学園戦隊! 風林火山

貴様二太郎

文字の大きさ
上 下
26 / 30
番外編3

追放された聖女さまは食べ歩きついでに世界を救う(’-’*)♪ 3

しおりを挟む
 
 天音が城を出てから2週間――
 どこの町や村を訪れても、邪神復活の噂を聞かない場所はなくなっていた。

「邪神邪神ってみんなビクビクしてるけど、邪神ってなぁに?」
「オメーのことじゃね?」
「ひっどぅい!」

 町の広場にある噴水に腰掛けた天音は、周囲の人々の噂話に耳をそばだてていた。

 今この国で一番の話題は、復活した邪神――天魔珍宝てんまちんぽう――のこと。

 そもそも天音がこの国の王子たちに聖女として召喚されたのは、復活した邪神と戦うため。ゴリラ神もそのために彼女をここへ送り込んだのだ。決して国中の女たちを淫乱にするために呼んだのでも、送ったのでもない。
 だが天音のピンク色の脳みそは、エロ以外のことは記憶できなかったらしい。城にいた頃、教師たちに色々教わったはずなのに、天音の心のアルバムに残っているのはR18の無修正スチルだけ。

「テンマチンポーとか変な名前~。ま、いっか。それにしてもスキルのとこ最後の1個、これなんなのかな?」

 生徒手帳を眺めながら、天音は見た目だけはかわいらしく首をかしげた。

「シラネ」

 けれど今、隣にいるのはようせいさんだけ。彼は心底興味無さそうな顔でぷいっとそっぽを向いてしまった。

「もう! ようせいさんてば、かわいくな~い。せっかく鳥さんから助けてあげたのにぃ」
「知るかボケェ! あれを助けたって言えるオメーの脳みそは、いったいどういう作りになってんだってばよ!? しかも人を無理やり隷属させといてその言い種……」

 けれどツッコミ気質なのか律儀なのか、ようせいさんは天音を無視しきれていなかった。なんだかんだでいいコンビである。

「それにしても、最近ほんと天気わる~い。毎日毎日曇りばっかで、ちょっと憂鬱になっちゃう」
「オメーがそんな繊細なタマかよ」

 ここ1週間、この国の空は灰色の厚い雲に閉ざされていた。太陽の光が届かない大地はどんよりと重い空気に包まれており、陰鬱な雰囲気は人々から活気を奪っていた。それに加えての邪神復活と性女包囲網による出国制限。今この国は、負のオーラに満ちていた。

「いたぞ、聖女さまだ!」

 噴水に腰掛けていた天音を目指して、たくさんの兵士たちが突進してきた。彼らは瞬く間に天音を包囲すると、突き刺すような視線を投げつけた。

「あっるぇ? みんな、なんでそんな怖い顔してるのぉ?」

 すっとぼける有害指定卑猥性女の前に、兵士の輪の中から王子が出てきた。

「お久しぶりです、聖女さま。まさか送還の術をはねのけてしまわれるとは……いやはや、さすがと言いましょうか」

 希望で明るく輝いていたはずの王子の瞳は、いまや空と同じくどんよりとした雲に覆われていた。急速に高まる邪神の気配、各地で活発化する邪神配下の魔物たちの動き、そして連日上がってくる性女による被害報告のコンボで、王子は疲れきっていた。

「えっとぉ……お兄さん、誰だったっけ?」

 だというのに、原因の1つである卑猥性女は、王子のことをすっかり忘れてしまっていた。そう、こいつはエロに関することしか憶えられない残念脳の持ち主。

「……ろす」

 うつむいて拳を震わせる王子の額には、立派すぎる青筋が浮かんでいた。

「ぶっ殺――――」
「邪神軍だーーー! 邪神軍が攻めてきたぞーーー!!」

 王子がうっかり不適切発言を漏らしそうになったその瞬間、けたたましい警鐘と共に邪神軍の襲来を知らせる声が響き渡った。

「えぇ~、今度はなにぃ? もー、うるさーい!」

 あまりのうるささに、耳をふさぎ眉をひそめた天音。しかし次の瞬間、その表情は驚愕と絶望に塗り替えられていた。

「あばばばばばばばば」

 意味をなさない奇声をあげながら空の一点を凝視する天音。いや、天音たち。
 逃げ惑う人々で騒然とする広場で、逃げることを許されない王子たちもソレを見上げていた。

 曇天にそそりたつ巨大なイチモ……棒状のもの。ドクドクと脈打つソレは、赤黒いナニか。その根本には明らかにソレより小さな本体らしき人影もあったが、皆の目にはソレしか入っていなかった。

