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風哭島奇譚~後日談A~
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凪の朝は早い。5:15起床、コーヒーを淹れて5:45に千紘を起こす。証券会社勤務の千紘が6:30に家を出た後、後片付けと洗濯、掃除。簡単な昼食。13:00からは戸籍上の母親からの命令で、東京にある神子の神職グループの事務の手伝いを時給でやらされている。御柱様はいなくなったが、神職グループが解散になるわけではなく、再び神饌の儀が起こらないように継続する必要があるとのこと。17:00退勤。買い物して帰り、藍と七穂に叩き込まれた技術で夕飯を作る。残業がなければ、たいてい千紘は19:00~20:00に帰って来るので一緒に夕食を摂る。後片付けと入浴、就寝は22:00~23:00。
割と単調なルーティン、だがこの生活を凪はいつも新鮮な気持ちで味わっている。400年前に失った、人としての感覚が戻ってきているのを日に日に感じるようになったからだ。御柱様でいた間も五感はあったが、どこかぼんやりとしていてはっきりしなかった。味覚だけは辛うじて生身の頃に近かったが死ねないので食べる必要がなかった。嗜好品としてリンゴジュースだけは飲んでいたけれど。
今は腹も減るし喉も渇く。ついこの間は初めて風邪を引いて、過保護な千紘が会社を休もうとしたのを一蹴して自分で病院に行った。リンゴジュースは今でも好きだけれど、最近は色々な果物のジュースも試している。真夏の直射日光を厳しいと感じるし、真冬の夜に薄着で外に出れば凍えるかと思う。そんな当たり前の感覚が自分に戻ってきたのが嬉しかった。
だが、弊害もある。千紘はそう思っていないようだが、凪には弊害以外の何物でもない。
「ただいま」
戻って来た千紘に、凪は我に返る。
「おかえり。今日ちょっと早かったな」
「金曜日ですから」
と言うのへ、凪は少し言葉に詰まる。普段から金曜日は残業することが少ないから、当たり前のことを言っているとも取れるけれど、そこに含まれている意図が凪には読み取れる。
「凪さん、風邪はもう治りました?」
「……治った」
50%確定だな、と凪は思う。
「じゃあ大丈夫ですね。今日満月だから楽しみ」
ああ、100%確定だ。そう思った瞬間、耳が熱くなる。千紘と暮らし始めてから1年も経っているのに、未だこの感覚に慣れない。千紘はそんな凪に笑って、耳に触れる。
「凪さん本当に慣れないですね」
「やかましい。……飯食わないのか」
「食べます、先に着替えてきます」
あからさまに機嫌の良い千紘にため息を吐く。それ以上にそういう千紘が嫌いではない自分に、凪は思わず苦笑した。
------------------------------------------
何だかんだ言っても、気恥ずかしさに慣れはしなくても、凪は千紘に触れられるのが好きだ。時間をかけて丁寧に快楽を高められ、文字通り心身共に蕩け切ったところで千紘の腕の中で果てるのは、幸せを実感できる一つである。
髪を指で梳いて額にキスしてくれるのもぼうっとした頭には恥ずかしさよりも心地よさが勝つ。後始末を終えた千紘に再び抱きしめられた時、凪は千紘が眠そうなのに気が付いた。
「……疲れてんのか」
「んー、ちょっとだけです。仕事が立て込んでて」
「そういう時はこんなことしてないで寝れば良かったんだ」
「やですよ、満月だったんだもん」
当たり前のように言うのへ、凪はため息を吐く。自分が月の満ち欠けに強く影響を受けるのを分かっているからだ。御柱様として400年生きてきた後遺症なのか、満月の時は感覚が鋭くなる。つまり、快楽もその分受けやすくなるから、千紘はいつも満月の夜に凪を抱きたがる。
