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その夜

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ブカレアの夜
大通りの酒場、猫柳亭は今日も満席である。
先代ジルことキースが初めての酒にくちを付ける頃、
当代となったジル=アーゴットは、加護を授かって初めての仕事、
他メンバーへの小ハンマー造りに没頭していた。
通常武器のような大物の鍛冶は師匠と弟子の2名一組で行われる、
弟子が大ハンマーで鉄を打ち付け。
師匠が小ハンマー形を整える、息を合わせるのが大事な作業だ。
純鉄で作られるのが普通で、こればかりは国から認められた仕事道具であるので、
鍛冶ギルドの所有する鉄インゴットで作られる。
アーゴットは鍛冶の正式メンバーには及ばないかもしれないが、
毎日斧を打っていた経験から、ハンマーの成型など朝飯前である。
しかしこれが自分の実力を試される初めの機会だという事をジキルとキースから、
口酸っぱく言われたこともあり、ずいぶんと時間をかけたので、深夜に至った。
「まあ、こんなもんだろう」
アーゴットには気になっていることがある、
なぜいつもと同じ作業をしているのに、加護があるだけで性能がよくなるのか?
ジキルに聞いた話では、鉄が冷えて固まる朝にかけて加護の効果が発揮されるという話だ。
ためしに鑑定したところ、自分が製作したハンマーに変化はない。
「ふーん、何でだろうなあ。。。」

(はあ。。。雑な作りだなあ、まあ新入りならこんなもんか)
疲れたアーゴットがいつものベンチで寝入るために横になって、鍛冶場に目をやると
20歳前後の若い男がアーゴットのハンマーをじろじろ見ながら座り込んでいる
アーゴットの小ハンマーに手をかざし、なにやらつぶやいているようにみえる

「おい。お前どこから入った?」

その青年はこちらを驚いたように見ている
「勝手に鍛冶場に入りやがって、衛兵よぶぞ?」
(おい、お前俺が見えるのか?」
「見えるも何もって、お前さっきから口動いてないのに何で声聞こえるんだ」
-「エリスの加護か、珍しいものもってるんだな」

鑑定眼持ちであってもエリスの加護は見えないはず・・

バッカス「俺はバッカスだよ一応神だからな。そのくらい分かるさ」
アーゴット「バッカスって神様のか?あれだろ、ひげもじゃの、でかいドワーフみたいな酒持ってるあれじゃないのか」
バッカス「どんなイメージ持ってんだ。。。酒も好きだが俺はこの世界では鍛冶仕事もこなすんだ」
バッカス「精霊エリスのご加護ってやつだな、精霊ニンフに育てられた時に覚えた精霊鍛冶の力が強いのさ」
アーゴット「神様でも加護うけたりするのか・・」
バッカス「その世界の成り立ちによって発現できる力は違う」
アーゴット「それにしても若いんだな」
バッカス「変な奴だな、一応神なんだからもう少しありがたがってもいいんだぞ、お前の思ってる年齢とは違うはずだが、この世界に降り立って間もないからだろうな」

暗に別の世界の事を話しているのだろうか?

アーゴット「それよりもあんた何してるんだ、こんな所で」
バッカス「おれはめんどくさがりだから加護は8つしか人間に与えていない、その代わり加護を受けた人間の製作したものは、精霊術で一段上に加工してやってるのさ」
アーゴット「なんだか鍛冶神らしくないな。。。」
バッカス「俺の為に酒をたち女をたつような連中の涙ぐましい信仰心の結晶だぞ、あいにく酒のほうが専門でな、鍛冶で打ち直したりはしないのさ」
アーゴット「いったいどんな効果があるんだ?」
バッカス「そりゃ、刃渡りと持ち手の微妙なバランスをわからないようになおしたり、刃脈のゆがみを人間にわからないレベルで調節したりだな」

ようは人間が感知しえない部分の修正をしてるということか

アーゴット「でもそれって、あんたが寝てる間になおしていたら、俺たち鍛冶師は一生気づけないし上達できないんじゃないか?」
バッカス「だから引退するまでつきあってるだろう?」