「我は邪神。天魔珍宝なり!」

 周囲一帯に、重々しく割れたような不快な声が響き渡った。

「馬鹿な! なぜこんな辺境の小さな町に邪神が!?」

 あり得ないという顔で叫んだのは王子。しかしすぐに立ち直ると、次の瞬間には兵士たちに指示を飛ばしていた。

「この世界を受胎させるため、我は目覚めた。孕め、増えよ、我が眷属たちよ!」

 右往左往する人間たちを遥か高みから見下ろしながら、邪神は棒状のナニかから白い粘液を次々と発射した。降り注ぐ粘液は大地に到達すると、蠢きながら這いずりまわる。

「いや~~~! 気持ち悪い~~~!!」
「やめっ、ちょっ、あぶっ――」

 迫り来る白い粘液を退けるため、天音は触手を振り回していた。先端にようせいさんを接続して。どうやら直接触りたくないようだ。ひどい。

「それにしても邪神め……なぜ今、こんな場所に」
「王子。おそらくですが、邪神は聖女の蓄えた膨大な生命力に引き寄せられてきたのではないかと」

 その場の全員の目が、触手モーニングスターようせいさんを振り回す天音へと向けられた。

「あっるぇ? なになに~? 私ぃ、なんかやっちゃいましたぁ?」

 瞬間、その場にいた全員の額に青筋が浮き出た。

「捧げよ、輝く命の源を。捧げよ、我が種の苗床を」

 割れた声が再び響く。そしてソレは上空から、まっすぐ天音を指していた。

「……おい、嘘だろ。じょじょじょじょ、冗談じゃないですぅ~! 苗床にするのはいいけどぉ、されるのは絶対嫌~~~!!」

 身勝手極まりない天音の言い分に、周囲は「こいつ、邪神と相討ちしてくんねぇかな」と思っていた。

「ゆくぞ、わが花嫁。受け入れよ、我が性剣エクスカリ棒を!!」
「ざっけんな! あと剣なのか棒なのかハッキリしろや!!」

 と、その時――
 ピコンと響いたのは、あのお馴染みの電子音。
 天音は迫り来る巨大な性剣と白い粘液及び邪神配下の魔物たちを、無数の触手――各先端にはようせいさんを始め、多数の兵士が接続されている――で相手取りながら、器用に生徒手帳を開いた。
 
 界楽かいらく 天音あまね 16歳
 私立武田学園普通科1年
 スキル:媚薬・触手・テイム・いっちんどうたい

「開いた! でも『いっちんどうたい』って、なにぃ~~~!?」

 更新されたステータス、そのスキル欄。そこには最後のスキルが現れていた。見ただけでは意味のわからないその文字列を、天音はいそぎんちゃくのように展開した触手の中でタップした。

