あなたを喰べてもいいですか?

スケキヨ

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第2章:シエルの捜索

2-15.薬湯 ※

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 あの日以来、シエルは身動きが取れなくなってしまった。白い大蛇に噛まれた傷が膿んでしまったのだ。
 それに女の監視も強まった気がする。

 朝も昼も、もちろん夜も……女の都合に合わせて、シエルはいつでも彼女と交わらなければならなかった。
 シエルにその気がなくても……気がつけば、女の胎内なか挿入はいってしまっているのだ。

 しかしシエルが何よりも腹立たしかったのは、女に触られると……シエルの意志とは無関係に……その都度、反応してしまう自分の男根であった。
 まるで奴隷のように、女に奉仕してしまう自分の分身が恨めしくて仕方ない。

 明け方。何度目かの絶頂に達した女がようやく眠りについた頃――。

 シエルは女を起こさないように気配を消しながら、小屋の外にある泉へと向かった。
 膿んだ左脚を引きずるようにして辿り着くと、祖父から貰った薬草を取り出す。
 その草は相変わらず強烈な臭気を放っているにも関わらず、シエルは何故だかホッとしていた。最近はあの女が発する甘い匂いばかり嗅いでいたせいで、嗅覚がおかしくなってしまったのかもしれない。

 水にふやかした薬草を患部に塗ると、スーッ……と冷たい感覚が皮膚の内部にまで浸透していくようだった。
 心なしか、頭の中までスッキリと冴えてくる。

 ここに来てから、ずっと頭の中がモヤモヤしていた。何かを考えようとしても、靄がかかったように輪郭がぼやけてしまって、思考がまとまらないのだ。
 最近ではレオポルトの顔すら、はっきりと思い出せない時がある。

 そして、サーシャの顔も……。

 心が折れそうな時、シエルはサーシャの姿を思い浮かべることで乗り切ってきた。
 シエルにとって彼女は特別な存在だ。
 従兄妹であり、友人であり、かけがえのない大切な女性であった。
 それは子供の頃からずっと……他の男と婚約した現在に至るまで、まったく変わらない。

 今まで一日たりとて彼女の顔を忘れたことなどなかったのだ。それなのに、サーシャの顔をろくに思い出せない日が来るなんて……。
 シエルにはもう何がなんだかわからなかった。この森に入って以来、ずっと原因不明の熱に浮かされているみたいだ。

「そうだ、この草を煎じて呑んでみようか……」

 たしか「熱にも怪我にも効く」と、爺様は言ってなかったか?
 この薬草を呑めば、頭のモヤモヤも少しはマシになるかもしれない。

 シエルは火を起こそうと、覚束ない足取りで薪になりそうな枝と枯草を集めはじめた。幸いなことに泉の周りには木々が生い茂っている。目当てのものはすぐに集まった。
 まず枯草に火をつけて火種を作る。火がついたのを確認してから集めた小枝をかぶせると、枝に移った火が音を立てて燃えはじめた。

 シエルはパチパチとぜる炎を見つめた。

 初めてここに来て、焚火の明かりを見つけた時――。

 まさに天のたすけだと思った。
 これこそ神の恵みに違いない……と。

 しかし今ならわかる。
 それは幸福な勘違いに過ぎなかったのだ、と。

 シエルは水と薬草を入れた小鍋を火にかけた。しばらくすると、草の成分が浸み出したものか、真っ黒く染まった薬湯ができあがった。

「……苦い」

 一口飲んだシエルの顔が盛大に歪む。
 見た目に違わず、やはり不味い。
 煮出す前に比べて臭いは少し薄れたものの、それでもやっぱり癖のある臭いは健在で、呑みづらいこと、この上ない。

 しかし、薬湯が喉を過ぎて腹の中にまで到達すると、スゥー……ッと澄んだ風のような爽快感がシエルの全身を通り抜けていった。
 我慢してもう一口飲むと、頭の先から足の先まで、ひんやりとした風が吹き抜けて、シエルの中に溜まっていたもやをかき消してくれた。

「……すごい、さすが爺様」

 シエルはその効果に驚くとともに、改めて祖父に感謝した。
 目を閉じて、サーシャの顔を思い浮かべてみる。
 まだ元気だった頃のサーシャ。
 ふっくらとした薔薇色の頬。
 朝焼けのようなすみれ色の瞳。
 笑った時だけ浮かびあがる魅力的な笑窪えくぼ……。
 今度は細部まではっきりと思い描くことができた。

「何をしてるんですか?」

 シエルは目を開いた。
 うんざりして振り返ると、あの女が立っていた。薄い敷布シーツ一枚を纏っただけの姿で。

「……火を焚いていた」

「火?」

「そうだ」

 シエルは口数少なく答えた。
 この女とは、これ以上関わりたくない。
 もう放っといてほしかった。

「ねぇ、早く戻りましょう? まだ夜明け前よ……」

 女は猫なで声で言うと、シエルにしなだれかかった。

「やめてくれないか」

 シエルは女を拒絶した。
 女は静かに微笑むと、シエルの背中に抱きついて首に手を回した。
 女の触れたところから、ゾクゾクと肌が総毛立つのがわかった。

 ――また、だ。

 シエルはつくづく自分の肉体の反応に嫌気がさす。
 女に触れられると、シエルの身体は悦んでしまうのだ。シエルの気持ちなんてお構いなしに。

 女がシエルを押し倒した。
 泉のほとりに生える短い草が、シエルの背中や首筋にチクチク刺さる。

 女は纏っていた敷布を外すと、空中へと放り投げた。白い布がハラリと夜明けの空に吸い込まれてゆく。
 白く輝く裸身がシエルの目の前にあった。
 張りのある乳房とその先端でツンと尖った薄紅色の蕾に嫌でも目を惹きつけられてしまう。
 シエルが疲弊していくのに反して、女はますます美しく、淫らになっていく気がした。

「ハァ……あ、んっ、はぁ……ぁ、ハ、ぁあ……」

 女がシエルに跨って腰を振っている。
 滑らかな曲線を描いてキュッとくびれた腰がなまめかしく揺れる。
 女が腰を落とすたびに、銀色の長い髪が波のように広がった。

「うぅ……あ、ぁあ」

 シエルはされるがままだ。
 喉の奥から漏れる呻き声が快感から来るものなのか、苦痛から来るものなのかーーシエル本人にも、もうよくわからない。

「ねぇ、触って」

 女に促されるまま、揺れる乳房に手を伸ばす。相変わらず、手のひらに吸いつくような魅惑的な柔肉だ。シエルが爪を立てて乱暴に揉みしだくと、女の白い肌に赤い引っ掻き傷が点々と浮かんだ。

「あぁ、んっ……イ、ィ……もっとぉ、もっと……強く……」

 女との交わりがどんどん動物じみていく気がして、シエルは怖くなった。
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