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四話 とある町の自警団の男性の話
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これは、いつの話か分からない。ここではない、何処かの話。
ここは・・・うっ、駄目だ吐き気がする。直視できない。
この世界は、人々が頑張って、各々の仕事をしている世界。
魔法?そんなものは・・・いや、そんなの夢見る年ではないな。
最初に通報が入った時には、嘘だと思った。
朝っぱらから妙な通報を入れやがってと思ったくらいだ。
私がこの町の自警団に勤め始めたのは16歳の時だから・・・ここで働き続けて、9年か10年か。
恥ずかしい事に、この町はどうも治安が悪いから、ありとあらゆる犯罪が起きている。そのぶん、我々も多くの犯罪者を相手にしてきた。
だから私は、それ相応に修羅場は潜ってきたはずだ。死に掛けることも何度かあった。よくよく考えれば、よくぞ私は生き抜いてこれたなぁと、我ながら思う。
だから今更、大抵の事件には驚かないつもりだった。
だが、これは・・・酷、すぎ、る。
「う、うう、あ、ああっ、なんで、あの子が」
1人の娼婦が怯えている。無理もない。こんな光景を見てしまっては。
あちこちに血が。血だまりが。死体が。惨たらしい死体が。私も仕事でないのなら、今すぐこの場から逃げ出したい。そんな地獄絵図。
「・・・生存者は、この女性だけ。死んでいるのは、男性、のみと?」
部下から報告を受ける。おい君、無理しなくていい、吐いてきなさい。
この店の噂は聞いている。娼館。地下室もある、そこそこ大きめの店。そして非合法で、危ない噂が絶えない店でもある。
この町やここの近辺の町々では、娼婦自体はポピュラーな仕事。ただし、娼婦を抱えている娼館が、主に2種類に分かれている。それ相応にルールを守った娼館と、無法地帯でやりたい放題な娼館。この店は、後者。
非合法なら我々自警団が取り締まればいい、と思うかもしれないが。この店を相手にするのだけは無理だった。あまりも巨大な敵。巨悪。勝てる気がしない。
だから、いずれは我々の力で潰してやりたかった。こいつらに対抗できるほどの戦力を整え次第、我々が取り締まるつもりだった。
だが、いくらなんでも。罪人であっても、これは酷い。客と思われる者達も、何人かが無残に殺されている。ある程度は、逃げただろうが・・・。
そして。これはおそらく、人間の仕業ではない。
壁には爪痕。殺された男達の傷口にも爪痕。他にも、頭を砕かれたり、腹を食い破られたような痕跡もある。そして血でできた足跡は、どう見ても人間ではない。獣みたいだ。動物みたいだ。
それに、殺された男達は皆、武器を持っている。槍と、弓矢だ。
こんな室内で弓矢を構えるとは。彼らは一体、何と戦ったのだ?何に殺されたんだ?夜中に一体、何が起きたんだ?
店の外が騒がしい。野次馬共が騒いでいる。邪魔だ、どいてくれ。
・・・血の跡は、外まで続いている。やはり、人間の足跡ではない。
私は一旦、現場から離れる。彼女を保護しないといけないからな。
娼館から離れた場所にある、私達の職場。自警団の詰め所。どうぞ、お座りください。お茶でも飲んで落ち着いてください。
「・・・悪いわね、見苦しい所を見せてしまって」
年は、二十歳を過ぎた辺りか。先ほどの娼館で働いていた・・・いや、
「単刀直入に聞く。あなたは、もしかして」
「ええ、いわゆる性奴隷よ。それが何か?」
娼婦自体は確かにポピュラーな仕事だ。だが、好んでやりたがる者なんて多くない。何かしらの事情がある者だったり、最悪の場合は強制的に、そういう事をさせられている。だからあの店は非合法だったわけだが。
「お嬢さん、あなたについては深く聞くつもりはない。・・・昨夜、あの店で、何が起きたのですか?辛い事を思い出させるようで、申し訳ないが」
「・・・なんて言えば、いいのかしら」
彼女は、暗い顔をしてしまったが。少し考えて、真剣な表情をした。
「――魔法が、起きた。と言えば、信じてくれるかしら?」
「は?」
は?
「うん。そうよ、あれは魔法なのよ」
この人、真顔で何を言ってるんだ?
う、うん。どうやら彼女はまだ混乱しているようだ。おい、お茶菓子も用意しろ。できるだけ高級なやつ。どうぞお食べ下さい、遠慮はいりませんので。
彼女はお茶菓子を食べつくし、さらにお茶のお代わりもした。だいぶリラックスしてらっしゃるな。今度こそ、聞いてみるか。
「えっと、その。結局のところ、昨夜はいったい」
「魔法。それ以上に説明できる言葉が無いわ」
うん、そうか。やっぱり頭がおかしくなってしまったんだな。あんな酷い光景を見たから、仕方ないな。うん、ならば話を合わせてやるか。
「ほう、魔法ですか。いったい、どういう魔法なのでしょうか?」
「非力な少女が、急激にパワーアップする魔法ね。牢屋の扉をブッ壊し、弓矢や槍で体を貫かれても倒れることなく、悪者共を片っ端からブチのめしたの」
へー、すごいなー、かっこいいなー、意味が分かりません。
「ハハハ、そうですか。もし実際にあるのなら、私も見てみたいですね」
「言っておくけど、マジよ?そういう噂があるのよ。裏社会で」
――うん。彼女はとても、真剣な顔をしている。
「あの子は、私達のために戦ってくれた。私は行き場所が無かったから、あの店に残ってたけど。あの子は命懸けで戦い、他の奴隷たちを逃がしてくれた。魔法の力で。それだけは、真実」
意味が分からない。とてもではないが、信じられない。だが、
「だからもし、もう一度あの子に会えるのなら・・・だけど、あの傷では――」
彼女の眼は。涙を浮かべる彼女の眼だけは、真実を語っている。
それ相応の罪人を相手にしてきた私だから分かる。相手が正直に話しているのか、嘘を付いているのか、見極めることができる。
「その、噂とは。いったい、どういう噂なのでしょうか?」
だから、断言できる。彼女の涙には、嘘偽りはない。
彼女とは幾つか話をして別れた。その際に、住み込みで働ける娼館への紹介状を渡しておいた。少なくとも、あんな奴隷扱いの店よりかはマシだろう。
私は再び現場に戻る。・・・いや、現場の痕跡を辿る。
事前に部下には命令しておいた。事件があった娼館から、謎の生き物の足跡を辿れ、と。足跡だけではない、血痕もだ。彼女の話を聞く限り、あの生き物も相当の深手を負っているようだ。
だから、痕跡を追うのはさほど難しくなかったようだ。途中で途切れてしまったが・・・なるほど、謎の生き物が向かった方角は、あそこか。これもまた、先ほど聞いた噂通りだ。
あの生き物が向かった先は、禁足地の山。不用意に入ったものが行方不明になることが多いから、我々自警団が原則立ち入り禁止にしている。
あくまでも原則なので、許可さえ取れば立ち入っても良い。何が起きても自己責任、たとえ生きて帰れなくても補償は一切無し等々の条件が付くが。
えっと、今の時間は・・・まだ昼まで時間はある。今なら、仮に山奥まで行ったとしても、日が沈むまでには帰ってこれそうだ。
なにせ私は田舎育ちだからな。山登りは得意なんだ。それにあの山には幾度か入ったことがある。もし仮に行方不明者が出た時に備えての演習で、何度か。
ただし、今回に限っては、あの山に行くのは私1人だけだ。私は彼女の涙を信じている。だが、部下達がそれを信じるかと言われたら・・・説得できる自信が無い。
では正式に手続きをして。荷物や必要な道具は、山の入り口の関所に揃っている。よしよし、これだけあれば仮に夜になっても対応できるな。
もちろん服装や装備も登山専用の物だ。では後は任せた、行ってくる。
禁足地の山といっても、かつては出入りがあった場所なので、ある程度は安全な道というものが確保されている。過去にこの山に挑んだ、先人達の知識というものがある。
だから、迷いはしない。道が続く限りは。古びた地図を頼りに、どんどん進み、昼を過ぎる頃にはだいぶ奥まで進むことができた。
そして、ここからが難所。山の奥にある、木々が生い茂るエリア。
先人達の知識はここまで。いや、教訓として残っている。
ここから先の情報が無いということは、つまりこの山から無事帰れた者達は、この先には進んでいないという意味である。もしこの先に進んだら・・・という警告である。
だが、進もう。手にはナイフ。進むたびに、木に傷を付けて、また進んで木に傷を付けて、帰り道への道しるべを付けながら。
「はぁい、お兄さん。そんなイタズラはしちゃダメよ?」
・・・若い女の声が、何処からか聞こえる。
「酷いわねぇ。木に傷を付けながら、森の中をお散歩だなんて。相変わらず、人間のする事は意味わかんない」
ナイフは仕舞う。代わりに、松明を取り出し火を付ける。
松明は明かり目的だけで使う物ではない。火を灯せば、大抵の獣を追い払うことができる。いわば、この場においては最適な武器の一つ、なのだが。
「おお、素人ではなさそうだね。お兄さん、用件は何?見た感じは狩人のようは恰好だけど、ここで狩りをするのは止めた方が良いよ?」
通用しないか。
そして、狩人のような恰好か。的を得ている。山奥や森の中を散策するなら、この格好の方がいいからな。
私は引かない。火の付いた松明を構えて、動かない。
周囲は見回さない。この場においては、視界だけに頼るのはいけない。
耳を澄ませる。気配を読む。そして心を落ち着かせる。
「ねえねえ狩人さん、そんなに緊張してないで、お喋りしない?」
私は何も答えない。
「うわぁ酷い。無視するなんて。それじゃあ私が勝手に喋るけど、いい?」
軽く頷くくらいはしてやる。
「あ、いいんだ。それじゃあ・・・えっと」
少なくとも彼女は、私を目視できる位置にいる。私の軽い頷きを目視できる程度の距離にいる。油断はしない。
「一応、警告からしておこうかな。この先には行ってはいけない。マジで、死ぬよ?私も、他のみんなも、気が立っているの」
他の、みんな。つまり、彼女には仲間がいる。
「普段なら。食べ物目的で来た人間や、道に迷って偶然ここに来た人間だったら、命までは奪わないのが、私達の掟だけど。今日だけは、あなたのような人間はマジで殺される。今の私達は、掟を守るどころじゃないからね」
私の事を、人間と呼ぶ。つまり彼女は人間ではない。
「だから早く帰って。掟は破りたくないの。食べ物を狩る目的で来たのであれば、早く引き返して。ここは私達だけの世界、人間達に邪魔はさせない」
・・・噂とやらは、本当だったようだな。
しばしの沈黙。私は依然と、臨戦態勢を整えたまま。
「帰る気は、ないんだね。もう一度聞くよ。用件は何?」
「昨夜、町中で。多くの者が死んだ」
「ほう。それが何か?」
「生存者の話では、虎が暴れていたそうだ。多くの者が、虎に殺された」
・・・おっと、今度は相手がだんまりか。
「きっと虎は、食べ物目的や、道に迷って、町中に来たわけではないのだろう。なのに町中に居て、多くの者を殺した。私はその虎を探しに、ここまで来た。・・・もしくは、金髪の少女でもいい。同一人物なのだろう?」
――気配が変わった。殺気だ。
「虎ちゃんに、何の用?ていうか、やっぱり私達の事を知ってるんだね。そういう目的なら、もう話は終わり。あの子に代わって私が相手をしてあげる。今すぐ、この場で」
殺気で分かる。彼女は、中々の手練れだ。だが、引かない。
「待ってくれ、あなた達とは戦うつもりはない。直に会って、話をしたいだけだ。虎に姿を変えられる金髪の少女に、会わせて欲しい。戦うつもりも、捕まえるつもりもない。話をするだけだ」
「・・・戦うつもりはない、と。その言葉に、嘘偽りは?」
「あなたや、あなたの仲間達が、私に攻撃してこない限りは。私から、あなた達に攻撃する理由は無い。話し合いで解決できるなら、それが一番だろう?」
「――分かった。イイよ、こっちも詳しい話を知りたいし。ただし、いつでも戦闘になる覚悟はしておいてね。殺意が抑えられないの」
突然の物音。だが私は動じない。眼の前に、見た目は人間の女が現れた。
「でも、今は我慢する。私達は、無駄な命は奪わないからね」
ようやく姿を現してくれたか。この森に住まう、不思議なブホッ!?