 いっちんどうたい:聖女固有スキル。特殊アイテムを使い、邪神を封印する。

「え、マジで? えーと、えーと……でも、どうやって?」

 スキルの説明が大雑把すぎて、天音にはこの状況で何をどうすればいいのか理解できなかった。

「うえ~ん、どうしよう~~~」

 いくら天音が神から特別な力チートをもらっているとはいえ、このままでは埒があかない。

「こんな気持ち悪いの、封印できるなら今すぐにでもしたいのにぃぃぃ」

 特殊アイテムを使って封印と書いてあったので、天音はようせいさんを接続した触手をメインに邪神を叩いていた。けれど、今のところなんの変化も見られない。

「ちょっとぉ! どゆこと!? なんでなんにも起きないのぉ~~~!」
「受け入れよ、我が性剣を!」

 空気を読まず腰を振り続ける邪神。加え町の人々は避難してしまったため場には女っ気ゼロ。今、焦りと怒りで、天音のイライラは頂点に達していた。

「うっさいうっさいうっさーーーい! そんなにその汚ねぇ剣をしまいたいってんなら、きちんと鞘にしまえってんだよぉぉぉ!!」

 天音は触手を振り上げ、先端のようせいさんごと振り下ろした。

「あっ、バカやめ――――アッーーーーーーー!」

 刹那、真っ白な光が爆発し、世界から音が消えた。

「はぁ……はぁ……終わった、の?」

 厚く空をおおっていた灰色の雲に切れ目が入り、弱々しいが美しい光が差し込んできた。

「ふう、危なかったぁ。もー、邪神とか気持ち悪いし最悪ぅ! どうせならぁ、露出の高いお色気お姉さんな邪神に来てほしかったなぁ。そしたら……うへ、うへへへへへ」

 瓦礫と化した町だった場所で、きったねぇ笑みを浮かべる救世の性女。その足下には白目を向いたようせいさん、そして周囲一帯にはぼろぼろの兵士たち(王子含む)が転がっていた。

『はーい、おつかれちゃーん』
 
 ゴリラ神の声と共に、雲の切れ間から差し込む光が階段となって天音のもとへと降りてきた。

「もー! なんなの、あれぇ。すっごい気持ち悪かったんですけどぉ!」
『アレねぇ、別の世界から入ってきちゃったのよぉ。退治してもしても、すぐ復活してくるから困ってたのよねぇ。もう殺せないなら、いっそ封印しちゃえって思ってね~。で、適正があったアンタにお願いしたってワケ』

 光の階段を昇りながら、ゴリラ神に文句をぶつける天音。散々好き放題食べ放題しておきながらこの態度。まこと神経の図太い性女である。

「はふぅ、つっかれた~。久々にゆっくりお風呂も入りたいし~……うへ、うへへへへ。頑張った私へのご褒美でぇ、スーパー銭湯とか行っちゃおっかなぁ」
『はーい、じゃ、戻すわよぉ。おっつかれ~』

 神と聖女が消えた空の下、大地の上には男たちが真っ白に燃え尽きて転がっていた。

 ☆ ★ ☆ ★

「ああああああ…………ナンデ……ナンデ!?」

 茜色の光射し込む学園の廊下――天音は縄で縛られ、警備員に連行されていた。

 ――安心して。ちゃーんと1秒の誤差もなく戻しといたから!

 こうして異世界を救った性女は自分の世界でドナドナされ、どちらの世界にも平和が訪れました。自業自得、めでたし、めでたし。
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

熱砂のシャザール

春川桜
キャラ文芸
日本の大学生・瞳が、異国の地で貴人・シャザールと出会って始まる物語

おっ☆パラ

うらたきよひこ
キャラ文芸
こんなハーレム展開あり? これがおっさんパラダイスか!? 新米サラリーマンの佐藤一真がなぜかおじさんたちにモテまくる。大学教授やガテン系現場監督、エリートコンサル、老舗料理長、はたまた流浪のバーテンダーまで、個性派ぞろい。どこがそんなに“おじさん心”をくすぐるのか? その天賦の“モテ力”をご覧あれ!

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳 様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開? 第二巻は、ホラー風味です。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 【連載中】は、短時間で読めるように短い文節ごとでの公開になります。 (お気に入り登録いただけると通知が行き、便利かもです) その後、誤字脱字修正や辻褄合わせが行われて、合成された1話分にタイトルをつけ再公開されます。 (その前に、仮まとめ版が出る場合もある、かも、しれない、可能性) 物語の細部は連載時と変わることが多いので、二度読むのが通です。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ) 題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております

CODE:HEXA

青出 風太
キャラ文芸
舞台は近未来の日本。 AI技術の発展によってAIを搭載したロボットの社会進出が進む中、発展の陰に隠された事故は多くの孤児を生んでいた。 孤児である主人公の吹雪六花はAIの暴走を阻止する組織の一員として暗躍する。 ※「小説家になろう」「カクヨム」の方にも投稿しています。 ※毎週金曜日の投稿を予定しています。変更の可能性があります。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...