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十二話 とある賞金首の話
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これは、いつかわからない。ここではない、どこかのはなし。
ここは、どこだ?おれは、なんだ?わからない。
このせかいは、なんだ?よく、わからない。
まほう?なんだそれは?わからない。なにも、わからない。
おもいだせ。おもいだせ。思い出せ。思い出せっ!
俺は、そうだ、俺は、ああ、そうだった。
ウチの顧客の、お偉いさんの頼みで。ハァ、面倒だなぁ。
禁足地の山を調べてこい、だなんて。そして何で俺なんだよ意味分かんねぇ。まぁ確かに俺は山には詳しいけどよぉ。なにせ爺ちゃんも親父も猟師だったからな。
それに、山を登って調べるだけでも報酬が貰えるとなれば、ヤるしかないか。あぁあ、下っ端は辛いぜ。早くビッグになりたい。いつかは出世して、大きな娼館のオーナーとか、オークションの元締めとか、いろいろやってみたいなぁ。
もしくは、大盗賊や大悪党として、賞金首になるのも良いなぁ。どうだ俺はこんな賞金が付けられるほどのワルなんだぜ、と自慢してみたい。
という訳で、朝早くから山に入り、中をブラブラ。自警団の許可が貰えなかったから、扱い的には不法侵入になるかもしれんが。そもそも法律なんてものは自警団が勝手に作ったルールだ。そんなもん知らん。
まったく、何が禁足地だ。普通の山じゃねーか。ビビって損したぜ。昔は人の出入りもあったから、ある程度は安全な道が確保されているし、余裕余裕。
と言っても、途中までだけどな。ここまでは余裕。ここからが本番。
山をある程度進んでいき、木々が生い茂るエリア、というより森に辿り着いた。ほお、中々良い森だ。木々は立派だし、空気は良いし、俺の町の近くにこんな素晴らしい場所があったとはな。
えっと、今の時間は・・・昼前か。うん、暗くなるまでまだまだ時間はある。せっかくだからハイキングでも楽しもうか。こんないい場所だし、
「んああああ・・・眠いぃ・・・」
前言撤回。いきなり理解不能だよオイ。
助けてください。いきなりだけど俺は死を覚悟しています。
「んん・・・?あぁ、もしかして旅人さん?こんにちは」
寝ぼけているのか。顔をごしごししながら、俺に近づいて来る。
「道に迷ったのかな?山を下りるのなら、あっちに行けばいいよ」
どっしどっしと、大きな足音を立てて。やめろこっち来んな。
「それとね。この森は、あまり奥まで来ない方が良いよ。普通の人間だと、生きては帰れないと思うから。特に、あの人にでも見つかったら・・・いや何でもないですハイ」
俺の横を、何事も無かったかのように歩いて行く。
俺はその場にへたり込んでる。無理だよ理解が追い付かねえよ。
「あれ、どうしたの?足でも痛めたの?・・・だったら尚更、早く帰った方が良いよ。この森は弱肉強食だから、冗談抜きで誰かに食べられちゃうよ?」
どっしどっしと、大きな足音を立てて。多分、女の子が去っていく。
うん。コイツは多分、女の子なんだ。ただし見た目がアレすぎる。
「警告は、したからね?それじゃあ、さようなら。気をつけて帰ってね。ふあぁあぁ、私も早く寝床に帰らなきゃ・・・」
やはり、寝ぼけているのか。前足で、顔をごしごししている。
虎。どう見ても俺よりもデカい虎。どう足掻いても俺よりも強い虎。
そんな虎から。女の子の声が。人間の言葉が。
ダメだまだ理解が追い付かない。虎がどっか行った後も、しばらくは動けなかった。マジで怖かったよアレ。
でも、俺は立ち上がる。再び歩き出す。
さっきはマジで怖かった。でも、俺は前に進む。
凄ぇ。マジで凄ぇ。虎が喋っただと!?凄ぇぞこの森!
まるで子供に聞かせる昔話みたいじゃねーか!うおお、ワクワクしてきた!もっと調べてみよう!この森についてもっと知りたい!
いや、確かにさっきはビビったけど。どうやらあの虎は話ができるようだ。おおお、動物と会話ができるってマジかよ意味分かんねえよ信じられねえよ。
ダメだ興奮が抑えきれない。そうだ、思い出した。俺はこういうことがしたくて、故郷を飛び出して、冒険者になったんだ。
でも、うまく行かなくて。生活が苦しいから、悪い事をして金を稼いで。気が付けば、悪い事ばかりするようになって、悪い奴らの下で働くようになって。
それでも良いと思っていた。もうこの際だから、悪者になってブイブイ言わせてやろうかと思ってた。だけど俺は、やっぱり。冒険がしたい。
だから、進む。まだまだ森の奥を進む。もちろんいつでも帰れるように、進むたびに木に傷を付けて、また進んで木に傷を付けて、帰り道への道しるべを付けながら。
さっきの虎に会いたい。いや、もしかしたら他にも仲間がいるのかな?とにかく、不思議な動物に会いたい。まさか顧客の冗談めいた話から、こんな事になるなんて。マジかよ未だに信じられねえよ。
顧客からは、どういうものか見てみたい、探してほしい、とは言われている。これはつまり、捕まえてこいって意味にはなるだろう。
だが、俺にはそんなつもりは無い。まずは話をしたい。動物と話ができるなんて夢のようだ。それに話が通じる相手なら、それが一番だと俺は、
「――止まれ、侵略者」
・・・えっと。これは話が通じる奴なのかな?
周囲を見回す。見当たらねえな。
「警告する。これより先は、人間が来る場所ではない。引き返せ」
耳を澄ます。声の出所を確かめる。だが、分からない。
「もし引き返さないのであれば、お前を侵略者として扱う」
おおう、物騒だな。だが、引かない。
「もしそうなれば、お前は死ぬことになる。これは脅しではない、本当の話だ。だから早く引き返せ、今なら間に合う。無駄に命は奪いたくない」
嫌だね。さらに前に進んでやるぜ。
「ど、どうした?いいい命が惜しければ、さっさと帰れ、って」
今の俺は、恐怖よりも好奇心の方が勝っているからな。
「オイ、話がしたいなら姿を現せよ」
「い、いや。あの・・・姿を現すのは、駄目なんです」
この男の声は、どういう奴なのか。そっちの方が興味がある。
「あの、実は、僕はその、人前に出るのが、恥ずかしくて・・・う、ううぅ、お願いですから帰ってくださいぃ、余所者は嫌いなんですぅ・・・」
オイオイ、さっきまで侵略者扱いしてたのは何だったんだよ。ははぁ、コイツは臆病な性格と見た。死ぬとか何とか言ってるけど、コイツ相手なら別に怖くない。だから、さらに進むぜ。
「あのう、帰らないとマジで死にますよ?悪い事は言いませんから、早く帰ってください。どうなっても知りませんよ?」
「ふん。帰って欲しければ、それなりに誠意ってものを見せてもらわないとな。オイどうした、姿を現してくれよ。なぁ頼むよ。お前も人間と会話ができる動物なんだろ?」
「う、ううぅ・・・嫌ですぅ、お願いですから帰って」
「もういいよ小兎。あとは私がヤる」
おっ、今度は女の声、が――。
「どうしたの?お望み通り、姿を現してあげたのに」
「ぐ、あ、あああああっ」
痛い。苦しい。喉が、俺の喉が。
「2回は、警告されたはずだよね?」
俺の、背後から。女の声が。
「ねえ、聞いてる?私の言ってることが、分かる?」
「がああ、あああ、ああっ」
俺の喉が。首が。絞まる。絞めつけられる。
手が。女の両手が。俺の首を、後ろから。
「警告はした。なのにあなたは、帰らなかった。止まらなかった。そして前に進んだ。それはどうして?何が目的で、ここに来たの?2回も警告されたのに、何でそれを無視したの?あなたって話が通じないの?」
話そうにも、喋れない。首を絞められているのだから。
「だったら私は、話をしない。話が通じないのなら、こうするしかない。警告を無視した侵略者には、容赦はしない。ここに来てしまった、あなたが悪いの。だから私は、あなたを始末する。――お前を、殺す」
全力で振り返ろうとする。俺の首を絞めている手を離そうと、女の腕を掴む。かろうじて足を動かして、女の足を踏んだり、蹴ってもいる。だが、それでも、
「何それ。その程度の力では、私は負けない。お返し」
「ぎゃあああああっ!?」
首が、首の骨が。軋む。鳴ってはいけない、音がする。
「大丈夫、これ以上は苦しめないから。・・・おやすみなさい」
ゴキッ、という、音。薄れていく、意識。
俺が最期に、覚えているのは。白い髪の、女。
嫌、だ。死にたく、ない。
せっかく俺の、冒険が、始まったというのに。ようやく、俺は冒険者になったのに。嫌だ。俺は、死にたくない。俺には冒険が待っているんだ。
「後は他のみんなが食べてくれるから・・・そろそろ私は寝るね、おやすみ」
「いやぁ、さすが白狐さんですねぇ。お疲れ様です」
2人の声がする。兎と、狐か。
それに、最初に出会った虎か。
何だよこの森。無茶苦茶すぎる。意味が分からん。
怖い。怖すぎる。こんなに綺麗で居心地の良い森なのに。こんな化け物共が住んでいるのか。俺が住んでいる町の、すぐ近くに。
こんな、恐ろしい所が。すぐ近くに、あったなんて。
いやだ、帰りたい。今更だけど帰りたい。もうこんなところにいたくない。死ぬならせめて、ここじゃなくて、もっと別の所に。
立てるか?いや、立ってみせる。力を込める。
・・・立て、た。よ、よかった。生きてたんだ、俺。
一瞬、この世のものとは思えない綺麗なお花畑とか、死んだはずの爺ちゃんが手招きしてた姿が見えたが・・・うん、あれは夢か幻か。俺は生きている。
でももうこんな所には居たくない!もう嫌だ!さっさと帰る!
でも、帰り道は・・・どこだ?ええい、とにかくここからさっさと出て行ってやる!脱出だ!二度と来るかこんな所に!
うぐぐ、何とか夕方までには帰ってこれたぜ。首がイテェ。
仲間からはマジで心配された。首を包帯でグルグル巻きにされて、絶対安静だよチクショウ。なんでお前生きてるんだよ、とまで言われちまった。
俺は今アジトの寝泊まり部屋で寝てるけど、毛布で全身を覆ってる。今は一人にしてくれ、理解が追い付かねぇんだ。
森の中での話?言えるかあんなこと!もう何も思い出したくない。あんなの思い出したくない。あいつらは化け物だ。何も言いたくない。思い出したくないから言いたくない。もう嫌だ、あんな記憶を忘れたい、嫌だ、嫌だ。
ううう、思い出しただけでも泣けてくる。マジで怖かった。兎はどうでもいいけど、虎と首絞め女が怖すぎる。もう嫌だよあんなの。
う、何それ。ああ、飯か。ありがとう。
あぁあ、こんな時には野菜のスープが染み渡、オゲッ!?
お、おいちょっと!?これ味が濃すぎるって!?辛ッ!不味ッ!
え、ちゃんと病人用に薄味にしてるって?あ、ああゴメンな、俺のために用意してくれたのに・・・でも悪ぃ、食欲が無えんだ。1人にさせてくれ、頼むから・・・。
なぁ、ついでに聞いていいか?今って・・・そうだよな、夜だよな。
窓の外には、月が出ているんだから。星空が見えるんだから。
そうだよな、今は夜に決まっているよな、は、はは。
――なんで、昼間みたいに、窓の外の景色が隅々まで見えるんだ?真っ暗闇なのに。夜だというのに。なんで、見える、んだ?
ああ。俺、疲れてるんだな。悪い、もう少し寝てる。起こさないでくれ。
知ってるんだ。分かるんだ。薄々分かるんだ。
どうして、野菜のスープが食べられなかったのか。どうして、夜中なのにバッチリ見えるのか。ついでに言うと、どうして俺は森から脱出できたのか。
でも、認めない。そんなの認めない。
それを認めるということは。あいつらの事を認めることになる。森にいた、あいつらを。あいつらのことを、認めることになる。
嫌だ。それだけは嫌だ。
だから思い出したくない。あいつらの事なんて。
何も言いたくない。あいつらの事なんて。
思い出したくないから言いたくない。あいつらの事なんて。
もう嫌だ、あんな記憶を忘れたい。あいつらの事なんて。
あれから何日たったか分からないけど、俺はずっとベッドの上で、毛布に包まって、ずっと寝ている。もう何も考えたくない。
仲間が呼んでいる。でも無視する。悪い、話しかけないでくれ。
仲間がまた病人食を用意してくれた。食べてみる。でも食えない。味が濃すぎる。無理だ、俺にはこんなものは食べられない。
それでも仲間は、これを食べろと言う。これ以上何も食わなければ、余計におかしくなるからと。止めてくれ、そんなの、俺には、食えな、オゲッ!