「ん?狩人さん、どうしたの?鼻血なんか出しちゃって」
は、裸のナイスバディな女が現れるのは想定外だった・・・。あ、危なかった、戦いになってたら間違いなく殺されてた。裸に見とれているうちに。私もまだまだ修行が足りないなブホッ。
松明の火は消した。そして桃色の髪をした裸の女に連れられて、森の奥を進んでいく。うん、いい尻してらっしゃるブホッ。
「ねえ狩人さん、鼻血は大丈夫?ますます酷くなってるけど」
こっち向かないでください止めてくださいナイスバディな胸や丸出しのアソコを見せないでくださいグフッ。
う、うう、私はあまり女性とアレやらコレやらをしたことが無いからなぁ。こういうのには弱いんだよ、恥ずかしい。
でも、あなたが裸だから鼻血を出しているんです、と言うのは止めておく。それを言ってしまったら、何かに負けたような気がするので。
ええい、集中だ集中。今日の朝を思い出せ。あの見るに堪えない店内の様子をオエッ。・・・ふ、ふう。ようやく鼻血を止められた。
「狩人さん、そろそろ着くよ。・・・ここからはマジで、あなたの命は保証しない。話の内容次第では、ここまで連れてきた責任として、私があなたを始末する。覚悟はいい?」
頷く。もう何があろうとも驚かない。
――いや、無理だった。
案内されたのは湖。その傍で、多くの動物達が集まり、群がっている。
「今は寝ているから。起こすのも悪いし、あの子から話が聞けてないの」
その場所は、動物達に囲まれているから、良くは見えない。
だが、そこからさらに離れた場所を見て、絶句している。
そこには、おびただしい量の血の跡が。数えるのも躊躇われる量の、血塗れの槍と矢の山が。あの動物達を囲んでいるものが何か、どうして群がっているのか、嫌でも想像できる。
「あれ、アンタは自警団の団長さんじゃねーか」
動物達を見ていたせいで、気付くのが遅れた。少し離れた場所に、1人の男が立っていた。・・・あれ、君は?
「リオン君・・・と、言ったか?」
彼は頷いてくれた。つい昨日会ったばかりの、青髪の大柄の男。私と同じく、ちゃんとした服を着ている。彼は、盗賊の頭を見事に討伐した、とても強い男・・・と、思っていたが、
「オイ、こんなところに人間を連れて来るなよ」
彼は、私を案内してくれた女を睨みつけている。なるほど、彼もか。
「それがね、虎ちゃんの事を知っているようなの。それで、詳しい話を聞こうかな、って。その方がみんなも納得できるんじゃない?」
群がっていた何匹かの動物が、私に顔を向けた。
「――お前、が」
そのうちの1匹から、また女の声がする。
「お前が、お前が、この子を、お前が、お前が」
血に汚れた白い狐が・・・いや、白髪の女が私に向かってくる。狐は瞬く間に体が大きくなり、裸の小柄な女性に姿を変えた。
だが、もう鼻血は出さない。そんな余裕はない。
「私が、殺して、やる。許さ、ない、絶対、に」
ここまでの恐ろしい泣き顔を見るのは、初めてだからだ。
私は臨戦態勢を整え、られずに、一瞬で距離を詰められ。
彼女の両手が、私の襟元を掴む。私を軽く持ち上げたかと思ったら、その勢いのまま地面に投げ飛ばされ、また一瞬で馬乗りになって、両手で私の喉を、掴み、全体重、を、掛、け、て、握、り、締、め、て――。
私はその場に倒れ込んでいる。咳き込んでいる。
なんとか体を起こしたが・・・無理。動けない。
「私がヤる、私がヤってやる、そしてみんなで食べてやる。2人とも、邪魔しないで、お願いだから私にヤらせて、この森は私が守るんだからああああああっ!」
情けない話だが、この白髪の女に恐怖して、戦意を喪失した。
「離してっ!お願いだから離してっ!殺す!殺してやる!侵略者は私が!」
もう既に死を覚悟している。だが、なんとか生きている。
「止めろ白狐、無闇に命を奪うな。まずは話を聞いてからだ」
リオン君が、白髪の女・・・白狐と言ったか。彼女を羽交い締めにして、押さえてくれているからだ。だが、白狐は暴れている。私を睨みつけている。
「許さない、あの子がどれだけ苦しい思いをしたか、許さない、あの子にどれだけの槍と矢が刺さっていたか、許さない、同じことをしてやる、あの子から抜いた槍と矢の全てをコイツに刺してやる、許さない、許さない」
憎悪。恐ろしいまでの憎悪と殺意。勝てる気がしない。
「白狐、お願いだから落ち着いて。苦しいのはみんな同じ。私だって許さない。みんな気持ちは同じ。だけど、まずは話を聞いてからにしよ?」
だが。桃色髪の女も、私の傍に寄り添い、私を庇ってくれている。先程まで、私と戦おうとしていたのに。
だから、話さなければいけない。この2人の為にも、白狐の為にも。
「虎の少女へ、伝言を預かっている」
彼らは、私に視線を向けた。他の動物達も。
「助けてくれてありがとう。命懸けで戦ってくれて、ありがとう。そう伝えるように、頼まれたから。私はここまで、来たんだ」
白狐は相も変わらず、恐ろしい眼で私を睨んでいる。だが、
「槍を突き刺す相手は、私ではない。虎の少女を苦しめた相手は、私ではない。君達を狙う、薄汚い奴等がいる。話を、聞いてくれないか?」
彼女の憎悪に向き合う。彼女達の、仲間を思う気持ちに向き合う。
話は、夕方まで続いた。
白狐は最後まで、私に殺意を向けていた。でも、話を聞いてくれた。
彼女は何も言わず私に背を向け、湖に手を伸ばしたかと思ったら。素手で魚を生け捕りにして、私の足元に投げ渡してきた。
そして、布切れでグルグル巻きにされた金髪の少女を優しく抱え、何処かへと行ってしまった。結局、伝言は伝えられなかったな・・・。
この魚は、彼女なりの詫びのつもりなのだろう。ならばありがたく、火を起こして、軽く塩を振って・・・あのうリオン君も皆さんも、不思議そうな眼で私を見ないでもらえます?魚の塩焼きってそれほど珍しい物なのだろうか。
食事を終える頃には、もう町には帰れない時間になってしまった。ええと、どこかにテントを張れる場所は、
「狩人さん・・・じゃなくて、団長さん。よかったら、私のウチにくる?さっきは殺意丸出しで話しちゃってゴメンね?団長さんは何も悪くなかったのに・・・。だから仲直りがしたいの。イイ?」
桃色髪の女だ。うおおう、笑顔が可愛い・・・じゃなくて、こちらこそ急に押し掛けてしまい申し訳ない。では遠慮なくお邪魔させていただ・・・。
うん。今、物凄く後悔しています。
小さな洞窟のような場所。葉っぱを敷き詰めて、寝床代わりにして。
油に火を灯しているので、薄暗く明かりはついている。本来なら彼女には不要らしいが、私のために配慮してくれた。
「ふふ。交尾なんて久しぶり、仲直りするならコレだよね?」
・・・けど、それ以外は配慮してくれない。問答無用で服を全部脱がされ、押し倒されてます誰か助けてください。
もちろん抵抗はしました。でもこの娘、むっちゃくちゃ強い。払いのけられない。逃げられない。思わず手を出してしまったけど、軽く受け止められました。
「ふふ。最初に会った時からチンコをバキバキにしてたくせに。団長さんも発情してるんでしょ?おかげで私も、発情しちゃった。――責任、取ってね?」
えっ、もしかしてこのままデキちゃった結婚までさせられるの!?
キスをされる。無理矢理に。
強く抱き締められ、舌を入れられ、離してくれない。
「私は、ときどき人間の町に行くからね。色々、知ってるんだ。こういうことされると、人間の男って喜ぶんでしょ?」
ひ、否定できん・・・とても、幸せだぁ。
「こういうのも好きなんでしょ?ほら、遠慮しないで?」
私の手を掴み、自らの胸元に当てる。う、うわぁ、柔らかい・・・。
「ふふふ、団長さんもヤる気になってきたね?イイよ、いっぱい触っても。私も好きにするからね?」
彼女は私の体に噛みついてくる。甘噛みで。痛くはない、というより気持ちいい。そして私の手も気持ちいい。おっぱいって柔らかいんだなぁ。いくらでも揉める。
ついでにここも触っていいのかな?好きにしていいのなら。
「あううん。イイよ、でももう少し、優しくして?乳首って、繊細なの」
あっハイ、分かりました。ええと・・・、
「そう言えば、名前を聞いてませんでした。あなたの事は何と呼べば?」
「名前は無いの。私達の仲間は、みんなそうなの。元の姿で呼ばれることがほとんど。名前を持っているのはリオンくらいね」
「ああ、そうなのですか。では改めて、あなたは他の仲間からは何と呼ばれているのでしょう?それで呼ばせてもらいます」
「うーん、毒蛇って呼ばれることが多いかな?」
名前で呼ぶのは止めよう。想像するのが怖い。
ていうかさっき、この子と舌を絡め合ってキスしてたんだけど。体をあちこち甘噛みされたんだけど。ヤバイよこの子、思ってた以上に危険だったよヤバイよこの森。
リオン君は強いし白狐は怖いし虎の少女は語るにも恐ろしい。そして私の眼の前には毒蛇娘。すすすすみませんお邪魔しました帰らせて頂きます・・・。
でも、やはり逃げられない。これが弱肉強食というものか。
「ふふ、イイ、すごくイイ、もっとヤってあげるね?」
なるほど、これが蛇というものか。
「私、時間を掛けて、ゆっくりヤるのが好きなの」
アソコ同士は深く繋がっている。私は仰向けで、私の上に彼女が。
彼女は私の体を強く抱き締め、胸を押し付け、唇を重ね、舌を絡め、足も絡ませて。体中の至るところが、彼女と触れ合い、繋がっている。
動きたい。今すぐに腰を振って、彼女の中に出したい。
「ふふ、駄目だよ?もっと楽しませて?まだまだ、終わらないよ?」
でも、私は動けない。彼女が絡みついているから。
「凄く、イイ・・・みんなは、私の相手、してくれないからなぁ。こんなの楽しくないって、まどろっこしいって」
体は力強く抑えられて。でも、キスする口と、アソコ同士からは、僅かながらの快楽が、私の心を支配してきて。
体全体が熱くなっていく。そして彼女の体も熱い。
でも、それが気持ちいい。いつまでも、こうしていられる。
「こういうの、久しぶりだから。まだまだ、ヤりたい。終わりたくないの。・・・やっぱり、こういうの嫌?もっと激しくヤりたい?」
私は首を横に振る。私には、どうこう言う資格が無い。
「――いい、の?嬉しい。じゃあ、もっとするね?」
最初に出会った時から、彼女には負けていたのだから。彼女はいつでも、私の命を奪うことができたのだから。それでも私を、生かしてくれた。
だから、付き合おう。従おう。彼女の思いに。彼女の望み通りに。
「いっぱい、交尾してあげるから。ずっと、ね?」
彼女の方が、私よりも強いのだから。
これは私達の世界と、不思議な森の住人達の物語。
この世界は弱肉強食。強い者は生き、弱い者は死ぬ。
私達も、この者達も、それは同じ。強い者だけが生き残れる。
でも、みんな生きている。それぞれの思いを胸に抱いて。
改めて思うと、ここは不思議な世界だ。
人の言葉が喋れる動物。人になれる動物。
人の姿でありながら、恐ろしいまでの力を秘めた者達。
恐ろしい。まったくもって恐ろしく、不思議な世界だ。
でも、生きている。私と同じく、みんな生きている。
彼女もそうだ。生きているから、ここにいるんだ。
「気持、ち、イ、イ。もっと、強く、抱き、締め、て?」
私達は生きている。この気持ち良さが、生きている証だ。
――今回の主役:自警団の団長
ここは・・・うっ、駄目だ吐き気がする。直視できない。
この世界は、人々が頑張って、各々の仕事をしている世界。
魔法?そんなものは・・・いや、そんなの夢見る年ではないな。
最初に通報が入った時には、嘘だと思った。
朝っぱらから妙な通報を入れやがってと思ったくらいだ。
私がこの町の自警団に勤め始めたのは16歳の時だから・・・ここで働き続けて、9年か10年か。
恥ずかしい事に、この町はどうも治安が悪いから、ありとあらゆる犯罪が起きている。そのぶん、我々も多くの犯罪者を相手にしてきた。
だから私は、それ相応に修羅場は潜ってきたはずだ。死に掛けることも何度かあった。よくよく考えれば、よくぞ私は生き抜いてこれたなぁと、我ながら思う。
だから今更、大抵の事件には驚かないつもりだった。
だが、これは・・・酷、すぎ、る。
「う、うう、あ、ああっ、なんで、あの子が」
1人の娼婦が怯えている。無理もない。こんな光景を見てしまっては。
あちこちに血が。血だまりが。死体が。惨たらしい死体が。私も仕事でないのなら、今すぐこの場から逃げ出したい。そんな地獄絵図。
「・・・生存者は、この女性だけ。死んでいるのは、男性、のみと?」
部下から報告を受ける。おい君、無理しなくていい、吐いてきなさい。
この店の噂は聞いている。娼館。地下室もある、そこそこ大きめの店。そして非合法で、危ない噂が絶えない店でもある。
この町やここの近辺の町々では、娼婦自体はポピュラーな仕事。ただし、娼婦を抱えている娼館が、主に2種類に分かれている。それ相応にルールを守った娼館と、無法地帯でやりたい放題な娼館。この店は、後者。
非合法なら我々自警団が取り締まればいい、と思うかもしれないが。この店を相手にするのだけは無理だった。あまりも巨大な敵。巨悪。勝てる気がしない。
だから、いずれは我々の力で潰してやりたかった。こいつらに対抗できるほどの戦力を整え次第、我々が取り締まるつもりだった。
だが、いくらなんでも。罪人であっても、これは酷い。客と思われる者達も、何人かが無残に殺されている。ある程度は、逃げただろうが・・・。
そして。これはおそらく、人間の仕業ではない。
壁には爪痕。殺された男達の傷口にも爪痕。他にも、頭を砕かれたり、腹を食い破られたような痕跡もある。そして血でできた足跡は、どう見ても人間ではない。獣みたいだ。動物みたいだ。
それに、殺された男達は皆、武器を持っている。槍と、弓矢だ。
こんな室内で弓矢を構えるとは。彼らは一体、何と戦ったのだ?何に殺されたんだ?夜中に一体、何が起きたんだ?
店の外が騒がしい。野次馬共が騒いでいる。邪魔だ、どいてくれ。
・・・血の跡は、外まで続いている。やはり、人間の足跡ではない。
私は一旦、現場から離れる。彼女を保護しないといけないからな。
娼館から離れた場所にある、私達の職場。自警団の詰め所。どうぞ、お座りください。お茶でも飲んで落ち着いてください。
「・・・悪いわね、見苦しい所を見せてしまって」
年は、二十歳を過ぎた辺りか。先ほどの娼館で働いていた・・・いや、
「単刀直入に聞く。あなたは、もしかして」
「ええ、いわゆる性奴隷よ。それが何か?」
娼婦自体は確かにポピュラーな仕事だ。だが、好んでやりたがる者なんて多くない。何かしらの事情がある者だったり、最悪の場合は強制的に、そういう事をさせられている。だからあの店は非合法だったわけだが。
「お嬢さん、あなたについては深く聞くつもりはない。・・・昨夜、あの店で、何が起きたのですか?辛い事を思い出させるようで、申し訳ないが」
「・・・なんて言えば、いいのかしら」
彼女は、暗い顔をしてしまったが。少し考えて、真剣な表情をした。
「――魔法が、起きた。と言えば、信じてくれるかしら?」
「は?」
は?
「うん。そうよ、あれは魔法なのよ」
この人、真顔で何を言ってるんだ?
う、うん。どうやら彼女はまだ混乱しているようだ。おい、お茶菓子も用意しろ。できるだけ高級なやつ。どうぞお食べ下さい、遠慮はいりませんので。
彼女はお茶菓子を食べつくし、さらにお茶のお代わりもした。だいぶリラックスしてらっしゃるな。今度こそ、聞いてみるか。
「えっと、その。結局のところ、昨夜はいったい」
「魔法。それ以上に説明できる言葉が無いわ」
うん、そうか。やっぱり頭がおかしくなってしまったんだな。あんな酷い光景を見たから、仕方ないな。うん、ならば話を合わせてやるか。
「ほう、魔法ですか。いったい、どういう魔法なのでしょうか?」
「非力な少女が、急激にパワーアップする魔法ね。牢屋の扉をブッ壊し、弓矢や槍で体を貫かれても倒れることなく、悪者共を片っ端からブチのめしたの」
へー、すごいなー、かっこいいなー、意味が分かりません。
「ハハハ、そうですか。もし実際にあるのなら、私も見てみたいですね」
「言っておくけど、マジよ?そういう噂があるのよ。裏社会で」
――うん。彼女はとても、真剣な顔をしている。
「あの子は、私達のために戦ってくれた。私は行き場所が無かったから、あの店に残ってたけど。あの子は命懸けで戦い、他の奴隷たちを逃がしてくれた。魔法の力で。それだけは、真実」
意味が分からない。とてもではないが、信じられない。だが、
「だからもし、もう一度あの子に会えるのなら・・・だけど、あの傷では――」
彼女の眼は。涙を浮かべる彼女の眼だけは、真実を語っている。
それ相応の罪人を相手にしてきた私だから分かる。相手が正直に話しているのか、嘘を付いているのか、見極めることができる。
「その、噂とは。いったい、どういう噂なのでしょうか?」
だから、断言できる。彼女の涙には、嘘偽りはない。
彼女とは幾つか話をして別れた。その際に、住み込みで働ける娼館への紹介状を渡しておいた。少なくとも、あんな奴隷扱いの店よりかはマシだろう。
私は再び現場に戻る。・・・いや、現場の痕跡を辿る。
事前に部下には命令しておいた。事件があった娼館から、謎の生き物の足跡を辿れ、と。足跡だけではない、血痕もだ。彼女の話を聞く限り、あの生き物も相当の深手を負っているようだ。
だから、痕跡を追うのはさほど難しくなかったようだ。途中で途切れてしまったが・・・なるほど、謎の生き物が向かった方角は、あそこか。これもまた、先ほど聞いた噂通りだ。
あの生き物が向かった先は、禁足地の山。不用意に入ったものが行方不明になることが多いから、我々自警団が原則立ち入り禁止にしている。
あくまでも原則なので、許可さえ取れば立ち入っても良い。何が起きても自己責任、たとえ生きて帰れなくても補償は一切無し等々の条件が付くが。
えっと、今の時間は・・・まだ昼まで時間はある。今なら、仮に山奥まで行ったとしても、日が沈むまでには帰ってこれそうだ。
なにせ私は田舎育ちだからな。山登りは得意なんだ。それにあの山には幾度か入ったことがある。もし仮に行方不明者が出た時に備えての演習で、何度か。
ただし、今回に限っては、あの山に行くのは私1人だけだ。私は彼女の涙を信じている。だが、部下達がそれを信じるかと言われたら・・・説得できる自信が無い。
では正式に手続きをして。荷物や必要な道具は、山の入り口の関所に揃っている。よしよし、これだけあれば仮に夜になっても対応できるな。
もちろん服装や装備も登山専用の物だ。では後は任せた、行ってくる。
禁足地の山といっても、かつては出入りがあった場所なので、ある程度は安全な道というものが確保されている。過去にこの山に挑んだ、先人達の知識というものがある。
だから、迷いはしない。道が続く限りは。古びた地図を頼りに、どんどん進み、昼を過ぎる頃にはだいぶ奥まで進むことができた。
そして、ここからが難所。山の奥にある、木々が生い茂るエリア。
先人達の知識はここまで。いや、教訓として残っている。
ここから先の情報が無いということは、つまりこの山から無事帰れた者達は、この先には進んでいないという意味である。もしこの先に進んだら・・・という警告である。
だが、進もう。手にはナイフ。進むたびに、木に傷を付けて、また進んで木に傷を付けて、帰り道への道しるべを付けながら。
「はぁい、お兄さん。そんなイタズラはしちゃダメよ?」
・・・若い女の声が、何処からか聞こえる。
「酷いわねぇ。木に傷を付けながら、森の中をお散歩だなんて。相変わらず、人間のする事は意味わかんない」
ナイフは仕舞う。代わりに、松明を取り出し火を付ける。
松明は明かり目的だけで使う物ではない。火を灯せば、大抵の獣を追い払うことができる。いわば、この場においては最適な武器の一つ、なのだが。
「おお、素人ではなさそうだね。お兄さん、用件は何?見た感じは狩人のようは恰好だけど、ここで狩りをするのは止めた方が良いよ?」
通用しないか。
そして、狩人のような恰好か。的を得ている。山奥や森の中を散策するなら、この格好の方がいいからな。
私は引かない。火の付いた松明を構えて、動かない。
周囲は見回さない。この場においては、視界だけに頼るのはいけない。
耳を澄ませる。気配を読む。そして心を落ち着かせる。
「ねえねえ狩人さん、そんなに緊張してないで、お喋りしない?」
私は何も答えない。
「うわぁ酷い。無視するなんて。それじゃあ私が勝手に喋るけど、いい?」
軽く頷くくらいはしてやる。
「あ、いいんだ。それじゃあ・・・えっと」
少なくとも彼女は、私を目視できる位置にいる。私の軽い頷きを目視できる程度の距離にいる。油断はしない。
「一応、警告からしておこうかな。この先には行ってはいけない。マジで、死ぬよ?私も、他のみんなも、気が立っているの」
他の、みんな。つまり、彼女には仲間がいる。
「普段なら。食べ物目的で来た人間や、道に迷って偶然ここに来た人間だったら、命までは奪わないのが、私達の掟だけど。今日だけは、あなたのような人間はマジで殺される。今の私達は、掟を守るどころじゃないからね」
私の事を、人間と呼ぶ。つまり彼女は人間ではない。
「だから早く帰って。掟は破りたくないの。食べ物を狩る目的で来たのであれば、早く引き返して。ここは私達だけの世界、人間達に邪魔はさせない」
・・・噂とやらは、本当だったようだな。
しばしの沈黙。私は依然と、臨戦態勢を整えたまま。
「帰る気は、ないんだね。もう一度聞くよ。用件は何?」
「昨夜、町中で。多くの者が死んだ」
「ほう。それが何か?」
「生存者の話では、虎が暴れていたそうだ。多くの者が、虎に殺された」
・・・おっと、今度は相手がだんまりか。
「きっと虎は、食べ物目的や、道に迷って、町中に来たわけではないのだろう。なのに町中に居て、多くの者を殺した。私はその虎を探しに、ここまで来た。・・・もしくは、金髪の少女でもいい。同一人物なのだろう?」
――気配が変わった。殺気だ。
「虎ちゃんに、何の用?ていうか、やっぱり私達の事を知ってるんだね。そういう目的なら、もう話は終わり。あの子に代わって私が相手をしてあげる。今すぐ、この場で」
殺気で分かる。彼女は、中々の手練れだ。だが、引かない。
「待ってくれ、あなた達とは戦うつもりはない。直に会って、話をしたいだけだ。虎に姿を変えられる金髪の少女に、会わせて欲しい。戦うつもりも、捕まえるつもりもない。話をするだけだ」
「・・・戦うつもりはない、と。その言葉に、嘘偽りは?」
「あなたや、あなたの仲間達が、私に攻撃してこない限りは。私から、あなた達に攻撃する理由は無い。話し合いで解決できるなら、それが一番だろう?」
「――分かった。イイよ、こっちも詳しい話を知りたいし。ただし、いつでも戦闘になる覚悟はしておいてね。殺意が抑えられないの」
突然の物音。だが私は動じない。眼の前に、見た目は人間の女が現れた。
「でも、今は我慢する。私達は、無駄な命は奪わないからね」
ようやく姿を現してくれたか。この森に住まう、不思議なブホッ!?
