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1.健康診断

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 きっかけは、健康診断。
 だけど思い当たるフシがあるのは、もっと前から。


 階段を1階分上り下りしただけで、息が切れる。
 周りからは、運動不足だと笑われた。自分でもそう思っていた。ここ1年くらいはデスクワーク中心になった事もあって、仕事で汗を掻いたり、歩き回ったり、季節を問わず野外で作業したり等をしなくなったからなぁ。
 そのくせ、運動をする習慣も無ければ、そういう趣味も無い。むしろ食べることが趣味と言っていいかもしれない。結果として肥満体質だ。そりゃあこんなナリでは運動不足と笑われるに決まっている。
 若いんだからその程度のことでヘバんなよ、とも良く言われた。しかし体力が追い付かず、ちょっと休憩するつもりが動けなくなって、次第に視界が暗くなって、気が付けば医務室に・・・って、えっ?
 マジですか。自分ブッ倒れてたんですか。そう言えば今日は朝から何も食べてなかったかも・・・おそらくは疲労が溜まってたのかと。
 いえいえ大丈夫です、若いんだから大丈夫です。若いといっても30半ばですけど、皆さんに比べたら若いですし。大丈夫ですハイ。
 ・・・言えるわけがない。夜通しネット小説を書いてた、だなんて。しかも18禁エロ文章。1カ月で16万文字はヤりすぎたかもしれない。
 だけど今は、色々と書きたい気分なんだ。評価やマイリス数はイマイチだけど、需要なんて知らない。そんなの気にしてたら何も作れない。負け犬の遠吠えかもしれないけれど、自分が好きなものを作れたら、それで十分だ。
 ずっとそうしてきた。身内や職場の同僚には誰にも言えない、ネット上での趣味。これが私の長年の日常であり、生き甲斐でもあるものだ。

 ――インターネット黎明期。
 これは人によって定義が分かれるだろうが、私の場合は1995年から2000年ごろだと認識している。もっとも、私が実際にネットに入り浸るようになったのは97年辺りだったけど。
 きっかけとなったのは、初代プレステの「RPGツクール3」というゲーム。テレビのCMで、ゲームを作って優勝賞金1000万だとか宣伝していて、それで何も考え無しに親に買ってもらって。1カ月で、挫折した。
 無理。あんなの、私には作れない。
 文字入力が面倒くさい。この一言に尽きる。
 よくあるゲームの名前入力のように、一斉に並んだひらがな・カタカナ・アルファベットから入力したい文字を打ち込んで。オマケに漢字も入力できるから、漢字に変換して、一文字ずつ打ち込んで・・・ああもう面倒くせぇっ!
 さらにダメ押しに、当時の私はまだ子供だったので。アンタいつまでゲームやってるのよと親に怒られるため、1日に作業できる時間が限られてしま・・・いや待て、なんでゲームをやっているのに作業をしなきゃならんのだ?メンドい、もうこんなのやりたくない。これ作れる人いるの?
 ・・・私には兄がいるのだが、兄も同じくギブアップしていた。そのかわり、兄はパソコン雑誌を読むようになっていた。時代で言えばWin95や98のもの。雑誌名は忘れたけど、おまけのディスクに色んなゲームが入っていたのは覚えている。
 そして雑誌の記事から、RPGツクールのパソコン版があると知って。ついでに父が、不要になったパソコンをオモチャと称して兄にあげたので、せっかくなので兄弟仲良く、RPGツクールの大会で特に話題となっていた作品をやってみた。作品名は「コープスパーティー」・・・よく分かんないけど、やってみようか?
 ・・・どうなったかは、お察しください。深くは語りたくない。

 それ以降から、兄と一緒に。ネット上でゲームを漁りまくった。
 俗に、フリーゲームと呼ばれるもの。シフトアップネットに代表される、ブラウザで遊ぶ類のゲームから、RPGツクールの大会で受賞した作品や、パソコン雑誌のディスクに収録されていたものまで、片っ端から。中には体験版のみで、これ以上を遊びたい場合はお金を払って・・・。
 そういうものが。2000年よりも前から、あった。
 当時はまだネットを介して、個人間でお金のやり取りをするのは困難だったから。クレジットカード払いか、あるいは相手の口座に直接入金するか。さすがにそこまでやるのは親に止められたけど、そういうことをやっている人がいた。自分の作品を、ネット上で売り出している人が、確かにいた。
 時代で言えばプレステ全盛期の頃だったが。私は、フリーゲームの世界にどっぷりハマった。お金を払わずにゲームができるんだという考えもあったが、世の中には個人でゲームを作っている人がこんなにいるんだ、という思いの方が強かった。
 ゲームだけでなく、イラストを公開している個人サイトにもよく行った。その折で、子供ながら18禁サイトにも出入りしてしまったが・・・色々な人が、色んなものを作っていた。そして色々な人が、ネットを介して、見ず知らずの人達と交流を深めている。それが、とても面白かった。
 今となっては、なんだその程度、そんなの当たり前だろ、と思われるかもしれないけれど。ロクに携帯電話も普及していない、携帯にメール機能も無いような時代に、それがどれだけ画期的で、素敵なことだったか。
 しばらくして。通信速度が速くなって、1メガバイトのデータが1分でダウンロードできるようになった頃には、フラッシュ動画やMP3楽曲にもハマった。これらもまた、個人の創作物。どれもこれも、思い出深い。
 ・・・当時はパソコンやネット趣味が、そこまでメジャーではなかったから。学校や家族から、あまり思い出したくも無い暴言を言われたこともある。一日中パソコンを開いてネットしているなんて頭おかしい、って。
 それでも、楽しい青春時代だった。いくらでも断言できる。

 そんな私だから。
 フリーゲームの真似事のようなものを作ったり、その手の掲示板に変な文章を書き殴るようになるのに、そう時間はかからなかったと思う。
 時には、成り上がりを目的として。これで一発当てて有名になろうだとか、このコンテストで優勝してみようとか、そういう野心を抱いたこともあったが。そういう動機で作ろうとしたものは全て、途中で投げ出してしまった。
 そういうのは、ヤる気が続かない。私の場合はそうだった。作ってて楽しくない。だから途中で飽きてしまう。そして気付けば受験だの就職だので、そんな甘い夢を見る暇なんて無くなって。それでも時折、何かしらを作りたくなって、だけどしばらく経ったらまた飽きて・・・その、繰り返し。
 今は、熱が高まっている最中。今まで敬遠してきたエロ作品だけど、書いてみたら中々楽しいじゃねぇか。時間のある限りいくらでも書ける、むしろ睡眠時間や他の趣味にあてる時間も削っちゃったよ。なお、どういうものを書いているかについては詳細を控えておく。今回は一応ながら全年齢向け扱いなので。
 こういう書き方をすれば評価されやすいとか、こういうポイントを押さえればいいとか、その手の話は見聞きはしている。だけど知らんそんなの。私は私自身が書いてて楽しいものを書くだけだ。だって別に、誰かと競っているわけではないのだから。自分のペースで、好きなように書けばいい。
 しいて言えば、戦う相手は自分自身。体力勝負。投稿先はどこでもいいけど、今さら個人サイトを立ち上げるのは面倒だから、文章データごと管理してくれる場所がいいな。とりあえずこのサイトでいいや。
 ・・・暇があれば、自分で書いた文章を延々と読み返す、という趣味があるのは変かな?書いてて楽しい、読んでも楽しいという、自己満足の趣味。これはこれで楽しいよ?さて、次は何を書こうかなぁ。次に書くとしたら――。

 寝不足自体は、問題無かったと思う。
 不摂生な生活は、問題だった気がする。
 だけどそれ以上に。まだ若いからと言って、健康診断を馬鹿にしていたのが、大問題だった。もう少し詳しく検査したほうがいいかも、とは何年も前から言われていたはずだ。それなのに、大したことないと、勝手に判断して。
 ――この前の健康診断で。今すぐに病院に行けと、医療関係の方に言われた。この数値は色々とおかしすぎる。今まで自覚症状が無かったのが不思議だ。紹介状を書くから、職場にも事情を話して休暇を取れるようにするから、と。
 そして調べたら、内臓にデキモノができていて。その肉片を切り取って、いわゆる腫瘍マーカーと呼ばれる検査を受けて。2週間経って、悪性だと分かった。つまるところ、癌だ。悪性腫瘍だ。
 仕事は、辞める手筈になっている。私は独身の身。1人暮らしでは入院生活なんてできはしない。だから地元に帰って、親に頼るしかなかった。身の回りのことを任せられるのは、母しかいなかった。それにこんな体では働けないから、1人暮らしのアパートを片付けて、あとの退職処理は手紙やメールでやり取りして。
 ・・・というワケで。今はいい年しながら実家暮らしをしている。恥ずかしながら戻って参りました。だけど地元の風景を見ると、少しは心が安らぐ。冗談抜きでコレが見納めになるかもしれないから、写真に撮っておこうっと。


 これはノンフィクション文章だから。
 ご都合主義なんて、ありはしない。
 ハッピーエンドなんて、望めはしない。
 奇跡など、実際に起こるわけが無い。
 ・・・明日、病院に行って。私の運命が決まる。
 場合によっては即入院か、手術か。親も病院も、詳しいことは教えてくれないのだから。これからどうなるかなんて、私には知る由もない。
 続きは、書ける気分になったら書く。もしこの続きが更新されなかった時には、そういうエンディングになった、と思っておいてほしい。
 ・・・別に、良くある話だ。昔から今に至るまで、作者が前触れもなく消息不明になって、続きが紡がれること無く放置された作品が、ネット上にどれだけ転がっているのか。この文章も、場合によっては――。
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