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十一話 とある盗賊の話

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 これは、いつの話か分かんねぇ。ここではない、何処かの話だ。
 ここは多くの旅人が集まる町。いずれは俺様の物にしてやるぜ。
 この世界は、強い奴こそが成り上がれる実力主義の世界だ。
 魔法?イイねぇ、もしあるのなら俺様も使ってみたいぜ。

 荒れた土地。埃っぽく、空気が悪い。そして治安も悪い。
 イイねぇ、俺様にはこういうのが心地良いぜ。気持ちのいい良い朝だ。
 この世界は、所によっては平和だったり、所によっては戦争ばかりしていたりと、地域によって住み心地が違うようだが。俺様にはこれくらいがちょうどいい。
 平和な地域は退屈だ。でも戦争ばかりしている地域は命がいくつあっても足りない。だから、このくらいがちょうどいい。治安は悪いけど、それなりに実力さえあれば生き残れるような町こそが、俺様にはピッタリだ。
 俺様個人の意見だが、この世界の旅人は、大まかに分けて3つに分けられる。
 一つは、冒険者。冒険者という名前ではあるが、そこまで冒険をするような事は少ない。ハッキリ言って、何でも屋家業だな。戦いから近所のお使いまで、何でもやる奴等だ。そのぶん能力や専門分野も様々。
 一つは、傭兵。冒険者に近いけど、こいつらが引き受ける仕事は戦闘がメイン。だから戦闘能力は高いけど、逆に言えば戦闘以外の仕事ができない不器用な集団でもある。
 そして、俺様のような盗賊。盗賊といっても、中には自警団から黙認されている奴もいるんだぜ?鍵開けや罠外し、怪しい奴の尾行、行方不明者の捜索、他にも見張りや索敵などを行い冒険者や傭兵のサポートをしたり等々・・・とまぁ、色々と世間様の役に立ってる奴もいるのさ。
 もっとも、俺様は善人じゃないけどな!いやカタギの仕事もするけどさぁ、そればかりヤるのも退屈だ。あと盗賊として、もう少し名を上げたいからなぁ。
 だから成り上がるためには手段は選ばないぜ。と言っても、あまり悪い事ばかりしてたら自警団に眼を付けられるから、ホドホドにしてるけど。

 あまり人様には言いたくないド田舎を飛び出し早幾年、もうすぐ俺様も二十歳か。だからここらで一発、どデカい仕事で一山当てたいぜ。
 ならば早速いつものように身支度を整え・・・まぁその、俺様は盗賊だからな。顔や髪を見られるのが好きじゃないから、頭から腹にかけて黒い布を巻いてっと。
 へへっ、俺様は黒色が好きなんだ。元々髪の毛も黒いし、盗賊らしく闇夜に溶け込む感じがしてイイのさ。
 では行くか。仕事がデキる人間の朝は早い。というより、早めにギルドに行かないと割の良い仕事が他の奴に取られちまう。冒険者達や傭兵達は、同業者でありライバルだ。協力して仕事を行うこともあれば、仕事を取り合う事も多い。
 えーと、今日の依頼は・・・チッ、しけてやがる。
 ん?お前も見たいのか?どうぞどうぞ。
 んん?どうしたお前?眼を見開いちまって。
 ・・・ハハァ、なるほどな。気持ちは分かるぜ?俺様も昔はそうだったからな。文字を覚えるのには苦労したなぁ。
「おう、お前も田舎から来た新入りか?」
 おうおう茶髪の兄ちゃんよ、そこまで驚くことは無ぇだろ?ふっふっふ、どうやらこいつは素人のようだな。ならばここは親切にしてやろう。
「いいか、これが荷物運びの仕事、これは酒屋の従業員の募集、これは交易路のゴミ拾い、これは赤ん坊の子守り、んでこれは・・・大猿退治?胡散臭えなぁコレ、俺様ならこんな仕事はやらないね」
 おうおう、真面目に聞いてくれて嬉しいぜ。ならオマケに、
「よぉし、ここで出会ったのも何かの縁だ。ここは先輩である俺様がとっておきの仕事を紹介してやろう。ちょっと耳を貸せよ」
 ほうら、引っかかった。容易い容易い。

