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 長期休みは終わり、新しく授業が始まり数日が過ぎた。
 今はクラスで学園祭での出し物について、話し合っていた。

 進行はこのクラスで私の次に爵位が高い、伯爵家次男のトールがやっていた。私が拒否したからだが。

 「えー1年は食べ物を取り扱います! だれかやりたい食べ物上げてくれ」

 わいわいと騒がしい教室は浮き足立っているのが分かる。学園祭では1年は出店で食べ物を売り、2年は出店で自分たちで作った魔術具を売る。3年は魔法を使った劇となっているのだ。

 3年の劇は素人にもかかわらず、毎年多くの人が見に来るくらい、クオリティーが高く、魔法の集大成が凄いらしい。
 また、2年が作る魔術具は素人が作った物のためとても安い値段で売られているが、たまに凄く上手い人がいてお宝があるらしい。それらを手に入れるために多くの人が来るという。
 噂では先生が作ったものを入れているのではないかとも言われている。
 その先生たちも出店を出し、魔術具やら調合した薬など、先生たちの得意分野で様々なものを出しているという。

 そんな魔法づくしの学園祭だが、1年はまだ大それたことは出来ないので、無難に食べ物ということらしい。

 フライドポテトや飴玉、サンドウィッチやパン、フランクフルトなどと様々な案が出る。
 そういえば、この間ミッシェルが作って食べた、たこ焼きやお好み焼きは出店でよく食べたと言っていたっけ。

 まさか知らない料理を言うわけにもいかず、静かに見ていると、1人の女子が手を挙げた。

 「シュ、シュタワイナ家の料理を出すのはどうでしょうか! シュタワイナ様もいらっしゃいますし!」

 え? と思って顔を挙げると皆私を見ていた。あまりの迫力に思わず後ろに下がりそうになる。

 「シュタワイナ様、あの私、シュタワイナ家の料理が凄く好きで……! 図々しいと思うのですが、もし良かったらこの機会にぜひ作ってみたいのです……!」

 先程の女の子が、顔を真っ赤にして、私に言う。確か平民の子で名前……、アンだったような?

 「えっと……、アン様よね? 好きと言ってくれてありがとう。とても嬉しいわ。ただごめんなさい。ここですぐには決められないの、家族に相談しないと……、料理はなんでもいいのかしら?」
 「アン様なんて! とんでもないです! 本当ですか!? 楽しみにしています!」

 こんなに喜んで貰えると本当は自分は発案どころか、一切何もやっていないことに少し胸が痛む。
 しかし、私が何もしていないことを知られれば、私の価値は下がり、処刑してもミッシェルがいるから新しい料理は作られると考えられてしまうかもしれない。

 クラスメイトに向けて微笑む私は滑稽だと思った。
 
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