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番外編3
追放された聖女さまは食べ歩きついでに世界を救う(’-’*)♪ 3
しおりを挟む天音が城を出てから2週間――
どこの町や村を訪れても、邪神復活の噂を聞かない場所はなくなっていた。
「邪神邪神ってみんなビクビクしてるけど、邪神ってなぁに?」
「オメーのことじゃね?」
「ひっどぅい!」
町の広場にある噴水に腰掛けた天音は、周囲の人々の噂話に耳をそばだてていた。
今この国で一番の話題は、復活した邪神――天魔珍宝――のこと。
そもそも天音がこの国の王子たちに聖女として召喚されたのは、復活した邪神と戦うため。ゴリラ神もそのために彼女をここへ送り込んだのだ。決して国中の女たちを淫乱にするために呼んだのでも、送ったのでもない。
だが天音のピンク色の脳みそは、エロ以外のことは記憶できなかったらしい。城にいた頃、教師たちに色々教わったはずなのに、天音の心のアルバムに残っているのはR18の無修正スチルだけ。
「テンマチンポーとか変な名前~。ま、いっか。それにしてもスキルのとこ最後の1個、これなんなのかな?」
生徒手帳を眺めながら、天音は見た目だけはかわいらしく首をかしげた。
「シラネ」
けれど今、隣にいるのはようせいさんだけ。彼は心底興味無さそうな顔でぷいっとそっぽを向いてしまった。
「もう! ようせいさんてば、かわいくな~い。せっかく鳥さんから助けてあげたのにぃ」
「知るかボケェ! あれを助けたって言えるオメーの脳みそは、いったいどういう作りになってんだってばよ!? しかも人を無理やり隷属させといてその言い種……」
けれどツッコミ気質なのか律儀なのか、ようせいさんは天音を無視しきれていなかった。なんだかんだでいいコンビである。
「それにしても、最近ほんと天気わる~い。毎日毎日曇りばっかで、ちょっと憂鬱になっちゃう」
「オメーがそんな繊細なタマかよ」
ここ1週間、この国の空は灰色の厚い雲に閉ざされていた。太陽の光が届かない大地はどんよりと重い空気に包まれており、陰鬱な雰囲気は人々から活気を奪っていた。それに加えての邪神復活と性女包囲網による出国制限。今この国は、負のオーラに満ちていた。
「いたぞ、聖女さまだ!」
噴水に腰掛けていた天音を目指して、たくさんの兵士たちが突進してきた。彼らは瞬く間に天音を包囲すると、突き刺すような視線を投げつけた。
「あっるぇ? みんな、なんでそんな怖い顔してるのぉ?」
すっとぼける有害指定卑猥性女の前に、兵士の輪の中から王子が出てきた。
「お久しぶりです、聖女さま。まさか送還の術をはねのけてしまわれるとは……いやはや、さすがと言いましょうか」
希望で明るく輝いていたはずの王子の瞳は、いまや空と同じくどんよりとした雲に覆われていた。急速に高まる邪神の気配、各地で活発化する邪神配下の魔物たちの動き、そして連日上がってくる性女による被害報告のコンボで、王子は疲れきっていた。
「えっとぉ……お兄さん、誰だったっけ?」
だというのに、原因の1つである卑猥性女は、王子のことをすっかり忘れてしまっていた。そう、こいつはエロに関することしか憶えられない残念脳の持ち主。
「……ろす」
うつむいて拳を震わせる王子の額には、立派すぎる青筋が浮かんでいた。
「ぶっ殺――――」
「邪神軍だーーー! 邪神軍が攻めてきたぞーーー!!」
王子がうっかり不適切発言を漏らしそうになったその瞬間、けたたましい警鐘と共に邪神軍の襲来を知らせる声が響き渡った。
「えぇ~、今度はなにぃ? もー、うるさーい!」
あまりのうるささに、耳をふさぎ眉をひそめた天音。しかし次の瞬間、その表情は驚愕と絶望に塗り替えられていた。
「あばばばばばばばば」
意味をなさない奇声をあげながら空の一点を凝視する天音。いや、天音たち。
逃げ惑う人々で騒然とする広場で、逃げることを許されない王子たちもソレを見上げていた。
曇天にそそりたつ巨大なイチモ……棒状のもの。ドクドクと脈打つソレは、赤黒いナニか。その根本には明らかにソレより小さな本体らしき人影もあったが、皆の目にはソレしか入っていなかった。
「我は邪神。天魔珍宝なり!」
周囲一帯に、重々しく割れたような不快な声が響き渡った。
「馬鹿な! なぜこんな辺境の小さな町に邪神が!?」
あり得ないという顔で叫んだのは王子。しかしすぐに立ち直ると、次の瞬間には兵士たちに指示を飛ばしていた。
「この世界を受胎させるため、我は目覚めた。孕め、増えよ、我が眷属たちよ!」
右往左往する人間たちを遥か高みから見下ろしながら、邪神は棒状のナニかから白い粘液を次々と発射した。降り注ぐ粘液は大地に到達すると、蠢きながら這いずりまわる。
「いや~~~! 気持ち悪い~~~!!」
「やめっ、ちょっ、あぶっ――」
迫り来る白い粘液を退けるため、天音は触手を振り回していた。先端にようせいさんを接続して。どうやら直接触りたくないようだ。ひどい。
「それにしても邪神め……なぜ今、こんな場所に」
「王子。おそらくですが、邪神は聖女の蓄えた膨大な生命力に引き寄せられてきたのではないかと」
その場の全員の目が、触手モーニングスターを振り回す天音へと向けられた。
「あっるぇ? なになに~? 私ぃ、なんかやっちゃいましたぁ?」
瞬間、その場にいた全員の額に青筋が浮き出た。
「捧げよ、輝く命の源を。捧げよ、我が種の苗床を」
割れた声が再び響く。そしてソレは上空から、まっすぐ天音を指していた。
「……おい、嘘だろ。じょじょじょじょ、冗談じゃないですぅ~! 苗床にするのはいいけどぉ、されるのは絶対嫌~~~!!」
身勝手極まりない天音の言い分に、周囲は「こいつ、邪神と相討ちしてくんねぇかな」と思っていた。
「ゆくぞ、わが花嫁。受け入れよ、我が性剣エクスカリ棒を!!」
「ざっけんな! あと剣なのか棒なのかハッキリしろや!!」
と、その時――
ピコンと響いたのは、あのお馴染みの電子音。
天音は迫り来る巨大な性剣と白い粘液及び邪神配下の魔物たちを、無数の触手――各先端にはようせいさんを始め、多数の兵士が接続されている――で相手取りながら、器用に生徒手帳を開いた。
界楽 天音 16歳
私立武田学園普通科1年
スキル:媚薬・触手・テイム・いっちんどうたい
「開いた! でも『いっちんどうたい』って、なにぃ~~~!?」
更新されたステータス、そのスキル欄。そこには最後のスキルが現れていた。見ただけでは意味のわからないその文字列を、天音はいそぎんちゃくのように展開した触手の中でタップした。
いっちんどうたい:聖女固有スキル。特殊アイテムを使い、邪神を封印する。
「え、マジで? えーと、えーと……でも、どうやって?」
スキルの説明が大雑把すぎて、天音にはこの状況で何をどうすればいいのか理解できなかった。
「うえ~ん、どうしよう~~~」
いくら天音が神から特別な力をもらっているとはいえ、このままでは埒があかない。
「こんな気持ち悪いの、封印できるなら今すぐにでもしたいのにぃぃぃ」
特殊アイテムを使って封印と書いてあったので、天音はようせいさんを接続した触手をメインに邪神を叩いていた。けれど、今のところなんの変化も見られない。
「ちょっとぉ! どゆこと!? なんでなんにも起きないのぉ~~~!」
「受け入れよ、我が性剣を!」
空気を読まず腰を振り続ける邪神。加え町の人々は避難してしまったため場には女っ気ゼロ。今、焦りと怒りで、天音のイライラは頂点に達していた。
「うっさいうっさいうっさーーーい! そんなにその汚ねぇ剣をしまいたいってんなら、きちんと鞘にしまえってんだよぉぉぉ!!」
天音は触手を振り上げ、先端のようせいさんごと振り下ろした。
「あっ、バカやめ――――アッーーーーーーー!」
刹那、真っ白な光が爆発し、世界から音が消えた。
「はぁ……はぁ……終わった、の?」
厚く空をおおっていた灰色の雲に切れ目が入り、弱々しいが美しい光が差し込んできた。
「ふう、危なかったぁ。もー、邪神とか気持ち悪いし最悪ぅ! どうせならぁ、露出の高いお色気お姉さんな邪神に来てほしかったなぁ。そしたら……うへ、うへへへへへ」
瓦礫と化した町だった場所で、きったねぇ笑みを浮かべる救世の性女。その足下には白目を向いたようせいさん、そして周囲一帯にはぼろぼろの兵士たち(王子含む)が転がっていた。
『はーい、おつかれちゃーん』
ゴリラ神の声と共に、雲の切れ間から差し込む光が階段となって天音のもとへと降りてきた。
「もー! なんなの、あれぇ。すっごい気持ち悪かったんですけどぉ!」
『アレねぇ、別の世界から入ってきちゃったのよぉ。退治してもしても、すぐ復活してくるから困ってたのよねぇ。もう殺せないなら、いっそ封印しちゃえって思ってね~。で、適正があったアンタにお願いしたってワケ』
光の階段を昇りながら、ゴリラ神に文句をぶつける天音。散々好き放題食べ放題しておきながらこの態度。まこと神経の図太い性女である。
「はふぅ、つっかれた~。久々にゆっくりお風呂も入りたいし~……うへ、うへへへへ。頑張った私へのご褒美でぇ、スーパー銭湯とか行っちゃおっかなぁ」
『はーい、じゃ、戻すわよぉ。おっつかれ~』
神と聖女が消えた空の下、大地の上には男たちが真っ白に燃え尽きて転がっていた。
☆ ★ ☆ ★
「ああああああ…………ナンデ……ナンデ!?」
茜色の光射し込む学園の廊下――天音は縄で縛られ、警備員に連行されていた。
――安心して。ちゃーんと1秒の誤差もなく戻しといたから!
こうして異世界を救った性女は自分の世界でドナドナされ、どちらの世界にも平和が訪れました。自業自得、めでたし、めでたし。
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