「――ていう仕事なんだ。どうだ、面白そうだろ?もしヤる気があるなら、俺様と一緒に行ってみないか?」
 おぉお、真剣に悩んでやがる。
 こういう初心者はカモにしやすいからな。ド田舎から来た、右も左も分からない奴に親切にして、俺様を信頼させて・・・ククク。
 まぁ、実を言うとこれは、俺様の実体験でもある。いやぁ恥ずかしいなぁ、いきなり見ず知らずの奴を信用してしまって、連れて行かれた場所がケッ思い出したくもねぇやあんなの。
「うーん・・・それこそ胡散臭いですね、僕は遠慮しておきます。それでは、ご親切にどうも。失礼します」
 あっ、茶髪の兄ちゃんが行っちまった。なんか最後は不機嫌だったな・・・。まあいいか、武器はおろか旅道具すら持ってない奴だし、仮に仲間にしたとしても役には立たなかったかもな。
 となると・・・うん。やはり、ヤってやるか。
 俺様も、盗賊を自称してこの町では何年もヤってきてるからな。非合法な裏社会の世界には、それ相応に通じている。
 だから、普通の奴等はおろか、自警団でも知り得ない情報という物を持っている。それ相応に、闇の世界に通じている者しか知り得ない、特別な情報。この町では一番の大仕事と、それに関連する情報をな。
 なにせ俺様の専門は、情報収集だからだ。またの名を情報屋。
 となれば・・・出立は夕方。それまでには準備を整えるか。さっきの兄ちゃんには断られたけど、こうなったら俺様1人の方が動きやすいか。
 どうせ俺様には、仲間なんて必要無かったのさ。この町に来てから、ずっと1人で生きてきた。だから成り上がってやる。俺様が一番になってやる。

 準備で一番大事なのは、情報の整理だ。
 俺様の持論だが、情報は命に次いで二番目に重要と言っても良いな。だからこそ、俺様は情報を売り買いして、この町を生き延びている。意外と需要がある仕事なんだぜ?
 事の発端自体は、些細な話。あの禁足地の山には、人間になれる動物がいるのでは、という金持ちの戯言が全ての始まり。そしてここから、多くの出来事が起きた。
 まず一つ目。その戯言を確かめるために、1人の男があの山を調べに行って、死に掛けの姿で帰ってきた。生きてはいたが、精神を病んでしまったようで、最終的にはこの町からも飛び出して消息不明。
 次に二つ目。ここから本格的に、人間になれる動物の噂が広まり、何人かが禁足地の山にトライした。しかし、ほとんどが帰ってこなかった。あの山には、何かヤバいモノが待ち構えている。それだけは確かだ。
 三つ目。唯一、禁足地の山から帰ってきた奴が、山から女の子を拉致ってきた。この子は・・・まぁ、あまり言いたくない目に遭った。俺様もそれなりに悪だとは自負しているが、いくらなんでもアレは酷ぇよ。まぁ、今はそれは置いておくか。
 四つ目。女の子を拉致って監禁してた店が、大惨事に。これについては、正直言ってザマァって気持ちだな。表向きは店で飼ってた猛獣が逃げたという話だが、どう考えても嘘っぽい。なんか裏がありそうで怪しい。
 五つ目。俺様と同じく、裏に何かがあると思ったのだろう。その店の生存者である女を問い詰めようとした男が、牢屋にブチ込まれた。これは詳細な情報が不鮮明だが、あの女の近辺には凄腕のボディーガードがいるという噂。
 そして最後の六つ目。これはつい先ほど仕入れた情報だ。牢屋にブチ込まれた男が事故死した。ちゃんと遺体は帰ってきたぞ。首元を蛇に噛まれた痕跡があったそうだ。なるほど、事故死には間違いないだろう。
 ついでに補足事項。人間になれる動物の捕獲依頼を出した奴等は、色々と大変。四つ目の情報の件で、多くの死人を出しちまったからな。それの後処理で、予定していた奴隷オークションも開催できるかどうかが怪しい。なにせ奴隷達が逃げちまったし。

 ここで俺様が気になっているのは、自警団達の動きだ。
 例えばほら、あそこが禁足地の山の入り口で、自警団達が関所を構えてやがるけど。ここ最近は特に見張りの数が多いんだよなぁ。いつもよりも厳しく取り締まってやがる。
 ここ最近は特に勝手に山に忍び込んで行方不明になる奴が多いから、というのが自警団達の言い分。実際に帰ってこない奴等もいっぱいいるからな、建前としては理解できる。
 だが、やはり怪しい。五つ目と六つ目の情報も含めて怪しい。いくらなんでも手際が良すぎる。タイミングが絶妙過ぎる。
 自警団もそれなりには実力のある奴等が揃ってはいるが。はたして、ここまでのことができる集団だったか?牢屋にブチ込まれた男も中々デキる奴だったと聞いているが、そんな奴があっさり捕まり、牢屋で最期を迎えることになろうとは。
 あとこれは、俺様の勘になるが。ここ最近の自警団の団長には、女が付きまとっている。しかも2人も。これが怪しい。
 やたら露出度の高い服を着た女が、自警団詰め所に出入りして、団長と話していた。そしてそれとは別に、団長は自宅に女を連れ込んでアレやらコレやら恥ずかしい事をしているという噂。非合法な裏社会にとっては、自警団団長は敵対勢力の親玉だからな。これくらいは情報が集まるんだぜ?
 これ自体は大した話では無いかもしれないが・・・。自警団団長は堅物野郎だと評判で、これまで女と仲良くヤっていたという噂はほとんどない。色恋沙汰より仕事優先、とでも言えばいいのか?
 そんな男が、急に女を囲み始めた。怪しすぎるにも程がある。
 ・・・おそらくは。自警団団長は、俺様の知り得ない何かを知っているのだろう。そしてその何かを知っているのは、団長を取り巻く女達も同じ。ついでに言えば、あの店の生存者である奴隷女も。

 だから、その女達を問い詰めれば、真実が見えてくるはず。
 だが、やらない。俺様は女には手荒なことはしないと決めている。俺様は悪だが、これだけはヤりたくないとか、そこまで外道には落ちぶれたくないとか、そういう意地ってものがあるんでな。
 かといって、団長を問い詰めるのは無謀だ。俺様1人では自警団を相手にはできない。勝てる気がしない。
 そして。もしもこのままでは、自警団がより一層に力を付けてしまう。そうなると、例の仕事自体が無くなってしまう。なにせ、仕事と報酬を用意している裏社会が、自警団によって潰されるかもしれないから。
 だからこそ、今こそが。このビッグチャンスをモノにできるのは、今しかない。だからやる。今こそやってやる。
 この日の為に、他の情報も仕入れておいたんだ。あの山への侵入ルートだ。普通の人間なら歩けない道。越えられない溝。登れない崖。行く手を邪魔する木々。これだけでも、あの山が禁足地として恐れられる要因だ。
 だが、これは何とかなる。あの山から唯一戻り、女の子を連れ帰った奴等が残した情報がある。どこをどう進めばいいのか、ある程度の道が分かる。
 ・・・まぁ、この情報を頼りに進んで、帰ってこない奴等もいるんだけどな。でも、無いよりはマシさ。それに俺様はド田舎の出身だからな、山登りは得意なんだ。
 これで欲を言えば、日が明るいうちにトライしたかったが。いくら俺様でも、自警団達の警戒が厳しい昼間に、奴らの眼を掻い潜るのは無理だった。なので必然と、山には夕方に侵入する羽目になっちまった。
 でもいいさ。俺様は盗賊、夜こそが活動時間。
 さあ行くぜ。荷物を背負い、右手には山刀、左手には松明。山刀で草木を切り進み、進むたびに木に傷を付けて、また進んで木に傷を付けて、帰り道への道しるべを付けながら。