う、うあ、あ、やめろよ、そんな眼で俺を見るなよ、俺を不思議そうな眼で見るなよ、変なものを見るような眼で見るなよ。
まるで化け物を見るような眼を、あいつらを見るかのような眼を、う、うわ、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!
町を飛び出した。着の身着のまま。荷物などない。
今すぐにも出て行きたかった。あの禁足地の山から、あの森から、離れたかった。もう何も考えられなかった。とにかく逃げたかった。
でも、途中でお腹が空いて。そりゃあそうだ、あれから何も食ってないもん。駄目だ我慢できない、これでも食うか。
・・・うん。食える。チクショウ道草を食うってこういう意味じゃねえだろ、何で俺は草やら木の葉っぱやらを食ってるんだよクソが。
まるで俺も、いや、違う、俺は化け物なんかじゃない、俺は人間だ。間違いなく人間だ。あいつらなんかとは違うんだ。
あぁ、それにしてもどうしようかな。もうあの町には戻れない。仲間にも迷惑かけたのに、今更どの面下げて行けばいいんだよ。ていうか無断で出て行って仕事をサボったのだから仕置きされるに決まっている。
あぁ、どうしよう。仲間を裏切るだなんて。なし崩しに始めた裏社会の仕事だったけどよ、意外といい奴等だったんだぜ?
夢を持って故郷を飛び出したけど、うまく行かなくて、ヤケになって。そんな俺と同じ境遇の奴が、いっぱいいたからな。
あの町には多くの旅人が訪れる。でも、長続きする奴はそこまで多くない。なにせ、あの町で成功する奴なんて限られてるからな。
冒険者にしても、裏社会にしても。それなりに実力が無いとやっていけない。生き残れない。弱肉強食とでも言えばいいのか?
そう考えてみると、仲間で一番強いのはアイツと虎か?でも虎は姿を変えるのに制限があるからなぁ。月を見ないと元の姿に戻れないって、虎ってつくづく不便だよなぁ。
となれば総合的に強いのはやはりアイツと白狐と・・・。
おいちょっと待て。俺は今何を考えていた?
何だよアイツって。会ったことも無い奴なのに元の姿から人間時の姿までハッキリとイメージできるぞ意味が分からん。
姿を変えるのに制限って何だよ、何で分かるんだよ、ていうか何で虎の人間時の姿が分かるんだよ、何で金髪少女の姿を思い浮かべられるんだよ、虎の姿しか知らないはずだろ意味分からん。
そして何で白狐の姿までイメージできるんだよ、背後から首は絞められてたけど、人間の姿はうろ覚えのはずだぞ、そしてまた何で白い狐の姿まで分かるんだよ。
さらに言うと何で小兎の姿までイメージできるんだよ、アイツ声しか知らないはずだぞ、ああなるほど確かにお前の姿だと人前には出たくないよな、ってだから何で分かるんだよ意味が分からねえよ。
他にも、アイツとか、ソイツとか。何で、何でだよ。
会ったことも無い奴らの顔が。姿が。元の姿と人間の姿の両方が、イメージできる。結構種類があるんだな・・・ってだから違うって言ってるだろうが!
そもそもの話、あいつらを仲間だと?ふざけるな、誰が化け物の仲間だ。俺の仲間は、あの町にいて、少し人様には言い辛い仕事をしていて、少し大っぴらには言えない存在で、山奥の森で、ひっそりと、人間達に邪魔されないよう・・・。
違う違う違う違う!だから何で!あいつらが出てくるんだ!
う、うう、嫌だ、俺の頭が、頭の中が、おかしくなる。
ああ駄目だ、何も考えてはいけない。何も考えるな。
思い出すな。思い出すな。おもいだすな。おもいだすな。
ああ、ここはいいなぁ。人間が暮らす世界にしては、それなりには自然豊かで、綺麗で、食べ物もいっぱい取れて。
でも、俺は人間じゃないから。人目にはつきたくないから。バレないように、コッソリ取りに行く。
ここって、果物がいっぱい生えてるからな。あぁあ、やはり果物はいい。美味しい。あぁあ、いくらでも食え、
「えっ・・・あ、あなた、何、してる、の?」
ん?・・・ああ、人間のメスか。ちょっと若いけど、イイ体、かな?
「えっ!?ひいっ!?裸っ!?う、うわわわわわ、何でこんな変態が、ウチの農園にいるのよっ・・・!いやっ!こっち来ないで、って、きゃあああっ!?」
ちょうどいい。お前、俺ん家に連れて行く。
でも、この姿だと、運び辛い。よし、やるか。
大きくなれ。俺の体、大きくなれよ。
「いやっ、離してっ、誰・・・え、なに、それ、え、ええっ!?」
月のように。大きくなる月のように。大きくなれ、俺の体よ。
「ん?何の騒ぎ・・・!?お、おい、なんだ、これは」
ん?・・・ああ、人間のオスか。このメスの、父親、かな?
「ひ、ひいいっ!?や、やめろ、俺の娘に、何を」
「いや、お父さん、助け、ひ、きゃああああああっ!」
知らんそんなの。さて、行こうか。
俺ん家。この前、ちょうどいい洞穴を見つけてたんだ。
ほい。着いたから、メスを下ろしてやる。
「ぎゃああっ!?な、投げないでよ、い、痛い、う、うう」
ええと、さすがにこの姿だと、人間のメスとはヤれない。
小さくなれ。俺の体、小さくなれよ。
「う、ひ、意味、分かん、ない、何なの、あなた」
月のように。小さくなる月のように。小さくなれ、俺の体よ。
「動物になったかと、思ったら。人間になったり、して」
これでよし。ヤるか。
「ひ、いや、来ないで、やめてよ、お願い、食べないで、やめ、いや、来ないで、う、う、うわあああああああああああっ!」
おっと、メスが襲い掛かってきた。
だが、無意味。お前より俺の方が体が大きい。
「ぎゃああっ!い、痛いっ!」
そんな大げさな。軽く押し倒しただけなのに。
「いや、やだっ!服を破らない、ひ、ひいいいっ!?そんなの近づけないでよぉっ!いや、いやだ、いやだああああああああっ!」
そんなのとは失礼な。普通の人間のオスと、何も変わらないはずだ。でも仕方ないなぁ、少しは優しくしてやるか。
「ひ、ひいっ、もう、やめ、あ、あう、あああっ!?」
メスの両足を、ちゃんと掴んで。股を広げて。
「いやあああっ!もう舐めないでええっ!そんなとこっ!いやああっ!」
仰向けにして。メスの性器を、舐めている。
俺は人間の交尾について、少し知っているからな。いきなり穴に入れるのはマナー違反だと知っている。だから、こうしてる。
うん、これくらいでいいだろう。ではそろそろ、
「ひ、いやあああっ!私、初めてなのに、いや、こんなの、やめ、ぎゃあああああああああっ!」
あっ、血が出てしまった。しまった、そこまでするつもりは・・・まぁ、いいか。俺は別に問題ないし。
「痛いいいっ!やめてえええっ!ぎゃあああああっ!?」
おうおう、メスが両手を振り回して来る。俺の顔や胸を殴ってくる。全然痛くないけど、面倒くさいな。
ええと、さっき破り捨てた布切れを、こうして。
「いやあああっ!手を縛らないでえええっ!もう酷い事は、い、やだあああっ!もうやめてええっ!やめてくださいいいっ!・・・え、いや、まさか」
ふう。久々に交尾したからな。いっぱい出たなぁ。
「――嫌あああああああああっ!い、や、ぎゃあああっ!?いや、まだする気、うああああっ!?もうやめてえっ!嫌だあああっ!化け物の子供なんか産みたく無いいいいっ!嫌あああああああああああっ!」
ああ、まだまだ足りない。もっとヤらせろ。
それと、お前に拒否権はない。お前は俺より、弱いからな。
ふあぁあぁ、よく眠れた。
あれ、メスはどこに・・・なんだ、そんなところに居たのか。
「う、うう、何よここ、こんなのどうやって出て行けばいいのよぉ、う、うう・・・ひいぃっ!?」
どうした?そんなに怯えて。ああ、そうか。それもそうだな。
少し待ってろ。ひとっ走りしてくるから。
ふう、ただいま。これでも食べて、機嫌を直せよ。
「・・・ウチの農園の、果物じゃないの、それ」
なんだ、食べないのか?じゃあ俺が食べ、
「・・・うう、分かった、わよ。食べれば、いいんでしょ?でもこれ皮が硬くて、包丁が無いと切れないのよ。こんなの、どうしろっていうのよ」
ふむ。確かにちょっと硬いな。となれば、こうしてやろう。まずは俺が食べる。よく噛んで、柔らかくして。ほら、口を開けろ。
「ふ、ふざけないで、誰がそんなものを」
なんだ、やっぱりいらないのか。じゃあこれは全部俺が食べるぞ。
うん、やっぱり美味い。これ、いくらでも食べられる。
ん、どうした?口から涎を垂らして、みっともないぞ?
「う、うう、酷い、私だって、お腹が空いているのに・・・う、うう、分かったわよ、言うこと聞くから、もう、やめ、てよぉ・・・う、うわああああああああっ!もうこんなの嫌だあああああああああああああああっ!」
オイオイ、そんなに泣いて喜ぶなよ。可愛いじゃないか。
食っては寝る。ときどきヤる。
いいなぁ、こういうの。こういう毎日こそ、楽しい。
なあ、お前もそう思うだろ?
「あは・・・、はは・・・、あ・・・」
メスを後ろから抱き抱えて。頭を撫でてやる。
もう片手で、胸を揉み揉み。ときどき乳首を指で撫で撫で。
「あは・・・もっと・・・ヤってぇ・・・」
少し前から、メスは一切抵抗をしなくなった。暴れることも無い。騒ぐことも無い。虚ろな眼で涙を流し、口からよだれを垂れ流しているだけ。
少し前と言っても・・・ええと、いつだ?何日前だっけ、アレって。
「あ・・・ふぁ・・・、あう・・・」
まぁでも、メスは笑っているから大丈夫だろう。お前も楽しいんだろ?
だから今日も。ほら、一緒に食べようぜ。今日はとても美味しい果物が取れたんだ。どうした?食べないのか?・・・ああ、そうか。これ、固いからな。
待ってろ。まずは俺が食べる。よく噛んで、柔らかくして。ほら、口を開けろ。ゆっくり食べさせてやるから。
「あむぅ・・・、あ、あぁ・・・もっとぉ・・・」
おいおい、俺の舌まで舐めるなよ。
まるで人間の交尾みたいじゃないか、こんなこと。
まあいいか。お前がヤりたいなら、このまま・・・。
チッ、無粋な。見える。俺には分かる。たとえどんなに暗くて寒い日でも、いくらでも見える眼を持っているから。
あっちか。待ってろ、すぐに追い払ってくるからな?
俺ん家を出て、大きく息を吸う。ここ最近はずっとメスと遊んでいたから、この姿に戻るのは久々だからな。
大きくなれ。俺の体、大きくなれよ。
月のように。大きくなる月のように。大きくなれ、俺の体よ。
よし、俺の体は特に異常無し。これより行動を開始する。
敵は・・・3人か。剣を背負っている。俺に気付いたようだな。
「は、はは、嘘みたいな依頼だったけど、マジだったのか・・・」
敵は剣を抜いた。俺も身構える。話は通じないようだからな。
「おぉお、今度ビッグスに会ったら自慢してやろうぜ。世の中には、こんな化け物がいる、ってな。へへっ、これだから冒険者家業は辞められねえぜ」
こいつら、デキる。強い。勝てるか?俺1人で。
「大猿退治なんて、初めての経験だが。まあいい、ヤるか」
だが、戦う。ここでは死ねない。
どうせ死ぬなら、故郷で。森の中で、死にたいからな。
そういえば、久しく仲間に会っていないなぁ。だからこいつらを倒したら、森に帰るとするか。そうだ。そうだった。俺は、帰らないといけないんだ。
あの森へ。仲間達のもとへ。俺は、帰らないといけないんだ。
ここは、つめたい、じめんの、うえ。
おれは、ここで、しぬ。
かてなかった。あいつら、とてもつよかった。
おれは、かえらないと、いけない、のに。
――いや、だから違うって言っているだろ!
俺は化け物ではない!あいつらの仲間なんかではない!
・・・だけど、何故か。俺も、化け物になっちまった。
まぁ。もう、どうでもいいか。今更そんなこと。
俺は、今度こそ死ぬのだから。賞金首として。
最期に、悪名を轟かせることができただけ、良しとするか。
「ほう、これが町を騒がせた大猿ですか」
ただ、せめて。人間として、名を残したかった、な。
――今回の主役:大猿の化け物
ここは、どこだ?おれは、なんだ?わからない。
このせかいは、なんだ?よく、わからない。
まほう?なんだそれは?わからない。なにも、わからない。
おもいだせ。おもいだせ。思い出せ。思い出せっ!
俺は、そうだ、俺は、ああ、そうだった。
ウチの顧客の、お偉いさんの頼みで。ハァ、面倒だなぁ。
禁足地の山を調べてこい、だなんて。そして何で俺なんだよ意味分かんねぇ。まぁ確かに俺は山には詳しいけどよぉ。なにせ爺ちゃんも親父も猟師だったからな。
それに、山を登って調べるだけでも報酬が貰えるとなれば、ヤるしかないか。あぁあ、下っ端は辛いぜ。早くビッグになりたい。いつかは出世して、大きな娼館のオーナーとか、オークションの元締めとか、いろいろやってみたいなぁ。
もしくは、大盗賊や大悪党として、賞金首になるのも良いなぁ。どうだ俺はこんな賞金が付けられるほどのワルなんだぜ、と自慢してみたい。
という訳で、朝早くから山に入り、中をブラブラ。自警団の許可が貰えなかったから、扱い的には不法侵入になるかもしれんが。そもそも法律なんてものは自警団が勝手に作ったルールだ。そんなもん知らん。
まったく、何が禁足地だ。普通の山じゃねーか。ビビって損したぜ。昔は人の出入りもあったから、ある程度は安全な道が確保されているし、余裕余裕。
と言っても、途中までだけどな。ここまでは余裕。ここからが本番。
山をある程度進んでいき、木々が生い茂るエリア、というより森に辿り着いた。ほお、中々良い森だ。木々は立派だし、空気は良いし、俺の町の近くにこんな素晴らしい場所があったとはな。
えっと、今の時間は・・・昼前か。うん、暗くなるまでまだまだ時間はある。せっかくだからハイキングでも楽しもうか。こんないい場所だし、
「んああああ・・・眠いぃ・・・」
前言撤回。いきなり理解不能だよオイ。
助けてください。いきなりだけど俺は死を覚悟しています。
「んん・・・?あぁ、もしかして旅人さん?こんにちは」
寝ぼけているのか。顔をごしごししながら、俺に近づいて来る。
「道に迷ったのかな?山を下りるのなら、あっちに行けばいいよ」
どっしどっしと、大きな足音を立てて。やめろこっち来んな。
「それとね。この森は、あまり奥まで来ない方が良いよ。普通の人間だと、生きては帰れないと思うから。特に、あの人にでも見つかったら・・・いや何でもないですハイ」
俺の横を、何事も無かったかのように歩いて行く。
俺はその場にへたり込んでる。無理だよ理解が追い付かねえよ。
「あれ、どうしたの?足でも痛めたの?・・・だったら尚更、早く帰った方が良いよ。この森は弱肉強食だから、冗談抜きで誰かに食べられちゃうよ?」
どっしどっしと、大きな足音を立てて。多分、女の子が去っていく。
うん。コイツは多分、女の子なんだ。ただし見た目がアレすぎる。
「警告は、したからね?それじゃあ、さようなら。気をつけて帰ってね。ふあぁあぁ、私も早く寝床に帰らなきゃ・・・」
やはり、寝ぼけているのか。前足で、顔をごしごししている。
虎。どう見ても俺よりもデカい虎。どう足掻いても俺よりも強い虎。
そんな虎から。女の子の声が。人間の言葉が。
ダメだまだ理解が追い付かない。虎がどっか行った後も、しばらくは動けなかった。マジで怖かったよアレ。
でも、俺は立ち上がる。再び歩き出す。
さっきはマジで怖かった。でも、俺は前に進む。
凄ぇ。マジで凄ぇ。虎が喋っただと!?凄ぇぞこの森!
まるで子供に聞かせる昔話みたいじゃねーか!うおお、ワクワクしてきた!もっと調べてみよう!この森についてもっと知りたい!
いや、確かにさっきはビビったけど。どうやらあの虎は話ができるようだ。おおお、動物と会話ができるってマジかよ意味分かんねえよ信じられねえよ。
ダメだ興奮が抑えきれない。そうだ、思い出した。俺はこういうことがしたくて、故郷を飛び出して、冒険者になったんだ。
でも、うまく行かなくて。生活が苦しいから、悪い事をして金を稼いで。気が付けば、悪い事ばかりするようになって、悪い奴らの下で働くようになって。
それでも良いと思っていた。もうこの際だから、悪者になってブイブイ言わせてやろうかと思ってた。だけど俺は、やっぱり。冒険がしたい。
だから、進む。まだまだ森の奥を進む。もちろんいつでも帰れるように、進むたびに木に傷を付けて、また進んで木に傷を付けて、帰り道への道しるべを付けながら。
さっきの虎に会いたい。いや、もしかしたら他にも仲間がいるのかな?とにかく、不思議な動物に会いたい。まさか顧客の冗談めいた話から、こんな事になるなんて。マジかよ未だに信じられねえよ。
顧客からは、どういうものか見てみたい、探してほしい、とは言われている。これはつまり、捕まえてこいって意味にはなるだろう。
だが、俺にはそんなつもりは無い。まずは話をしたい。動物と話ができるなんて夢のようだ。それに話が通じる相手なら、それが一番だと俺は、
「――止まれ、侵略者」
・・・えっと。これは話が通じる奴なのかな?
周囲を見回す。見当たらねえな。
「警告する。これより先は、人間が来る場所ではない。引き返せ」
耳を澄ます。声の出所を確かめる。だが、分からない。
「もし引き返さないのであれば、お前を侵略者として扱う」
おおう、物騒だな。だが、引かない。
「もしそうなれば、お前は死ぬことになる。これは脅しではない、本当の話だ。だから早く引き返せ、今なら間に合う。無駄に命は奪いたくない」
嫌だね。さらに前に進んでやるぜ。
「ど、どうした?いいい命が惜しければ、さっさと帰れ、って」
今の俺は、恐怖よりも好奇心の方が勝っているからな。
「オイ、話がしたいなら姿を現せよ」
「い、いや。あの・・・姿を現すのは、駄目なんです」
この男の声は、どういう奴なのか。そっちの方が興味がある。
「あの、実は、僕はその、人前に出るのが、恥ずかしくて・・・う、ううぅ、お願いですから帰ってくださいぃ、余所者は嫌いなんですぅ・・・」
オイオイ、さっきまで侵略者扱いしてたのは何だったんだよ。ははぁ、コイツは臆病な性格と見た。死ぬとか何とか言ってるけど、コイツ相手なら別に怖くない。だから、さらに進むぜ。
「あのう、帰らないとマジで死にますよ?悪い事は言いませんから、早く帰ってください。どうなっても知りませんよ?」
「ふん。帰って欲しければ、それなりに誠意ってものを見せてもらわないとな。オイどうした、姿を現してくれよ。なぁ頼むよ。お前も人間と会話ができる動物なんだろ?」
「う、ううぅ・・・嫌ですぅ、お願いですから帰って」
「もういいよ小兎。あとは私がヤる」
おっ、今度は女の声、が――。
「どうしたの?お望み通り、姿を現してあげたのに」
「ぐ、あ、あああああっ」
痛い。苦しい。喉が、俺の喉が。
「2回は、警告されたはずだよね?」
俺の、背後から。女の声が。
「ねえ、聞いてる?私の言ってることが、分かる?」
「がああ、あああ、ああっ」
俺の喉が。首が。絞まる。絞めつけられる。
手が。女の両手が。俺の首を、後ろから。
「警告はした。なのにあなたは、帰らなかった。止まらなかった。そして前に進んだ。それはどうして?何が目的で、ここに来たの?2回も警告されたのに、何でそれを無視したの?あなたって話が通じないの?」
話そうにも、喋れない。首を絞められているのだから。
「だったら私は、話をしない。話が通じないのなら、こうするしかない。警告を無視した侵略者には、容赦はしない。ここに来てしまった、あなたが悪いの。だから私は、あなたを始末する。――お前を、殺す」
全力で振り返ろうとする。俺の首を絞めている手を離そうと、女の腕を掴む。かろうじて足を動かして、女の足を踏んだり、蹴ってもいる。だが、それでも、
「何それ。その程度の力では、私は負けない。お返し」
「ぎゃあああああっ!?」
首が、首の骨が。軋む。鳴ってはいけない、音がする。
「大丈夫、これ以上は苦しめないから。・・・おやすみなさい」
ゴキッ、という、音。薄れていく、意識。
俺が最期に、覚えているのは。白い髪の、女。
嫌、だ。死にたく、ない。
せっかく俺の、冒険が、始まったというのに。ようやく、俺は冒険者になったのに。嫌だ。俺は、死にたくない。俺には冒険が待っているんだ。
「後は他のみんなが食べてくれるから・・・そろそろ私は寝るね、おやすみ」
「いやぁ、さすが白狐さんですねぇ。お疲れ様です」
2人の声がする。兎と、狐か。
それに、最初に出会った虎か。
何だよこの森。無茶苦茶すぎる。意味が分からん。
怖い。怖すぎる。こんなに綺麗で居心地の良い森なのに。こんな化け物共が住んでいるのか。俺が住んでいる町の、すぐ近くに。
こんな、恐ろしい所が。すぐ近くに、あったなんて。
いやだ、帰りたい。今更だけど帰りたい。もうこんなところにいたくない。死ぬならせめて、ここじゃなくて、もっと別の所に。
立てるか?いや、立ってみせる。力を込める。
・・・立て、た。よ、よかった。生きてたんだ、俺。
一瞬、この世のものとは思えない綺麗なお花畑とか、死んだはずの爺ちゃんが手招きしてた姿が見えたが・・・うん、あれは夢か幻か。俺は生きている。
でももうこんな所には居たくない!もう嫌だ!さっさと帰る!
でも、帰り道は・・・どこだ?ええい、とにかくここからさっさと出て行ってやる!脱出だ!二度と来るかこんな所に!
うぐぐ、何とか夕方までには帰ってこれたぜ。首がイテェ。
仲間からはマジで心配された。首を包帯でグルグル巻きにされて、絶対安静だよチクショウ。なんでお前生きてるんだよ、とまで言われちまった。
俺は今アジトの寝泊まり部屋で寝てるけど、毛布で全身を覆ってる。今は一人にしてくれ、理解が追い付かねぇんだ。
森の中での話?言えるかあんなこと!もう何も思い出したくない。あんなの思い出したくない。あいつらは化け物だ。何も言いたくない。思い出したくないから言いたくない。もう嫌だ、あんな記憶を忘れたい、嫌だ、嫌だ。
ううう、思い出しただけでも泣けてくる。マジで怖かった。兎はどうでもいいけど、虎と首絞め女が怖すぎる。もう嫌だよあんなの。
う、何それ。ああ、飯か。ありがとう。
あぁあ、こんな時には野菜のスープが染み渡、オゲッ!?
お、おいちょっと!?これ味が濃すぎるって!?辛ッ!不味ッ!
え、ちゃんと病人用に薄味にしてるって?あ、ああゴメンな、俺のために用意してくれたのに・・・でも悪ぃ、食欲が無えんだ。1人にさせてくれ、頼むから・・・。
なぁ、ついでに聞いていいか?今って・・・そうだよな、夜だよな。
窓の外には、月が出ているんだから。星空が見えるんだから。
そうだよな、今は夜に決まっているよな、は、はは。
――なんで、昼間みたいに、窓の外の景色が隅々まで見えるんだ?真っ暗闇なのに。夜だというのに。なんで、見える、んだ?
ああ。俺、疲れてるんだな。悪い、もう少し寝てる。起こさないでくれ。
知ってるんだ。分かるんだ。薄々分かるんだ。
どうして、野菜のスープが食べられなかったのか。どうして、夜中なのにバッチリ見えるのか。ついでに言うと、どうして俺は森から脱出できたのか。
でも、認めない。そんなの認めない。
それを認めるということは。あいつらの事を認めることになる。森にいた、あいつらを。あいつらのことを、認めることになる。
嫌だ。それだけは嫌だ。
だから思い出したくない。あいつらの事なんて。
何も言いたくない。あいつらの事なんて。
思い出したくないから言いたくない。あいつらの事なんて。
もう嫌だ、あんな記憶を忘れたい。あいつらの事なんて。
あれから何日たったか分からないけど、俺はずっとベッドの上で、毛布に包まって、ずっと寝ている。もう何も考えたくない。
仲間が呼んでいる。でも無視する。悪い、話しかけないでくれ。
仲間がまた病人食を用意してくれた。食べてみる。でも食えない。味が濃すぎる。無理だ、俺にはこんなものは食べられない。
それでも仲間は、これを食べろと言う。これ以上何も食わなければ、余計におかしくなるからと。止めてくれ、そんなの、俺には、食えな、オゲッ!
う、うあ、あ、やめろよ、そんな眼で俺を見るなよ、俺を不思議そうな眼で見るなよ、変なものを見るような眼で見るなよ。
まるで化け物を見るような眼を、あいつらを見るかのような眼を、う、うわ、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!
町を飛び出した。着の身着のまま。荷物などない。
今すぐにも出て行きたかった。あの禁足地の山から、あの森から、離れたかった。もう何も考えられなかった。とにかく逃げたかった。
でも、途中でお腹が空いて。そりゃあそうだ、あれから何も食ってないもん。駄目だ我慢できない、これでも食うか。
・・・うん。食える。チクショウ道草を食うってこういう意味じゃねえだろ、何で俺は草やら木の葉っぱやらを食ってるんだよクソが。
まるで俺も、いや、違う、俺は化け物なんかじゃない、俺は人間だ。間違いなく人間だ。あいつらなんかとは違うんだ。
あぁ、それにしてもどうしようかな。もうあの町には戻れない。仲間にも迷惑かけたのに、今更どの面下げて行けばいいんだよ。ていうか無断で出て行って仕事をサボったのだから仕置きされるに決まっている。
あぁ、どうしよう。仲間を裏切るだなんて。なし崩しに始めた裏社会の仕事だったけどよ、意外といい奴等だったんだぜ?
夢を持って故郷を飛び出したけど、うまく行かなくて、ヤケになって。そんな俺と同じ境遇の奴が、いっぱいいたからな。
あの町には多くの旅人が訪れる。でも、長続きする奴はそこまで多くない。なにせ、あの町で成功する奴なんて限られてるからな。
冒険者にしても、裏社会にしても。それなりに実力が無いとやっていけない。生き残れない。弱肉強食とでも言えばいいのか?
そう考えてみると、仲間で一番強いのはアイツと虎か?でも虎は姿を変えるのに制限があるからなぁ。月を見ないと元の姿に戻れないって、虎ってつくづく不便だよなぁ。
となれば総合的に強いのはやはりアイツと白狐と・・・。
おいちょっと待て。俺は今何を考えていた?
何だよアイツって。会ったことも無い奴なのに元の姿から人間時の姿までハッキリとイメージできるぞ意味が分からん。
姿を変えるのに制限って何だよ、何で分かるんだよ、ていうか何で虎の人間時の姿が分かるんだよ、何で金髪少女の姿を思い浮かべられるんだよ、虎の姿しか知らないはずだろ意味分からん。
そして何で白狐の姿までイメージできるんだよ、背後から首は絞められてたけど、人間の姿はうろ覚えのはずだぞ、そしてまた何で白い狐の姿まで分かるんだよ。
さらに言うと何で小兎の姿までイメージできるんだよ、アイツ声しか知らないはずだぞ、ああなるほど確かにお前の姿だと人前には出たくないよな、ってだから何で分かるんだよ意味が分からねえよ。
他にも、アイツとか、ソイツとか。何で、何でだよ。
会ったことも無い奴らの顔が。姿が。元の姿と人間の姿の両方が、イメージできる。結構種類があるんだな・・・ってだから違うって言ってるだろうが!
そもそもの話、あいつらを仲間だと?ふざけるな、誰が化け物の仲間だ。俺の仲間は、あの町にいて、少し人様には言い辛い仕事をしていて、少し大っぴらには言えない存在で、山奥の森で、ひっそりと、人間達に邪魔されないよう・・・。
違う違う違う違う!だから何で!あいつらが出てくるんだ!
う、うう、嫌だ、俺の頭が、頭の中が、おかしくなる。
ああ駄目だ、何も考えてはいけない。何も考えるな。
思い出すな。思い出すな。おもいだすな。おもいだすな。
ああ、ここはいいなぁ。人間が暮らす世界にしては、それなりには自然豊かで、綺麗で、食べ物もいっぱい取れて。
でも、俺は人間じゃないから。人目にはつきたくないから。バレないように、コッソリ取りに行く。
ここって、果物がいっぱい生えてるからな。あぁあ、やはり果物はいい。美味しい。あぁあ、いくらでも食え、
「えっ・・・あ、あなた、何、してる、の?」
ん?・・・ああ、人間のメスか。ちょっと若いけど、イイ体、かな?
「えっ!?ひいっ!?裸っ!?う、うわわわわわ、何でこんな変態が、ウチの農園にいるのよっ・・・!いやっ!こっち来ないで、って、きゃあああっ!?」
ちょうどいい。お前、俺ん家に連れて行く。
でも、この姿だと、運び辛い。よし、やるか。
大きくなれ。俺の体、大きくなれよ。
「いやっ、離してっ、誰・・・え、なに、それ、え、ええっ!?」
月のように。大きくなる月のように。大きくなれ、俺の体よ。
「ん?何の騒ぎ・・・!?お、おい、なんだ、これは」
ん?・・・ああ、人間のオスか。このメスの、父親、かな?
「ひ、ひいいっ!?や、やめろ、俺の娘に、何を」
「いや、お父さん、助け、ひ、きゃああああああっ!」
知らんそんなの。さて、行こうか。
俺ん家。この前、ちょうどいい洞穴を見つけてたんだ。
ほい。着いたから、メスを下ろしてやる。
「ぎゃああっ!?な、投げないでよ、い、痛い、う、うう」
ええと、さすがにこの姿だと、人間のメスとはヤれない。
小さくなれ。俺の体、小さくなれよ。
「う、ひ、意味、分かん、ない、何なの、あなた」
月のように。小さくなる月のように。小さくなれ、俺の体よ。
「動物になったかと、思ったら。人間になったり、して」
これでよし。ヤるか。
「ひ、いや、来ないで、やめてよ、お願い、食べないで、やめ、いや、来ないで、う、う、うわあああああああああああっ!」
おっと、メスが襲い掛かってきた。
だが、無意味。お前より俺の方が体が大きい。
「ぎゃああっ!い、痛いっ!」
そんな大げさな。軽く押し倒しただけなのに。
「いや、やだっ!服を破らない、ひ、ひいいいっ!?そんなの近づけないでよぉっ!いや、いやだ、いやだああああああああっ!」
そんなのとは失礼な。普通の人間のオスと、何も変わらないはずだ。でも仕方ないなぁ、少しは優しくしてやるか。
「ひ、ひいっ、もう、やめ、あ、あう、あああっ!?」
メスの両足を、ちゃんと掴んで。股を広げて。
「いやあああっ!もう舐めないでええっ!そんなとこっ!いやああっ!」
仰向けにして。メスの性器を、舐めている。
俺は人間の交尾について、少し知っているからな。いきなり穴に入れるのはマナー違反だと知っている。だから、こうしてる。
うん、これくらいでいいだろう。ではそろそろ、
「ひ、いやあああっ!私、初めてなのに、いや、こんなの、やめ、ぎゃあああああああああっ!」
あっ、血が出てしまった。しまった、そこまでするつもりは・・・まぁ、いいか。俺は別に問題ないし。
「痛いいいっ!やめてえええっ!ぎゃあああああっ!?」
おうおう、メスが両手を振り回して来る。俺の顔や胸を殴ってくる。全然痛くないけど、面倒くさいな。
ええと、さっき破り捨てた布切れを、こうして。
「いやあああっ!手を縛らないでえええっ!もう酷い事は、い、やだあああっ!もうやめてええっ!やめてくださいいいっ!・・・え、いや、まさか」
ふう。久々に交尾したからな。いっぱい出たなぁ。
「――嫌あああああああああっ!い、や、ぎゃあああっ!?いや、まだする気、うああああっ!?もうやめてえっ!嫌だあああっ!化け物の子供なんか産みたく無いいいいっ!嫌あああああああああああっ!」
ああ、まだまだ足りない。もっとヤらせろ。
それと、お前に拒否権はない。お前は俺より、弱いからな。
ふあぁあぁ、よく眠れた。
あれ、メスはどこに・・・なんだ、そんなところに居たのか。
「う、うう、何よここ、こんなのどうやって出て行けばいいのよぉ、う、うう・・・ひいぃっ!?」
どうした?そんなに怯えて。ああ、そうか。それもそうだな。
少し待ってろ。ひとっ走りしてくるから。
ふう、ただいま。これでも食べて、機嫌を直せよ。
「・・・ウチの農園の、果物じゃないの、それ」
なんだ、食べないのか?じゃあ俺が食べ、
「・・・うう、分かった、わよ。食べれば、いいんでしょ?でもこれ皮が硬くて、包丁が無いと切れないのよ。こんなの、どうしろっていうのよ」
ふむ。確かにちょっと硬いな。となれば、こうしてやろう。まずは俺が食べる。よく噛んで、柔らかくして。ほら、口を開けろ。
「ふ、ふざけないで、誰がそんなものを」
なんだ、やっぱりいらないのか。じゃあこれは全部俺が食べるぞ。
うん、やっぱり美味い。これ、いくらでも食べられる。
ん、どうした?口から涎を垂らして、みっともないぞ?
「う、うう、酷い、私だって、お腹が空いているのに・・・う、うう、分かったわよ、言うこと聞くから、もう、やめ、てよぉ・・・う、うわああああああああっ!もうこんなの嫌だあああああああああああああああっ!」
オイオイ、そんなに泣いて喜ぶなよ。可愛いじゃないか。
食っては寝る。ときどきヤる。
いいなぁ、こういうの。こういう毎日こそ、楽しい。
なあ、お前もそう思うだろ?
「あは・・・、はは・・・、あ・・・」
メスを後ろから抱き抱えて。頭を撫でてやる。
もう片手で、胸を揉み揉み。ときどき乳首を指で撫で撫で。
「あは・・・もっと・・・ヤってぇ・・・」
少し前から、メスは一切抵抗をしなくなった。暴れることも無い。騒ぐことも無い。虚ろな眼で涙を流し、口からよだれを垂れ流しているだけ。
少し前と言っても・・・ええと、いつだ?何日前だっけ、アレって。
「あ・・・ふぁ・・・、あう・・・」
まぁでも、メスは笑っているから大丈夫だろう。お前も楽しいんだろ?
だから今日も。ほら、一緒に食べようぜ。今日はとても美味しい果物が取れたんだ。どうした?食べないのか?・・・ああ、そうか。これ、固いからな。
待ってろ。まずは俺が食べる。よく噛んで、柔らかくして。ほら、口を開けろ。ゆっくり食べさせてやるから。
「あむぅ・・・、あ、あぁ・・・もっとぉ・・・」
おいおい、俺の舌まで舐めるなよ。
まるで人間の交尾みたいじゃないか、こんなこと。
まあいいか。お前がヤりたいなら、このまま・・・。
チッ、無粋な。見える。俺には分かる。たとえどんなに暗くて寒い日でも、いくらでも見える眼を持っているから。
あっちか。待ってろ、すぐに追い払ってくるからな?
俺ん家を出て、大きく息を吸う。ここ最近はずっとメスと遊んでいたから、この姿に戻るのは久々だからな。
大きくなれ。俺の体、大きくなれよ。
月のように。大きくなる月のように。大きくなれ、俺の体よ。
よし、俺の体は特に異常無し。これより行動を開始する。
敵は・・・3人か。剣を背負っている。俺に気付いたようだな。
「は、はは、嘘みたいな依頼だったけど、マジだったのか・・・」
敵は剣を抜いた。俺も身構える。話は通じないようだからな。
「おぉお、今度ビッグスに会ったら自慢してやろうぜ。世の中には、こんな化け物がいる、ってな。へへっ、これだから冒険者家業は辞められねえぜ」
こいつら、デキる。強い。勝てるか?俺1人で。
「大猿退治なんて、初めての経験だが。まあいい、ヤるか」
だが、戦う。ここでは死ねない。
どうせ死ぬなら、故郷で。森の中で、死にたいからな。
そういえば、久しく仲間に会っていないなぁ。だからこいつらを倒したら、森に帰るとするか。そうだ。そうだった。俺は、帰らないといけないんだ。
あの森へ。仲間達のもとへ。俺は、帰らないといけないんだ。
ここは、つめたい、じめんの、うえ。
おれは、ここで、しぬ。
かてなかった。あいつら、とてもつよかった。
おれは、かえらないと、いけない、のに。
――いや、だから違うって言っているだろ!
俺は化け物ではない!あいつらの仲間なんかではない!
・・・だけど、何故か。俺も、化け物になっちまった。
まぁ。もう、どうでもいいか。今更そんなこと。
俺は、今度こそ死ぬのだから。賞金首として。
最期に、悪名を轟かせることができただけ、良しとするか。
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ただ、せめて。人間として、名を残したかった、な。
――今回の主役:大猿の化け物
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