6 / 42
6.死体令嬢は回想する
しおりを挟む※ ※ ※ ※
じりじりとした西日が、目にも肌にも痛いファーストフード店の窓際の席。目の前には、泣いてる友達と他二人。
「***……なんにも知らないで、ひとりでバカみたいに浮かれてた私見てるの……楽しかった?」
「違う!! そんなことしてない!」
気が強そうな猫みたいな目が、許さないって私を見てた。そんな彼女を慰めるように両脇に座ってるのは、同じクラスの女の子たち。世間話くらいはするけど、そこまで仲いいわけじゃない子たち。
「サイテー」
「友達ヅラして相談のって、結局自分が取るとかビッチかよ」
かわいそうな友達を守るっていう正義の理由で、ここぞとばかりに私を責める二人。なんの証拠もないのに、勝手な想像で私を悪者にする外野。
「だからやってないって言ってるじゃん!」
やってないことはやってない。勝手な想像で悪く言われても、「ごめん」なんて言えるわけない。でも私の言葉は、その場の誰にも届かない。
ゴミを見るような顔の二人も、泣いてる友達も、私の言葉を完全スルー。
「私はやってない!! お願いだから信じてよ……私の言葉も、聞いてよ」
心が痛い。苦しい。私の中にあのときの悲しみが入ってくる。
やってない。信じて。聞いて。友達なのに。悲しい。裏切られた――
そしていきなり場面は切り替わり、あの最悪なシチュから一転……はしてなくて、場所は変わったけどばっちり続いてた。今度は店の外、雑踏の中。逃げる友達を私が必死に追いかける。
「だからちゃんと聞いてってば! 私はそんなことしてない!! なんであの二人の言うことは聞くのに、私のは聞いてくれないの!?」
甦るのは、痛くて苦くて悲しい気持ち。ムカつく、助けて、みんな消えちゃえ。いつかの私のぐちゃぐちゃな気持ち。
「友達だと思ってた……でも、もう……」
みじめだった私。やってないことであんなやつらから責められて、やってないって言ってるのに友達は信じてくれなくて。悲しくて悔しくて、これから来る暗い未来に怯えることしかできなくて。
「もう、いい!」
友達だと思ってたあの子の顔をもう見たくなくて。悔しくて、悲しくて、追うのをやめて逃げ出した。
「あ、***――」
目の前の信号が点滅してるのはわかってたけど、後ろから聞こえたあの子の声を聞きたくなくて。それにここで止まっちゃったらかっこ悪いし。
今なら、点滅なら、赤になる前に渡り切っちゃえばあの子も追いかけてこられない。
「待って! 待って――***!!」
道のむこうからあの子が叫んでる。私はそれを聞きながら、一瞬だけあの子の方へ振り返った。けど、そんな私の目に飛び込んできたのはあの子の顔じゃなくて、突っ込んでくる猛スピードの車で……
※ ※ ※ ※
「……ろ」
うるさい! あと少し、もう少しで全部思い出せそうなの。
「おい!」
邪魔しないでよ! あの子の名前も、自分の名前も、もう少しで……
「起きろ、ラーラ!」
「うっさい!!」
叫んで目を開けたら、レナートがすっごい不機嫌そうな顔でこっちを睨んでた。
「死体のくせに居眠りたぁ、いい身分だな」
「うるさいなー。死体なんだから寝てて当たり前じゃん。もー、なんで邪魔すんの」
「邪魔って何を……って、そんなこたどうでもいいんだよ! それよりおまえ、なんなんだその格好!」
「そんなことって、私にはすっごい大事なことなの! で、この格好? いつまでもパジャマだと落ち着かないから借りた」
レナートはがっくり肩を落としてでっかいため息をつくと、「信じらんねぇ……」って手のひらで顔をおおった。
「えー別にいいじゃん。どうせ家の中だし、レナートしかいないんだし」
「いいわけないだろ! おまえには恥じらいっつーもんがないのか!!」
「恥じらい? 男物着るのってダメだった?」
「……足! 素足をさらすな!!」
素足をさらすなっていったって、ひざから下しか出してないのに。めんどくさいな~。よれよれローブに言われたくないんですけど。
ふてくされた私にレナートは「待ってろ」って怒鳴ると、怒りながら部屋を出てっちゃった。そんで、ちょっとしたら息を切らしながら戻ってきた。靴下握りしめて。
「穿け! 今すぐ!!」
「もー。そんな怒んなくてもいいのにー」
「うるせぇ! いいから早く穿け!!」
いきなりキスしてきたセクハラ野郎のくせに、素足を見せるのはダメとか。わかんないなー。
でも特に抵抗する理由もなかったから、レナートから受け取った靴下を素直に穿いた。
うんうん、やっぱり素足より靴下あった方がかわいいな。これでソックスガーターがあったら絶対もっとかわいいのに。なんて、コーディネートをのほほんと考えてたら――
「ちょっ!?」
窓のとこのくりぬかれた石の壁に腰かけてた私の足を、レナートがいきなり掴んだ!
またセクハラかこの野郎!! って思ったら、すぐに手を離して部屋を出てっちゃった。なんなんだ、アイツは?
しばらくすると、さっきより息を切らしたレナートが現れた。今度は革靴を持って。
「こっちを……履け。大きさは……そっちよりは、マシだろ」
七階から二階まで、二往復ご苦労様です。なんか私の履いてたサイズの合ってないブカブカの靴が気になったみたい。
やっぱり根はいいヤツ、なのかな? あと口は悪いけど、育ちはいい感じ? わざと悪ぶってる感じがしないでもないなー、なんて。それに服もいっぱい持ってるし、その服もお金持ちっぽい感じだし。
「ありがと。それにしてもレナートって、服いっぱい持ってるんだね。もしかして、いいとこの子だったり?」
「あ? まー、実家はそれなりに金持ってたな。俺はもう家とは関係ねーけど」
「あ、やっぱいいとこのお坊ちゃんだったんだ。なんでそんなに口悪くなっちゃったの?」
「うるせぇ、余計なお世話だ」
かわいくなーい。でもこういうの、嫌いじゃないかも。弟とじゃれあってたみたいな、そんな感じ。
ちなみにレナートの持ってきてくれた靴、サイズぴったりだった。一瞬で靴のサイズを見抜く男レナート、恐るべし。もしかして足フェチ?
「ラーラ。おまえ服、本当にそんなんでいいのか?」
「いいよー。かわいいじゃん、動きやすいし。それにこんな格好、ほんとの自分じゃできなかったし。美少女の体のおかげでこういうの着れて、めっちゃ楽しい!」
「いいならいいが……変なヤツ」
レナートの中の常識ではナシなのか~。でも一度やってみたかったんだよね、男装! ほんとの自分じゃ似合わないだろうからやんないけど、美少女ならやる! こんな状況、せめて楽しめるとこは楽しまないとやってらんないし!!
「本当に変なヤツ。こんなうるせー生ける死体、初めて見たわ」
「他のリビングデッドってしゃべらないの?」
「血の契約交わしたやつはしゃべらなくもないが……おまえみたいな騒がしいのは見たことねぇ」
あきれたような、でもちょっと楽しそうな? やれやれって顔でレナートが笑った。
「でも、悪くねーな。異世界の話は面白れぇし、なによりおまえがいると退屈しねぇや」
デレた! なんかデレた!! チョロいぞ、こいつ!!!
でもそんなこと言われたら、私も悪い気はしなくて。嬉しかった……のかな? 動かないはずの心臓が、ちょっとだけ動いた気がした。
いや、死んでるし! うん、たぶん気のせい!
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです
たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。
お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。
これからどうやって暮らしていけばいいのか……
子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに……
そして………
【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません
たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。
何もしていないのに冤罪で……
死んだと思ったら6歳に戻った。
さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。
絶対に許さない!
今更わたしに優しくしても遅い!
恨みしかない、父親と殿下!
絶対に復讐してやる!
★設定はかなりゆるめです
★あまりシリアスではありません
★よくある話を書いてみたかったんです!!
壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる