インドラの箱

夏風涼

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急7

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 しばらく静寂が辺りを包む。
 尚登の部下、暗部達は何もできなくなり、ただ、尚登がいた場所を口を大きく開けてみていた。
 無動金縛りの結界は発動者がいなくなったため、力が弱まり、段々あやかしたちは動けるようになる。
 私達、影縫と私が立っている場所に、皆集まってきた。

「久しぶりだな、凪紗」
 
 影縫と同じ、漆黒の翼を持つ王家の血縁、流砂。
 流砂は尚登たちが起こした一連の事件が何事もなかったことで、安堵の息を漏らしていた。

「王子・・・・・・」
 
 流砂は王に跪いた。他のあやかしもそれに倣う。

「いい。楽にしてくれ!」
 
 影縫は気さくに話かける。
 あれほど辛い経験をしたはずなのに、影縫はまるでそれを忘れたようだった。
 暗くてよく見えないが、影縫は唇に弧を描き、笑ってさえいるように思える。

「王子、帰還しましょう。残党がここに攻めてこないかもしれません」
 
 流砂は、私と影縫を順繰りで見て、言う。

「凪紗はどうする?」
 
 確かに、流砂の危惧することは当然だった。
 今は戦意喪失しているこの場にいる、あやかし狩りの暗部もいつ私達に危害を加えてこないとも限らない。

「・・・・・・私は影縫の傍にいる」
 
 その言葉を聞いた影縫はどこか嬉しそうにしているように思える。
 私は決然とした思いを伝える。

「あやかし狩りの暗部、尚登達の脅威はなくなった。でも残されたあやかし狩り、そしてこの国の民の中に、まだあやかしを敵視している者もいると思う。それに・・・・・・」
 
 私のありったけの思いの丈を伝えなければ、伝えたい。

「私は二度と、影縫を離しはしない」
 
 影縫、いやあやかしたちは笑ってくれた。
 もう、皆、私が影縫の妻だと認めてくれている。

「なら、行こう」
 
 影縫は翼を広げた。もがれたはずの翼はもう再生し始めている。
 術を封じる、結界が及んでいない今、影縫の眠っていた力が戻ったようだ。

「父上に、挨拶してくる」
 
 私が歩いていくと、横に影縫もついてくる。

「父上・・・・・・」
 
 後ろのあやかしに術で光に照らされている、父の表情は複雑だった。
 自分の力不足で、私が拷問されていたこと。その強い自責の念に駆られているのだろうか?
 また、普段は敵であるあやかしの王子に、自分の子供が取られる思いももちろんあるだろう。

「凪紗、すまなかった。私の力がないばかりに、お前をこんな目に・・・・・・」
 
 最初に出たのは、謝罪の言葉。私はそれを聞いて、どこか安心した。

「父上、過ぎたことはいい。私こそ心配ばかりかけて申し訳ない」
 
 お互い頭を下げた。
 お互い顔を上げた後、父はどこか吹っ切れた顔をしていた。

「行くのか?」
 
 父は分かっていた。声が聞こえていたのだろう。

「はい」

「お父上」
 
 影縫が父に話しかける。
 しかし、勝手に父と言われたことで、少し腹が立っているようにも見える。

「かげぬい、私はお前をまだ認めていない。だが、お前達、行くだろ?! 好きにしろ。凪紗を不幸にしたら許さないぞ!」
 
 父としての威厳を見せたいのだろうか? 絶対に普段こんなことを言わないので、私はどこか可笑しかった。

「何がおかしい」
「いや・・・・・・」
 
 少しからかってしまったが、私は真面目の表情をして。

「父上、行ってくる。今までありがとう」
 
 そう言うと、父は悲しいけれど優しい顔をした。

「ああ、でも孫の顔は見せに来いよ」
 
 私と影縫は顔を見合わせて、声を揃えて言った。

「はい」

 私は影縫に抱えられて、あやかしと人間が住む、この国の夜空を飛ぶ。
 美しい夜だった。
 煌々と輝く満月。空、一面に広がる宝石のような星屑。
 星は私達が飛翔していることで、流星のように流れていき、私の涙を拭く。
 やがて、地平線から太陽が顔を出した。
 鮮明に映し出されるこの国の自然。
 山、川、砂漠、海。
 全て美しく輝いているようだ。
 やがて、人間やあやかしが営み始める。働く者。誰かを養う者。友情を誓う者。誰かを守る者。誰かを愛する者。
 そんな煌めくような世界で私たちは生きている。
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