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エリス神像

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翌日
ジル=キースはジキル=ハイドの鍛冶場を娘をともなって訪れる、

西門と南門のちょうど中間地点に火屋根はある、目の前の広場の沸きには近くのエイル川から続く工業用水路が南北に続いて海まで達しており
木材や石材に紛れて、住民の生活物資なども船で運ばれている。

鍛冶ギルドで正式メンバーになるものは8つの名前を加護と共に継承する事になっている、
ジル、ジキル、ジン、ジンクス、ジアン、ジリアン、ジオ、ジオンの8つである。
8つの継承は2つで1対となっておりジル、ジン、ジアン、ジオの4つが親で他が子である。
継承する加護の力は同じだが親が子を指名する事になっていて、立場が強い。
この世界では平民は苗字などなく、
ジル=キースも継承前はただのキースであり、ジキルもただのハイドであった。
アーゴットはジキルの引退後ジキル=アーゴットになるはずだったが・・・。
ジル「ジキル、今日来たのはお前の息子をうちの婿にって話だ」
ジキル「何の冗談だ、それは俺に引退して娘を引き取れって話か?」
ジルが娘を見習いの子供に嫁がせるわけはない。
ジル「違う、俺が引退してアーゴットにジルの名前を継承させるという話だ」
ジキルは開いた口が塞がらないといった表情で硬直する。
ジキル「冗談言うな、こいつはまだひよっこだぞ?」
「しかもお前はギルドマスターをやめてまで継承させるって言うのか?」
ジル「ああそうだ」
ジルの真剣なまなざしに何かを察したジキル
ジキル「それはこの間の金属と関係あるのか?」
ジル「聖連鋼は先代ギルドマスターであり俺たちの師匠が打った聖剣の素材だ」
ジキル「・・・!」
ジル「俺はこいつに二度と作るな破棄しろと命じた、二つ返事で了承したこいつはもうガキじゃない、鍛冶への想いが無ければ出来ない事だ、十分に資格があると踏んだ」
ジキル「他のメンバーになんて説明する気なんだ」
ジル「俺は親馬鹿でとおっている、娘可愛さに婿に継承をした馬鹿にでもなるさ」
ジルの娘に対する親馬鹿ぶりは町で知らぬものが無いほどだ。
ジル「それにこいつがジルの名を継げばジキルの加護は死ぬまでお前が継ぐのも決まりさ」
ジキル「俺は実力でこの加護をうけているんだ、誰がなったって同じだ」
たしかにジキルを超えるものはジル以外いない。
ジキル「アーゴット、お前はミリアムちゃんを幸せにできるのか?」
ずっと黙っている二人をみながらジキルは言った。
アーゴット「俺はミリアムが好きだ、幸せにできるかなんてわからないが、その気持ちに嘘はない」
ミリアム「私もアーゴットが好き、いつも優しくしてくれるもの」
ジル「こういうことだ」
ジキル「そうか、これはこれは。。めでたい話になったな」
こうなると切り替えが早いのがジキルだ。
ジキル「ところで聖錬鋼はどうする、道端に埋めるってわけにもいくまいし」
ジル「それなんだが教会のエリス神の像の材料にってのはどうだ?」
ジキル「ははーん考えやがったなあ」
神の像にいかなるスキルも使ってはならないのは道徳であり、いかなるスキルを行使するものも、
異端審問にかけられるほどの重罰を受ける。
スキルは例外なく改変を強要するものであり、
鑑定にいたっては神に対して使うなど許されないスキルだ。
ジル「アーゴット!このエリス神像はお前が作るんだ」
アーゴット「え。親父たちが打った方がいいんじゃ?・・」
たしかにアーゴットは神像なんて見たことはあるが作ったことは一度もない。
ジキル「そりゃあおめえ、今の金属価値で50万はしようって神像を、製作して鍛冶ギルドを経由して町の王教会に収めるんだぞ?」
貨幣価値で銀貨100枚 金貨で50枚 銅貨なら500枚だ
アーゴット「あっ・・・・」
ジル「そんな信仰心あつい男の話ならたちまち町の噂になるし、嫁の花婿の評判としては申し分ないさ、ついでに婚礼の費用もちゃらになるだろうな」
ジキル「教会の使用料も馬鹿にならねえしなあ、そんな敬虔な男ならさぞやご祝儀もがっぽりになるはずだ」
ジルとジキルは悪だくみをする悪党のような顔でにんまり笑った
