47 / 76
19日目の投票結果
4/20時点の大賞ポイント分布
しおりを挟むリュウジには双子の兄のリュウイチがいる。
ほとんど同じタイミングにてこの世に生を受けたというのに、僅差にて生まれながらに兄と弟という上下関係を押し付けられたリュウジ。
だがそれは彼の屈辱にまみれた人生のほんのはじまりにすぎなかった。
兄のリュウイチは容姿端麗で学業も運動も優秀。何ごともそつなくこなす優等生。毎年、バレンタインデーになると、家中がチョコレートのニオイで甘ったるくなるほどの人気者。
弟のリュウジは容姿その他、すべてが平凡。学校の成績も赤点こそは取らないが、突出することもない。どこまでいっても可もなく不可もなく。バレンタインデー? 母親からの義理チョコしかもらったことがないよ状態。下駄箱にラブレターなんて都市伝説の類だと思っている。
あまりにも対照的な双子。
それゆえに周囲からはよく「リュウジはお母さんの腹の中で、リュウイチに栄養をとられすぎたんだ」なんぞとからかわれたものである。
学年が同じである以上、どうしたってことあるごとに二人は比べられる。
そしてその度にこう言われるのだ。
「あー、おまえ、ダメな方か」と。
物心がついた頃から、ずっとみんなからこんなことを言われ続けているうちに、リュウジ自身も「自分は兄とちがって、ぜんぜんダメな奴なのだ」と考えるようになっていく。
両親や親族たちですらもが、表面上はとりつくろっているものの、そうであったのだから抗うなんていう考えは、はなから思い浮かびもしなかった。
リュウイチはいい子で、リュウジはふつう。
光と影ですらない。
光と道端に落ちてる石ころ。
ではいつも褒められ期待のまなざしを一身に集めるリュウイチは、どうであったのかというと、これまたよく出来たお兄ちゃんであった。
驕ることなく、兄として弟をたえず気遣う。
おそらくは唯一、リュウジを双子の片割れとしてではなく、一人の人間として扱い、ちゃんと向き合い、接していたのが兄のリュウイチ。
リュウジはそんな兄を尊敬しつつも、妬ましさも感じ、コンプレックスを拗らせつつも、どうしても嫌いになれない。
対等に扱われるほどに、しんしんと心の内に降り積もり、ぶ厚い層となっていく劣等感。
こんな、なんともいえない複雑な感情を抱いたまま、リュウジはふつうに成長していくことになる。
この先もずっとそんな日常が続くのか……。
絶望にも似た、諦めの心境にあったとき、異世界へと渡り勇者となったリュウジ。
ギフトはタワーマスター。
これはタワー型のダンジョンを形成し管理運営できる異能。タワー内限定にて世界を構築できるので、いわば亜空間のグレードダウン版。
スキルは宝物錬成。
何でも造れる便利なインチキ錬成とはちがい、金銀財宝のみを造りだせる。しかしこの能力には制約があった、それは自身のタワー内のみで錬成させることが可能というもの。
神さまに呼ばれた際に、リュウジがこのギフトを選んだ理由は「なんとなくおもしろそう」だったから。ダンジョン経営とか、いかにもファンタジーらしいし。
スキルに関しては、どうしてこれが発動したのかは当人にもわからない。だが制約があることからして、ギフトとセットだったのかもしれない。
異世界に行けば、もう兄と比べられることもなく、新たにやり直せる。
リュウジはそう考えていた。
だが現実はちがった。
召喚された先にて待っていたのは、またしても比較。
同時期に召喚された勇者たちと見比べられて、品定めをされて、吟味の上に選別される。
ちょうど戦争中であった彼の国にて求められていたのは、戦う術を持つ者。目の前の戦局を左右し、先陣に立って難局を打開できる者。
設置型のリュウジの異能は、一部に高く評価こそはされたものの、現状の国が求めるチカラではなかった。活用次第では無限の富をもたらす打ち出の小槌だというのに、それを活かす余裕すらもなかったのである。
戦えないごくつぶし。
いつしかリュウジは勇者仲間たちからも孤立し、一人でいることが多くなっていく。
異世界渡りの勇者として、周囲はそれなりに敬意は払ってくれるけれども、その瞳の奥にあったのは、かつて元の世界で自分に向けられていたものと同じであった。
