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「天下統一の序章」改①テーマ 病気・怪我をしている人 神視点 主人公 岡田家康
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(俺は死ぬのだろうか……)
今から半刻前、家康は敵陣営の足軽に槍で腹を突かれた。
鋭い槍の先端は、いとも簡単に甲冑を貫き、皮膚、肉、そして臓器を突き刺した。
馬に乗っていた家康は瞬時に、体の力が抜け、落馬し、今、合戦が終わった後も動けずにいた。
結局、戦は敵が勝ったのだが、それも家康は知る由もなかった。
今、今、死にかけている。
臓腑は血潮が噴き出し、皮膚や肉は割け、ぽっくり穴が開いている。
だが、死ぬほど痛い、痛みはもう過ぎていた。その代わり体、肢体、指の先端までも麻痺していた。
(死ぬにしても、ここでは死にたくない)
家康は麻痺した足を麻痺した頭で動かそうとする。だがそれは叶わない望みだった。
それほど、危険な状態にいる。
家康の死地は合戦のために、他の亡骸が大量に転がっている状況だった。
屍山血河、まさに相応しい言葉だ。
槍や刀で斬りつけた者や矢で貫かれた者たちが、まだ生暖かい状態で地面に伏していた。
家康は故郷では名が知れた武将だった。名前の無い者たちと一緒に死ぬことが望ましい訳がない。
だが、諦めていた。
もう立てないのだ。もう少しでも生きれないのだ。
諦念が頭を占めた、その時である。
「家康! 家康!」
家康を呼ぶ声がした。しかし、家康はその者の声は聞いたことがあった。
その者は家康の幼なじみのお多恵だった。
馬に乗り、甲冑を身につけ、家康を探す。
悲しいことに、家康はもう声すら上げることができない。だが、不思議なことにお多恵は家康を見つけることができた。
「家康! 生きろ! 生きるんだ!」
朦朧とした頭で家康はお多恵を見つめると涙が溢れ出した。
最後に彼女に看取ってもらって良かったと思っている。
「クソ! こんなところで、死なせるものかっっ!!」
お多恵は家康を縄で自分の背中にくくりつけて、馬で駆けていった。
家康は目を覚ました。
そこはお多恵の部屋だった。
女なのに、何も部屋に置いてない、質素な部屋。
男勝りで、冑や甲冑が置いてある。そして日本刀が掛け軸の前に飾ってある。
家康は忘れる訳がない。
よく、お多恵とこの部屋でちゃんばらをして、怒られたものだ。
(手が、暖かい……)
かい巻きに涙をぬらした、お多恵が家康の手を握って寝ていた。
お多恵の長い睫毛は大粒の涙を湛えていた。
(お多恵、ありがとう。ありがとう……)
家康は辛かった。これから、お多恵と一緒に人生を歩めない。
腹に晒しをきつく巻かれていた。
命を救ってもらい、命をともに使っていきたかった彼女とはもう別れなければならない。
その時には、家康はもう、自分たちの陣営が負けたことは言われずとも分かっていた。
(お多恵に別れを告げよう。そして今までありがとうと……)
そう心に誓った。
その後、家康はお多恵とともに逃げることになる。
だが、それは始まりでもあった。
家康がこの国を天下統一して、将軍になるのはまだ、先の話。
今から半刻前、家康は敵陣営の足軽に槍で腹を突かれた。
鋭い槍の先端は、いとも簡単に甲冑を貫き、皮膚、肉、そして臓器を突き刺した。
馬に乗っていた家康は瞬時に、体の力が抜け、落馬し、今、合戦が終わった後も動けずにいた。
結局、戦は敵が勝ったのだが、それも家康は知る由もなかった。
今、今、死にかけている。
臓腑は血潮が噴き出し、皮膚や肉は割け、ぽっくり穴が開いている。
だが、死ぬほど痛い、痛みはもう過ぎていた。その代わり体、肢体、指の先端までも麻痺していた。
(死ぬにしても、ここでは死にたくない)
家康は麻痺した足を麻痺した頭で動かそうとする。だがそれは叶わない望みだった。
それほど、危険な状態にいる。
家康の死地は合戦のために、他の亡骸が大量に転がっている状況だった。
屍山血河、まさに相応しい言葉だ。
槍や刀で斬りつけた者や矢で貫かれた者たちが、まだ生暖かい状態で地面に伏していた。
家康は故郷では名が知れた武将だった。名前の無い者たちと一緒に死ぬことが望ましい訳がない。
だが、諦めていた。
もう立てないのだ。もう少しでも生きれないのだ。
諦念が頭を占めた、その時である。
「家康! 家康!」
家康を呼ぶ声がした。しかし、家康はその者の声は聞いたことがあった。
その者は家康の幼なじみのお多恵だった。
馬に乗り、甲冑を身につけ、家康を探す。
悲しいことに、家康はもう声すら上げることができない。だが、不思議なことにお多恵は家康を見つけることができた。
「家康! 生きろ! 生きるんだ!」
朦朧とした頭で家康はお多恵を見つめると涙が溢れ出した。
最後に彼女に看取ってもらって良かったと思っている。
「クソ! こんなところで、死なせるものかっっ!!」
お多恵は家康を縄で自分の背中にくくりつけて、馬で駆けていった。
家康は目を覚ました。
そこはお多恵の部屋だった。
女なのに、何も部屋に置いてない、質素な部屋。
男勝りで、冑や甲冑が置いてある。そして日本刀が掛け軸の前に飾ってある。
家康は忘れる訳がない。
よく、お多恵とこの部屋でちゃんばらをして、怒られたものだ。
(手が、暖かい……)
かい巻きに涙をぬらした、お多恵が家康の手を握って寝ていた。
お多恵の長い睫毛は大粒の涙を湛えていた。
(お多恵、ありがとう。ありがとう……)
家康は辛かった。これから、お多恵と一緒に人生を歩めない。
腹に晒しをきつく巻かれていた。
命を救ってもらい、命をともに使っていきたかった彼女とはもう別れなければならない。
その時には、家康はもう、自分たちの陣営が負けたことは言われずとも分かっていた。
(お多恵に別れを告げよう。そして今までありがとうと……)
そう心に誓った。
その後、家康はお多恵とともに逃げることになる。
だが、それは始まりでもあった。
家康がこの国を天下統一して、将軍になるのはまだ、先の話。
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