死体令嬢は死霊魔術師をひざまずかせたい ~Living Dead Lady~

貴様二太郎

文字の大きさ
上 下
39 / 42
番外編

元死体令嬢は変心する1

しおりを挟む
 
「ひーまー」

 誰もいない部屋、当然のごとく返事はない。シカバネからも返事はない。部屋にいる彼(彼女?)は私に見向きもせず、黙々と掃除してる。

「外に行きたいー」

 ベッドの上で駄々っ子みたいに足をバタつかせてみたけど、やっぱり誰も反応してくれない。寂しい。
 リビングデッドやってたときは夜がめちゃくちゃ暇だったけど、今はレナートのいない日の昼の方が暇。今は、夜なら眠れるから。

「私も町でバイトとかできたらなぁ」

 けど、石人である現在、それは無理な話で。まあ、リビングデッドのときも無理だったんだけど。
 この国は人間以外の扱いがあまりよろしくないから。中でもリビングデッドと石人は完全モノ扱いで、人となんてみなされてない。動く死体労働力動く宝石財産
 とはいえ、私がリビングデッドやってたあの百年前よりは、すこーしだけマシになったらしいけど。

「人間に生まれられてたら……」
「その願い、叶えてあげようか?」

 慌ててベッドから飛び起きて声のした方――はめ殺しの大きな張り出し窓――を見ると、そこには知らない男の人が座っていた。

「……誰、ですか? ていうか、どうやってここに?」

 森の中には警備の骨さんたちもいたはずなのに、ほんとどうやって入ってきたの? とりあえずは彼らが気づいてくれるまで時間かせがなきゃ。

「僕は百花ひゃっかの魔法使いマレフィキウム。えーとね、ここへは扉を使ってお邪魔させてもらったよ」
「……え? まほう、つかい?」
「うん、魔法使い。お嫁さん候補にフラれてどうしようかな~って思ってたとこに、きみから面白そうな願いのにおいを感じたから来てみたんだ~」

 魔法使いって、あのグリモリオくんのお仲間的な? そういえば、どこか間延びしたような喋り方とか、うさんくさい笑顔とか、いきなり出てくるとことか似てるかも。
 姿かたちはだいぶ違うけど。グリモリオくんはゴスロリ天使って感じで、このお兄さんはなんだろ……糸目のうさんくさい中国人系キャラっぽい感じ? 三つ編みだし着てる服もなんかチャイナっぽいし! と言っても、見た目は完全ヨーロッパ系なんだよね。金髪に緑の目だし。
 でも、本当に本物? ただのヤバい人だったらどうしよう。骨さんたち、早く来て!

「あ、本当に魔法使いかって疑ってるでしょ?」
「ソンナ、メッソウモナイ」

 バレた! ナンデ!?

「しかたないな~。えーと、百花の魔法使いマレフィキウムの名にかけ……って、そういやきみ、名前は?」
「は? えっと、ラー……じゃなくて、トリコサンセスです」
「じゃあ、改めて。百花の魔法使いマレフィキウムの名にかけ、トリコサンセスの願いを叶えることを誓う。百花繚乱ひゃっかりょうらん未来あすきたらしめよ」

 なんかよくわかんないけど、すっごいドヤ顔してる。これ、私どう反応すればいいの?

「えぇ~、なんでその反応? ここは『わぁ、魔法使いの宣誓だ~! すごい、本物だ~』って驚くとこじゃない?」
「いや、知らないですし。それ、なんかすごいことなんですか?」
「すごいことだよ! 魔法使いの名前使って宣誓するって、本物以外だったら当の魔法使いからお仕置きくらうんだから」
「……はぁ」

 なんかこの人、本物な気がしてきた。今のとこ危害加えられることもなさそうだし、このどっかズレた感じ、グリモリオくん思い出す。

「も~、ファーブラだったら『ぎゃーっ』とか『出たー』ってなるのに~」
「なんかすみません」

 極夜国ノクスも位置的にはファーブラ国の中にあったけど、独立してたし鎖国してたからなぁ。だからファーブラのことって全然知らないんだよね。船乗るためにアルブスって港町は使ったけど、あの時はレナートのことばっか考えてたから観光なんてしてる余裕なかったし。

「まあ、いっか。ほら、願い」
「唐突ですね。でも確か魔法使いに願い叶えてもらうのって、代償が必要なんですよね?」
「へぇ、それは知ってるんだ。うん、必要だよ~。願いによってまちまちだから、とりあえず願い言ってみてよ」
「えぇ、そんなこと急に言われても」

 魔法使いに頼まなきゃならないような願いなんて、今の私にはもうないよ。うん、ない。

「あるよ」

 灰鉄柘榴石デマントイドガーネットみたいな緑の目は、まるですべてを見透かしているようで。そのやけにまっすぐな視線のせいか、なんか嘘ついちゃってるときみたいな、すごく落ち着かない感じがしてきた。

「さっき言ってたでしょ? ほら」
「さっきって……外行きたい?」
「ふせいかーい」
「じゃあ、バ――仕事したい?」
「うーん、あと一息」

 ――人間に生まれられてたら……

「人間に……なり、たい?」

 だめ、違う。これはほんのちょっとだけ、ほんとにほんのちょっと思っただけ。

「うそ、うそうそ!! 違う、これは違うか――」
「正解。僕がひきよせられたのは、このにおい。きみのその願い、僕なら叶えられるよ」
「人間に……なれ、る?」

 だめ。そんなこと、レナートに相談もしないでひとりで決めちゃうなんて。そんなの、絶対だめ。だめ、なのに……

「代償、は?」

 止められなかった。確認するだけ、そんな風に言い訳しながら。

「きみの今までの思い出、全部」

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

処理中です...