 ハッキリ言おう。俺様1人で、例の生き物を捕まえる気はない。
 多分、あの店をブッ潰したのも例の生き物の仕業なんだろ?あれだけの人数を相手に・・・恐ろしすぎる。考えたくもない。
 だから、俺様が欲しいのは情報。俺様が持ち帰るべきなのは、例の生き物ではない。そいつらに関連する情報だ。
 ていうか、運よく例の生き物を捕まえたところで、麓の町まで無事に連れて帰れる保証も無い。そのかわり情報なら、いくらでも持ち帰られる。俺様が無事な限りは。
 だから、荷物も装備も最小限だ。だって山登りしてるんだから、余計な荷物は勘弁だぜ。捕獲道具なんて、それこそ重たいだけだ。いらんそんなの。
 それにしても、この森・・・。中々どうして、綺麗な所じゃねえか。空気も美味いし、もう少し通いやすい場所にあるのなら、ここで定期的にキャンプしたいくらいだ。やっぱりいいなぁ、自然の中を歩くのって。イイねぇ、たまにはこういうのも、
「むう。誰かと思ったら、侵略者か」
 おっと、さっそくおいでなすった。何処からか、おっさんの声がするぞ。
「ハァ。どうして儂が、侵略者の相手をせねばならんのか。ドイツもコイツも、ここを離れるとはなぁ・・・あぁあ、面倒だ」
 松明を振り回して周囲を見回す。おっさんの姿は見えねぇ。
「さて、一応は尋ねようか。お前さん、何の用だね?」
 ほうほう、話は通じるようだな。ならば、
「おい。人と話をしたいのなら目の前まで来いよ、話はそれからだ」
「ああ、すまん。それもそうだな」
 そして足音。なんだおっさん、そんなところに、
「――ギャアアアアアアアアアアアアア!?」
 ひ、ひいいいいっ!?こっち来んなああああっ!

「むうう。そんなに怯えないでほしい。あと、無闇に火を振り回すのは止めなさい。草木に火が燃え移ってしまってはいけない」
 無理無理無理無理こっち来んなこっち来んなぁっ!
 情けねぇことに腰を抜かしちまった。そして動けねぇから、松明をブン回して威嚇しているつもり。だけど俺様に近づいて来やがるヒイイイイッ!?
「む?儂の姿って、そんなにおかしいのか?一般的な人間の男と、大して変わらないと思うのだが?」
 おっさんは、上から下まで自分の体を確認している。
「うむ、儂の体は特に異常無し。人間の男の、大人の体で間違いない。普通の人間と、大して変わらないはず。だからもう、怯えないでほしい。命までは奪わないから」
 いや無理だよ!?
 一応補足しておくと、おっさんは灰色の髪で髭がボサボサ。
「来るなあああっ!テメェ変態かよ!?やめろ、そんなの見せんなぁっ!」
 そして最重要項目。おっさんは全裸。しかもチンコがバッキバキ。
「や、やめてくれよ、来ないでくれよ、う、うわわわわ」
「む?この臭いは・・・。何だ、お前さんは女か」
 ハイそうです俺様は女ですだから怖いです真っ裸でチンコ丸出しで近づいて来るおっさんが怖いですマジでやめてください来ないでくださいうわああああああっ!
 ああもうすぐ目の前まで来やがったぞチクショウ!ひ、何だよその手、やめろよ、そんな汚い手で触らないでくれよ、って、
「おっと危ない。すまないが、これは預からせてもらうぞ」
 あうう。松明を奪われて、火を消された。真っ暗だ・・・。

 って。コレ、ヤバくねえか?
「さて、もう一度聞こうか。お前さん、何の用だね?」
 夜の森の中で、松明を奪われた。明かりを奪われた。
「答えなさい。お前さんの言う通り、目の前まで来てやったのだから。だから今度は、儂の言う通りにしなさい。質問には、答えてもらおう」
 俺様も、夜眼はそれなりには鍛えているつもり。町中なら、多少は暗くても自由に動き回れるくらいには、暗闇には慣れている。
 だが、ここでは意味が無い。ここは町中とは違うのだから。
「もし、答えないのであれば・・・尋問?と言うのだろうか。命までは奪わないが、それ相応のことをしないといけなくなる。だから答えなさい」
 見えない。おっさんの声だけ。何も、見えない。
 暗い。怖い。そしてもう一度言うが、眼の前のおっさんは裸の男。
 嫌だ。逃げなくては。でも何処へ?
 暗くて、見えなくて、何処に行けばいいか分からないのに。何処に逃げればいい?仮に逃げたとして、このおっさんから逃げられるのか?
「おっと、これまた危ない。手に持っている剣を仕舞いなさい」
 おっさんには、見えている。俺様の姿を、俺様が山刀を向けたのを、見ている。暗闇の中でも、俺様の姿が見えるようだ。
「むう、仕方ない。ええと確か、女相手にはこういう尋問がアリと言っていたな。・・・悪く思うなよ。これが、この森の掟だ」
 山刀も奪われた。遠くで物音。おそらく、山刀を投げ捨てたのだろう。俺様の見えないところに。そして、いや、やめ、この感触は、まさか。