アーゴットはその場で考え込む・・・

アーゴット「俺、、その加護いらないや、パスで頼む」
バッカス「はあ?!パスってお前加護いらないってのか?」
アーゴット「確かに性能が20%も向上するっていうのは捨てがたいが、俺自身が成長したわけでもないのに、加護をもってるだけで良い鍛冶仕事が出来るなんて気持ちが悪い」
アーゴット「大体あんたの加護の代償の多さはなんだ?」
「女と住めない、酒が飲めない?バッカス神が聞いてあきれる」
バッカス「それは人間どもが俺に酒の神としての力より、ついでに覚えた精霊鍛冶の力を欲した結果だ」
アーゴット「あんたにも事情があるってわけか」
バッカス「俺の姿は女には見えてしまうんだ昔いろいろあってな、だから女と住んでる奴の鍛冶場にはいけないんだ」
バッカス「酒は俺が代わりに有難く飲んでるぜ」
アーゴット「それで、、出来るのか?」
バッカス「ああ、お前の鍛冶場のものには加護を与えなきゃいいんだな?」
アーゴット「ああ、それで頼む」
バッカス「それじゃあ代わりに酒神としての力を貸してやろうか?」
アーゴット「酒神として?」
バッカス「この世界は戦争に明け暮れているから酒どころじゃないって鍛冶の力を貸しているが、いらないっていうなら、俺本来の力を貸してやるぜ」
アーゴット「バッカスの酒の加護か、なんだかすごそうだな、何ができるんだ?」
バッカス「うまい酒が飲める!」
とんでもないドヤ顔である・・・
アーゴット「うまい酒って。。。なんだ毎日酒でもくれるのか?」
バッカス「酒を造るときにはもれなく発酵するという過程がある、精霊の力ではなく、酵母というのが関係していてだな。。。まあその辺の奴らが活発になって」
バッカス「ようは俺といると酒がうまくなる、最高にな」
神がいう最高にというのが、なんだか恐ろしい気がするが。。。
アーゴット「おれは酒造りのことはわからんが、酒樽に材料つめて寝かせるんだろ?それでいいのか」
バッカス「まあどんなに適当に作っても、神の奇跡って奴で俺の加護持ちの作る酒はうまくなるぜ」
アーゴット「それじゃあ今度ためしてみるか」
アーゴット「それにしても精霊鍛冶って、鍛冶仕事がうまいんじゃないのか?」
バッカス「俺は酒の神だよ、魔法で加工ができるって思えばいい、もともとは精霊ニンフたちの技術だ、人間にかすために覚えた力じゃない、酒のつまみを作るには良い道具が必要だろう?」
こいつは、、酒のためなら包丁から作るって言うのか、、、
アーゴット「そうか普通酒をのんだら加護が消えるらしいが、俺は別ってことでいいんだな?」
バッカス「ああいいさ」
アーゴット「それじゃあこれからもよろしくお願いします、バッカス神様」
バッカス「そうだぞ、俺は神様だからな、そうやってうやまえよ?」
ようやく神としての威厳をとりもどしたバッカスはどや顔である。

バッカス「よく見て見な、ここの刃の付け根の部分に揺らぎが見えないか?それと刃物に限らず、鍛冶で生まれる道具って言うのは、使う人間の事を考えなくちゃいけない」
バッカス「お前は使う人間の体格や手のサイズを考えたか?精霊鍛冶で手を貸すことは今後ないが、俺からのアドバイスだ」
アーゴットは自分の打ったハンマーを針の先を見るように細めで見る
たしかに神だけのことはある、長い年月鍛冶仕事に没頭してきたアーゴットでもやっと分かる程度の揺らぎがある
アーゴット「なんとなくわかる程度だけど、わかりました」
少し見る目が変わるな、さすが神だ。
アーゴット「ああそれと俺は結婚相手とは一緒に住みたいんだ、今度紹介するよ人間として」
バッカス「変な人間だなお前、それじゃデュオソニスって名前で紹介してくれ」
アーゴット「なんだそれ変な名前だな、、、ソニスにしよう」
バッカス「ソニスか、良い名前だな、じゃあそれでいこう、それと頼みがあるんだが」
アーゴット「たのみ?」
バッカス「お前ら俺への捧げものとして鍛冶ギルドの地下に酒を流しているだろう?この世界から消失する酒をたしかに俺は飲めるが、できればコップにでも注いで、いや酒瓶ごと置いておいてくれないか?」
アーゴット「それで酒がなくなったら騒ぎになるだろう?」
バッカス「うーん、、それじゃあ今日にでも夢枕に立ってやるさ、酒は瓶で置けってな」








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