「満月の時の凪さんは特別」
と半分眠りかけながら小さく笑う千紘の鼻を、凪は容赦なく捻り上げた。
「……それならもう少し付き合え」
とつっけんどんに言い、そのまま千紘の唇を塞ぐ。ややあって千紘の胸に手を突いて体を起こし、上から見下ろした。
「満月だからな、まだ足りない」
言ってしまってから凪は呆気にとられた千紘の顔に少々後悔する。大人げなかった。寝かせてやれば良かったものを。
「……いや、その、……何だ、体だけはまだ17なんだ。仕方ないだろ」
照れもあってどもり気味に言い訳した凪は、急に視界が反転して、背がシーツに押し付けられる。
「すっかり目が覚めました。めちゃくちゃ煽りますね」
常夜灯とカーテン越しに差し込んで来る月明かりに映し出された千紘の表情を見て、あ、これは、と凪は別の意味で後悔した。稀に千紘に入る、妙なスイッチ。それが完全にオンになっている。
さっきとは違う触れ方、丁寧でも優しくもない。セックスに関しては凪自身よりも凪のことを分かっている千紘が与えてくる快楽は、先ほどの甘い蕩け方ではなく強制的で何も考えられなくなっていく感じのものだった。首筋を辿った舌がそのまま下りて、隆起した乳首をなぞり、軽く歯が立てられる。ただでさえ満月で感覚が鋭くなっているのへ、事後の余韻が重なって、あっという間に凪は堕ちた。千紘の背に腕を回してしがみ付き、触れてはいるのに動いてくれない意地の悪い手のひらに自分の性器を押し付ける。
「凪さん可愛い。……腰、揺れてますよ、ほら、濡れてる音するでしょ?」
劣情を繕うこともない千紘の表情と声に、凪の体はより敏感になる。僅かに残っている羞恥は何の役にも立たず、凪はそのまま腰を揺らし続けた。これはほとんど自慰行為で、それを千紘に見られながらしているのだと回らない頭で考えた時、凪は羞恥どころかあり得ないほどの興奮に襲われる。体を震わせ、喘ぎながら夢中で腰を使い、最後には千紘の名を呼びながら絶頂を迎え、白濁を散らした。
自分だけ快楽を追ってしまった、とぼんやりしつつも反省しかけた時、
「凪さんって、もう俺の考えてること読めないんですよね。どんなに明確でも」
とティッシュで腹と手を拭いながら千紘が言う。
「……読めなくても顔に書いてある」
「それ読んで」
「嫌だ」
「えー、ひとりでするのは見せてくれたのに?」
「それは、……自分だけ欲に負けて悪かった。大目に見てくれ、お前も10代通ってるんだから分かるだろ」
凪としては真剣に謝ったつもりだったのに、千紘は笑った。
「悪くなんかないです、やらしい凪さん大好きだから。……じゃあ俺が言うから、答えて下さいね」
この表情通りならどうせろくでもないことを言われる、とは予測していたのに。
「凪さん、どうやって俺に犯されたいですか」
と下腹部を撫でられながら言われるのへ、こいつの妙なスイッチの正体は不穏な性癖だった、と凪は呆れた。それでもその言葉に引きずられてぞくぞくと肌が粟立つ、どうしようもない己の体。
「……顔が見える方がいい」
と呟くと、千紘は軽く唇を舐め、凪の膝を解いて足の間に割り込む。
「ちょっとローション足しますね。痛かったら言って……って、大丈夫そうかな」
このまま入れますよ、と囁かれて思わず凪は呼吸を止めてしまう。直後の圧迫感、違和感は避けられないけれど。
「ちゃんと呼吸して下さい」
宥めるように言われるのへ、不思議と心身の緊張が解れる。それでも、千紘がこれから実行する“不穏な性癖”を受け入れるには足りない気がして、凪は指先で千紘の手に触れた。
「手」
