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許嫁
許嫁③
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「楠ノ瀬と一緒にいた男は……誰なんだ?」
有無を言わせぬ調子で玄関まで引っ張ってこられた俺は、気になって仕方なかった疑問を口にした。
「……」
あやちゃんは前を向いたまま、答えてくれない。
「なぁ……知ってたら教えてくれよ……」
情けない声で頼みこむ俺に、
「あんた……清乃のこと、好きなの?」
あやちゃんが俺の顔を見ないで聞いてくる。
「…………あぁ」
俺は小さな声で答えてから、目を伏せた。
「かわいそう」
――え?
あやちゃんの意外な言葉に、はっと顔を上げる。
俺を見つめる彼女の顔には、憐れみの色が浮かんでいた。
「清乃と一緒にいた男は……清乃の許嫁だよ」
「許嫁?」
「そう。清乃が大学を卒業したら、すぐ結婚する取り決めになってるみたい」
「結婚……」
高校生の俺には、まだまだ現実味のないその二文字の単語を反芻する。
「大体ねぇ……そもそも楠ノ瀬の当主と高遠の当主なんて……最初っから絶対無理な組み合わせでしょ?」
あやちゃんが呆れたように溜息をついた。
落ち込む俺に、あやちゃんはさらに追い打ちをかけるように言葉を続ける。
「結局、叶うわけないんだから……。今のうちに諦めたほうがいいよ……諦められるうちに」
憂いを帯びたあやちゃんの声が、失恋したばかりの俺の心に染みる。
――失恋?
そうだ。
芽生え始めていた楠ノ瀬への想いが、育ちきる前に行き場を失ってしまったんだ。
「……決まった男がいるのに……楠ノ瀬は、なんで俺と……」
「セックスするのか、って?」
言い淀んだ俺の考えを見透かすように、あやちゃんが明け透けに言った。
「それがあの娘の『お役目』だから……好きとか嫌いとか関係ないの。あんたとの行為もただの『治療』。それ以上でもそれ以下でもない。そこに恋愛感情を持ち込んでるのは、あんたのほうだけだから」
取り付く島もないあやちゃんの言葉に、俺はうなだれるしかない。
――ダメだ……泣きそうだ。
ここで泣いたらもっと惨めになると思って、俺は上を向いた。
空は青く晴れていて、昇ったばかりの太陽の光が目に痛い。
そんな俺の様子をあやちゃんは無言で見つめていたが。
「なに自分だけ悲劇の主人公ヅラしてんの?」
あやちゃんが苛立たしげに口を開いた。
「辛いのはあんただけじゃないし……。報われない恋してんのも……あんただけじゃないからね」
相変わらず、励ましてくれてるのか、バカにしてるのか……どちらかわからなかったけど。
いつもどおりの毒舌が俺の心を少しだけ軽くしてくれる気がした。
「そうだな……」
俺はあやちゃんに向かって力のない声で答えると、楠ノ瀬家を後にした。
有無を言わせぬ調子で玄関まで引っ張ってこられた俺は、気になって仕方なかった疑問を口にした。
「……」
あやちゃんは前を向いたまま、答えてくれない。
「なぁ……知ってたら教えてくれよ……」
情けない声で頼みこむ俺に、
「あんた……清乃のこと、好きなの?」
あやちゃんが俺の顔を見ないで聞いてくる。
「…………あぁ」
俺は小さな声で答えてから、目を伏せた。
「かわいそう」
――え?
あやちゃんの意外な言葉に、はっと顔を上げる。
俺を見つめる彼女の顔には、憐れみの色が浮かんでいた。
「清乃と一緒にいた男は……清乃の許嫁だよ」
「許嫁?」
「そう。清乃が大学を卒業したら、すぐ結婚する取り決めになってるみたい」
「結婚……」
高校生の俺には、まだまだ現実味のないその二文字の単語を反芻する。
「大体ねぇ……そもそも楠ノ瀬の当主と高遠の当主なんて……最初っから絶対無理な組み合わせでしょ?」
あやちゃんが呆れたように溜息をついた。
落ち込む俺に、あやちゃんはさらに追い打ちをかけるように言葉を続ける。
「結局、叶うわけないんだから……。今のうちに諦めたほうがいいよ……諦められるうちに」
憂いを帯びたあやちゃんの声が、失恋したばかりの俺の心に染みる。
――失恋?
そうだ。
芽生え始めていた楠ノ瀬への想いが、育ちきる前に行き場を失ってしまったんだ。
「……決まった男がいるのに……楠ノ瀬は、なんで俺と……」
「セックスするのか、って?」
言い淀んだ俺の考えを見透かすように、あやちゃんが明け透けに言った。
「それがあの娘の『お役目』だから……好きとか嫌いとか関係ないの。あんたとの行為もただの『治療』。それ以上でもそれ以下でもない。そこに恋愛感情を持ち込んでるのは、あんたのほうだけだから」
取り付く島もないあやちゃんの言葉に、俺はうなだれるしかない。
――ダメだ……泣きそうだ。
ここで泣いたらもっと惨めになると思って、俺は上を向いた。
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そんな俺の様子をあやちゃんは無言で見つめていたが。
「なに自分だけ悲劇の主人公ヅラしてんの?」
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「辛いのはあんただけじゃないし……。報われない恋してんのも……あんただけじゃないからね」
相変わらず、励ましてくれてるのか、バカにしてるのか……どちらかわからなかったけど。
いつもどおりの毒舌が俺の心を少しだけ軽くしてくれる気がした。
「そうだな……」
俺はあやちゃんに向かって力のない声で答えると、楠ノ瀬家を後にした。
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