「ん?狩人さん、どうしたの?鼻血なんか出しちゃって」
は、裸のナイスバディな女が現れるのは想定外だった・・・。あ、危なかった、戦いになってたら間違いなく殺されてた。裸に見とれているうちに。私もまだまだ修行が足りないなブホッ。
松明の火は消した。そして桃色の髪をした裸の女に連れられて、森の奥を進んでいく。うん、いい尻してらっしゃるブホッ。
「ねえ狩人さん、鼻血は大丈夫?ますます酷くなってるけど」
こっち向かないでください止めてくださいナイスバディな胸や丸出しのアソコを見せないでくださいグフッ。
う、うう、私はあまり女性とアレやらコレやらをしたことが無いからなぁ。こういうのには弱いんだよ、恥ずかしい。
でも、あなたが裸だから鼻血を出しているんです、と言うのは止めておく。それを言ってしまったら、何かに負けたような気がするので。
ええい、集中だ集中。今日の朝を思い出せ。あの見るに堪えない店内の様子をオエッ。・・・ふ、ふう。ようやく鼻血を止められた。
「狩人さん、そろそろ着くよ。・・・ここからはマジで、あなたの命は保証しない。話の内容次第では、ここまで連れてきた責任として、私があなたを始末する。覚悟はいい?」
頷く。もう何があろうとも驚かない。
――いや、無理だった。
案内されたのは湖。その傍で、多くの動物達が集まり、群がっている。
「今は寝ているから。起こすのも悪いし、あの子から話が聞けてないの」
その場所は、動物達に囲まれているから、良くは見えない。
だが、そこからさらに離れた場所を見て、絶句している。
そこには、おびただしい量の血の跡が。数えるのも躊躇われる量の、血塗れの槍と矢の山が。あの動物達を囲んでいるものが何か、どうして群がっているのか、嫌でも想像できる。
「あれ、アンタは自警団の団長さんじゃねーか」
動物達を見ていたせいで、気付くのが遅れた。少し離れた場所に、1人の男が立っていた。・・・あれ、君は?
「リオン君・・・と、言ったか?」
彼は頷いてくれた。つい昨日会ったばかりの、青髪の大柄の男。私と同じく、ちゃんとした服を着ている。彼は、盗賊の頭を見事に討伐した、とても強い男・・・と、思っていたが、
「オイ、こんなところに人間を連れて来るなよ」
彼は、私を案内してくれた女を睨みつけている。なるほど、彼もか。
「それがね、虎ちゃんの事を知っているようなの。それで、詳しい話を聞こうかな、って。その方がみんなも納得できるんじゃない?」
群がっていた何匹かの動物が、私に顔を向けた。
「――お前、が」
そのうちの1匹から、また女の声がする。
「お前が、お前が、この子を、お前が、お前が」
血に汚れた白い狐が・・・いや、白髪の女が私に向かってくる。狐は瞬く間に体が大きくなり、裸の小柄な女性に姿を変えた。
だが、もう鼻血は出さない。そんな余裕はない。
「私が、殺して、やる。許さ、ない、絶対、に」
ここまでの恐ろしい泣き顔を見るのは、初めてだからだ。
私は臨戦態勢を整え、られずに、一瞬で距離を詰められ。
彼女の両手が、私の襟元を掴む。私を軽く持ち上げたかと思ったら、その勢いのまま地面に投げ飛ばされ、また一瞬で馬乗りになって、両手で私の喉を、掴み、全体重、を、掛、け、て、握、り、締、め、て――。
私はその場に倒れ込んでいる。咳き込んでいる。
なんとか体を起こしたが・・・無理。動けない。
「私がヤる、私がヤってやる、そしてみんなで食べてやる。2人とも、邪魔しないで、お願いだから私にヤらせて、この森は私が守るんだからああああああっ!」
情けない話だが、この白髪の女に恐怖して、戦意を喪失した。
「離してっ!お願いだから離してっ!殺す!殺してやる!侵略者は私が!」
もう既に死を覚悟している。だが、なんとか生きている。
「止めろ白狐、無闇に命を奪うな。まずは話を聞いてからだ」
リオン君が、白髪の女・・・白狐と言ったか。彼女を羽交い締めにして、押さえてくれているからだ。だが、白狐は暴れている。私を睨みつけている。
「許さない、あの子がどれだけ苦しい思いをしたか、許さない、あの子にどれだけの槍と矢が刺さっていたか、許さない、同じことをしてやる、あの子から抜いた槍と矢の全てをコイツに刺してやる、許さない、許さない」
憎悪。恐ろしいまでの憎悪と殺意。勝てる気がしない。
「白狐、お願いだから落ち着いて。苦しいのはみんな同じ。私だって許さない。みんな気持ちは同じ。だけど、まずは話を聞いてからにしよ?」
だが。桃色髪の女も、私の傍に寄り添い、私を庇ってくれている。先程まで、私と戦おうとしていたのに。
だから、話さなければいけない。この2人の為にも、白狐の為にも。
「虎の少女へ、伝言を預かっている」
彼らは、私に視線を向けた。他の動物達も。
「助けてくれてありがとう。命懸けで戦ってくれて、ありがとう。そう伝えるように、頼まれたから。私はここまで、来たんだ」
白狐は相も変わらず、恐ろしい眼で私を睨んでいる。だが、
「槍を突き刺す相手は、私ではない。虎の少女を苦しめた相手は、私ではない。君達を狙う、薄汚い奴等がいる。話を、聞いてくれないか?」
彼女の憎悪に向き合う。彼女達の、仲間を思う気持ちに向き合う。
話は、夕方まで続いた。
白狐は最後まで、私に殺意を向けていた。でも、話を聞いてくれた。
彼女は何も言わず私に背を向け、湖に手を伸ばしたかと思ったら。素手で魚を生け捕りにして、私の足元に投げ渡してきた。
そして、布切れでグルグル巻きにされた金髪の少女を優しく抱え、何処かへと行ってしまった。結局、伝言は伝えられなかったな・・・。
この魚は、彼女なりの詫びのつもりなのだろう。ならばありがたく、火を起こして、軽く塩を振って・・・あのうリオン君も皆さんも、不思議そうな眼で私を見ないでもらえます?魚の塩焼きってそれほど珍しい物なのだろうか。
食事を終える頃には、もう町には帰れない時間になってしまった。ええと、どこかにテントを張れる場所は、
「狩人さん・・・じゃなくて、団長さん。よかったら、私のウチにくる?さっきは殺意丸出しで話しちゃってゴメンね?団長さんは何も悪くなかったのに・・・。だから仲直りがしたいの。イイ?」
桃色髪の女だ。うおおう、笑顔が可愛い・・・じゃなくて、こちらこそ急に押し掛けてしまい申し訳ない。では遠慮なくお邪魔させていただ・・・。
うん。今、物凄く後悔しています。
小さな洞窟のような場所。葉っぱを敷き詰めて、寝床代わりにして。
油に火を灯しているので、薄暗く明かりはついている。本来なら彼女には不要らしいが、私のために配慮してくれた。
「ふふ。交尾なんて久しぶり、仲直りするならコレだよね?」
・・・けど、それ以外は配慮してくれない。問答無用で服を全部脱がされ、押し倒されてます誰か助けてください。
もちろん抵抗はしました。でもこの娘、むっちゃくちゃ強い。払いのけられない。逃げられない。思わず手を出してしまったけど、軽く受け止められました。
「ふふ。最初に会った時からチンコをバキバキにしてたくせに。団長さんも発情してるんでしょ?おかげで私も、発情しちゃった。――責任、取ってね?」
えっ、もしかしてこのままデキちゃった結婚までさせられるの!?