とだけ短く言えば、千紘は指を絡めてしっかりと凪の手を握る。この、理屈で無しに安心する行為にほっとする間もなく、腹の奥へ鋭い快感があって、甘い吐息が零れる。
「ここ、一番気持ちいいとこでしょ」
楽しそうに言う千紘に、凪は眉を顰める。分かり切ってるくせに。緩急をつけて擦り上げられるとたまらなくなる。おかしくなるほど感じてしまう。さっきだって同じところを責められて気持ちよくなっていたのに、回数を重ねるほど感度が上がるのが満月の夜だ。
やっかいな後遺症、と凪はぼんやりする頭で考える。だがこの後遺症のおかげで、普段は優しくて紳士的な千紘の、恐らく誰も知らないであろう一面が見られるのは、実は好きなのだ。
「マジでヤバい、気持ちいい、……持ってかれそう」
普段は残っている丁寧語抜きで、欲に掠れた声で言われるのが、まるで物理的に触れられたように凪の性感に直結する。繋いでいない方の手を伸ばして千紘の頭を引き寄せて唇にキスをする、あっという間に主導権を奪われるのが若干納得いかないが、愛情と劣情が入り組んだ濃厚なキスが凪の思考を溶かしていく。舌を絡め、髪を撫でられながら、確認させるようにゆっくり抜き差しされるうち、凪はどうしようもないほどの射精感がこみ上げてくる。無意識に蜜を零している己の性器に手を伸ばしたのを、千紘に手首を掴まれて阻まれた。
「だめ。さっきイったでしょ。……今度はこっち」
ぐ、と腹を押されて凪はそこから全身へ電流のように広がっていく快感に奥歯を噛み締める。
「嫌だ、出来ない」
「前にも何回も出来てるの、分かってますよね」
残念ながら分かってはいた。それこそ満月の時のセックスでは中だけで果てたことが何度かある。
「あれは……、何か変な感じで、……その、みっともなくなるから嫌なんだ」
「みっともない?感じすぎて可愛くなっちゃうのはみっともないとは言わないけど」
と小さく笑った千紘は繋いだ凪の手に軽くキスする。
「俺、今日は凪さんが俺に突かれてイくところ見ながらしたいんだよね。いつもより興奮してるみたい」
と欲を隠そうともしないのへ、凪はため息を吐く。心のどこかでこうなることを望んでいたのは自分だと自覚したからだ。
「……好きにしろ」
と呟くと体を抱え直され、思ったよりも強い刺激が来て、凪は目の前に火花が散った気がした。
「あ、……っ、急にすんな、ッ、……手加減はしろ、馬鹿!」
「無理。いっぱい突きたい」
容赦ないピストンで責め立てられ、凪は脳が蕩けていくような気がした。もう気持ちがいいことしか考えられなくなる。体の奥から生まれる狂暴な快楽に飲み込まれて自分としてはみっともなくなる感じが怖いけれど、千紘の本当に気持ち良さそうな顔を見ると、怖さが減って、こいつが気持ち良いなら構わないと思えてくる。
「あー、ホント凪さん可愛い」
薄く笑って独り言のように言う千紘に、最後まで溶け残っていた凪の理性や羞恥心が消えた。
「千紘、……も、いきたいから、」
腰を浮かせて飲み込んでいる千紘の芯の先端に、自分の一番気持ち良いところを押し当てる。
「……ここ、突いて欲しい」
「……煽ったの、凪さんだからね」
後は箍が外れたように互いを貪り、交わる。自分が漏らす甘い悲鳴も、千紘が囁く淫らな睦言も、全てが凪を追い詰めていく。
「だ、め……、や、もうイク……っ、イク、あ、……ッ、」
絶頂まであと僅か、というところで千紘が動きを止めた。さすがにここで焦らされては気が変になる、と凪の目に涙が浮かぶ。それを宥めるように千紘が凪の目元にキスをする。
「今からイかせてあげるから、凪さん、」
とさっきと同じように下腹部を指で撫で、
「ここに出すから、全部飲んで」
「いい、出していいから、……早く、」
懇願に答えるように深く重く貫かれて、凪は今まで経験したことのない感覚に包まれる。
