雨梁探偵部事件ノートX~ファンタニジアクエスト~

はぐるま さいき

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第一章 ファンタニジア王国

 一

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 ミーンミンミンミンミーン、ミーンミンミンミンミーン、ミーンミンミンミンミーン。
 うぜぇー。んだよ、この暑さはぁああっ。イライラすんな。
 ミーンミンミンミンミーン、ミーンミンミンミンミーン。
 ったくうっせぇな、ってこれって俺の携帯?
 そうだ、この前。
 俺の中で先日の記憶が蘇った。
 彩和ちゃんが着信音勝手に変えてたな。
 全くこんな暑苦しいのにすんなよな。
 俺は床にぶっ倒れたまま起き上がる気がしなかった。仕方が無いので足探りで充電器からスマホを引き抜く。
「どうしたー、悟ぅー。なんか用かぁー……」
「あっ、起きてるみたいだね。大丈夫? 溶けかかってるみたいだけど」
「あぁー。エアコン無しじゃなぁ。セミもうっせぇしよー。聞こえんだろ。この声聞いてると暑さ百倍だぜ」
「ふーん。残念だけど電話じゃ周波数が高いからセミの声は聞こえないよ。翼の声で暑さは伝わるけどね」
「ほぉー、そーか……」
 電話をスピーカーにしてからよろっと立ち上がる。
「そうそう、それよりさ、今日暇? 暇なら家で集まろうと思うんだけど、翼だけグループの既読付かないから翼待ちなんだけど」
「あぁ、わりぃ。じゃ、今から行くから。じゃぁな」
 俺は冷蔵庫に倒れ込むと扉を開ける。チッ、何もねぇ。
「うん。じゃあ、皆も予定合うみたいだし、招集かけとくから、10時頃までに。また後で」
 ガチャ、ツーツーツーッ。
 鳴り響くスマホの音も止めず、蛇口を捻る。
 コップに注がれた水はコップ越しにも関わらず手に熱を伝える。
 ただ、文句も言ってられない。
 俺はぐっと一気に水を飲み干した。
「ぬるま湯」
 考えるより先に口に出る。
 ……さてと、後20分か。
 悟家まで行くことを考えるとのんびりもしてられないな。
 俺はスマホを拾い上げる。
 今日は皆で何すんだろ、ゲーム? 勉強? しゃあねぇー、一応宿題とゲーム機とゲームとスマホの充電器と筆箱をリュックにぶち込んでおくか。スマホはポッケに、チャリの鍵と家の鍵をとって、帽子を被る。
 ドアを開けようとすると手にコップを持ったままであることに気付いた。
 まだ頭は寝てるみてぇだな。
 コップを軽くすすぐと水切りかごにおき、ついでに顔を洗う。
 準備が整ったので家を出ようと玄関へ向かうとチャイムが鳴った。おっ、トムかな? わざわざお迎えご苦労さんだな。
 俺はもぞもぞと靴を履きながら玄関を勢いよく開ける。
「はーい、よっ、と。やっぱ、トムか。彩和ちゃん誘って早く行こーぜ」
「あぁ、無駄口叩いてないでさっさといこう。彩和なら駐輪場で会う手筈になってるから」
 トムはそう残すとスタスタと先に歩き出した。
 全く誘いに来といて先行くのかよ。
 俺も釣られて歩き出しそうになるけど、危ない、危ない、鍵閉めねぇとな。
 鍵を閉めるとトムの方へと問い掛ける。
「つーか。今日何すんの?」
 ってもう居ねぇーし、はっえぇな。ったく

 駐輪場に着くと彩和ちゃんはもう既に待っていた。
 相変わらず服のセンスがいい、なんて言いたいところなんだけど俺にはセンスがねぇから何とも言えない。
 下手なこと言えないし、Tシャツと半ズボンとだけ言っておく。
「おっはよー。今日も暑いね」
「相変わらず彩和ちゃんは元気だな。俺なんか暑くて死にそーだぜ」
「もー、だらしないなぁー。一緒にテニス部やる?」
「俺が女子テニス部入ったらまずいっしょ。まぁ、部活やる気なんて最初からねぇけどな」
「ほら。無駄口叩いてないで行くぞ」
「へーい」
「はーい♡」
 チャリで走り出すと風があって少し涼しかった。信号で止まったら今日何すっか聞こうと思ったのにそういう時に限って全部青なんだよな。おかげで早めに悟の家まで着けた。家の前には見覚えのある車が止まっていた。車体には「Furuki Game」と書いてある! 何を隠そう、悟の叔父さんは皆さんご存知、あのFGのロゴマークで有名な「Furuki Game」の社長兼開発責任者で、FQこと「ファンタニジアクエスト」の開発に第1作目から携わっている人なんだぜっ。
「今日ってもしかして、新作ゲームかっ!」
 俺は我慢できずに思ったまま声にした。
「あれ、翼聞いてなかったの? なーんて言ってる私も新作RPGロールプレイングゲームとしか聞いてないけどね。つーちゃんはなんか聞いてる?」
「いや。ただ、期待はしてる。制作期間がすごく長かったって聞いたから」
「くっそー。早くやりてぇーなぁ。おっ。あれって、夏秋なつあきじゃねぇーか、おーい」
 二人はいつもと同じような格好をしていた。夏はTシャツにショートパンツ、秋はだらしなくTシャツとジーンズを着こなしていた。
 すると今度はトムが悟とおじさんを連れて戻って来た。

