インドラの箱

夏風涼

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序2

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 小太刀が月の光を帯びている。私は鞘から刀身を抜き取る。
 何度見ても美しい光景だった。
 刀身は燦然と輝き、辺りを明るく照らしている。
 
 しかし、あやかし達はその光景を見慣れているようで、ただじっと見ている様子だった。
 私と影縫は互いに頷きあった。
 『いくよ』という合図だ。
 
 私は鉄格子を斬り裂く、鉄格子は本来、決して簡単に破られるものではない。
 だが、黄色い光が宿った刀によって、まるで粘土細工のように意図も簡単に切り取られてしまった。
 人が中腰でくぐれるぐらいの矩形の空間を作る。

「行くよ」
 
 今度は本当の肉声で伝えた。ほんのわずかな声であったが。
 影縫は青い瞳で私を見つめると、決然とした面持ちで頷いた。

「ああ、行こう」
 
 冷たい監獄の廊下を私は手を繋いで走る。
 息は凍りつき、白くなって私達の身体にまとわりついているだろう。
 
 しかし、氷のような石畳も、肌を突き刺すような冷たい空気も私達の火照った身体を冷やすことはない。
 
 全てはあやかしのため、あやかしの王子を助け出すため、影縫を助け出すために。
 強固の意志と使命感が私達に進む道を示してくれる。
 
 私はあやかし狩りの頭領の娘。
 あやかしとの戦いで一度、あやかしの捕虜になった身。
 影縫と出会い、恋に落ち、恋人になった。
 そしてその時に聞いた、人間とあやかしが共存する未来という彼の夢。影縫ならば絶対にその夢を叶えることができると信じている。
 
 だから私は絶対に影縫を救出する。
 廊下は終わりが見えてきた。
 目の前には長い階段が続いている。
 日の光が絶対に届かないと思わせるほど、長く、そして高い。
 
 私たちは龕灯で足下を照らしながら、足下に細心の注意を払い、できるだけ早く登る。
 特別な訓練を受けている私といえど、苦しい。心の臓がぎゅっと痛む。
 冷たい空気は肺を凍てつけさせ、十分に酸素を吸収できていない。
 だが・・・・・・。
 影縫の顔を見た。
 
 彼の長い睫毛に縁取られた決意のこもった美しい瞳が、私に大きな勇気を与えてくれる。
 いつでもそうだ。いつまでもそうだ。
 
 彼の純粋で美しい思いは、私に新たな希望を見せてくれる。
 捕虜になった私は、さすがにあやかしの中でも待遇に頭を悩ませていた。
 当然、死刑にするという意見も出ていた。
 
 だが、その中でも、影縫だけは違った。
 私はあやかしに害する存在ではない、あやかしが何を考え、人間達とどう関係を築いていきたいか、私は必ず理解してくれるはずだと、大半だった厳しい処遇の意見を真っ向から覆そうとしてくれた。
 
 しかし助けてくれたとはいえ、私はその時、感謝も何も思わなかった。
 それは、あやかし狩りの頭領の娘として死ねればそれが本望だと思っていたからだ。
 
 けれど、影縫は結局、軟禁になった私に毎日会いに来て、彼の人間に対する思いや、平和に対する思いを聞かされたことで、徐々に彼に惹かれてしまい、同じ夢を見たいと思うようになった。
 
 もちろん、何故ここまで・・・・・・。と思った時もあった。
 だが、彼は私に本音を言った。
 私は特別だと、特別、愛している存在だと。
 恋愛とは無関係に生きてきた私からするとなんともむず痒い話ではあるが、私はその時にはもうこの男を伴侶にしても悪くないと思っていたのかもしれない。
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