「え、……何、何か変、やだ……っ、や、あ、ア……っ、………ッ!!」
視界も頭も真っ白になり、がくがくと体が震える、強烈な絶頂感と共に確かに果てたのに射精はしていない。鋭敏になりすぎた体の奥で、薄い膜越しでも千紘の吐精が分かる。いつもなら果てればすぐに冷めていくのが生理現象なはずなのに、絶頂の余韻が尾を引いており、何が起こったのか分からない。耳元で荒い吐息をついて、千紘が楽しそうに呟いた。
「凪さんならドライでいけそうだと思ってたんだよね。今までで一番エロかった」
------------------------------------------
「いつまで不貞腐れてるんですか」
丁寧語に戻れば良いというものではないので、凪は無視する。蓑虫のようにくるまった毛布の上から、困ったように千紘の手が触れる。
「機嫌直して下さい。……そんなに嫌でした?」
嫌ではない、ただいくら満月だったからといえ、自分があそこまでおかしくなるとは思っていなかった。いっそ記憶が飛んでくれればいいものを、全部覚えているので気恥ずかしいのが凪の正直なところである。
「凪さん、寂しいから顔見せて」
やや情けなさそうな千紘の声に、これ以上不貞腐れているのも大人げない気がして、凪は僅かに顔を出す。
「……お前、17歳相手にとんでもないことするな」
「……417歳ですよね。っていうか戸籍上19歳ですからね」
「エリート証券マン、未成年淫行で逮捕」
「……どこでそういうフレーズを覚えてくるんですか」
「戸籍上の母親」
「でしょうね」
「あいつ、お前のこと“優しい雰囲気と顔してるけど、スイッチが入ったら変態になるタイプ”って言ってるぞ」
「え、七穂さんってまだ巫女の能力持ってるんですか」
「内容は否定しないんだな。巫女の力はもうないけど、あいつは普通に勘が鋭い」
と言ってからふと凪は笑う。
「……本当に優しい顔してるのにな。お前の顔、好きだ」
そう言うといつも千紘は複雑そうな顔になる。これくらいの意趣返しは構わないだろう、と凪は思う。
「お前のおかげで死ねる体になったからな、もしあの世で正臣に会ったら、」
と凪は両手で千紘の頭を抱いた。
「お前の子供は17歳に手を出した挙句いい年して父親に妬く、俺の大事な馬鹿になったぞって伝える」
割と単調なルーティン、だがこの生活を凪はいつも新鮮な気持ちで味わっている。400年前に失った、人としての感覚が戻ってきているのを日に日に感じるようになったからだ。御柱様でいた間も五感はあったが、どこかぼんやりとしていてはっきりしなかった。味覚だけは辛うじて生身の頃に近かったが死ねないので食べる必要がなかった。嗜好品としてリンゴジュースだけは飲んでいたけれど。
今は腹も減るし喉も渇く。ついこの間は初めて風邪を引いて、過保護な千紘が会社を休もうとしたのを一蹴して自分で病院に行った。リンゴジュースは今でも好きだけれど、最近は色々な果物のジュースも試している。真夏の直射日光を厳しいと感じるし、真冬の夜に薄着で外に出れば凍えるかと思う。そんな当たり前の感覚が自分に戻ってきたのが嬉しかった。
だが、弊害もある。千紘はそう思っていないようだが、凪には弊害以外の何物でもない。
「ただいま」
戻って来た千紘に、凪は我に返る。
「おかえり。今日ちょっと早かったな」
「金曜日ですから」
と言うのへ、凪は少し言葉に詰まる。普段から金曜日は残業することが少ないから、当たり前のことを言っているとも取れるけれど、そこに含まれている意図が凪には読み取れる。
「凪さん、風邪はもう治りました?」
「……治った」
50%確定だな、と凪は思う。
「じゃあ大丈夫ですね。今日満月だから楽しみ」
ああ、100%確定だ。そう思った瞬間、耳が熱くなる。千紘と暮らし始めてから1年も経っているのに、未だこの感覚に慣れない。千紘はそんな凪に笑って、耳に触れる。
「凪さん本当に慣れないですね」
「やかましい。……飯食わないのか」
「食べます、先に着替えてきます」
あからさまに機嫌の良い千紘にため息を吐く。それ以上にそういう千紘が嫌いではない自分に、凪は思わず苦笑した。
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何だかんだ言っても、気恥ずかしさに慣れはしなくても、凪は千紘に触れられるのが好きだ。時間をかけて丁寧に快楽を高められ、文字通り心身共に蕩け切ったところで千紘の腕の中で果てるのは、幸せを実感できる一つである。
髪を指で梳いて額にキスしてくれるのもぼうっとした頭には恥ずかしさよりも心地よさが勝つ。後始末を終えた千紘に再び抱きしめられた時、凪は千紘が眠そうなのに気が付いた。
「……疲れてんのか」
「んー、ちょっとだけです。仕事が立て込んでて」
「そういう時はこんなことしてないで寝れば良かったんだ」
「やですよ、満月だったんだもん」
当たり前のように言うのへ、凪はため息を吐く。自分が月の満ち欠けに強く影響を受けるのを分かっているからだ。御柱様として400年生きてきた後遺症なのか、満月の時は感覚が鋭くなる。つまり、快楽もその分受けやすくなるから、千紘はいつも満月の夜に凪を抱きたがる。
「満月の時の凪さんは特別」
と半分眠りかけながら小さく笑う千紘の鼻を、凪は容赦なく捻り上げた。
「……それならもう少し付き合え」
とつっけんどんに言い、そのまま千紘の唇を塞ぐ。ややあって千紘の胸に手を突いて体を起こし、上から見下ろした。
「満月だからな、まだ足りない」
言ってしまってから凪は呆気にとられた千紘の顔に少々後悔する。大人げなかった。寝かせてやれば良かったものを。
「……いや、その、……何だ、体だけはまだ17なんだ。仕方ないだろ」
照れもあってどもり気味に言い訳した凪は、急に視界が反転して、背がシーツに押し付けられる。
「すっかり目が覚めました。めちゃくちゃ煽りますね」
常夜灯とカーテン越しに差し込んで来る月明かりに映し出された千紘の表情を見て、あ、これは、と凪は別の意味で後悔した。稀に千紘に入る、妙なスイッチ。それが完全にオンになっている。
さっきとは違う触れ方、丁寧でも優しくもない。セックスに関しては凪自身よりも凪のことを分かっている千紘が与えてくる快楽は、先ほどの甘い蕩け方ではなく強制的で何も考えられなくなっていく感じのものだった。首筋を辿った舌がそのまま下りて、隆起した乳首をなぞり、軽く歯が立てられる。ただでさえ満月で感覚が鋭くなっているのへ、事後の余韻が重なって、あっという間に凪は堕ちた。千紘の背に腕を回してしがみ付き、触れてはいるのに動いてくれない意地の悪い手のひらに自分の性器を押し付ける。
「凪さん可愛い。……腰、揺れてますよ、ほら、濡れてる音するでしょ?」
劣情を繕うこともない千紘の表情と声に、凪の体はより敏感になる。僅かに残っている羞恥は何の役にも立たず、凪はそのまま腰を揺らし続けた。これはほとんど自慰行為で、それを千紘に見られながらしているのだと回らない頭で考えた時、凪は羞恥どころかあり得ないほどの興奮に襲われる。体を震わせ、喘ぎながら夢中で腰を使い、最後には千紘の名を呼びながら絶頂を迎え、白濁を散らした。
自分だけ快楽を追ってしまった、とぼんやりしつつも反省しかけた時、
「凪さんって、もう俺の考えてること読めないんですよね。どんなに明確でも」
とティッシュで腹と手を拭いながら千紘が言う。
「……読めなくても顔に書いてある」
「それ読んで」
「嫌だ」
「えー、ひとりでするのは見せてくれたのに?」
「それは、……自分だけ欲に負けて悪かった。大目に見てくれ、お前も10代通ってるんだから分かるだろ」
凪としては真剣に謝ったつもりだったのに、千紘は笑った。
「悪くなんかないです、やらしい凪さん大好きだから。……じゃあ俺が言うから、答えて下さいね」
この表情通りならどうせろくでもないことを言われる、とは予測していたのに。
「凪さん、どうやって俺に犯されたいですか」
と下腹部を撫でられながら言われるのへ、こいつの妙なスイッチの正体は不穏な性癖だった、と凪は呆れた。それでもその言葉に引きずられてぞくぞくと肌が粟立つ、どうしようもない己の体。
「……顔が見える方がいい」
と呟くと、千紘は軽く唇を舐め、凪の膝を解いて足の間に割り込む。
「ちょっとローション足しますね。痛かったら言って……って、大丈夫そうかな」
このまま入れますよ、と囁かれて思わず凪は呼吸を止めてしまう。直後の圧迫感、違和感は避けられないけれど。
「ちゃんと呼吸して下さい」
宥めるように言われるのへ、不思議と心身の緊張が解れる。それでも、千紘がこれから実行する“不穏な性癖”を受け入れるには足りない気がして、凪は指先で千紘の手に触れた。
「手」
とだけ短く言えば、千紘は指を絡めてしっかりと凪の手を握る。この、理屈で無しに安心する行為にほっとする間もなく、腹の奥へ鋭い快感があって、甘い吐息が零れる。
「ここ、一番気持ちいいとこでしょ」
楽しそうに言う千紘に、凪は眉を顰める。分かり切ってるくせに。緩急をつけて擦り上げられるとたまらなくなる。おかしくなるほど感じてしまう。さっきだって同じところを責められて気持ちよくなっていたのに、回数を重ねるほど感度が上がるのが満月の夜だ。
やっかいな後遺症、と凪はぼんやりする頭で考える。だがこの後遺症のおかげで、普段は優しくて紳士的な千紘の、恐らく誰も知らないであろう一面が見られるのは、実は好きなのだ。
「マジでヤバい、気持ちいい、……持ってかれそう」
普段は残っている丁寧語抜きで、欲に掠れた声で言われるのが、まるで物理的に触れられたように凪の性感に直結する。繋いでいない方の手を伸ばして千紘の頭を引き寄せて唇にキスをする、あっという間に主導権を奪われるのが若干納得いかないが、愛情と劣情が入り組んだ濃厚なキスが凪の思考を溶かしていく。舌を絡め、髪を撫でられながら、確認させるようにゆっくり抜き差しされるうち、凪はどうしようもないほどの射精感がこみ上げてくる。無意識に蜜を零している己の性器に手を伸ばしたのを、千紘に手首を掴まれて阻まれた。
「だめ。さっきイったでしょ。……今度はこっち」
ぐ、と腹を押されて凪はそこから全身へ電流のように広がっていく快感に奥歯を噛み締める。
「嫌だ、出来ない」
「前にも何回も出来てるの、分かってますよね」
残念ながら分かってはいた。それこそ満月の時のセックスでは中だけで果てたことが何度かある。
「あれは……、何か変な感じで、……その、みっともなくなるから嫌なんだ」
「みっともない?感じすぎて可愛くなっちゃうのはみっともないとは言わないけど」
と小さく笑った千紘は繋いだ凪の手に軽くキスする。
「俺、今日は凪さんが俺に突かれてイくところ見ながらしたいんだよね。いつもより興奮してるみたい」
と欲を隠そうともしないのへ、凪はため息を吐く。心のどこかでこうなることを望んでいたのは自分だと自覚したからだ。
「……好きにしろ」
と呟くと体を抱え直され、思ったよりも強い刺激が来て、凪は目の前に火花が散った気がした。
「あ、……っ、急にすんな、ッ、……手加減はしろ、馬鹿!」
「無理。いっぱい突きたい」
容赦ないピストンで責め立てられ、凪は脳が蕩けていくような気がした。もう気持ちがいいことしか考えられなくなる。体の奥から生まれる狂暴な快楽に飲み込まれて自分としてはみっともなくなる感じが怖いけれど、千紘の本当に気持ち良さそうな顔を見ると、怖さが減って、こいつが気持ち良いなら構わないと思えてくる。
「あー、ホント凪さん可愛い」
薄く笑って独り言のように言う千紘に、最後まで溶け残っていた凪の理性や羞恥心が消えた。
「千紘、……も、いきたいから、」
腰を浮かせて飲み込んでいる千紘の芯の先端に、自分の一番気持ち良いところを押し当てる。
「……ここ、突いて欲しい」
「……煽ったの、凪さんだからね」
後は箍が外れたように互いを貪り、交わる。自分が漏らす甘い悲鳴も、千紘が囁く淫らな睦言も、全てが凪を追い詰めていく。
「だ、め……、や、もうイク……っ、イク、あ、……ッ、」
絶頂まであと僅か、というところで千紘が動きを止めた。さすがにここで焦らされては気が変になる、と凪の目に涙が浮かぶ。それを宥めるように千紘が凪の目元にキスをする。
「今からイかせてあげるから、凪さん、」
とさっきと同じように下腹部を指で撫で、
「ここに出すから、全部飲んで」
「いい、出していいから、……早く、」
懇願に答えるように深く重く貫かれて、凪は今まで経験したことのない感覚に包まれる。
「え、……何、何か変、やだ……っ、や、あ、ア……っ、………ッ!!」
視界も頭も真っ白になり、がくがくと体が震える、強烈な絶頂感と共に確かに果てたのに射精はしていない。鋭敏になりすぎた体の奥で、薄い膜越しでも千紘の吐精が分かる。いつもなら果てればすぐに冷めていくのが生理現象なはずなのに、絶頂の余韻が尾を引いており、何が起こったのか分からない。耳元で荒い吐息をついて、千紘が楽しそうに呟いた。
「凪さんならドライでいけそうだと思ってたんだよね。今までで一番エロかった」
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「いつまで不貞腐れてるんですか」
丁寧語に戻れば良いというものではないので、凪は無視する。蓑虫のようにくるまった毛布の上から、困ったように千紘の手が触れる。
「機嫌直して下さい。……そんなに嫌でした?」
嫌ではない、ただいくら満月だったからといえ、自分があそこまでおかしくなるとは思っていなかった。いっそ記憶が飛んでくれればいいものを、全部覚えているので気恥ずかしいのが凪の正直なところである。
「凪さん、寂しいから顔見せて」
やや情けなさそうな千紘の声に、これ以上不貞腐れているのも大人げない気がして、凪は僅かに顔を出す。
「……お前、17歳相手にとんでもないことするな」
「……417歳ですよね。っていうか戸籍上19歳ですからね」
「エリート証券マン、未成年淫行で逮捕」
「……どこでそういうフレーズを覚えてくるんですか」
「戸籍上の母親」
「でしょうね」
「あいつ、お前のこと“優しい雰囲気と顔してるけど、スイッチが入ったら変態になるタイプ”って言ってるぞ」
「え、七穂さんってまだ巫女の能力持ってるんですか」
「内容は否定しないんだな。巫女の力はもうないけど、あいつは普通に勘が鋭い」
と言ってからふと凪は笑う。
「……本当に優しい顔してるのにな。お前の顔、好きだ」
そう言うといつも千紘は複雑そうな顔になる。これくらいの意趣返しは構わないだろう、と凪は思う。
「お前のおかげで死ねる体になったからな、もしあの世で正臣に会ったら、」
と凪は両手で千紘の頭を抱いた。
「お前の子供は17歳に手を出した挙句いい年して父親に妬く、俺の大事な馬鹿になったぞって伝える」
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