 それから春もすぐ合流して俺たちは出発した。車でしつこくゲームのことを聞き出そうとした。叔父さんは「着いてからのお楽しみ」とだけ言って教えてはくれなかったけど。暫く車に揺られて到着したのは寂れた工場だった。工場の中に入るとそこには真新しい球体が9個並んでいた。俺らが驚いているとおじさんはらんらんと前に歩みでて振り返ると自慢気に語り始めた。
「どーだ、魂消たまげちゃったろ。これぞ、次世代型体験ゲーム、あれ、体感ゲームだっけ。うん、どっちでもいいんだけどさ、そもそもこの機械は三年前から急ピッチで作り上げた機械でね。最新のVRヴァーチャルリアリティーと高感度センサーと私の血と涙と汗の結晶であって、我が息子と言っても過言ではないくらいの思いいれが・・・・・・」
 長ぇ・・・・・・、あちぃ、どうでもいいなんて言う元気もなくボーッとしてると悟が口を開いた。
「おじさん、ここまで時間も思ったよりかかってるし、早く試作した方がいいんじゃない?」
 悟にさとされてさとった、されてった(面白いから二回言ってみた。)みたいでおじさんは吾に帰った。
「あっ、うん。そうだね。冷静になっちゃったよ。されてっちゃったよ。ナンチャッテね」
 ・・・・・・、同じ脳みそしてんのか、いや、今は夏バテ気味で脳ミソが弱ってるからだ、きっと。違いない。
 他の皆も(夏以外)静かになっていた。
「相変わらず面白いわぁ。おじさん、お笑いのセンスあるんとちゃう? ところで、なんでこのゲーム機九個やの?」
「流石、夏美ちゃん、関西人だねぇー。お笑いがよく分かっていらっしゃる。ダメだね、こいつらセンス無くて」
 同レベルに思われたくねぇー。それにまさか同じこと考えてたなんて口が裂けても言えねぇ。
 尚も叔父さんはオヤジギャグを続ける。
「それでなんで9個あるかって。それはね・・・・・・、だけにあるんだよ。」
 夏と瞬間冷凍ギャグ親父の笑い声だけが辺りに響いた。心無しかセミも静かになった気がする。凍死したのかな。
 涼しくなって元気になった悟がおじさんに歩み寄って何かを囁くとおじさんも涼しそうな・・・・・・というより青ざめた顔でゲーム説明を始めた。
 一体何を言ったんだろ。
 で、内容を纏めると大体こんな感じだった。

 ○センサーの付いた手袋と関節毎にセンサー付きのプロテクターの様なものを付ける。靴も専用の物に履き替える。

 ○VRメガネとワイヤレスイヤホンを付ける。

 ○収納付きベルトを付ける

 ○いざ、冒険へ‼

 そんなこんなでいざ出陣。各自が我先にとスフィアに入る。俺は1番手前のカプセルに入ってみた、中は思ったより広い。金属製だから酷く殺風景に思われる。その殺風景な中にポツンと10センチ四方の穴が空けられていた。中を覗くと電源と書かれたボタンがあり、直ぐに説明にあったボタンだと分かった。ポチッと………反応が無い。
「ありゃ?」
と思ったその時、電源ボタンがある穴がしまり、イヤホンから音声ガイダンス、VRには「なぅ ろぉーでぃんぐ」の文字と狸(?)のキャラクターが表示された。
 確か最初に適正テストで能力を決めて、それから皆でクエストをこなして行くって感じだったよな、俺は何になんのかな? かっけぇ騎士かな? 魔術師かな? なんにしろ、大暴れしてやるぜ‼
「ぴろんッ。読込みが完了しました。「はじまりの街・レニゲーブ」へ転送します。転送中……、転送中……、転送中……。」
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