 やめろ、やめてくれよ。
「むう、やたら多くの布切れを付けているな」
 やめてくれよ、服を脱がさないでくれよ。
「む?これはどう外せばいいんだ?まあいい、面倒だ」
 やめてくれよ、服を破らないでくれよ。
 抵抗する。暴れる。おっさんの体を押しのけようとする。
 でも、無理。おっさんの力が強すぎる。払いのけられない。
「ふむ。ならば、どういう目的でここに来たか、言えるか?」
 言わない。言えない。おそらく、言ったらダメだと思うから。
 間違いない。このおっさんこそが、俺様が探していた生き物。こんな山奥を裸でうろつく怪しい奴。しかもさっき、森の掟だとか言っていた。そして、こんな暗闇でも、迷うことなく、的確に、俺様の服を、全て、い、いやだ、やめてくれよ。
「まぁ、ちょうどいいか。儂も少々、最近はご無沙汰だったからな。お前さんの反省の意味も込めて、ヤらせてもらうぞ?」
 俺様・・・アタシの、肌に。おっさんの、手が。
 アタシの顔を。頬を。腹を。股を。何も服を着ていない、裸のアタシの体を。見えないけど分かる、これは男の手の感触で、アタシを、い、いや、イヤ、
「嫌あああああああああああああああああっ!」
 ふざけんなテメェッ!こんな山奥の森の中で、こんな、ひ、ひいっ!?やめろっ!やめてくれっ!無理矢理、アタシを、うつ伏せにして、
「や、やめ、まだ濡れてないの、に、ギャアアアアアアァッ!?」
 前戯も無く。バックから、いきなり。
 痛いに、決まっている。

 やめ、てよ。
 アタシ、嫌、なの。
「痛いっ!痛いから止めてくれええええっ!せめてっ、せめて優しくしてくれええええっ!ぎゃああああああああああっ!」
「む?いや、儂は別に問題ないが?」
 ふざ、け、ないで。
 アタシの都合を無視して。無理矢理。乱暴に。
 まるで、あの時みたいに。するのは、やめて。
「い、嫌だぁっ!もうレイプされるのは嫌だあああああっ!」
 あの町に、初めて来た日。
 何も知らなかったアタシは、見ず知らずの奴を信用してしまって。連れて行かれた場所が、宿屋の一室で。そこでアタシは、一晩中。
 だから、アタシは。顔を隠して、自分の事を俺様と言うようにして。女だと、気付かれないように、してたの、に。
「では、もう一度聞こう。この森には、何しに来た?」
 全力で、首を横に振る。痛い痛い痛い痛いいいいいいいいっ!
「言えないということは、そういう理由なのだろう?ならば、遠慮はしない。先程も言ったが、命までは奪わない。だが、儂の好きにヤらせてもらうぞ?」
 ひ、いや、おっさんの動きが、腰が、チンコが、激しく、痛く、ひ、い、ば、馬鹿やめろ、そんなことするのは、せめて、外に。
「い、いや、中はやだあああっ!うわあああああああああっ!」
 お腹が、熱い。
 嫌だ。こんなおっさんの、子供なんか、産みたくない、のに。

 あ、はは。おっさん、まだ、ヤる、の?
「あ、う、いや、やめ、てぇ・・・」
 痛みはマシになってきた。だけど、アタシの心はへし折れた。
「許、して・・・。おね、がい、だからぁ・・・許して、許してくださいいいいっ!もう嫌だあああっ!お願いだからもう帰してくださいいいっ!」
 恐怖。ただただ、恐怖。
 繰り返されるレイプの恐怖。しかも、こんな暗闇で。
 何も見えない。だからこそ、更なる恐怖を感じてしまう。
 恐怖が。より一層の恐怖が、アタシを襲う。なのに、
「ひ、ひいっ!?まだヤるのぉ!?も、もういいだろ!?ひ、い、ああうう!嫌だぁっ!こんなのでイきたくないいいっ!もう止めてくれええええええっ!」
 アタシは、レイプされているはずなのに。
 見ず知らずのおっさんに。得体の知れない生き物に。真っ暗闇の、森の中で。未だに衰えないおっさんのチンコが、何度も何度もアタシの中に出してるのに。
 無理矢理に、乱暴に、レイプ、されているのに、
「ひ、ひいっ、また、クる、う、うあ、あ、あああああああっ!?」
 アタシは、何度もイっている。
 こんな快楽は、生まれて初めて。処女はレイプで失ったけど、それ以降からはそこそこセックスは経験しているはずなのに。
 ここまでの気持ち良さを、アタシは知らない。意味が、分からない。

 もう、いいかげんにしてくれよ。
 アタシの腹が、熱くて、重くて、苦しくて。
 は、はは。どんだけ、中に出してやがるんだ。
「あう・・・あ・・・ぁ・・・、・・・」
 もう、声も出ねぇよ・・・。
 アタシのアソコも、もう感覚が無いんだ。痛いのか、気持ちいいのか、それすら分かんない。何かデカいのが入ってる、というのしか感じない。
 ふと、アタシの手に何かが当たる。ああ、これ多分おっさんの腕だな。おっさん中々毛深いんだ、な・・・って、あれ?
 なに、この腕。毛深いってレベルじゃない。むしろ毛で覆われている。
 思わず腕を握り締める。といっても、そんなに力は入らないけど。
 やっぱり違う。人間の腕ではない。何かは分からないけど、これは、
「むう。そんなに前足を撫でないでくれ。くすぐったい」
 ――前、足。
 そういえば、そうだった。人間になれる動物、なんだよな?
 そして、今のおっさんは。今、アタシをレイプしているのは。今、アタシの中に精液をドバドバ出しているのは。今、アタシとセックス、いや、交尾している、のは。
「う、うわ、わ、あ、あ、ああ、い、や」
 アタシは今。動物と、交尾している。アタシ、人間、なのに。
 恐怖を通り越して、絶望。それしかない。
「ぎゃあああああああああああああああああああっ!」
 殴る。殴る。この前足を殴る殴る殴る殴り続けてやるうううう!
 嫌だこれだけは嫌だ動物と交尾するのだけは嫌だあああっ!
「お、おい止めろ、痛いからそれは止めろって」
 知るかそんな事!おっさんの前足を、ただひたすらに、最後の力を込めて殴ってやるぅ!やめろやめやがれ離しやがれチクショウがゴハッ!?
「――ハッ!?し、しまった!つい足が!」
 痛、い。アタシの、頭、が。

 血だ。アタシの頭から、血だ。
 見えなくても分かる。生暖かいものが、アタシの頭から。
「す、すまん。そこまでするつもりは。ああ、儂は何ということを」
 は、はは。無理矢理、レイプ、してた、くせに。
 こんなので、うろたえんなよ。真っ暗だから、おっさんの顔は、見えないけど。情けない声を、出しちゃって、さぁ。
 イイよ。これは許すよ。おっさんの足を、殴ったから。それで思わず、反撃しちゃったんだろ?中々イイ、一撃だった、ぜ?
「うう、応急処置を・・・しまった、駄目だ。儂はしばらくは人間の姿にはなれん。かといって、他に治療ができそうな仲間は・・・」
 ハハハ。そんなこと、知ってるのか。面白いな、おっさん。
「いや。もう、手遅れか。この血と、怪我では。もう・・・」
 あぁ、アタシはこれで終わりかぁ。これが死ぬってことか。
 でも、仕方の無い事か。これがアタシの実力だったんだ。実力も無いのに、こんな山に挑んだアタシが悪かったんだ。だから、こういう結末でも、
「うぅう、まさか儂が、無駄に命を奪うだなんて」
 オイちょっと待てよ。
「――無、駄?」
 ・・・アタシが?アタシの命が?俺様の命が、無駄、だと?
「人の命を、何だと、思って、やがる」
 許さん。その言葉だけは、絶対に。
 そう思うと。体に、力が。俺様の体に、力が湧いてきた。
「えっ。・・・、――!な、何っ!?」
 何だ、思ってたよりもイケメンだなお前。

 俺様は立ち上がる。あぁあ、頭が痛ぇ。
「な、何故、お前は、生きている?今確かに、息が、止まって、いた、のに」
 知らねえよ。あぁあ、腹の中が精液でパンパンだぜ。
「なるほどなぁ。俺様は、馬にレイプされてたのか。いやぁ、獣姦なんて初めての経験だったぜクソが」
 見える。おっさんの顔が見える。姿が見える。灰色の馬。芦毛ってやつか。なるほどな、そんな馬の蹴りを頭に食らっちまえば、死ぬほど痛いに決まってるわな。
 でも、生きている。俺様は生きている。
 息もできる。やはりこの森は空気が美味いなぁ。そして改めて見てみると、やはり綺麗な森だ。見える。今ならいくらでも見えるぜ。
 明かりも無いのに、見える。真っ暗闇なのに、見える。これなら、たとえどんなに暗くて寒い日でも、いくらでも見える自信があるね。
 俺様には、もう恐怖は無い。見えるから。そして、分かるから。
 分かる。良く分からない何かが、不思議な力が込み上げてくる。
 分かる。自分が何をすればいいのかを。自分が何者なのかを。
 俺様が今、何を思えばいいのか。何ができるのかが、分かるんだ。
「小さくなれ。俺様の体、小さくなれよ」
「・・・嘘、だ、ろ?どうして、お前が」
 だから知らねえよ。でも、分かる。夜空・・・いや、月を見上げながら、こう思えばいいんだろ?初めてやるから、言葉に出してやってみるぜ?
「月のように。小さくなる月のように。小さくなれ、俺様の体よ」
 ――ほら、できた。
 どうしたおっさん?何だよ、その間抜けな馬面は。

 両腕を伸ばす。力いっぱい。
 初めてやることなのに、できる。やり方が分かる。
 冷静に思えば、意味不明にもほどがある。俺様、さっき頭を砕かれたよな?なのに、生きている。そして、こんなことができる。
 頭は痛い。ついでに言うとヤられっぱなしだったアソコも痛い。
 でも、生きている。そして今、こうなっている。
「嘘、だ。お前は確かに、人間だった。儂の仲間ではなかったはずだ。なのに、どうして、お前が、お前も」
 だから知らねえって。でも、分かる。
 両腕を・・・おっと、間違えた。
 両翼を、羽ばたかせて。俺様は、飛んでいる。
 空へ。空へ。高く、飛んで。おぉお、綺麗な夜空だ。
 今日の月は半月と満月の中間か。でもしばらくすれば満月になって、とても綺麗に・・・って、いやいや俺様はそんなキャラじゃないな。
 いやぁ、まったくもって意味が分からん。何だよコレ。
 まさか俺様が鳥になって空を飛ぶとは。しかもこの姿、鴉だな。
 だって羽根が真っ黒だし。でも、中々イカしてるなコレ。イイねぇ、やっぱり黒色ってのは闇夜に溶け込む感じがしてイイねぇ。
 でもまさか。俺様も、動物になれる人間に・・・いや、人間になれる動物?どっちだ?どっちが俺様なんだ?ああもう、全くもって意味分からん。
 まぁいいか。俺様は生きているんだ。
 だから、ヤりたいようにやるぜ?俺の心のままに、本能のままに。
 これが俺様だ。俺様は、鴉だ。


 これは、俺様の物語だ。
 不思議な力を手に入れた、俺様の物語なのさ。
 イイねぇコレ。コレってもしかして魔法じゃねえのか?
 鴉になって空を飛べる魔法か。うん、実にイイねぇ。
 オイ馬のおっさん。レイプしたことについては許すよ。
 それと、俺様の頭を蹴った事についても許してやる。
 だけど、あれだけは許さない。絶対に許さない。
 俺様の命を、無駄、と言ったことだけは。死んでも許さねぇ!
 テメェ何様のつもりだ!俺様の命を何だと思ってやがる!
 だから、その間抜けな馬面に目掛けて急降下してやるぜ!
「くたばれこのクソ野郎がああああああああああっ!」
 テメェは俺様がブチ殺してやらぁ!アッハッハッハ!


 ――今回の主役:鴉(人間時:黒髪の女性)
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