それを知ったリュウジは、何もかも放り出して逃げた。
すっかり諦めていたところに提示された新たな世界と可能性。
なのにそこもやはり同じだったとわかって、ついに彼の魂が悲鳴をあげたのである。
どこをどう彷徨ったのかも忘れてしまった、ある日のこと。
リュウジはベリドート国の荒地に流れ着く。
そこで、ふと、思い出したのは自分のギフトとスキル。
「そういえばノットガルドへ来てから、まだ一度も試していなかったか」
ずっとため込まれていた魔力や想いに比例するかのようにして、出現したのは千階層をも誇る超大な天空の塔。
その塔の内部はリュウジの世界。
タワーマスターの能力にて環境を整える作業に、彼は次第に夢中になって没頭していく。
これがベリドート中を巻き込んだ試練の塔の誕生秘話である。
勇者リュウジくんのわりと長いお話。
これをわたしはグビグビお茶をのみながら聞いていた。
そして彼の語りもひと段落ついたらしいので、率直な感想を口にした。
「赤点一個もなしで『ボクふつうだから』とかイヤミか? こちとら毎回、ニ三個が当たり前だってぇの。その都度、恥じも外聞もかなぐり捨てて、全力で先生に泣きつき媚びへつらって、追試やレポートや補習でどうにか生きてきたっていうのに……。ぜいたく言ってんじゃねえぞ、この野郎!」
わたしの発言を受けて、リュウジくん「えー」
ルーシーは「ふつうってムズカシイですよね」としみじみ。
まったくもって青い目のお人形さんの言うとおり。
毎回、テストのたんびに徹夜して頑張っても、ギリギリのわたしからすれば、赤点ゼロの学園生活とか充分に勝ち組。
わたしだって一度くらい友だち相手に「ねえ、あんたテストどうだった?」「わたし? とりあえず赤点は回避かな」ぐらいの余裕しゃくしゃくな台詞を言いたかったよ。
だが現実は「ヤッべー、完璧に山をハズしたぁ」だ。それどころか一度なんて「おまえ、もう、いっそカンニングでもしろよ。先生、見逃してやるから」なんて言われたことすらあるというのに。
「マジメに上ばっかり見てっからしんどいんだ。もっと下を見ろ、下を! 足下でにょろにょろしているダメな連中を眺めて、ほくそ笑み、溜飲をさげ、おおいにストレスを解消しろ。それで万事解決する」
「いや、それはさすがに人としてどうかと……」
せっかく人生をオモチロおかしく過ごすコツを伝授してやったというのに、リュウジが不満を表明した。
でもルーシーにはウケたらしく、お人形さんはカタカタ肩をふるわせていた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説


第14回恋愛小説大賞エントリー作品を集計してみた
スケキヨ
エッセイ・ノンフィクション
★「HOTランキング」のデータも集計してみました。★
2021年2月に開催されているアルファポリス主催「第14回恋愛小説大賞」。全応募作品のタイトルから、今年の恋愛小説大賞の流行や傾向、対策(?)について考えてみたいと思います。期間中の順位の推移なども記録していきます。
クルマについてのエトセトラ
詩川貴彦
エッセイ・ノンフィクション
クルマを所有することはとても楽しいことです。でもいろいろなアクシデントにも遭遇します。車歴40年、給料と時間と愛情を注ぎこんできたワシの「クルマについてのエトセトラ」をご覧ください(泣)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
Webコンテンツ大賞の戦い方【模索してみよう!】
橘花やよい
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスのWebコンテンツ大賞。
読者投票もあるし、うまく戦いたいですよね。
●応募作、いつから投稿をはじめましょう?
●そもそもどうやったら、読んでもらえるかな?
●参加時の心得は?
といったことを、ゆるふわっと書きます。皆さまも、ゆるふわっと読んでくださいませ。
30日と31日にかけて公開します。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる