【R18】月を見上げて・・・-とある世界に生きる者達の話-

レゲーパンチ

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二十三話(後日談) とある物好きな女性の話

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 これは、いつの話か分からない。ここではない、何処かの話。
 ここは、私達が生まれた森。またの名を、魔法の森。
 この世界は、人間が武器を持って争い合う、醜い世界。
 魔法?・・・知ってる。だって私は、魔法使いだから。

 適当な木の一番上まで登って、夜空を見ている。
 今日の月は、とても大きい。まん丸で、綺麗。
 月が一番大きくなるまで、あと少し。でもまた一番大きくなったら、今度はどんどん小さくなる。日を追うごとに、少しずつ少しずつ小さくなって、やがて一番小さくなると、また少しずつ少しずつ大きくなって。
 不思議。とても不思議。大きくなったり、小さくなったり。だから好き。私はずっと、月を見上げて生きていく。これからも、ずっと。
 ずっと見ている。ずっと月を見続けている。好き。綺麗。夜空はいつ見ても良い。ずっと見てられる。いくらでも見てられる。星を眺めるのも好き。いつ見ても綺麗。キラキラしてる。
 それに。今のように、暑くも寒くも無い季節なら、いくらでも見てられる。さすがに寒い日は、こんなことをする余裕が無いからね。
 ふふ、楽しい。良い夜だ。とても楽しい。誰に邪魔されることも、
「ひいいいいいいっ!?もう許してくださいいいいっ!」
「アッハッハッハ!おっさんがもう寝ちまったからなぁ、だから今夜は俺様と夜通し遊・・・って待て待て待て!?虎になるのは反則だろオイ!?うわああああっ!」
 ふふ、楽しい。とても賑やか。仲間達の声を聴きながら月を眺めるのも、好き。あの2人、相変わらず仲がいいなぁ。これからも私達は、誰に邪魔されることも、
「おいヨヅキ。そんなところで1人か?」
 チッ、無粋な。やめてよ、こっち来ないでよ。

 アイツに鷲掴みにされる。やめてよ痛いって。
「おい。人間の姿になれよ」
 アイツが睨んで来る。やめてよそんな眼で見ないでよ。
「ほう。よしよし分かった、ならばこのままお前を谷底まで」
 あのさぁ。いいかげんに脅して交尾を無理強いしてくるのは止めてよ。今日は一晩中月を見たいのに。・・・でも、仕方ないか。この青髪の大柄の男からは、逃げられないんだから。
 大きくなれ。私の体、大きくなれよ。
 月のように。大きくなる月のように。大きくなれ、私の体よ。
 そう思うだけで、私の体は白い狐の姿から、人間の姿になる。
 一応は確認する。うん、私の体は特に異常無し。人間の女の、大人の体で間違いない。少し小柄で、頭の毛が肩ほどまで伸びているだけ。普通の人間と、大して変わらないはず。
「ふっふっふ。それじゃあヨヅキ、愛し合おうか」
 うわぁ、また意味分かんないことを言ってやがる。言い返す気にもなれない。何も言いたくないから私は口を閉じてや、う、ぐ。
「オイどうした?まさかキスだけで満足なのか?」
 だ、誰が、お前、なんか、と。
 やめ、触らないで、頭を撫でないで、抱き寄せないで、口の中に舌を入れ、な、うあぁぅ、ぅ、ぅ、意識、が、また。
「ほう、泣くほど喜んでくれるとはな。よしよし、このままずっとコレをしてやろう。どうだ、嬉しいだろ?楽しいだろ?」
 知ら、ない。意識が、飛び過ぎ、て。何も、言えない、の。

「――ぎゃああああああああああっ!」
 いや、やめて、もう、こんなの。
「いやぁ、やっぱりヨヅキを泣かすのは楽しいなぁ」
 人をイジめて、なにが楽しいのよ?
 また性懲りも無く私の手を縛って、仰向けに寝かされて。アイツは私の両足を掴んで、股を無理矢理広げる。そしてそんな私の股に、アイツが。
「ひ、ひいいっ!?もう、噛むのは、ぎゃああああああっ!」
 噛み付いて来る。私のアソコを。クリトリスを、ただひたすら。
「おぉお、ヨヅキのアソコが丸見えだなぁ。割れ目には触ってないのに、もうこんなにイヤらしく」
「言うなああああっ!リオンなんて嫌いだああああっ!ひいいっ!?もういいでしょ!?もうこんな事はしな痛ったああああああああああああっ!」
 痛いんだ!これは痛いんだ!気持ち良くなんかない!こんなので気持ち良くなるなんて、こんなので幸せになるなんて、い、いや、嫌だああああっ!
「フッフッフ、久々にこういうヨヅキを見れて楽しかったぜ。・・・さて、そろそろ元に戻してやるか」
「い、意味が、分かんないぃ・・・。今日はいつも以上に乱暴だし、剣なんか背負ってるし、リオンが一体何をしたいのか」
「まぁまぁ、そう言うなよ。それよりヨヅキ、俺を助けてくれないか?お前の力で、俺を守って欲しいんだ」
「・・・は?いや、そんなこと言われても。私よりも、リオンの方、が」
 ――あっ。

「――ぎゃああああああああああっ!」
 イイ、とてもイイ。もっと、ヤって、よ。
「いやぁ、やっぱりヨヅキを泣かすのは楽しいなぁ」
 ふ、ふふ。私も、楽しい、よ。
 またまた性懲りも無く私の手を縛って、仰向けに寝かされて。リオンは私の両足を掴んで、股を無理矢理広げる。そしてそんな私の股に、リオンが。
「イイっ!もっと噛んでえええっ!ぎゃああああああっ!」
 噛み付いて来る。私のアソコを。クリトリスを、ただひたすら。
「おぉお、ヨヅキのアソコが丸見えだなぁ。割れ目には触ってないのに、もうこんなにイヤらしく」
「はう、いや、何、言ってるの。恥ずかしいから、見ないでよ。・・・ねぇ、そろそろ、本番がしたい、かな?」
「フッフッフ。こっちはこっちで、素直でいいなぁ。よしよし分かった、ちなみにどんなことをして欲しいんだ?好きなのをヤってやるが」
「・・・リオンに、お任せ。それが一番、楽しめるからね」
 たとえどんなに恥ずかしくて、痛くて、酷い事でも。リオンがヤってくれるのなら、何だってイイ。いくらでも楽しめる。いくらでも幸せになれるから。
 えっ、またアソコ同士を繋げてリオンに抱え上げられたまま、森の中を歩き回るの?ヤる!ヤりたい!ずっとヤって!朝までヤって!
 あ、あう、イイ、みんなに見られてるぅ、イイ、見て、私を見て、私とリオンを見て、私達が愛し合っているのを見てえええええええええっ!

 ふふ、昨日は楽しかったなぁ。また今日もリオンとヤりたいなぁ。
 と言うよりも、明日は麓の町に行かないといけないから、今夜のうちにリオンとヤっておかないと。さぁて、何ヤろうかなぁ・・・って、どうしたの?
「ひ、ひい、ヨヅキさん僕を助けてください、もうこれ以上は」
「むうう。しかしなぁ、今日は鴉が町に行ってしまって暇なんだ。だからもう少し儂の相手をしてくれ」
 ごめんねビッグス、私は忙しいの。あと、その程度の事で根を上げちゃダメ。もっともっと強くなってね?それじゃあ芦毛さん、今のを30セット追加で。
 さて、リオンはどこかな?・・・あ、いた。
「ん?おいヨヅキ。なんでお前、槍なんか背負って服を着てるんだよ」
 リオンが、不思議そうな眼で私を見ている。ちなみに今のリオンは服は着ているけど、剣は背負っていない。
 ・・・うん、やっぱり忘れちゃったのか。つくづく思うけど、この森の魔法って凄いんだね。だから私もここを魔法の森って呼ぶことにしたんだけど。
「まぁ、別にいいか。同胞達からも、最近の俺達は物好きにも程があるって言われてるからな。・・・でも、お前はともかく俺はそこまで変な事はしていないのに」
 記憶を取り戻すより以前から、無茶苦茶な事ばかりヤってきた男が何を言ってるのだろう。・・・でも、そんな男に付き合い続けた私も無茶苦茶か。
 という訳で、今日は。リオンお願い、できるだけ動かないでね。

 リオンの服を優しく脱がしてあげて、そのまま仰向けに寝かせる。
「オイオイお前、また先輩殿から妙な事を教わったのかよ」
 妙な事とは失礼な。これは、先輩が生きるために身に付けた技の一つだ。綺麗に優しく服を脱がせるのって、意外と大変なんだよ?だから今なら分かる。先輩がどんな気持ちで、ああいう仕事と向き合ってきたのかを。
「なぁヨヅキ。せめて槍くらいは外そヲヲヲウ!?」
「・・・これ、嫌?」
 リオンの足を開いて、その間に私は座る。そして手を伸ばして、リオンの乳首を、優しく撫でる。両手を使って、両方同時に。
「お、おお、まぁ、たまにはお前に責められるのもウオオなんだそれ意味が分からんイイぞもっとヤってくれフハハハハ」
 もちろん、アソコも気持ち良くしてあげる。口には咥えない。舌を伸ばして、じっくりと舐めてあげる。優しく、ゆっくりと。
「ねぇリオン、このまま続けても良い?練習に付き合って欲しいの」
「お、おう。それはいいが、そろそろヌいてくれないか?」
 うん、分かった。だからリオンのアソコを口に咥えて、吸って、
「うおおう、それでは遠慮なく・・・ってオイ、いつの間に寸止めなんてものを覚えたんだよお前は」
「えっ。先輩と出会った日のうちに、教えてもらったけど?」
「お、おう・・・。だけど、俺相手に途中で止めるとはいい度胸してやがるな。後で泣かしてやるから覚悟しておけよ」
 ふふ。怒ったリオンの顔も好きだよ?それじゃあもっとヤってあげるね。リオンはまだ動かないでね。お願いしたんだから、言うことを聞いてよね?

 リオンが物凄い殺気を出しながら、無言で睨んでくる。
 少しイジワルしすぎたかな?我慢させてゴメンね。
 怖い。リオンの眼が怖い。泣きたくなるほど怖い。記憶を失った私がこんな眼で見られたら、たぶん土下座して命乞いをしてると思う。
 でもイイ。今の私だと凄くイイ。この後、いったいどんな反撃が待っているんだろうか。想像するだけで、体がゾクゾクする。とても楽しみ。泣きたくなるほど無茶苦茶にして欲しい。何も考えられなくなるほどに。
 ・・・だけど、今はダメだから。下半身の服だけを脱ぐ。
「おいおい、だから槍くらいは」
「ダメ。それはダメ。いいから何も言わずに、私に任せて」
 リオンの体の上に跨って。いわゆる、騎乗位の構え。今日の私はリオンには一切ヤられてないけど、私のアソコは既に準備万端、ていうか待ちきれない。
 なので、そのまま一気に腰を深く落として、リオンと一つになる!
 後は、ただひたすらに。私が気持ち良くしてあげるからね。
「お、おお、ヨヅキがこんな事をしてくれるようになるとは、これはまた先輩殿にお礼を言わなけ、お、う、そろ、そろ」
 リオン、気持ちいい?私も、とても気持ちいいよ。
 だから、私は止まらない。全身の力を使って、私の体全てを上下に動かして、いくらでもリオンを気持ち良くしてあげる。いくらでも受け止めてあげる。お互い、体力には自信があるからね。まだまだ、終わらせない。終わりたくない。
「リオン、愛している。――大好き、だよ」
「えっ、お前いきなり何を・・・あっ」
 ふふ、お帰り。それじゃあ今度は、こっちのリオンとヤってあげるから。・・・うん、やっぱりイイっ!えっ、手を繋ぐの?うん、イイよ。だから、もっともっと頑張ってヤってあげるからね?

「――ここ最近で分かったことは、以上かな。記憶を維持するのと、記憶が無くなるのと、そして記憶を再び取り戻すには色々と条件が、って。ゲンブ、どうしたの?」
「・・・頭痛がする」
 あのまま、リオンとヤるだけヤって。朝になる前に、体力と記憶があるうちに、魔法の森を出て、麓の町に降りた。
 そしていつものところで寝泊まりして、夕方前に起きて。今はとある家に、お邪魔している。女2人だけでテーブルを囲んで、カップを手に持って。ちなみに中身は普通の水。お互いに、お茶やお酒の類は未だに飲めないからね。
「2人とも、マジで何なの。仲間の趣味に口出ししたくは無いけど、いくらなんでも好き放題し過ぎ。物好きにも程がある。エッチを楽しむために、あの森の呪いまで利用するとか意味分かんない。あの森の力に負けて、旦那に一晩中泣きついた私は何だったの?」
 私の真向かいにいる桃色髪の女は、よく分からないことを呟いている。そこまで落ち込むようなことは言ってないと思うんだけど・・・。
「それで、ゲンブはどうするの?もし仮にまた記憶を失っても」
「嫌。たとえ一瞬でも、いくらでも思い出せるとしても、絶対に忘れたくないことがある。だからヨヅキ達には悪いけど、やっぱり私は二度と森には帰らない・・・じゃなくて、森には行かない。この家が、私の帰る場所なんだから」
 うん分かった、それなら無理強いしない。ゲンブが選んだ道を、私は応援している。それに、いざという時には頼りになるからね。もし私とリオンの両方の記憶が無くなった時に備えて、私達の事は全て話しておいた。
 そしてゲンブ達の事も、教えてもらった。だから私達の真実は、私とリオンと、団長夫婦の4人だけのヒミ・・・あのさぁ、自警団の団長権限でゲンブの住民登録やら何やらと、いくらなんでも好き放題し過ぎだって。どうぞお幸せに。
 あ、もうこんな時間だ。ゲンブ、また遊びに来るね。今度は誰か連れて来てもいい?うん、そうだね。たとえ住む場所が違っていても、私達は何があろうとも仲間だから。
 じゃあ行ってくる。・・・ていうか、私も帰る。そろそろ仕事だし。

「あらお帰りなさい。相変わらず、槍を背負ったヨヅキも格好いいわねぇ。それじゃ、今日も頑張りましょう。また後でね?」
 はい先輩。それでは私もヤってきます、また後で。
 この麓の町に戻って間もなく、私は再び娼館で働くことにした。・・・仕事自体は、嫌いじゃないからね。先輩も一緒だし。
 違うの私はエッチな女じゃないの。これはこれで大変だけど、ヤりがいのある仕事なの。だって今さら傭兵業なんてやりたくないし。人を傷つける仕事よりも、人を楽しませる仕事がしたいというか何というか。
 自警団勤務でも良かったけど・・・無理。あんなの見ながら仕事するのは私には無理。町中でも散々ネタにされてるからね。仕事中でも猛毒の蛇を肩に乗せたり、腕に巻きつかせたりしている、物好きな団長の噂が。
 そして他の人達には分からないだろうけど、私には分かるから。たとえ蛇の姿になっていても、ゲンブがとてもエロい顔・・・じゃなくて、楽しそうにしているのが。仲間の趣味に口出ししたくは無いけど、いくらなんでも好き放題し過ぎ。
 ということで、コレをする。私ができる仕事をする。
「おお、ヨヅキちゃん久しぶり。それじゃあ今日も頼むよ」
「ええ。それでは、お相手させて頂きますね?」
 ふっふっふ。私ももう新人では無くなったし、昔の記憶を取り戻したことで、私1人だけでも色々とヤれるようになったから。ヤる内容もそうだけど、人間の世界の常識というものも思い出せたので、お客さんと会話するのにも不自由していない。
 だから最近は先輩と2人掛かりでやることが・・・いやでも未だに先輩と一緒にヤることも多いなぁ。どうやら私と先輩による3Pコースと呼ばれるものが、ここでは密かな人気になっているとか。
 えっ、差し入れですか?申し訳ありません、私は仕事中は何も食べないようにしているんです。だから、後で頂きますね?・・・ふう、後で先輩にあげようっと。
 うぅう、記憶を取り戻せたのはいいけど、甘い物が受け入れられない体質だけは直したい。もう一度でいいから甘い物が食べられるようになりたい。今のところは、これだけが唯一の不満かな?

 私達が記憶を取り戻して、どれだけ経ったのか。
 色々ヤって・・・じゃなくて。色々あって、麓の町に戻って。確か、夜中にここに着いたんだっけ。私達なら、暗い夜中でも不自由なく歩けるからね。
 そしてひとまず、先輩に報告に行くことにして。先輩も夜の女だから、夜中に会いに行っても失礼にはならないからね。娼館の店長にもお詫びをしたかったし。
 先輩は仕事中だったけど、私達2人を優しく迎え入れてくれた。名目上は、先輩を指名して個室でゆっくり、という扱いで。お金はリオンが出してくれた。
 先輩は、私達の真実については一切聞こうとしなかった。だから詳しい事は話していない。そのかわり、私の過去については話をした。・・・ええ、私と先輩は、やっぱり仲間だったんです。だから、今なら先輩の気持ちが嫌と言うほど分かります。
 そして、時間の限り話をしたけど・・・えっ、夕方まで虎ちゃんが来てたんですか?なんでこんな店に虎ちゃんが、って、えええええっ!?ゲンブが結婚した!?あの2人って、ついこの前出会ったばかりでしょ!?そりゃあ何度かヤってる仲ではあるけど、早すぎ・・・。
 あ、ああ、でも、そうか。何となく事情は分かる。それでは先輩お邪魔しました、失礼します。ええと団長の家は・・・あった。2人にも話を聞かないと。
 ・・・だけど、ゲンブはともかく、団長は普通の人間だ。こんな時間にお邪魔するのは失礼にも程がある。となると、どうする?・・・そうだね、今の私達の絆は、誰にも邪魔させない。たとえ、森の力が相手だったとしても。
 ということで、そのまま2人で森に帰って。帰ってた時はみんなが仲良く湖に浸かっていて、ついでに森が魔法の森って名前になってたけど。
 そしてその勢いのまま、1日中リオンとヤって仲良く寝落ちした時は危なかった。危うく2人とも記憶を失うところだった。やっぱり森の力には勝てなかったよ・・・。
 後で分かった事だけど、私は槍を、リオンは剣を背負っておけば、なんとか記憶は維持できる。でも本気でヤる時には、さすがに武器を外してお互い裸になっちゃうし。

 これって、やっぱり魔法でいいのだろうか。
 あの森の力を、リオンやゲンブは呪いか祟りだと言っている。でも先輩は魔法だと言い張ってるからなぁ・・・。
 だってやはり、それ以上に説明できる言葉が無い。
 団長から、仲間達の過去については教えてもらった。曰く、鴉以外は捜索依頼が出されてたから、ある程度は情報を集められたと言っていた。
 もっとも、捜索依頼を受けて森に入って来た冒険者のほとんどは、私やリオンが始末してしまったけど。・・・芦毛さんも、そのうちの1人。芦毛さん、本当の故郷には子供が3人もいるのか。ご家族の皆さんには、申し訳ない事をしたと思っている。
 虎ちゃんは、なかなか裕福な家の生まれなんだね。だからあんなに可愛い服を着ていたんだ。ていうか、そんな遠くの町からこんな所まで1人で来るなんて、無茶しすぎ。
 意外だったのが小兎もといビッグス。今では想像できないほどにヤバい人だった。ちなみにビッグスの捜索依頼を出してたところも、それなりにヤバい人達。まさかアレな組織の幹部候補生だったなんて、信じられない・・・。
 そして、鴉についても教えてもらった。というより、団長は鴉の事を以前から知ってたみたい。虎ちゃんに酷い事をした奴等とも関わりのある、裏社会の情報屋として警戒していたとか。
 ということは、鴉は元々は私達を狙って魔法の森に来たんだと思う。だけど今ではすっかり芦毛さんと・・・うん、仲間の趣味に口出ししたくは無いけど、いくらなんでも好き放題し過ぎ。おかげで虎ちゃんまでもが色々とエッチな事をヤるようになってしまった。
 ちなみに虎ちゃんは、私や先輩と一緒に娼館で働いてみたいと言っていたけど。そんな生半可な覚悟じゃ務まらないと説得して、言い聞かせておいた。
 説得の内容?私と先輩と、ついでに鴉にも協力してもらって。町中の宿屋のベッドの上で、3人掛かりで朝から晩までじっくりと・・・。
 違うの私はそういう趣味は無いの。物は試しでヤってみただけ。でも、意外と楽しかっ違う違う。ていうか先輩も鴉も、何でそういう知識と経験があるのだろうか。

 今にして思えば。先輩には色々と、迷惑を掛けてしまった。
 少し前までの私って、人間世界の常識が欠如しまくってたからね。そのせいで、何度注意されたかも覚えていない。
「あらヨヅキ、まだ起きているの?」
 それはお互い様ですって。もう夜も遅いので、今日の仕事は終わり。なので私達は住み込みの寝泊まり部屋に戻っている。
 先輩はベッドの上で明かりを灯して、熱心に本を読んでいる。表紙を見れば分かる、子供向けの勉強の本だ。他にもいくつかの本が、ベッドの下に整頓されて置かれている。
 これらはすべて、本来なら先輩のような年齢の方が読むような本ではない。それでも先輩は仕事の合間に、さらに言えば場所も問わずに勉強している。
 いつも常に何かしらの本を持ち歩いて、たとえ人目に付くような町中の食堂でも、恥じることなく堂々と、子供向けの本を読んでいる。時には見知らぬ人に笑われる事もあるようだが、先輩はその程度の事で動じる人ではない。
「へぇ、世界って広いのねぇ。奴隷時代にあちこち連れ回されたことはあったけど、基本的に建物の外には出してもらえなかったから、知らなかったわ。ふむふむ・・・」
 気持ちはとても分かる。私も、世界が広いってことを初めて知った時には驚いたから。本格的に世界を知ったのは、リオンと出会った頃かな・・・懐かしいなぁ。
 私は昔、リオンから半ば強制的に勉強させられていた。とても役には立ったけど、二度とやりたくないというのが本音。だけど先輩は自ら勉強してるだなんて・・・私には到底真似できない。やはり先輩は、私にとっては尊敬に値する人だ。
「それにしてもヨヅキって、本当に夜空を見るのが好きなのね。名前通りなだけあるわ。しかも今日は満月だから、綺麗でしょ?」
 ええ、とても綺麗ですよ。いくらでも見てられます。
 私は、この日のために生きているのだから。

 ずっと、月を見ていた。
 あの日も、この日も、その日も。
 ずっと、泣いていた。泣きながら、月を見ていた。
 子供の頃から、ずっと。それ以外の楽しみなんて、無かったから。
 物心ついた時から、ずっと私は働いていた・・・じゃなくて、働かされていたから。ご飯は不味くて、少なくて。ベッドなんて無い、床に転がって大勢で雑魚寝。
 それでも、一日中働いて、疲れているから、寝るしかない。というより嫌でも寝入ってしまう。あの頃は眠ることだけが、唯一の楽しみだったからね。
 でも、ある日。その日はどうしても寝付けなくて、夜中に眼が覚めて。何気なく、窓から夜空を眺めたの。
 ・・・とても、綺麗だった。初めて夜空を見た。
 思わず立ち上がって、窓にできるだけ近づいて。
 徹夜というものを、初めてした。その後の仕事?うん、居眠りしちゃって、怒られて、叩かれて、叩かれて、ついでにエッチな事をさせられて、食事抜き。
 でも、その日もまた、ずっと夜空を見ていた。体力が限界になるまで寝ずに起きて、ずっと月を見ていた。とても綺麗な、満月だった。
 たぶん、その日から。私は頑張って、人一倍働いて、強くなったんだと思う。頑張って働いて、誰よりも強くなって、早くこんな所を出てってやる。
 もっと月を見たい、好きなだけ見たい、誰にも邪魔されること無く、ずっとずっと、夜空を、あの綺麗な満月をもう一度、いや何度でも何度でも何度でも見てやるんだ!
 だから、私はヨヅキ。私は、月夜の下で生きる者。昔の事を一切忘れていたはずなのに、我ながら良い名前を付けられたと思う。
 ・・・うん、もう朝だね。さようなら、また会おうね。
 大きくなれよ。また大きくなれよ。また大きな姿を見せてくれよ。
 また月が一番大きくなる日を、私はずっと待っているから。

 数日は続けて森に帰って。同じく数日は続けて娼館で働いて。
 森に帰るのは、森の魔法について詳しく調べるために。私とリオンが交代しながら、色々な事を試している。人体実験とでも言えばいいのかな?あとやっぱり、仲間達と一緒に居たいからね。
 娼館で働くのは、正直に言うとお金のため。どうしてもやりたい事・・・じゃなくて、やらないといけない事があるから。リオンも頑張って仕事したから、結構溜まったね。
 それじゃあ、そろそろ。店長、以前もお話ししましたけど、またしばらくの間旅に出ます。・・・ええ、もちろん。また先輩と一緒に仕事したいですからね。絶対に帰ってきますから。
 リオン、頼んでおいたものは用意してくれたよね?うんバッチリ、仲間達も協力してくれたんだね。・・・えっ、白狐は物好きだから仕方ないなって呆れられてたの?う、うん、私は別に何を言われてもいいけど。
 ええと後は、団長に頼んでいたものと・・・あのさぁ、何でそんなものを用意してんの?もうそれは嫌だって言ったでしょ!?
 えっ、この方が馬車代も安くなるって?ま、まぁ確かに私は昼には寝入っちゃって狐に戻っちゃうから、ね・・・。分かったよもう、またオリに入ればいいんでしょ?この前のよりも少し大きめなだけ良しとするか。
 私の槍は・・・持って行く必要は無いかな。荷物になるし、いざとなれば素手でも戦えるし。だからこれはゲンブに預けておくね。うん、ゲンブも用意してくれてありがとう。この髪はちゃんと故郷に届けるから。
 昔の私は戦場で仕事をしてたから、時にはこういう事もしてたの。戦いが終わった戦地に行って、頼まれた遺体を探して、遺品や遺髪を拠点まで持ち帰る、という仕事を。
 ・・・さて、行こうか。ケジメを付けるために。団長に用意してもらった情報と地図を頼りにして。仲間達の本当の故郷へ、これを届けないといけないから。

 ある時は、馬車に乗って。ある時は、リオンと一緒に歩いて。
 辿り着いたのは、とある森の中にある、猟師や狩人達の集落。
 ここからは人間の姿になって、ちゃんとした服を着て接することにする。もちろんリオンと一緒。ええと・・・桃色髪のあの人かな?顔も体つきもゲンブとそっくりだ。すみません、この張り紙なんですけど。
「えっ。お姉ちゃんを、知っているの?」
 なるほど、妹さんか。道理でゲンブとそっくりな訳だ。
「・・・遺品を届けるようにと、頼まれて」
 私達はそれ以上は何も言えず、桃色髪の遺髪を差し出す。何と言えばいいか分からないから、無言のままで。妹さんとは視線すら合わせられない。
 妹さんは、その場で泣き崩れてしまった。やはり私達は何も言えず、この集落を後にする。まだ1人目、ここで立ち止まってはいけない。
 次に辿り着いたのは、立派な城壁がある、大きくて綺麗な町。
 情報によれば、この立派なお屋敷か。門番に事情を話すと、屋敷の中まで案内された。そして案内された先には、金髪の男性と女性が待っていた。
 女性は、激しい憎悪を向けている。そしていきなり、私の胸倉を掴んできた。私は動かない。抵抗しない。男性が引き離してくれるまで、ずっと耐えていた。
「今さら何よ、あの子が居なくなって、いくら探しても居なくて、ようやく諦めがついて、だけど諦められなくて、それでも私達、は」
 私は別に何を言われてもいい。お母さんの怒りはもっともだから。虎ちゃんは私達が殺したようなものだから。でもやっぱり、ご両親とは視線を合わせられなかった。
 別れ際にお父さんは、私達にお礼を言ってくれた。・・・胸が痛い。でも、まだまだ旅を続ける。まだまだ行き先があるから。

 次に辿り着いたのは、岩山だらけの高山地域。
 噂には聞いていたけど、土地柄のせいなのか屈強な男達がいっぱいいる。なるほど、だからこの集落の男達は傭兵や冒険者家業で出稼ぎに行く人が多い訳か。
 そして芦毛さんも、そのうちの1人。3人の息子さん達も、みんな逞しい体をしている。ええと、お母さんは・・・そう、ですか。もう、亡くなられて。
「・・・親父からの仕送りが途絶えたから、俺達を育てるために、無理して働いて、な。親父はそういう家業だから、仕方が無い、けどよ」
 息子さん達は拳を握りしめている。その怒りは、芦毛さんに向けられてのものだろう。彼らと、亡くなられた奥さんの苦労は、私なんかでは到底理解ができない。
 いや、理解をしてはいけない。気持ちが分かるだなんて口が裂けても言ってはいけない。彼らの怒りは、本当なら私に向けられるべきなのだから。
 次に辿り着いたのは、海沿いの町。
 ここの人達は血気盛んというか、荒くれ者が多いというのが第一印象。漁師だけでなく、船を作る職人達も数多くいる。
 だからここも屈強な男達がいっぱい。ビッグスのお父さんも、想像できないほどに厳つい姿をしていた。あの、これを、
「知らん。俺には息子なんか居ない。ケンカばかりして人様に迷惑を掛けまくった不良息子なんて居ないんだ。だからそんな遺髪なんぞ捨ててくれ」
 ・・・こういう対応をされるのも、胸が痛い。だから遺髪を置いて、すぐに出て行く。これを捨てるかどうかはお父さんが判断してください、とだけは言っておいた。
 そして町を出て行く前に、こっそり覗きに行った。お父さんは遺髪を握り締めて、大泣きしながらヤケ酒をしていた。私達の前では、素直になれなかっただけなんだね。やはり、胸が痛い。

 次に辿り着いたのは、小さな農村。
 鴉の故郷を見つけるのには苦労したと団長が言っていた。なにせ、あの町での鴉は裏社会の人間だからね。以前のカチコミで捕まえたクソ野郎共を尋問して聞き出したらしいけど。
 ええと、ご両親は・・・鴉が子供の頃に、亡くなられたのか。となれば、村長さんに渡せばいいかな。あの、これを・・・って、何で私の手を握るの?
「お、おお、わざわざこんな所まで、あの子のために。旅人様、ありがとうございます。どうかお礼をさせてください、できる限りのお持て成しをさせてください」
 ・・・断りたい。村の様子を見れば分かる。ここはとても貧しい村。余所者の私達の分まで食べ物を用意する余裕はないはず。そもそもお礼を言われる資格なんて無いのに。
 だけど私達は、断れなかった。村長さんの気持ちを無駄にすることができなかった。今の私達には、普通の人間の食べ物は味が濃すぎて、キツくて、胸が苦しかったけど・・・残さず、食べた。食べ物は、無駄にしてはいけないから、ね。
 次に辿り着いたのは・・・ここが、リオンの。
 ここではリオンは狼になった方が良いか。ついでに首輪を付けさせてね?いや違うよ、これはオリに入れられた仕返しじゃないよ?それと首輪に鎖を付けて・・・うん、ギリギリ猟犬に見えなくもない。
 ふうん、リオンの実家ってお店をやってるんだ。お邪魔します、ええと・・・あなたが、お母さんですか?あの、これを、
「そんなものを届けるために、わざわざウチまで来たの?物好きねぇ、あなたも。用件は分かったから、さっさと帰ってくれる?そんな狼なんて連れ回して、邪魔よ」
 ・・・もしかしてリオンも、ビッグスと同じ?うん、無理に話さなくてもいいからね。言いたくなった時に、話してくれたらいいから。
 そして町を出て行く前に、こっそり覗きに行った。お母さんは、まるで何事も無かったようにしている。・・・この方が、胸が痛いね。だから、さっさと出て行く。

 念のために少し離れた町まで行って、すぐ宿屋に泊まる。
 お互い何も言わない。何も言わず服を脱ぎ、一緒にベッドに転がり込む。後は私は何もしない。全てをリオンに委ねる。
 眼を閉じて、キスをする。感触で分かる。リオンは泣いている。
 私も泣いている。ずっとそうだから。この旅を始めてから、ずっと。
 遺髪を届けて、仲間の家族の前では耐えて、感情を押し殺して。そして話が終わればすぐに、どこか2人きりになれる場所を見つけて、こうしている。
 胸が痛くて、苦しい。だから、こうするしかない。
「すまない。俺が、こんなことをやろうと、言った、せいで」
「それは気にしないで。2人で一緒に話し合って、こうしようと決めたんだから。どっちが悪いなんてことは無い」
 乱暴に押し倒される。・・・私はもう既に、濡れている。
「それに。みんなが、羨ましい。私には生まれ故郷なんてものが無いから。みんなには、帰りを待ってくれていた人が、悲しんでくれる人がいるなんて。羨ましい」
「ハ、ハハ。俺には、いなかったけどな。なにせあの人、親父の再婚相手だし。そして再婚早々に親父が謎の死を遂げて、親父の店はあの女の物になっちまったってワケだ。あー、マジで思い出したくなかったぜ」
「でも、リオンの本名を知ることができて」
「もうそれは忘れろ。忘れてくれ。俺も忘れるから。俺はリオンだ、魔法の森で生まれたリオンだ。・・・駄目だもう限界だ、ヤらせろ」
 うん、いいよ。それで気が済むなら、いくらでも私をヤって。
 リオンがする事なら、いくらでも受け止めてあげる。その方が私もスッキリするから。それに、辛いのは私も一緒。だから一緒に、ね?

 これは、私達のケジメ。
 団長が調べる限り。鴉を除けば、仲間達が死んだのは、もう何年も前の話。虎ちゃんのお母さんに言われたように、私達は今さら何をしているのか。
 それでも、やらないといけない。あの森の魔法の真実を知って、それでも魔法の森と共に、仲間達と共に生きると決めたんだから。
 全ては、私達が始まり。それが、リオンと話し合った結果。
 私達があの森で死んで、今の姿になったのは何故なのか?あの森に元々そういう力があったのか、もしくは私達が強く願ったから魔法の力が生まれたのか。
 ・・・自分で言うのもどうかしているけど、おそらくは後者。もし、あの森に元々そういう力があったのなら。私達よりも前に、私達と同じ力を持った者が生まれているはず。
 だって、私は植物には詳しくないけど。あの森の木々があそこまで育つのには、どう考えても数年程度の年月では足りない。何十年か、あるい百年単位とか。それほどまでには、古くからある森だと思う。
 となると、あの森で行方不明になったり、命を落とす人は・・・私達が訪れるよりも前から、多くいたはず。だから私達よりも前に森で死んだ人間の誰かが、魔法の力を得て生き返っていてもおかしくない。というか、いないとおかしい。
 なのに、誰もいない。私とリオンが最初。どうして私とリオンが最初なの?どうして私達はこうなったの?・・・それは、私達がそう願ったせいで、森に魔法の力が宿った。仲間達がああなったのも、私達がそれを望んだせい。
 これがリオンと2人で話し合った、魔法の森が生まれた理由。私達が全ての始まり。私達の、罪。こんなのゲンブにも、団長にも、先輩にも話せない。

 だから私達は、ケジメを付ける。これがはたしてケジメになるかは分からないけど、私達ができることをする。
 そしてここが、最後に訪れる場所。私達の旅の終着点。
 といってもここは、麓の町の隣にある町だけど。リオンもここには荷物運びの仕事でよく来るんだよね?なるほど確かに、魔法の森よりは劣るけど、それなりには自然豊かで、綺麗な町だ。
 ええと、団長が言っていたのは・・・この農園か。男性が懸命に働いている。なんて声を掛けたら分からないからじっと見ていたら、男性から私達に近づいて来た。
「なんだ、アンタ達は。ウチに何か用か?」
「・・・娘さんの、話を聞きました」
 男性の表情は険しくなった。
「帰ってくれ。娘は見世物じゃないんだ。隣町の自警団の団長が来たり、人間になれる動物の話を聞かせろと妙な輩が絡んで来て、ウンザリしてるんだ。どうせアンタ達もそれが目的なんだろ?何も話すことは、って」
 私達は袋を差し出す。今の私達の、有り金の全てを。
 旅の途中でも、時々仕事して。久々にリオンと一緒に冒険者の仕事をやったりして。そして道中は極力お金を使わないようにして、2人でできる限りのお金を貯めた。
「私達は、何も聞くつもりは無い。・・・その、このお金を、役立てて欲しくて。こんな事をして、何になるかは分からないけど。それでも、娘さんの話を聞いたら、じっとしてられなくて。だから私達は、ここまで」
「・・・もういい。気持ちだけは受け取っておくから」
 それでも、私達は帰らない。動かない。じっと男性を見続ける。
 しばらくすると、男性は何も言わずにお金を受け取ってくれた。だから私達も何も言わずに、この町を後にする。

 あとは歩いて帰るだけ。交易路を2人で歩く。
 お互い、何も言わない。でも何を思っているかは分かる。
 こんな事をして、何になるのだろう。
 これってただの自己満足じゃないの?
 本当にケジメをつけるのなら、真実を話すべきだったのでは?私達が人間になれる動物です、娘さんを苦しめた大猿を生み出したのは私達です、って。
 仲間達の家族もそう。あなたのお姉さんは隣にいる彼が殺しました、あなた達の娘さんは私達が追いかけ回して谷底に落としました、あなた達のお父さんは私がこの手で殺しました、あなたの息子さんは、あなたの村を出て行った女性は、あなたの眼の前にいるこの狼は。
 だけど私達は。本当に話すべきことを、話せなかった。
 だって、もし本当の事を話したら。ご家族が、魔法の森まで駆けつけてくるだろうから。あるいは冒険者か誰かに依頼を出して、あの山に旅人がやって来てしまう。
 それだけはダメ。侵略者が増えてしまうから。侵略者として始末しないといけなくなるから。私達の絆は誰にも邪魔させない。
 だからもし。仲間の家族があの森に来て、警告を無視したのなら。私は容赦なく、始末する。たとえ仲間の家族であったとしても、私達の絆は誰にも邪魔させない。
 この旅は、私達の真実にケジメをつけるため、のつもりで始めた。とても辛い旅だった。どうしようもないほどに、胸が痛くて、苦しくて。
 だから、私は。リオンはどう思っているかは分からないけど、私は決意を新たにした。私達の絆は誰にも邪魔させない。私とリオンの絆は誰にも邪魔させない。
 たとえ、どんなことがあっても。私はリオンと、ずっと一緒。

 麓の町に帰って来た。本当なら先輩や、団長夫婦や、娼館の店長や、魔法の森の仲間達に会いに行くべきなのに。ただいま戻りました、帰って来たよ、無事に旅は終わったんだ、って言うべきなのに。
 だけど真っ先に、リオンの家に行く。そして家に残してあったお金を持ち出して、再び外に。もしかしたらビッグスが来るかもしれないからね、邪魔されたくないの。
 という訳で、宿屋で。うん、ここにしようか。どうせなら3日くらいのんびりしようよ。食事は2人とも要らないから。飲み物も水でいいからね。
 部屋に入ると、やはりお互い何も言わない。何も言わず服を脱ぎ、一緒にベッドに転がり込む。後は私は何もしない。全てをリオンに委ねる。
 眼を閉じて、キスをする。感触で分かる。リオンは泣いている。
 私は泣かない。もう私には、過ぎた過去。私はもう二度と、過去から眼を背けない。だから前を向く。前を向いて眼を開けば、リオンがいるから。
 いいよ、いっぱいキスをして。私の体を触って。いっぱい撫でて。好きなようにして。リオンの気が済むまで、いくらでもヤって。
 うん、縄で縛るんだね。またベッドの四隅に両手足を括り付けたいんだね?いいよ、だけどもう放置だけはしないでね。えっ目隠しもするの?いいよいいよ、いくらでもしていいから。全てを受け止めてあげるから。
 嬉しい事も、悲しい事も、苦しい事も、辛い事も。その全てを私にぶつけて。それが私。私は物好きだからね、何をされても喜ぶから。
 リオンと一緒にいられるのなら。私は全てを、受け入れるから。
 だって、今の私は。何もかもが、嬉しいの。

 私達の真実だって、そう。真実を知ってリオンが辛い思いをして、それでリオンが私を求めてくれるのが、とても嬉しいの。
 この旅は、仲間達への償いの意味もあるにはあった。これからも魔法の森と、仲間達を大事にして生きていくというのも、嘘偽りの無い本音。
 でも、それ以上に。これでリオンは私のモノ、という気持ちが湧いてしまうの。この旅の思い出は私とリオンの2人だけのヒミツ。誰にも言えない。誰にも知られたくない。
 この辛さを分かり合えるのは私だけ。リオンの辛さを理解して、受け止めてあげられるのは私だけ。私だけ。他には誰もいない。だからリオンは私だけのモノ。
 これでリオンとの絆はますます深まった。だからリオンとの絆は誰にも邪魔させない。私達はこれからもずっと一緒。絶対に、永遠に、リオンを離さないんだから。
 だから、ずっと胸が痛くて苦しかった。リオンが辛い気持ちになって、私にチラっと視線を送ったり、お互いの顔を見合わせたりする度に。
 あぁ、リオンがとても苦しんでいる、だけどリオンの気持ちを分かってあげるのは私だけだ、私しかいないんだ、リオンの気持ちを受け止めてあげられるのは私だけなんだ。そう思うと、胸が痛くて、苦しくて、たまらなくて。
 イイ。凄くイイ。リオンが私を見ている。リオンが私に助けを求めてくれている。今の私はリオンよりも弱いからね、こうでもしないとリオンの役には立てないからね、仕方ないよね、だから嬉しいの、リオンが私に助けを求めてくれるのが嬉しいの。
 実はこういうフザけた気持ちがあったから、この旅を思いついたと言ったら、リオンは怒るかな?怒り狂って、私なんかでは思いつかないような酷い事をしてくれるかな?それを想像すると、ゾクゾクしてたまらないの。
 でもさすがに、それはやめておくね。これ以上リオンを苦しめたら、リオンが本当に壊れてしまいそうだからね。

 えっと、宿屋に泊まったのはいつ頃だったかな。もう、それすら覚えていない。ベッドはとっくの昔に酷い有様になって、私もリオンも汗だくで、しかもお互いの体液まみれで酷い事になっていて。えっと、うん。
「やっぱり、イイ、なぁ。ヨヅキと、ヤる、のは」
「・・・ぁ、ふぁ・・・ぅあ」
 もう何も考えられない。
 私の体は傷だらけ。手足だけじゃない、色々な縛られ方をされた。エッチのための優しい縛りから、拷問の領域と言っていいものまで。
 もう体中が、縄の跡だらけ。そしてそれ以外にも、
「ひ、ひぃっ、また、それ、は、ぎゃああああああ!」
「なぁに、食いはしねぇよ。だけど・・・ダメだ我慢できない」
 噛み付かれる。私の肩を。痛い。ただただ、痛い。
 今までも甘噛みなら何度かされた事はあるけど、これは本気の噛み付き。血が出ないギリギリのところまで、深く噛み付かれて。私はジタバタするけと、後ろ手に縛られているから無意味。逃げられない。ただただ無様に、悲鳴を上げて。
 そしてじっくり私を味わって、リオンは口を離す。肩には歯形がクッキリ。・・・そして再び、口を大きく開いて。また、私の体を貪る。今度は胸を、
「ひ、あ、痛い、やめ、少しずつ、強くする、のは」
 時には勢いよく噛み付いて。時にはゆっくりと時間を掛けて。噛まれて、噛み付かれて、私の全身はリオンの歯形だらけ。体の上から下まで、あちこちが痛い。
 でも、イイ。たまらない。痛いのに、とても嬉しい。いいよ、もっと噛んで。私はリオンのモノなんだから。だからリオンの好きなようにしていいからね?いままでも、そしてこれからも、ずっと。

 縄を解かれ、仰向けに押し倒されて。リオンは、私の上に。
 リオンって、正常位の体勢が好きだよね。うん、私も好き。
 だから、お互いの両手を握り締めて。指を絡ませるように。
「ヨヅキ、お待ちかねの時間だ。愛し合おうぜ?」
 リオンの顔をじっと見る。リオンも私を見つめている。
「あ、う、あ、ぁ・・・」
 私の意識は朦朧。全身を徹底的にイジめられたからね。
 でも、リオンからは眼を離さない。ずっと見続ける。だからリオンも、私をずっと見て。お願いだから、この眼を離さないで。
「ヨヅキ。愛しているよ」
「・・・わたし、も。だい、すき」
 気を失ってなんかいられない。
 まだまだ、終わらせない。終わりたくない。
 もっとリオンの傍に居たい、いつまでも一緒に、誰にも邪魔されること無く、ずっとずっとリオンと、リオンは私のモノ、いままでも、そしてこれからも、永遠に。
 だからもう、言葉は要らない。
「――ぎゃあああああああああっ!いいいいいいいいいっ!もっとぉっ、もっとしてえええええええええええっ!」
 深く深く、貫かれて、私とリオンは一つになって、私はただただ無様に、下品に喘ぐだけ。いくらでも受け止めてあげる。リオンに付き合いきれるのは、私だけ。
 私達はこれからもずっと、2人で生きていくんだから。


 これは、魔法。誰が何と言おうとも、魔法。
 私の願いから生まれた、私が幸せになるための魔法。
 私が強く願ったから、私達はこうなったんだ。
 私が強く願ったから、魔法の森が生まれたんだ。
 ・・・こんな事を言ったら、リオンは怒るかな?
 だけど、リオンとの絆は。何よりも固く、重いからね。
 リオンとの絆は、誰にも邪魔させない。たとえ何があろうとも。
 リオンは私のモノ、絶対に離さない。たとえ何があろうとも。
 私はリオンの全てを受け入れる。たとえ何があろうとも。
 私はリオンを愛し続ける。たとえ何があろうとも。
「ヨヅキ、すまない。ヤりすぎ、た」
 えっ、何を言ってるの?まだ私はイけるよ、遠慮しないで。


 私は物好きな女だから。いくらでもヤっていいんだよ?
 リオンに抱かれたい。体中をイジめられたい。
 リオンに酷い事をされたい。何でもしていいんだよ?
 リオンにもっともっともっともっとヤって欲しい。
 いいよ、もっと見て。もっと私を見て。
 私もリオンを見ているから。いくらでも見てられる。
 もう泣かないで。とても辛い旅だったよね。
 だけど、リオンとの絆が深まったから、私は嬉しいの。
 そうだ!またお金を貯めたら、2人だけで旅に行こうよ!
 今度は楽しい旅をしようよ!今度は楽しそうなリオンが見たい!
「ああ、そうだな。また2人で、旅に行こうな?」
 ふふ、楽しみ。だからこれからもずっと、一緒にいようね?








 ――今回の主役:魔法の森の支配者


 って、違う違う。私はヨヅキ。人間であり、白狐でもある。
 森の中で暮らしたり、人間の町で娼婦の仕事をしたり、色々。
 そしてこの森には、私と同じく2つの姿を持つ仲間達がいる。
 狼に馬に兎に虎に鴉と・・・ふと思えば、賑やかな仲間達だ。
 他にも、人間の町に嫁ぎに行った蛇と、その旦那さんと。
 職場の同僚でもある、私の先輩と。うん、仲間がいっぱい。
 出会いは何であれ。仲間達との絆は何よりも固く、重い。
 だから、何があろうとも。この絆を、私は大切にしたい。
 思い出したくない過去もある。眼を背けたい真実もある。
 知らない方が幸せな事もある。それでも、私は生きていく。
「おいヨヅキ。俺を助けてくれよ、あの時のように」
 うん、いいよ。だからこれからも、一緒に生きようね?


 ――終わり
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