キスをされる。無理矢理に。
強く抱き締められ、舌を入れられ、離してくれない。
「私は、ときどき人間の町に行くからね。色々、知ってるんだ。こういうことされると、人間の男って喜ぶんでしょ?」
ひ、否定できん・・・とても、幸せだぁ。
「こういうのも好きなんでしょ?ほら、遠慮しないで?」
私の手を掴み、自らの胸元に当てる。う、うわぁ、柔らかい・・・。
「ふふふ、団長さんもヤる気になってきたね?イイよ、いっぱい触っても。私も好きにするからね?」
彼女は私の体に噛みついてくる。甘噛みで。痛くはない、というより気持ちいい。そして私の手も気持ちいい。おっぱいって柔らかいんだなぁ。いくらでも揉める。
ついでにここも触っていいのかな?好きにしていいのなら。
「あううん。イイよ、でももう少し、優しくして?乳首って、繊細なの」
あっハイ、分かりました。ええと・・・、
「そう言えば、名前を聞いてませんでした。あなたの事は何と呼べば?」
「名前は無いの。私達の仲間は、みんなそうなの。元の姿で呼ばれることがほとんど。名前を持っているのはリオンくらいね」
「ああ、そうなのですか。では改めて、あなたは他の仲間からは何と呼ばれているのでしょう?それで呼ばせてもらいます」
「うーん、毒蛇って呼ばれることが多いかな?」
名前で呼ぶのは止めよう。想像するのが怖い。
ていうかさっき、この子と舌を絡め合ってキスしてたんだけど。体をあちこち甘噛みされたんだけど。ヤバイよこの子、思ってた以上に危険だったよヤバイよこの森。
リオン君は強いし白狐は怖いし虎の少女は語るにも恐ろしい。そして私の眼の前には毒蛇娘。すすすすみませんお邪魔しました帰らせて頂きます・・・。
でも、やはり逃げられない。これが弱肉強食というものか。
「ふふ、イイ、すごくイイ、もっとヤってあげるね?」
なるほど、これが蛇というものか。
「私、時間を掛けて、ゆっくりヤるのが好きなの」
アソコ同士は深く繋がっている。私は仰向けで、私の上に彼女が。
彼女は私の体を強く抱き締め、胸を押し付け、唇を重ね、舌を絡め、足も絡ませて。体中の至るところが、彼女と触れ合い、繋がっている。
動きたい。今すぐに腰を振って、彼女の中に出したい。
「ふふ、駄目だよ?もっと楽しませて?まだまだ、終わらないよ?」
でも、私は動けない。彼女が絡みついているから。
「凄く、イイ・・・みんなは、私の相手、してくれないからなぁ。こんなの楽しくないって、まどろっこしいって」
体は力強く抑えられて。でも、キスする口と、アソコ同士からは、僅かながらの快楽が、私の心を支配してきて。
体全体が熱くなっていく。そして彼女の体も熱い。
でも、それが気持ちいい。いつまでも、こうしていられる。
「こういうの、久しぶりだから。まだまだ、ヤりたい。終わりたくないの。・・・やっぱり、こういうの嫌?もっと激しくヤりたい?」
私は首を横に振る。私には、どうこう言う資格が無い。
「――いい、の?嬉しい。じゃあ、もっとするね?」
最初に出会った時から、彼女には負けていたのだから。彼女はいつでも、私の命を奪うことができたのだから。それでも私を、生かしてくれた。
だから、付き合おう。従おう。彼女の思いに。彼女の望み通りに。
「いっぱい、交尾してあげるから。ずっと、ね?」
彼女の方が、私よりも強いのだから。
これは私達の世界と、不思議な森の住人達の物語。
この世界は弱肉強食。強い者は生き、弱い者は死ぬ。
私達も、この者達も、それは同じ。強い者だけが生き残れる。
でも、みんな生きている。それぞれの思いを胸に抱いて。
改めて思うと、ここは不思議な世界だ。
人の言葉が喋れる動物。人になれる動物。
人の姿でありながら、恐ろしいまでの力を秘めた者達。
恐ろしい。まったくもって恐ろしく、不思議な世界だ。
でも、生きている。私と同じく、みんな生きている。
彼女もそうだ。生きているから、ここにいるんだ。
「気持、ち、イ、イ。もっと、強く、抱き、締め、て?」
私達は生きている。この気持ち良さが、生きている証だ。
――今回の主役:自警団の団長
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