でこんなことをする楠ノ瀬に驚いてしどろもどろになる俺に、
「ごめんなさい。でも、これで治ったはずだから」
「……は?」
――治る?
楠ノ瀬がブレザーのポケットから鏡を取り出し、俺の顔の前に差し出す。
「!?」
鏡に映った自分の顔を見て、小さく息を飲む。
「傷が……なくなってる……!」
月曜の朝。
校門の前で顔を合わせた楠ノ瀬に声をかける。
偶然出くわした風を装ったが、本当は二人が登校してくるのを二十分ほど待っていた。
「あ……おはよう」
楠ノ瀬が少しだけ戸惑った様子を見せて応えた。
チラリ、と隣に立つあやちゃんに遠慮がちな視線を向ける。
あやちゃんは楠ノ瀬の隣でじっと睨めるように俺を見ていたが、
「……おはよ」
小さく溜息をつきながら、低い声で返事を寄こした。
山の中で見たあやちゃんの痴態が脳裏をよぎる。徳堂の指に翻弄されて悦ぶ彼女の白い肢体が目に浮かんできて……俺はさりげなく彼女から目を逸らした。
グレーのきっちりとしたブレザーに膝より少し短いだけのスカート。
どこからどう見ても真面目で大人しそうな二人の制服姿からは、男と交わって乱れる姿なんか全く想像できない……。
「あれ? ケガしたの?」
楠ノ瀬が俺の左頬を指差して言った。
「え? あぁ……大したことないよ、ただのかすり傷」
心配そうに見つめる楠ノ瀬を安心させようと、俺は笑って答えた。
山の中で枝に引っ掻かれて付いた傷だった。
「そう……だったら、いいけど」
そう言って楠ノ瀬は何か考え込むように口元に指を当てて目を伏せた。
「清乃ちゃん、行くよ」
動かない楠ノ瀬を急かすように、あやちゃんが腕を引いた。
「あ、うん。高遠くん……じゃあ」
名残惜しそうに小さく手を振る楠ノ瀬に、俺も軽く手を上げて応えた。
*****
「高遠くん」
放課後。
駐輪場の掃除当番に当たっていた俺を、楠ノ瀬が訪ねてきた。
「あやちゃんは?」
俺は例のごとく楠ノ瀬の背後を見回して、あやちゃんの影がないかを確認する。
「先生に呼ばれて職員室に行ってる。隙を見て出てきたの」
楠ノ瀬はそう言うと、得意げに笑ってみせた。
「なぁ、前に『俺たちは監視されてる』って言ってたけど……。あれって、あやちゃんのことか?」
俺が気になっていたことを尋ねると、楠ノ瀬が控えめに頷いた。
「……だと、思う。家の人に言われてるんじゃないかな。あやちゃん家は分家だし、本家に言われたら、嫌でも断れないと思うから……」
楠ノ瀬が声を潜めて言った。
きっと楠ノ瀬の家の人だけじゃなくて、あの男にも指示されているに違いない。先日目撃した二人のやり取りから、俺は確信していた。もちろん楠ノ瀬には話せないが……。
「そうだ、高遠くん! ちょっと傷見せて」
急に大声を上げた楠ノ瀬が俺の左頬に目を向ける。
俺は彼女の背丈に合わせて軽く屈む。
彼女は俺の頬に手を伸ばして、傷口に貼ってあるガーゼを剥がした。
「わぁ……痛そうだね」
まだ少し血の滲む傷口を見て、顔を歪める。
「そうでもないけど」
ほんとはまだ少し痛むけど、楠ノ瀬の前で俺はことさらに平気なふりをした。
「……沁みるかもしれないけど」
楠ノ瀬はそう言って俺の肩に手を置くと、少し背伸びをして俺の頬に唇を寄せた。
温かく湿った呼気を真近に感じた瞬間――
ペロリ、と楠ノ瀬の舌が俺の頬を舐めた。
「え!? な、なんだ……いきなり」
いくら周りに人がいないとは言え、学校でこんなことをする楠ノ瀬に驚いてしどろもどろになる俺に、
「ごめんなさい。でも、これで治ったはずだから」
「……は?」
――治る?
楠ノ瀬がブレザーのポケットから鏡を取り出し、俺の顔の前に差し出す。
「!?」
鏡に映った自分の顔を見て、小さく息を飲む。
「傷が……なくなってる……!」
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