ジキル「結婚は明日にでも教会に申請しに行くとして、ジルよ、お前後継のギルドマスターの事は考えてあるんだろうな?」
ジル「お前に決まってるだろ」
ジキル「おれはそんな柄じゃねえよ」
真面目な顔になったジル
ジル「ジキル・・・今独立賛成派の他の鍛冶メンバーがギルドマスターにでもなってみろ、もし何か起こったときに鍛冶ギルドそのものの存続が危うくなるかもしれないんだ」
ジル「お前ならわかるはずだ、先代の弟子だった俺たちが鍛冶ギルドをつぶして良いのか?」
ジキル「仕方ないようだな・・」
ジル「お前が後継なら誰も文句は言えないさ、かえってこれで良かったんだ、もし俺が死んだあとなら後継争いが生れたかもしれん」
ジキル「死ぬなんてははっ」
ジル「いや、この情勢下では笑えん」
暗殺なんて物騒な真似するとは考えにくいが、ジルとジキルの声望は町で根強く、
この二人が賛成しないから反乱にまでは至っていないともいえる。
ジキル「とにかくギルドマスターの件は俺が引き受けるとしよう」
ジル「それじゃあこれからギルドに来てくれ、継承した後ではギルドマスターの任命権も失うからな、ミリアム帰るぞ」
ジキル「アーゴット、お前はエリス様の像をさっそく作って置け」
アーゴット「鍛冶場使って良いのか?まだ昼だぜ?」
ジキル「明日には帰るさ、今日の仕事は全部キャンセルだ、お前の好きに使えばいい、ストックの金属も何使っても良いぞ」
アーゴット「何使ってもって・・親父・・まじでいってんのか?」
ジキル「エリス神像なら教会にある石製の紋章に変わって街をまもり慕われる象徴になるんだ、俺も神に祈りたい気分なのさ」
そういうと3人は鍛冶場を出て行った。
エリス神像
おれが子供のころ大陸の教会で見たものは真鍮製で、磨き込まれ、
後背のステンドグラスからさす後光によって輝く素晴らしいものだった。
神像は鑑定されないとはいえ何かの金属で覆わねば間違いがあるかもしれない。
アーゴット「何でも・・っていったよな?」
アーゴットは倉庫の奥の隠し蓋の存在をしっており、その奥に銀のインゴットをジキルが隠しているのを知っていた。
銀のインゴットは1本で鉄のインゴット10本は買える代物で
いくら正式メンバーのジキルの収入であっても買えるようなものではない。
以前に銀製品を王室に依頼されたときの一部だ。
通常大量の注文を受ける場合。金属の材料は完成品の10%増しで受け取る
余分な熱での蒸発や単純なミスも含まれるが、100の素材から100の製品を作ることは通常ありえない。
ジキルはその類まれな能力によって、熱の管理による金属の蒸発を0にしてしまうし、
ミスに至ってはここ数十年したことが無いと言っていた。
そんなわけで王室からせしめたともいえる銀インゴットをもっているのである。
銀には対魔、解毒の効果がある、解毒に関しては毒物とすぐ反応して色が変わる特徴から、
スプーンなどの食器にして防毒にも利用される。
貴族や王族は暗殺のリスクをなくすために、食器類はすべて銀で作っているのである。
対魔は主にアンデットに対するものだ。
放置された人間、獣を含む死体はノーアの森のような何らかの神霊力、精霊力、魔力などが存在する土地では
その力を吸い込みアンデット化する事があり、その場に置いて放置しないのはいわば常識になっている。
アーゴットがワークボアの死体を仕事を中断してまで持ち帰ったもこの辺に原因がある。
アーゴット「銀のエリス神像なら・・」
アーゴットは帰ってきたジキルが驚くであろう事、
ジキルは真鍮の像をアーゴットにみせた張本人であり、
これを使えという意味で言ったのであったが・・
(真鍮はランプの素材などに通常使われ、装飾品などに多く使われ鉄より少し高い金属だ)。
アーゴット銀色に光輝く神の像の姿を思い浮かべた。
アーゴット「よし。。やるかっ!」
アーゴットはいつも通りに火炎鉱にリフレアを使い
斧を溶かし始める、
アーゴット「神の像なんだ、完成までエリス様に祈り続けながら打つとしよう」
聖錬鋼を素材に神エリスに祈りを捧げ続け神像を打つ。
聞いただけで何か起こりそうな話であるが、結婚への想い。
鍛冶に対する想い、今まで打ち続けたこの金属への想いも相まって、
アーゴットは翌朝まで不眠不休で作り続けた。
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