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年上の男
年上の男④
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ガクリ……と膝をついた。
『理森』
頭の中で声が響く。
『理森……理森……理森……理森……理森……』
その声は、ひたすらに俺の名前を連呼する。
何かの呪いのように、何度も何度も何度も……。
「うるさいっ……!」
俺は頭の中でしつこく響く声を振り払うように頭を掻き毟った。
「高遠くんっ……!」
俺を呼ぶ楠ノ瀬の声が聞こえる。
「高遠くん……大丈夫!?」
心配そうな声色で俺に呼びかける楠ノ瀬。
ひんやりとした手が俺の肩に置かれる。
「たか……と…………くんっ……」
俺を呼ぶ楠ノ瀬の声がすぐ耳元で聞こえ……る。
「……か……お…………んっ……」
俺を呼ぶ楠ノ瀬の声が、聞こえ…………る?
「……ぉ…………ん……」
俺を呼ぶ、楠ノ瀬の声が、聞こえ………………ない。
『理森』
俺を呼ぶ誰かの声が聞こえる。
『理森……理森……理森……』
名前を呼ばれるたびに、俺の体内の血がざわざわと泡立つ。
全身の血が沸騰しているみたいだ……体の中を、沸き立った血が激流のように流れ回っている。
その激しさに俺の心臓はついていけない。
ぎゅうぎゅうと雑巾のように心臓を絞られて、全身を痛みに支配される。
…………何も、考えられなくなる…………。
『理森……理森……理森……理森……理森……』
血の音に混じって、何か聞こえる。
理森……理森……理森…………
――何だ、それ……?
奔流のように体内を流れ回る自分の血の音以外、何も認識できなくなる。
遠くで鈴のような音が聞こえた……気がした。
暗くなっていく視界の中で、音のしたほうだけがほのかに光っている。
*****
目が覚めると、夜だった。
障子越しにやわらかな月の光が差しこんでいる。
俺はいつかのように、冷たい布団の上に寝かされていた。
指を動かしてみる。
……動いた。
腕を動かしてみる。
……何か柔らかいものに触れた。
寝返りを打って、体をそっちに向けてみると。
半裸の楠ノ瀬が俺の隣に寝転んでいる。
寝ているわりに呼吸が荒い。
額には汗が滲んでいる。
頬には涙の跡が残っていた。
「くす……の……せ」
声が掠れた。
彼女の眉がぴくり、と反応する。
「楠ノ瀬」
今度はさっきよりしっかりとした声を出せた。
楠ノ瀬が苦しそうに顔を歪めたあと、ゆっくりと目を開く。
しばらくきょろきょろと目を泳がせてから、
「……高遠……くん?」
震える声で俺を呼んだ。
俺は小さく頷いた。
楠ノ瀬は早朝の朝顔のように……控えめに、花開くように、顔を綻ばせた。
「私のこと……わかる?」
俺は大きく頷いてみせる。
「……よかった」
楠ノ瀬が微笑むと、彼女の目尻からひとすじ透明な涙がこぼれ落ちた。
彼女が俺を繋ぎとめるように、強く俺の手を握る。
俺たちはそのまま……横に並んだまま……目を閉じた。
楠ノ瀬の呼吸が落ち着いたのを確認してから、俺は眠りについた。
『理森』
頭の中で声が響く。
『理森……理森……理森……理森……理森……』
その声は、ひたすらに俺の名前を連呼する。
何かの呪いのように、何度も何度も何度も……。
「うるさいっ……!」
俺は頭の中でしつこく響く声を振り払うように頭を掻き毟った。
「高遠くんっ……!」
俺を呼ぶ楠ノ瀬の声が聞こえる。
「高遠くん……大丈夫!?」
心配そうな声色で俺に呼びかける楠ノ瀬。
ひんやりとした手が俺の肩に置かれる。
「たか……と…………くんっ……」
俺を呼ぶ楠ノ瀬の声がすぐ耳元で聞こえ……る。
「……か……お…………んっ……」
俺を呼ぶ楠ノ瀬の声が、聞こえ…………る?
「……ぉ…………ん……」
俺を呼ぶ、楠ノ瀬の声が、聞こえ………………ない。
『理森』
俺を呼ぶ誰かの声が聞こえる。
『理森……理森……理森……』
名前を呼ばれるたびに、俺の体内の血がざわざわと泡立つ。
全身の血が沸騰しているみたいだ……体の中を、沸き立った血が激流のように流れ回っている。
その激しさに俺の心臓はついていけない。
ぎゅうぎゅうと雑巾のように心臓を絞られて、全身を痛みに支配される。
…………何も、考えられなくなる…………。
『理森……理森……理森……理森……理森……』
血の音に混じって、何か聞こえる。
理森……理森……理森…………
――何だ、それ……?
奔流のように体内を流れ回る自分の血の音以外、何も認識できなくなる。
遠くで鈴のような音が聞こえた……気がした。
暗くなっていく視界の中で、音のしたほうだけがほのかに光っている。
*****
目が覚めると、夜だった。
障子越しにやわらかな月の光が差しこんでいる。
俺はいつかのように、冷たい布団の上に寝かされていた。
指を動かしてみる。
……動いた。
腕を動かしてみる。
……何か柔らかいものに触れた。
寝返りを打って、体をそっちに向けてみると。
半裸の楠ノ瀬が俺の隣に寝転んでいる。
寝ているわりに呼吸が荒い。
額には汗が滲んでいる。
頬には涙の跡が残っていた。
「くす……の……せ」
声が掠れた。
彼女の眉がぴくり、と反応する。
「楠ノ瀬」
今度はさっきよりしっかりとした声を出せた。
楠ノ瀬が苦しそうに顔を歪めたあと、ゆっくりと目を開く。
しばらくきょろきょろと目を泳がせてから、
「……高遠……くん?」
震える声で俺を呼んだ。
俺は小さく頷いた。
楠ノ瀬は早朝の朝顔のように……控えめに、花開くように、顔を綻ばせた。
「私のこと……わかる?」
俺は大きく頷いてみせる。
「……よかった」
楠ノ瀬が微笑むと、彼女の目尻からひとすじ透明な涙がこぼれ落ちた。
彼女が俺を繋ぎとめるように、強く俺の手を握る。
俺たちはそのまま……横に並んだまま……目を閉じた。
楠ノ瀬の呼吸が落ち着いたのを確認してから、俺は眠りについた。
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